PandoraPartyProject

シナリオ詳細

慟哭せよ、オルフェウス

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 あるところに素晴らしい竪琴の演奏家がいた。
 彼が演奏する度に、人々は話すのを止め、風はやみ、動物たちは立ち止まり、その音色は聴いたものに安らぎと癒しを与えた。
 その演奏家の名をオルフェウスという。
 そして彼はやがて恋に落ちる。
 エウリディケという美しい娘と惹かれあったオルフェウスは、たくさんの人に祝福されながら式を挙げ二人で幸せに暮らしていた。
 永遠にこの幸せが続くのだと、信じて疑わなかった。

 ある日、エウリディケが一人で川の散歩をしていた時だった。
 彼女は毒蛇の尾を踏んでしまい噛まれてしまった。
 助けを呼ぶ間もなく、彼女の全身に毒が回った。
 妻の帰りが遅いことを心配したオルフェウスが彼女を見つけた時には、すでにその体は冷たくなっていた。
「ああ! エウリディケ!」
 抱き起こして、名を呼んでも、口づけをしても彼女は息を吹き返すことはなかった。

 愛する妻を喪い、毎日嘆いていた彼はふと思い立つ。
 そうだ、死者の国の王に、彼女を蘇らせてもらおうと。
 この世とあの世の船の渡し人に思いの丈と、竪琴の音色を聴かせると彼は特別だと船を出してくれた。
 最初はできないと一点張りの死者の国の王だったが、彼の音色と妻を思う気持ちに心動かされ条件付きで妻を生き返らせた。
 その条件とは『出口が見えるまで決して後ろを振り返ってはいけない』というものであった。
「エウリディケ、ちゃんと着いてきているかい?」
「足は痛くないかい?」
 何度妻に声を掛けても返事はなかった。
 そして我慢ができなくなったオルフェウスは後ろを振り返ってしまった。
「あっ」
 目に映ったのは短い叫びと共に、死の国へと引き戻される妻の姿であった。
「ああ! 私は何という事を!」
 急いで渡し人にもう一度船に乗せてくれと頼んだが、彼は二度とオルフェウスを乗せることはなかった。

「ああ、エウリディケ。愚かな私を許してくれ……あぁ……」
 彼は約束を違え、妻を救えなかった己を呪った。
 そもそも一度目の時だって自分が傍にいれば、彼女は苦しみながら死ぬことはなかったのだ。そしてせっかく死の神が、彼女を生き返らせることを許してくれたのに。
「ああ、すべて。すべて私の所為だ」
 彼はまた竪琴を奏でた。
 その時からだ。竪琴の音色が狂い始め、世界が黒く染まっていったのは。
 癒しと安らぎを与えるはずの音色は絶望と怨嗟を。呪いを振りまいた。
 死者の国が溢れかえってしまう程、自ら命を絶つ者が出てきたのだ。
「いったいこれはどういうことだ……!」
 異常な事態に死者の国の王は戸惑いを隠せなかった。
 このままでは、死者の国も。生者の国も滅びてしまう。

 一つの神話がぐにゃりと音を立てて歪み始めた――。


「こと座の神話知ってるかい」
 星座神話の本を読みながら、境界案内人の朧が問いかける。
 竪琴のが上手な青年が妻を喪い、生き返らせてくれと死の国の王に頼む。
 決して振り返ってはいけないと言われたが、彼はあともう少しのところで振り返ってしまい嘆いてそのまま命を落とした。という有名な神話だ。
「それがどうも結末が変わっちまってるみたいなんだわ」
 朧が読んでいた本をあなた方に見せる。
 そこにはあふれかえる死者とその中央で慟哭しながら竪琴を弾く青年の挿絵が。
「お前さん達にはこれを止めてほしい」
 それはつまり――。
「――オルフェウスを、救ってやれ」
 頼むぜ、お前さん達。
 いつもの飄々とした朧ではなかった。
 





 

NMコメント

 初めましての方は初めまして、そうでない方は今回もよろしくお願いします。
 星座のモチーフ大好きな白です。
 今回はシリアスなこと座の神話をベースにしたシナリオになります。
 以下詳細。

●目標
 オルフェウスを救う。
 
 本来の神話では妻を二度失ったショックから命を落とし川に落ちた竪琴が星座になったという話ですが、何があったのか絶望の音色を奏で続けています。
 このままでは死者の国も生者の国も滅んで神話がめちゃくちゃになってしまいます。
 救い方は一任します。
 結末が同じ(竪琴が星座になった)ならば、途中の道筋が変わっても構いません。
 語り継がれた神話のうちの一つとなるでしょう。

●舞台
 古代ギリシアと呼ばれた神と人が暮らす星座の神話の世界です。
 今回は『こと座』の話の舞台です。

●サンプルプレイング
 愛する人を二度も失って自分を責め続けているなんて……。
 きっと優しい人なのね、絶対に助けてあげなくちゃ。
 竪琴を弾いているオルフェウスに遠距離から矢を射かけるわ。
 ……せめて苦しまないようにね。

 こんな感じです、それではいってらっしゃい。  

  • 慟哭せよ、オルフェウス完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月14日 22時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
二(p3p008693)
もうまけない

リプレイ

 『流星光底の如く』小金井・正純(p3p008000)と『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が現場にたどり着いたとき二人は目を見開いた。
「オルフェウスと言えばこと座として天に召し上げられる神話の英雄。ですが、目の前の方にはその気概は感じられず。英傑が絶望に沈むと、こうなってしまうのですね」

 死者で溢れた雑踏の中、小高い岩の上で瞳から血を流し嘆き竪琴を奏でている青年を見て、正純は神話が歪んでいることを実感した。
 希望とやすらぎを与えた音色が絶望と怨嗟を振りまき、亡者を生み出している。
 その絶望に囚われた神の元に正純は一歩踏み出した。武器は構えない。
 神との対話に、そんなものは使いたくない。
 背筋を伸ばし、一つ深呼吸をして正純はまっすぐオルフェウスを見据える。
「お初お目にかかります。文芸の神カリオペーとオイアグロス、いえ、太陽神アポローンとの子オルフェウス」
 正純は続ける。
「何故、そこまで嘆かれるのです。何故、そのように己を責めるのです」
「貴方は、私を知っているのですね」
 悲しみに満ちた微笑みでオルフェウスは正純に答えた。

「私は妻を二回も死なせたのです。死の神が生き返らせることを特別に許してくださったのに!」
 白いドレープに鮮血が滴り落ちる。絶望の音色が加速する。
「オルフェウス、貴方は……」
 ルチアは一瞬出かけた言葉をしまい込み、オルフェウスを叱責する。
「エウリュディケーが死んだのは、冥府から取り戻すことができなかったのは、すべて貴方自身のせいですって? 思い上がりもいい所ではなくって? 人は全てにおいて、自分のほかにあまねく見ることなんてできっこしないのよ。」
 早くエウリディケを迎えに行っていれば彼女は毒蛇に噛まれなかったかもしれない。
 振り返っていなければ今頃隣で笑っていたかもしれない。
 だがそれは結果論でしかないのだ。

「そうです。エウリュディケ様が亡くなられたのもまた。貴方の非力ではなく、あなたのせいではない。ただ、間が悪かっただけ。違いますか?」
「違う! 彼女が死んだのは私の所為だ!」
 ある意味予想通りの反応に正純は目を伏せる。
「ええ、きっと理解はしないでしょうね。その怨嗟のような演奏で、死者を徒に増やし、死後もまたエウリュディケ様を辱めている貴方には」
「私が妻を、エウリディケを辱めていると……?」
 黒い音色がさらに強く響く。
「……貴方の愛は、冥府に降りてまで生還を願った時点で、エウリュディケーには伝わっていると思うわよ」


「ならぬ」
 きっぱりとした声で死者の国の王は『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)の申し出を断った。
 玉座に腰掛け、世界を見下ろしながら王は告げた。

「世界といったな。貴様の言うことも一理ある。が、それだけはならぬ」
 世界が王に謁見し提案したのは『エウリディケを再度蘇らせられないか』という事であった。
「けど今の状況を長引かせたくはないだろう」
「それはもっとも。だが、本来ならば一度でもありえぬ死者の蘇生を再度行ったとなると当然黄泉がえりを乞う死者どもが出てくる。特定の誰かの蘇りを二度認めておきながら、他の大多数は生き返らせられぬなど道理にならん」
 さてどうしたものか、王の意志は思っていたより硬い。
 なにかいい方法はと世界が思案を巡らせていると、ぎこちなく扉が開いた。

 二(p3p008693)であった。
 死者の魂に死の国の場所を聞いた二は渡し守に死の国の王とエウリディケに逢いたいと願ったのだ。必死に頼み込む姿があの竪琴の男とどうにも重なり、渡し守はそっと金を受け取り死の国へと船を出してくれたのであった。
 玉座の前に立った二は懸命に説明した。
「この、じたい。おるふぇうす、おこした。こと。じぶん、にくい。えうりでぃけ、ゆるして。ずっと、そう、いって」
「オルフェウスが?」
「きっと。じぶん、でも。わかって、ない。だから。にい、あいにきた。なんとかする、ために。えうりでぃけに、あわせて。おねがい」
 王は少し考えてから、二が入ってきた扉とは違う扉を指さした。
「生き返らせることはできぬが、逢うだけならば良いだろう」
「ありがと」

 教えてもらった扉を、巨大な『手』で押し開く。
 顔を覆って肩を震わせている女性がいた。
「えうりでぃけ。えうりでぃけ、はじめ、まして」
 気が付いた女性が顔を上げた。エウリディケであった。
「あなたは……?」
「にいは、にい。にばんめの、にい。いまは、おもいをのせる、もの。あなたのこえ、とどける。もの」
「想いを乗せる者? 私の声を届ける?」
 そんなことができるのですかと、エウリデイケの問いかけに二は頷いた。
 身振り手振りで現状を伝える。
「いま。おるふぇうす、たいへん。あなたに、あえない。つらい。かなしい。じぶんが、にくい。そう、いってる」
 エウリディケの目が大きく見開かれ、首をゆっくり左右に振る。
 信じられない、というような表情であった。
「それから。えうりでぃけに、ゆるして、って」
「許して? 私に?」
「うん。えうりでぃけは、どうおもう。なにか、つたえたい。こと。ない?」
 きかせて。にい、それ、とどける。なんでも。まかせて。
 金色の瞳に見つめられエウリディケは震える声を喉から絞り出した。
「私がオルフェウスに伝えたいことは――」
 エウリディケの想いを受け止めた二は、急いで今まで走ってきた道を戻っていった。


「貴方がたに何がわかるというのだ! 一度目は確かに仕方がなかったかもしれない!」
 けれど、けれどとオルフェウスは薄い唇を噛んだ。唇の端からつぅと血が流れ落ちる。
「だが! 私はせっかくいただいた機会を! この手で潰してしまった!」
 オルフェウスが慟哭し、竪琴の音色が響く度に度に死者が生み出されていく。
 青い空は赤黒く染まり、空を飛ぶ鳥が羽搏くのを止め地面に叩きつけられた。
 正純は自分の足元に落ちてきた小鳥に一瞬表情を歪ませたがすぐに表情を戻した。
「貴方のそれは、彼女への冒涜にほかなりません。彼女の屍の周りに、さらに屍を増やしてどうするのです。」
 嘆き苦しむ声が正純の鼓膜を揺らす。思わず耳を塞ぎたくなる絶望に正純は耐える。
「貴方の本来すべきことは、彼女の死を悼み、彼女の生きた証を背負い、その琴を奏でることではないのですか? 少なくとも、私の知る貴方はそうだった」
 星の神について学んでいた時に見つけたこと座の神話、そこに書かれた二人は悲劇で終わる。
 けれど神話のオルフェウスは決して周囲を絶望に染めることなんてしなかった。
 ただ、愛する妻を喪い失意から独りで死んだ。

「いいえ、いいえ。私の私の所為です、エウリディケだって私を恨んでいる筈です」
 オルフェウスが悲愴な面持ちでさらに竪琴を奏でようとした時であった。

 ――オルフェウス。 
 ぴたりとオルフェウスの手が止まった。
「……!? エウリディケ! エウリディケなのか!?」
 正純とルチアも突然聞こえてきた美しい声に周囲を見渡す。
 声の主は現れないが、正純には心当たりがあった。
 ポコポコと骨で出来た靴の鳴らして出てきたのは二だ。
 二はオルフェウスに近づいた。
「おるふぇうす、おるふぇうす、はじめ、まして」
 腰から頭を下げ、ゆっくりと二は体を起こす。
「あのね、にい、えうりでぃけ、あってきた」
「妻に……? 妻に会ったというのですか?」
「うん。あのね、いまから、いうこと。きいて、ほしい。たぶん、おるふぇうすなら、わかる」
 二は口を開いた。口調こそたどたどしいままだったが、紛れもなくエウリディケの声であった。

『おるふぇうす、いまから、あなたにつたえたい、ことを、このかたにたくします。よくきいてくださいね』
 まず、私は一切貴方を恨んでなどおりません。
 だって貴方は何も悪くないのだから。
 それどころか私の為に危険を顧みず、冥府まで降りてくださって不謹慎だけれど、とっても嬉しかったです。
 あの時本当は答えたかった、けれど私は声が出せなかったの。
 振り向いた貴方の悲しい顔が本当に辛かった。
 そしてこの方から、貴方が自分が憎いと責め続けていることを聞きました。
 私に許してほしいと言っているとも。
 オルフェウス、私を愛してくれてありがとう。
 だから自分を責めることはもう止めて。
 いつだって貴方を想っています、オルフェウス、愛しているわ――。
 
 二が口を閉じた。
 オルフェウスの瞳がゆっくり開かれ、深紅ではなく温かい透明な雫が零れ落ちていく。
 虚無と絶望に苛まれた瞳に光が戻り、赤黒かった空が徐々に元の色を取り戻していく。

「エウリディケ……そうか、君はこんな私でも愛してくれていたのだね」
 オルフェウスの身体が徐々に淡い光の粒子となり空へ昇っていく。
 竪琴を腕に抱き、オルフェウスは特異運命座標達に向き直った。
「ありがとう、貴方がたのおかげで目が覚めました」
 そして、オルフェウスは二の前に跪いた。
「エウリディケの声を届けてくれてありがとう、貴方はまるでヘルメス神のようだね」
 二の頭を優しく撫でた後、オルフェウスの身体が徐々に透けて見えなくなっていく。
 元の穏やかな彼の微笑みのまま、空の星々の中へ吸い込まれていった。彼の愛した竪琴も。
 


 見上げると満天の星空が輝いている。
 後のこと座の神話の一つにはこんな話があるようだ。
 
 オルフェウスを止める為に神様は四人の御使いをオルフェウスの元に向かわせました。
 御使いの二人は懸命にオルフェウスを説得し、もう二人は死の国へ向かいました。
 そしてエウリディケに会った御使いは彼女の声をオルフェウスに届けました。
 彼女の本当の想いを知ったオルフェウスは失意ではなく、満ち足りて空に昇っていきました。
 そして彼の愛した竪琴もまた空へ昇り、星座になりましたとさ。
 





 
 

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM