PandoraPartyProject

シナリオ詳細

きみのしっぽがたべたい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある尻尾紳士の悩み
『絶望の青』の攻略を終え、ようやく得た短い安息の時間を切り裂くかのように、その高貴な男は訪れた。

「君の尻尾も食べさせてくれないか!」

 その男は手に持った金貨の袋を見るにおそらく依頼人なのであろうが――獣種や旅人の尻尾を見ると鼻息を荒くしてそう絡みに行くばかりで一向に依頼する気配はなく――流石に堪忍袋の緒が切れた『いねむり星竜』カルア・キルシュテン(p3n000040)が絡まれた瞬間その尾をお望み通り食らわせてやるのであったが。
「ふ、ふふふ……まるで車が衝突したかのような威力! 見た目に違わぬ重量と棘! そして骨質! それでいて鱗は美しい光沢を持つ! 気に入った! 気に入ったぞぉ!」
「……」
 こんな有様で、だが少しは落ち着いたようでその男は金貨入りの袋をそばに会ったテーブルに置くと、なんだなんだと集まったイレギュラーズに声を大にし名乗りを上げる。

「如何にも! よく来てくれた! 私の名前はマライチ! 幻想の森林地帯を治める尻尾愛好家である!」
 マライチは集まったイレギュラーズ達(の尻尾)を恍惚とした表情で見渡すと、突然我に返ったかの様に胸を張り輝く領主の証を見せつける。
「仕事はなんだ? 流石に尻尾を食べさせるのは御免だぞ?」
 イレギュラーズのそんな言葉に「そうしたいのは山々だが」とマライチは首を振った。

「今回来たのは真面目な話だ。君たちには私の領地の果樹園を荒らす厄介な魔物の討伐をお願いしたい」
 マライチはそういうとローレットの壁に貼りだされた幻想の地図の一点に自らの杖の先端を押しあてた。
「ここだ、魔物の名は『シッポラプトル』。我々はそう呼んでいる! 一目見ればわかるだろう、尻尾が太い恐竜の様な見た目をしているからな! それを纏めて討伐して貰いたい! 何、厄介な相手ではないさ、君たちの尻尾を見ればわかる!」
 尻尾から離れたと思ったらまた尻尾、というか尻尾愛好家なのに討伐していいのか――当然の様に湧いて出たイレギュラーズの質問にマライチは頭を掻きながら。
「奴は確かに立派な尻尾を持つがダメだ! アレは立派な尻尾を持つ者に嫉妬し噛みつく習性を持つのだ、そのせいで私の大切な奴隷たちの美しい尻尾が何本傷ついたか! それに私は食通でもある、彼らのあの緑でタンパク質な肉厚の尻尾は大変美味でかの『遊楽伯爵』ですら舌鼓を――」

「……つまり、魔物を倒して尻尾を取って来ればいいんだね?」
  あーうん、また長くなる。そう判断したカルアが遮るとマライチは頷いた。

「その通りだ! 後はもう一度さっきのビンタをお願いしたく」
「お断りします」

 依頼人の性癖は目も当てられないが報酬は良い、それに大したことは無い、ただの魔物退治ではないか。イレギュラーズ達は心のどこかでそう考えていた。
 だが、それがまさかあんなことになろうとは――

GMコメント

 塩魔法使いです。
 尻尾、いいですよね。
 当シナリオは相談期間が「4日」となっております、ご了承ください。

●目的
 森林地帯でシッポラプトルを撃破する。
 シッポラプトルの尻尾を採取し持ち帰る。

●シッポラプトル 30体
 尻尾が太めの小型恐竜の様な見た目をした緑色のモンスター。
 体力こそ低いですが集団で賢く動き回り襲い掛かる性質を持つため、回避が高い人でも油断ならない厄介な敵です。
 出血系統のBSを付与するほか、数体に1体は『尻尾自慢』がいるそうで稀に尻尾攻撃(中威力・必殺・防御無視)を繰り出してきます。
 また、何故か尻尾があれば噛みついてくる習性もあるそうです。甘噛みの場合もあります。

●マライチ
 依頼人、今回の納品先。
 自称『シッポ男爵』の幻想貴族。極度の尻尾好きで撫でたいし触りたいしスリスリしたいし死ぬなら尻尾に潰されたい。
 OPのみの登場でリプレイ(採取)中には登場しません。

●カルア
 自衛能力を持つ情報屋。マライチと一緒に居ると正気が持たないという理由で付いてきました。
 参加者の平均レベルに合わせた能力と装備を使用し、再生と防御技術が高めです。プレイングの指示があればそれに従って動きますが何もしなくても尻尾に噛みつかれるため最低限の役目は果たせます。
 プレイング内での絡みが無ければ特に描写される事はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • きみのしっぽがたべたい完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月02日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
メルーナ(p3p008534)
焔獣
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ

●ああ、素晴らしき尻尾達よ
「おそろしい、依頼人でしたの……」
 木漏れ日の下。鳥と虫の鳴き声のみがしみわたる森の中で、げっそりと『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)がうなだれた。気が狂いそうだった。自分の半透明のぷるんぷるんの尻尾が食欲を伴った目で見られる事は一度や二度の経験ではなかったが、ああも情熱的な視線で見つめられる経験はそうそうあるまい。
「ああ、あの者のしっぽを見る目は……その、とても落ち着かなかった」
『砂漠の冒険者』ロゼット=テイ(p3p004150)の尻尾はあの男との邂逅から数時間経った今もなお、完全にしなーんとしなびてしまっている。
 かの者に対する言い分は『焔獣』メルーナ(p3p008534)も同じであった。特に『激レアの』彼女に対しての言葉は――1秒でも早く依頼を終えてローレットに居残りするあの変態を追い払わねば、そう彼女に決意させるほどのものであった。
「口を開けば、尻尾、尻尾、尻尾……こんなん、邪魔なだけなのに……ズボンにも穴開けなきゃいけないのよ! あいつも尻尾生やしてみなさいよ!」
「……多分ものすごく喜ぶと思う」
「んえー、簡単に予想できるわ」
「うっ、否定できない」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)とカルアの言葉に固まるメルーナ。ブーケはぽんとカルアの肩をたたくと労いの言葉を贈る。
「ホントに災難やったねぇ、カルアちゃん。海種サン達みたいなどこから尾っぽかわからへんようなのも俺みたいな服に隠れる短い尾も全部興奮するとは思わんかったねえ」
「……」
「泣いちゃダメやで、ま、気持ち切り替えて……でっかいトカゲのシッポ、切ってはよ帰ろうか」
「はい、早く要件を済ませましょう」
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)がブーケに頷き、トカゲの好物である良く分からない動物の尻尾――その燻製を焚火へと投げ込んだ。この尾が焼ける匂いに釣られて奴らは現れるであろう。
 黒子はどこまでも空気に馴染む男である。しかし表情にも言葉にも示さないが、とんでもない魔境に来てしまったと思う心は彼も同じであった。
「依頼人もだけど……尻尾の匂いに釣られてくるなんて不思議なモンスターだね」
『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はお腹を空かせてニャーニャー鳴く頭の上のソマリを落ち着かせながらも、じぃとその燃える肉を眺めていた。
「あの貴族は尻尾のみを喰らうのじゃろうか、折角なら他の部位も有難く頂いて欲しいのう」
 一部分だけが旨いという事も無いだろうに。そう筋肉質な尾をぴちぴちと跳ねながら『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)は近くの大きな木のうろで自分へとじぃと見つめているポチへと手を小さく振っている。
「なに、要らんというならせっかくだし少し味見もしてやろうじゃないか」
 ジュルリとその横で涎を垂らす『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)、彼女だけは一人前向きであった。
 彼女を突き動かすのは強烈な食欲、そして『尻尾自慢』とやらに対する対抗心。
「立派な尻尾を噛む恐竜……猫として負けられぬ相手だな!」
「汰磨羈さん、何の勝負をするんですの?」
 さあ、そろそろ奴らが現れる頃合いだ――そろそろ覚悟を決めなければ。

●存分に戯れたまえ
「ふぎゃあ――!?」
 否、もう覚悟を決めていなければならなかった。
 突然響いた、甘い猫撫で声に振り向いた特異運命座標達が見た物は、緑色の生物に太い尻尾を甘噛みされ、痙攣するカルア……うん、肉壁だから仕方ない。
「ひっ、出たぁ! シッポラプトル!?」
 細身ながらも肉付きの良い四肢、美しい緑色の鱗、そしてごんぶとのそれはもう綺麗な尾――突然現れた亜竜の群れは十分挨拶代わりの甘噛みを堪能するとメルーナへと向きを変える――もしかしてこいつら恐竜の形してるだけであの貴族と変わらないんじゃないか?!
 そんなやつらに狙われている! メルーナは背筋に寒気を覚えると震える両手で大砲を構え、ヤケクソ気味に魔力弾を乱射する。時間稼ぎ、自分が噛まれる前に何としてでもヤバそうな個体を見つけなければ――
「メルーナ様、落ち着いて対処しましょう。聞くところによると彼らには強力な尻尾自慢の個体がいるそうで――」
 群れの陣形から狙われているものがメルーナである事を見抜いた黒子が素早く彼女を庇うように警戒態勢を取り、なだめながらメルーナの時間稼ぎをする。
「私は――しっぽを愛好し、守る物、絶対に彼女へ手は出させません」
 黒子の名誉のために言おう、彼は決してしっぽへの強い趣味を見せる男ではない――ただパーティの潤滑油として、ラプトルどもの気を一番引く言葉を選択したのだ。
 黒子の社会的名誉を犠牲にしない。メルーナはガトリングの様にラプトルへ射撃しながら焦りを募らせる。
「わかってるわよ黒子、でもこいつらの能力見分けつかないのよ! 何で判別しろって言うのよ!」
 その言葉にふむと頭をひねったのは汰磨羈。
「尻尾を自慢するような存在だ。しっぽの美しさを示すしっぽポイント……そういうのはないか?」
 そう……SP、しっぽポイント。スキルポイントではない。
「何寝ぼけた事言ってんのよ! そんなのあるわけ――」
 あった。エネミースキャンは奴らのしっぽポイントを物凄く分かりやすくメルーナに伝えてきた。
「あるの!? しっぽポイントあるの!?」
 真顔で静止したメルーナに思わずロゼットが彼女らしからぬツッコミを入れてしまったのも無理はあるまい。あるんだから仕方がないだろと言わんばかりにメルーナは無言で一気に弾丸を放つとSPの高い個体の腹へ銃創を刻んでいく。
「メルーナさん、上出来ですの!」
 ノリアはその尻尾自慢の位置を把握するとゼラチン質の上質な半透明のしっぽをしならせ宙を泳ぐ。尻尾自慢と言うほどだ、彼らはきっと群れの中でも指揮系統を司るに違いない。
 甘噛みの覚悟を決めたノリアはそのぷるんと震える尻尾を見せ――
「さあ、煮るなり焼くなり好きにする」
 ガブッ――
「ですのーー!?」
 想像以上に深くいった。
「ノリアーッ!? おのれ、許さん!」
 汰磨羈は双刀を振りかざすとノリアに纏わりつくトカゲ共の足を目がけて瞬時に切り刻む。四本の彼女の得物は囮達の犠牲を無駄にしないと彼らの統制を激しく乱していく。
「ふふふ、妬ましかろう、うらやましかろう!」
 そう、四本――彼女のふわふわの尻尾はまさに極上のシルク、ブラッシングされて整えられた毛並みだけでなく、事前のマッサージを重ねに重ね解された筋肉が生み出すしなやかな揺れはまさしく尻尾オブ尻尾。尻尾ラプトルの対抗心から高められた極上の汰磨羈の尻尾は、トカゲ共の自尊心を粉々に砕いていく――
「これは私の相棒の癒羅の手でベスト・尻尾・コンディションに仕上げられた真の尻尾……しかも貴様らの荒い甘噛みに屈さぬ様事前に良く揉みほぐされておるわ! 貴様らの甘噛みなど」
 ガプッ――
「くおっ!? こやつら……思ったよりテクニシャンだな!? だ、だがまだまだ」
 ある物は尻尾を噛まれ悲鳴をあげ、ある物は悶絶する。その地獄絵図には流石のロゼットも「なにこれ」と言わずにはいられない。なぜこのラプトルは尻尾にこだわるのか。
「く、来るなー! 尻尾に噛みつくのをやめろー!」
 だが彼女には持ち前の瞬発力と機動力がある、犠牲者達の様にそう容易くは捕まらない。ロゼットは刀をぶんぶんと振り回し追っ手の攻撃を何度も身を躱すと暴風術を巻き起こしラプトルを何体も勢いよく吹き飛ばした!

「あっ、やめ、こらッ、そこは敏感なのよ――」
「その尻尾、人間種であるのに神経も走っておるんじゃのう、お嬢ちゃん、難儀なものじゃな」
 噛みつかれ地面に突っ伏し倒れるメルーナを前に、潮はおっとり笑い尻尾を覆い隠していたロープをほどき、外界に晒されたそれをピチピチと震わせる。
「ほーれほれ、こっちの尾びれの方が立派じゃよー」
 メルーナに噛みついていたシッポラプトルはその音に素早く顔をもたげ、潮のそれへと喰らいつく――だが、潮自身はむしろ老いぼれも捨てたものではないとどこか上機嫌気味であった。
「さあ、立てるかの」
 潮の集中的な回復でゆっくりと立ち上がるメルーナ。だが彼女の口からは業炎が噴き出し、怒りが爆発する5秒前。もう奴らの尻尾は綺麗にしておこうなんて考えない。
「え、ええ……あったまきた! 纏めて吹き飛ばしてやる! 巻き込まれても知らないんだから!」
 抱えた大砲に自らの全ての魔力を集中させ、点火、光明、魔砲――フレンドリーファイアをも恐れぬ全力の魔力の奔流は周囲の草木ごとシッポラプトル達を根こそぎ吹き飛ばし、その体力を消し飛ばす――
「人の尾への攻撃、及び擽りによる足止め――厄介ですね」
 黒子は周囲を観察、的確に戦況を見極めると次の一手を思考する。仲間の戦法は事が上手く進んでいる。強力な尻尾自慢達は仲間に引き付けられ叩き切られ、完全に統制が崩れた個体はまとめて薙ぎ払われ順調に速いペースで数が減っている。
 圧倒的にこちらが有利なのだ……だが、奴らの想像以上の尻尾への見境なさと諦めの悪さといったら!
「これは戦闘の事よりも、彼女達の事後の心理的ケアの計画に努めた方が良いですね」
 黒子は目の前の地獄絵図に対しての対処に結論付けると、『邪魔をするな』と喰らいつくラプトル達へと向き直り――迎撃の拳の一撃を叩き込んだ。
「ワガハイそろそろ怖くなってきたニャ! 何時までオマエは続けさせる気ニャ!」
「ごめんね! もうちょっとで終わるからソマリ!」
 アクセルは頭上で尻尾をぶんぶんと振るソマリを真剣になだめながら、周辺で涎を垂らすラプトルどもに負ける物かと光の魔術の一撃をその眼球に突き刺していく。アクセルはソマリを連れて来て本当に良かったと内心ほっとする。
 尻尾を甘噛みされた彼女達の事を想えば、自らの小さな尾羽に誘導して失敗したらどうなるか想像するだけでも怖かったのだから……だがこの作戦も長所だけとは限らない。あのラプトルどもは――飛びついてソマリのもふもふの尻尾に食らいつくほどの胆力は無いようだが――その下のアクセルを何としてでも押し倒しソマリへと食らいつこうと必死にいきり立っているのだから!
「もう、諦めが悪いよ!」
 アクセルはラプトルの群れに隙間を見出すとソマリが落ちぬ様ゆっくりと抱きかかえて宙がえり、低空飛行で一気に群れを抜け出すと氷の魔術を展開する。
「このまま冷凍保存ニャ!」
「アイアイサー!」
 味方を巻き込む心配は無い――ソマリは更に自らの両手から冷気を練り上げると、巨大な絶対零度の塊をラプトルの群れ中心目がけて突き落とした。
「うわ、かっきーんって凍ってますやん……すっごー」
 激しい氷結の音と共に文字通り『冷凍』された敵を横目に、ブーケは尻尾を尻をフリフリ、腰をフリフリ、自らの尻に小さく盛り上がったウサギの可愛らしい綿飴の様な尻尾を揺さぶり誘惑する。
「ほな、おっきくて太い物もええけど俺の可愛らしいのも見逃しといてんくれや……あ、でも沢山はいややなー。だって沢山集まられたらあそこですんごい数に捕まって悶えてるロゼちゃんみたいになっちゃうやないか」
「気付いてるなら助けて欲しいと思うこの者! あっ、やめてー! 付け根を甘噛みはっ、あっ、やめー!?」
「いけまへん、このままじゃ報告書が中略になってまう、助けたるわ!」
 ブーケはぴょんぴょんと飛び掛かる何体もののラプトルの攻撃を華麗に避けると、ロゼットに襲い掛かっている個体へ向けて魔力を貯める。魔力の塊から具現したものは、微弱ながらも致命的な毒を持つ魔力の蛇。
「あ、でも首筋辺りにお願いね、毒が回る前にシッポきったるから」
 呑気なブーケの言葉を聞いてか聞いていないのか、毒蛇達はラプトルの顔や舌へその大きな牙を向けると次々と突き立て、呪いの猛毒を喉奥へと垂れ流していく。
「ロゼちゃん、きばりやー」
「本当にあぶなかったです……って君」
 正気を取り戻したロゼットに指摘されてブーケが見渡すと、ブーケの周囲にはロゼットに纏わりついていたラプトル達が。
「物好きですなあ尻尾自慢ちゃん、でもはやいい所逃げた方がよかたと思うけどなあ」
 ブーケがふうと息を吐いた瞬間、ラプトルは――ズンという重量と共に、自らの尻尾が軽く、否、斬り落とされるのを感じた。
「お主ら……生きて帰れると思うな!」
 息を荒くする汰磨羈、横たわりのたうちまわる個体からわっと離れ距離をとるラプトル達。統率が取れていたとは言え所詮は爬虫類の脳みそ、ただ回りと攻撃を合わせていただけで指揮系統が居なくなっていることにやっと気付いたのか。
「ふふ、お前達の親玉の尻尾は痛かったぞ……だが私のに比べれば大した事はなかったがな!」
 一目散に逃げだそうとするラプトル達、だが早々と逃げられるはずもなく――
「もう怒りましたの!」
 顔を真っ赤に染め、息を荒く仁王立ちするノリアの手前で急ブレーキ。すれ違いざまに尻尾を噛み砕こうと眺めるも……ない。
「わたしだってその気になれば変化で尻尾を隠すぐらいできますの! か、代わりの……ないですけど……シャツの裾が長いのでセーフですの!」
 な、なんだってー!? 勿体ない! いやそれはそれで気になるぞ! そう言いたいかの様にギィギィと騒ぎノーパン宣言(名乗り口上)したノリアの下へとその恐竜達は猛ダッシュする。だが、その鳴き声が彼らの最後の行動となってしまうのであった。
「最後の最後に、自分達の矜持すらわすれるラプトルさんたちには……こう、ですの!」
 奴らが最後に眺めたものはノリアのシャツの下ではなく――彼女の体内に貯められた『静寂の青』産地直送の海水、そのほぼすべて。
 大洪水、その津波に押し流され木に激突し意識を永遠に失ったそのトカゲを前に……ドヤ顔のノリアはこう高らかに宣言するのであった。
「これにて塩漬けも完了、依頼人さんの所へ持って行く間に腐る事もありませんの!」
「……オイラ、塩漬けしてきて来いって聞いてないけど」
「いいのよ、指定しなかった依頼人が悪いんだから」
 何はともあれ『退治』はこれにて完了――あとは収穫だ!

●全ての尻尾に感謝
「任務完了なのです、皆さんお疲れさまでした」
 そういい残し再び背景に紛れ込む黒子の言葉に、どれだけの仲間が救われたであろうか。
「ぜー、はー……お、終わった」
 恐ろしい敵だった、それがロゼットの率直な感想であった。あと数十秒戦闘が長引いていたら危うく未知の世界への扉が開くところだったぞ!
「尻尾自慢ちゃん達は最後まで尻尾を守り切ったんだねえ、えらいねえ」
「ホントだ、ちゃんと綺麗なままだ」
 採取用のナイフを片手に、ラプトル達の尻尾を切断しにかかるブーケとアクセル。なるほど、こうしてみれば中々ずっしりと蛋白質な赤身に脂がバランスよくのった良い肉質ではないか。なるほどこれは尻尾男爵が自慢するのもうなずける。
「ひぃ、ふぅ。みぃ……ふむ、数は十分か」
 潮は積み上げられた尻尾の数えしっかりと依頼人の依頼通りの数であるかを確認し、一息つくと残った本体を上手く分解して持ち帰られないか考慮する。その腕や足ももしかすれば良い揚げ物にでもなるかもしれない、要らぬというのならば自分達で『おこぼれ』を頂くのも悪くない。
 いや、何ならその根元を少しばかり頂いても――
「ところで、どこから先が尻尾か依頼人さんはいってないですの」
「ええ、尻尾を誉めるばかりでいってなかったわよね」
「これ、やめんか」
 ふいにその尻尾の根元を『ちょっとだけ』頂こうと取り掛かるノリアとメルーナを潮が咎めた。
「こんなに苦労したのですから、ちょっとくらいバチはあたりませんの」
「そうそう、私達だってステーキ食べたいじゃない、ちょっと尻尾もいいかもって思いかけた――じゃなくて尻尾を見せた追加料金よ!」
 悪びれぬ二人の言葉には潮も「仕方がないのう……」と渋々同意して、人数分だけこっそり頂く彼女たちに見て見ぬふりをしてあげるのであった。

 心底酷い目にはあったが何とか依頼は達成できた、あの尻尾貴族もこれには満足するだろう。こちらも素敵な肉のおすそわけを頂けて幸福というわけだ。
 全てが終わった時、そこに不幸な人間はいなかったであろう――1人以外は。
「……ほれカルア、起きろ、尻尾男爵に報告しに行くのだろう?」
「……またあの人の話聞くの……やだぁ……」
「私たちも一緒に聞くから、な?」
 汰磨羈に引きずられ、珍しく狸寝入りをするカルアを除いては。

 後始末を終え、一息つくと戦闘時間以上の疲労を覚えながらローレットへと帰還していくイレギュラーズ達、帰れば報酬の金貨と――美味しいシッポラプトルの尻尾ステーキが待っている!
 ついでにあの尻尾男爵の長ーーーーい余計な誉め言葉の羅列も、おまけにね!

成否

成功

MVP

メルーナ(p3p008534)
焔獣

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。大変良い尻尾を沢山眺めさせていただきました、ありがとうございます。
 物凄く悩みましたが、種族名を思わず3度見させた貴女にプレゼントです。
 ありがとうございました、それではまたの機会によろしくお願いします。

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