PandoraPartyProject

シナリオ詳細

手の届かぬ一等星

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 暗闇。黒も飲み込まれそうな闇は、しかし今ばかりはどこか薄暗く見える。その理由は窓より差し込む月明かりだけでなかった。
 女がそれを動かせば、軌跡はそのまま光の導となる。輪郭を淡く光らせ、足跡を残すようなそのインクを外の世界では『星纏』と呼んでいた。特殊製法で作られる高価な消耗品である。
 何かを一心不乱に書いていた女はふと顔を上げ、登ることもできぬほど高い場所に造られた窓を見る。そこには頑丈な鉄格子が嵌められ、万が一に登れたとしても容易な脱出は叶わないだろう。

 ここは罪人ローザミスティカの支配する監獄島。出ることなど叶わない、罪人にとって孤立無援の小島だ。

 監獄とは言え全くの不自由ではない。ローザミスティカの監視の下であれば、ある程度の自由もある。そのひとつが女の手にあるもの、物珍しいインクであった。島独特の通貨さえ払えば高価なものも、非合法なものも手に入る。
 淡く光るインクで女が何をしているのかと言えば、当然ながら字を綴っていた。一心不乱な様はこの治外法権に居ながらも、どことなく生き急いでいるように見える。
 顔を上げていた女は窓に見飽きたか、手元の羊皮紙へ視線を落とした。暗がりながらも字そのものが光り、読むことに支障はない。乾いて尚光る文字を指でなぞった女は──。
「……書かなきゃ」
 ──そう告げてまたペンを動かし始めた。
 彼女が書いているのは自らの人生であった。物心つく前は他人より聞いた話。物心ついてからは自身の記憶を頼りに。何度もペンを止めながら、思いついては勢いよく書き出して。そうして埋まった羊皮紙は一体どれだけの枚数になっただろうか。それだけの羊皮紙が消費され、ペン先は磨耗し、インクが尽きる。
 書けなくなって女はようやくペンを止めた。嗚呼、早くこの先を書かなければ。羊皮紙はすぐ手に入る。ペンも選り好みしない。けれどインクは別だ。星纏は外の世界にしか存在しない。外からしか手に入れられない。ならば『外の者』たちに頼まなければ。
 ふらりと立ち上がった女は、そこでようやく自身の空腹に気づく。どれ程の時間書き続けていたのかもわからないが、自らの調子も整える必要がありそうだ。
 例え明日が、その先があるかわからなくても。せめて人生を書き終わるまでは生きていたかった。



「依頼なのです。わるーいお仕事なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はイレギュラーズたちの眼前へ1枚の羊皮紙を突きつける。それはどうやら幻想沿岸部にある『監獄島』より送られた依頼らしい。
「書くととっても綺麗な星空みたいにキラキラするインクなのです。あまり多くは作っていなくて、毎回オークションにかけられるのですよ」
 お金持ちの嗜好品ですね、とユリーカは今回目的のブツに関して説明する。
 瓶は片手で握れるほど。小さいと思うかもしれないが、その方が希少価値が増すというものだ。
「皆さんにはそのオークションに潜入してもらうのです」
 潜入と言うからには正々堂々戦って落札しろ、ということではない。そんな資金はローレットも出せないし、当然依頼者側も捻出できない。ならばどうするのかと言えば、決まっている。件のインクを不正に奪取して撤退を図るのだ。
「調べだと、星纏はオークションの目玉になるのです。依頼者さんからも成功すれば報酬は弾むとのことですし、かなり高額なはず」
 目玉とあればまず最初に出てくるとは考えづらい。後半、それも最後の登場の線が濃厚だろう。奪取するなら序盤から潜入するか、落札された後に強奪するか。どちらにせよオークション会場より出てしまえばその経路は分からなくなるし、より強固な警備がされてしまうに違いない。
「皆さん、間違ってもイレギュラーズだとか言っちゃダメですよ。こういうお仕事も紹介しますが、ボクは皆さんとまだまだ楽しいことしたいのです」
 庇えなくなる事態とならないように、と念押ししてユリーカは人数分の仮面を手渡したのだった。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●成功条件
 星纏の奪取、および撤退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●星纏
 特別なインクです。瓶に詰めれば夜空のように、書けば天の川のように煌めきます。
 製法を知る者、製作者はごく僅かで一般公開されていません。厳重に守られたそれはオークション会場でのみ手に入れられる代物なのです。
 オークション会場では片手で収まるほどの小瓶に詰められています。

●障害
・裏口のマップは?
 客側のマップしか公開されておらず、小瓶を含めたオークション商品がどのようなルートで準備されているのか詳細不明です。当然、置かれている部屋も不明です。

・警備は?
 裏へ回るためには当然ながら警備兵がいます。巡回兵も数人いるようです。いずれも銃を保持しています。
 やり過ごすか、戦うか。どのような戦法を取るか話し合う必要があります。

・目撃者は?
 会場には此度もそこそこの人数が訪れます。人目を掻い潜るための工夫がいるでしょう。

●フィールド
 幻想の片隅にあるオークション会場です。真っ当なオークションです。
 会場は雰囲気づくりのために薄暗くなっています。しかしその他(正面玄関、廊下など)は明るいです。
 非日常な雰囲気を楽しもうと仮面をする者もいれば、気にせず素顔で参加する者もいます。イレギュラーズも配布された仮面は自由にして構いません。
 1階フロアのみの円柱型建物で、中心にステージのあるホールがあります。周りの半円ほどは玄関からホールへ入るための廊下が続いています。
 ステージとその付近は毎回同じ人員が担当しているようです。

●ご挨拶
 愁と申します。特別なインクですって、気になりますね?
 ほんのちょっぴり報酬も増えるみたいです。その分危険が待ち受けているかもしれませんが……。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 手の届かぬ一等星完了
  • GM名
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
シラス(p3p004421)
超える者
丑三ツ 猫歩(p3p008711)
夜は誰のもの
日暮 琴文美(p3p008781)
被虐の心得

リプレイ


「続きましての商品はかのパサジール・ルメスが持ち込んだ──」
 司会の口上の最中、ステージ上に商品が運ばれてくる。金額が釣り上げられる。落札される。商品がステージから降りる。その一連と人の動きをシラス(p3p004421)は仮面越しに追っていた。
(監獄島からわざわざ依頼してまで欲しいインク、ね)
 星纏と呼ばれる目的のインクもまた高価なものには違いないが、されどインクである。自由のない者となれば、もっと『らしい』ものが依頼されるかと思っていた。インクを所望する囚人とは一体何者なのか。
『今頃何してんのかな』
『依頼人かい? まだ書けるのなら物語を書いているんじゃないかな』
 小声を漏らしたシラスへ同じように返したのは『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)だ。資料に書いてあった簡素な囚人のプロフィールを思い出し、その口端にわずかな笑みを浮かべる。なんでも依頼人は自らの人生を綴っているのだと言う。いつも通りに剣を振るうだけの依頼だと思えば味気ないが、件のインクで書かれた物語があるのだと思えば多少の興味とやる気も湧くものだ。
『あまり愉快な内容ではない気がしますねぇ』
 『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は依頼人の素性に仮面の下で苦笑いを浮かべる。詳細は知らされていないが、あの監獄島に入れられている御仁である。宝の如きインクで文字を綴るとだけ聞けばロマンチックだが、その内容は推して知るべしだ。
『そうかい? 読んでみたら思いもしない内容かもしれないよ』
 そう告げるシキの視線はホールではなく客席周辺。数人の警備員が立っていることを確認し、「手洗いへ」と言ってホール外へ出る。廊下へ出て見れば数人の休憩と思しき客と、先ほどより増えた警備員たちが見えた。
(商品が落札され始めているからか)
 落札者の決まった商品をまかり間違っても強奪されないよう、警備が増やされているのだ。客の付き人らしき者たちがこちらで待機しているのもそれが理由だろう。シキは逃走経路に障害となるものがないことを確認し、廊下へ出る言い訳とした場所へふらりと立ち寄って客席に戻っていった。
『それにしてもインクねぇ』
 『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は小さく言葉を零す。魔術の媒体になるだとか、インク自体に神秘の力が宿っているなどと言った理由なら分からなくもないが、軽く調べたところ星纏にそのような力はない。本当にただの綺麗なインクだ。
(ま、ここにも欲しそうな顔をしてるヤツラがいるしなァ)
 ことほぎが視線を向ける最中、今しがたステージへ上がっていた商品の落札が決まる。拍手と共に商品はステージから下げられ、落札者もまたホールから出ていった。恐らくは書類や商品のやり取りをするのだろう。
「さあお次は本日の目玉商品──」
 ざわりと客席が揺らめく中、『星追う青』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)と『夜は誰のもの』丑三ツ 猫歩(p3p008711)も身を乗り出す。その瞳は興味津々ですと言わんばかりに輝いていたが、次の瞬間その表情が固まった。
「──それでは、50万Gから!」
 決して安くない、十分高い。平民であればおいそれと手に入れられない金額が最低額だ。しかもここからどんどん人が名乗り上げ、額が倍以上に吊り上がっていく。
『オークションの目玉って事ァ、かなりの額で取引されると思ったが』
 感心するようなことほぎの言葉。ここにいるイレギュラーズの誰1人として手を上げられないだろう。もしかしたら上げることもできるかもしれないが、生活が破綻しかねない。
(普通に手に入れようと思ったら、一体幾らかかるんだ……)
 視線をインクへと向けてみるが、ステージにあがったそれはあまりにも小さく遠目では視認しがたい。それでもきらきらと煌めく光は客席の奥まで届くだろう。ダミーではなさそうなのです、と『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)も目を瞬かせる。
『にゃにゃっ、きらきらインクですにゃあ……!』
 綺麗なインクに猫歩もまた目を輝かせている。オークション前はこれ以上のテンションであちこちフラフラと見回っていたが、流石に警備に注意されたので抑えめだ。これ以上目に留まれば作戦遂行前にたたき出されかねない。少しばかり危ない行動であったかもしれないが、そのおかげで警備の厳重な箇所はだいたい知ることが出来た。情報はすでに共有済みである。
 本音を漏らせば自分だって自腹を切らずにあれが欲しい。けれども今回は依頼だ、使うのか飾るのか猫歩は知らないが依頼人の手元に送らなければならない。
 猫歩はそっと席を立つと、この会場へ引っ張ってきた友の元へ。こんな会場に興味はないと言いたげだった友にこっそりと猫歩はお願い事をする。
『正気か?』
『もっちろん。あとでお駄賃はしっかり渡すにゃ』
 これよろしく、とパーティグッズを手渡して別れる猫歩。同時に星纏が落札された音が響いた。客席の前の方にいた人影が立ち上がり、星纏がステージから移動し始めるタイミングに合わせて動き出す。
『さあ、わたくしたちも奮って参りましょう』
 『一振り』日暮 琴文美(p3p008781)が小声で告げ、すっと立ち上がった。ステージでは次回の商品に関する口上が述べられはじめ、客が大勢廊下へ出て来るといった様子ではない。しかし星纏を奪うのならば今しかないだろう。
 持っていた日記帳を閉じた琴文美はしっかりとそれをしまい込む。後に焼却処分なりなんなりしなければならない代物だ、うっかり落としてしまえばこれが初めてにして最後の依頼ともなりかねない。
「そうですね──逃げられたら終わりです」
 クーアが先陣切って席を蹴りつけ、反応速度と機動力で星纏へ突っ込んでいく。暗がりの中で誰しもが何が起こったかを理解できずにいる中、寸でのところでクーアは屈強な男に阻まれた。
「退くのです!」
 男の足元を狙う光弾。威力を削いででも相手を翻弄することに長けた簡易術式がクーアを捕らえようとする男の動きを阻む。
「強盗だ!」
「捕らえろ!」
 そんな叫びに客たちの悲鳴が重なる。瞬時に混乱の極みとなった客席を宥めるのはステージ上にいた司会だ。
「皆さん落ち着いて! スタッフに従い避難してください!」
 マイクを通した言葉がどれだけ客たちに響いているのかもわからないが、出入り扉へと詰めかける客は決して少なくない。その中には先ほど猫歩が声をかけていた友の姿もあった。
 ウィリアムはそんな人混みを逆走し、クーアと逆側から攻め入る。台座に置かれていた星纏は落札者が手の内に抱え込んだようだった。
「悪いが頂いていく」
 その手に握られるのは蒼光の剣。星の魔力が凝縮されたそれに束の間落札者が見惚れる。星のインクを落札したのだからこういったものを好むのかもしれない。けれど、
(仕事だ)
 出会う場所が変われば良い情報交換の相手となったかもしれない。今は奪う者と奪われる者だとウィリアムは躊躇いなくそれを振り下ろした。
 キィン、と硬質な音を立てて剣が止まる。警棒を持った警備員はじろりと視線を巡らせ、その先にいたシラスは「あーあ」と小さく呟いた。流石にこの状況でスラせてはもらえないらしい。
「それなら強引にでも奪い取らせてもらうぜ」
 自らの思考を一部演算化しながら幻影を放つシラス。遠近感を惑わせるそれに眉をしかめた警備員へ肉薄し、隙を狙ってその体を打つ。相手の息が詰まる音を聞きながらもシラスは星纏を持つ者へ視線を向けた。
「ひ、い、いやだ、助け……っ」
 すっかり腰を抜かし、仮面越しに注がれた視線へ首を振る中年の男。身なりの良さからして商家か、それとも貴族か。いずれにせよ奪い取る事だけなら簡単そうだ。
(問題は──)
 視線を巡らせれば、すっかり照明のつけられたホールを警備員が駆ける。その先にいた琴文美は幻魔の銘を持つ暗器を手にした。
「手加減はできませんよ」
 捕まってはならない。伸びてくる手を自らの運命力で切り抜けて琴文美は応戦する。そこへことほぎより放たれた病が相手を蝕まんと取り囲んだ。口元を押さえた警備員の顔色が一気に悪くなる。
「応援はまだか!」
「客が入り口に殺到して……!」
 未だ客の出口へ向かう波は収まらない。それどころか外からは音が、とか光が、とか聞こえてくる。そちらの対応に向かっている警備員もいるのだろう。
(頑張って逃げてな!)
 そう祈りつつ猫歩も暴れまわる。幸いにして警備員以外の障害が起こらないのはタイミング故だろう。これが落札前であれば落札しようとした複数の者が立ちはだかっていたかもしれない。猫歩たちが行っていることは明らかに悪事ではあるが、それでも恨みは少ないに越したこともないだろう。
「さあ、ぼやっとしていると首が飛ぶよ」
 シキの持つ処刑用の大剣が鋭く閃く。いくらか散った赤にまだ逃げられていない客から新たな悲鳴が上がった。次いでぎゃあ、と声を上げたのは落札者の男だった。腕を押さえた手からはじとりと濃い赤が滲み出ている。ルル家は瞬時に取り出した拳銃を構えたまま視線を巡らせた。
「敵意を持っているのはそこの警備員数人……外にもいましたが、ちょっと今はサーチする暇ないですね」
「あとは逃げられれば十分さ」
 落札者の手から星纏を掠めとるシラス。振り返ればウィリアムの前で警備員は倒れ、他の警備員も琴文美の暗器によって沈められている。同時にようやく、ホール外から新たな警備員たちが入ってきたが──。
「飛んで火に入るなんとやらなのです!」
 クーアの放った雷の奔流が1人、2人と警備員を呑み込んでいく。なんとしても星纏を奪還されるわけにはいかないのだ。
(依頼人の、正に命を賭す程の執着。無下にはできかねるのです)
 故にこの依頼は完遂させる。仮面の奥の瞳はただただ真っすぐだ。
「さっさとズラかるぜ!」
 このまま敵が増え続けては叶わないとことほぎが叫ぶ。猫歩が助けを求めた共犯者は無事に逃げられたかもわからないが、このままではあちらのボヤ騒ぎからも警備員が来ることになるだろう。
「こちらへ!」
 琴文美が素早く踵を返し、ことほぎもまた狙いづらくなるようにと人混みへ飛び出す。ホール外にはまだまだ沢山の客が外へ出るために詰め寄っており、後ろから来たのが今回の襲撃者だと気づくなり悲鳴を上げて道を開けた。無理もない、道を阻んでいれば危害を加えられないとも限らないだろう。けれどもそうして避けたことで襲撃者たちは逃げやすくなる。
 強烈なる弾幕攻撃で警備員たちを足止めしたルル家もまた最も近い窓へと向かって走り出す。星纏を手にしたシラスはもう外へ出たらしい。あとは皆が残らず逃げ切ればオーダークリアだ。
(最後まできっちり果たさねば、フィッツバルディ公のお眼鏡には叶いませんからね!)
 後ろから制止の声が響こうとも、黙って囚われるようなルル家ではない。パンドラの欠片を煌めかせ、警備員が掴むはずだった手は宙を掴む。その隙にリロードした拳銃で窓を撃ち抜き、脆くなった箇所へ体当たりを決めてルル家は外へと飛び出した。喧噪が遠のくと同時に武器と仮面をしまい、雑踏に紛れ込んで。
 さあ、あとは待ち合わせ場所(ローレット)へ行くのみである。



 街の雑踏に紛れた一同はばらばらとローレットで合流する。仮面を剥ぎ、人によっては服すらも変えてくる徹底ぶりだ。
「仮面もしっかり処分しないといけませんね。この仮面から拙者らの顔がバレては大変です」
 ルル家はしまった仮面へ視線だけ向ける。粉々に粉砕してローレットと関係のない場所へ捨てるのが良いだろう。でなければ琴文美たちのような駆け出し冒険者は今後の活動にも障るだろうし、ずば抜けて各国の名声や悪名が高い者は失墜しかねない。
「インクは?」
「無事だよ」
 ほら、とシラスが手元に小瓶を取り出す。星空を圧縮させたかのようなそれは束の間一同の目を惹いた。
「ふふ。罪に濡れたお綺麗なインクですねぇ」
「お願いしたら文章見せてくれるかにぁー?」
 微笑む琴文美の隣で猫歩がキラキラと瞳を輝かせる。クーアはそんな外見の綺麗さより『どのような代物であるのか』が気になるようだが、ことほぎは「やめとけ」と肩を竦めた。
「それで依頼人の納得がいかなかったら失敗だ」
「む……それもそうですね」
 ほんの少し採取して調べるだけ、と言ってもそもそもの全体量が少ない。開けた痕跡があれば不信感も抱くだろう。小瓶は一切手を付けず、このまま監獄島へ送る事となった。
「……一筆だけでも書いてもらえないかな」
 ぼそりと告げたウィリアムへ皆の視線が集まる。はっとした彼はガシガシと後頭部を掻きながら「冗談だよ」と誤魔化した。
(子供かよ、俺)
 正直気になって仕方がない。自分ではまだまだ手の届かない額であるが、代わりにそのインクを使った文章を貰いたいというのは半分本気の発言だった。
「何でこのインクに拘るんだろうな」
「うーん……そうだね」
 ウィリアムの問いにシキは窓の外を見上げる。茜色の時間を過ぎ、インクを広げたかのような空には星が瞬いている。きっと監獄の中なら、あの星空に手は届かない。
「インクを使えばきっと届くんでしょ」
 煌めく夜空も、すぐ傍に。

 ──後日、新聞の一面にオークション会場で強盗事件が発生した記事が載せられた。仮面をつけた犯人グループはいずれも逃走し、その足取りも掴めていないと言う。新たな怪盗の登場かと警戒を強め、会場は警備の仕方を見直すべく一時休館となったとのことだった。

成否

成功

MVP

クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 依頼人は罪に濡れたインクで死ぬまで書き続けることでしょう。

 またのご縁をお待ちしております。

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