PandoraPartyProject

シナリオ詳細

インディゴ・ブルーのとんがり帽子

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「えっさらほいさのほいぱっぱ」

 なにやらむにゃむにゃと呪文を唱える老婆が居た。名をマグダと言う。
 嗄れた声にはしっとりとした覇気があった。
 インディゴ・ブルーのとんがり帽子。同じ色の重そうなローブ。とんがり鼻とくしゃくしゃの白髪。どこからどう見ても魔女であり、事実その通りの女性だ。
「ひやー、骨がおれるわい」
 そしてこの老婆が何をしているかと言えば、家に魔法をかけているのだった。

 もやのようなものが辺りに立ち込めると、ガタガタと窓が揺れ、植木鉢が踊り始める。
「いよいよ、もうちょびっとじゃな、ええーい!」

 ――ガン!

 けたたましい音と共に、銀色の円盤のようなものが現れた。
 身も蓋もなく――タライである。
「ってててて、なーにすんじゃいわりゃあ!」
 襲い掛かってくるのはタライだけではない。ドアから飛び出してきたタンス、椅子、机。
 庭の植木鉢まで跳ねまわり、ちょっとした大惨事になってしまっていた。
「こんのバカどもめー!」
 叫んでみた所で家具達の動きは止まらない。

 老婆はこの町の魔女である。ちょっとした薬の調合に、老人の知恵袋。色々と村の役にたってきた。
 だが戦闘はからっきしである。
 ほうきで叩き、蹴りつけてみるのだが、家具達はいきり立つばかりで、どうにもなりやしない。

 どうにもこうにも、本当に困った。
 だがまあ、頑張ればなんとかなるだろう。
 そう思った矢先である。
「なんてこったい!」

 家が踊り始めてしまったのだ。


「くすくす。何だか絵本の中のお話みたいなの」
 籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)は両手を合わせて口元へ置く。クローム・ゴールドの髪がふわりと揺れて白い大きな羽に掛かった。
「まぁったく、こっちは大変だよ」
 件の魔女マグダがため息を吐いて肩を落とす。インディゴ・ブルーのとんがり帽子が少し傾いた。
「でも、どうしてお家とか動き出したのかな?」
「う……、そ、それはだね。手伝いをさせようと思ったのじゃよ」
 首を傾げるアルエットに、魔女が白眉毛を上げる。
 家具がサポートをしてくれれば他の研究に打ち込む事が出来るし、老体には家事もきつくなって来たのだとマグダは説明するが。
「おばあちゃん元気そうよ?」
 エメラルドを讃える無垢なアルエットの眼差しに、一度天を仰いでから項垂れる魔女。老婆の心を表すかの様に帽子も折れていた。
「……そんな訳で、助けてはくれんかのう」
 マグダはアルエットから視線を移し、イレギュラーズへと懇願の瞳を向ける。
 縋る瞳はグレイアッシュの色合い。
「分かったわ! アルエットも頑張るの!」
 家が元に戻ったらお茶を出して歓迎すると告げる老婆にアルエットの声が重なり、一行は魔女の住処へと歩みを進めるのだった。

GMコメント

 もみじです。少し息抜きにゆるーい感じで行きましょう。


●情報確度
 Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●目的
 動き出した家や家具を元に戻す。又は破壊する。

●ロケーション
 ある町外れの魔女の家。周囲は森に囲まれています。
 この場所から家や家具が逃げ出すことはありません。
 楽しく踊っています。
 戦闘が終われば、ゆったりとお茶会も催されるようです。

●敵
 楽しく踊っていますが、流石に攻撃を受けると怒り出します。
 魔力を消費して動いていますので、ある程度攻撃を続ける、又は破壊によって動かなくなります。

○リビングハウス×1
 踏み潰し(物至範:威力大、BS出血)家の中はめちゃめちゃだ!
 ぶん回し(物近範:威力大)窓も割れちゃう!

○リビングチェスト×2
 体当たり(物至単:威力大)

○リビングチェア×2
 体当たり(物至単:威力中)

○リビングポット×3
 泥土(物遠単:威力中)


●同行NPC
『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 PCが絡まない限り、特に描写はされません。
 絵本で見た魔女の住処にわくわくしながら着いてきます。
 低空飛行をしています。
 遠術、ライトヒールが使えます。

  • インディゴ・ブルーのとんがり帽子完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月31日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
武器商人(p3p001107)
闇之雲
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
クロウディア・アリッサム(p3p002844)
スニークキラー
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

サポートNPC一覧(1人)

アルエット(p3n000009)
籠の中の雲雀

リプレイ


 すっかり春の陽気に包まれた森がイレギュラーズの前に広がる。花はピンクや紫、黄や橙の色を乗せて、空は澄み渡るスカイ・ブルー。光子の尾を引く妖精が『特異運命座標』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の頬をくすぐって行った。
 魔女の住処にはリスや小鳥、ウサギに子鹿。柔らかそうな毛並みの熊まで居る。
 小動物達が太陽の光を浴びて、ふさふさの産毛がパステル・ゴールドに光っていた。
 眩しい。眩しすぎる程のふわふわメルヒェン空間。

 ――――その中心で踊る。家!!!

「……実際に見てみると、とんでもないですね?」
 メルヒェンな空間に『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)が実直な感想を述べた。
 確かに見た目とんでもない。
 軽快に、小刻みに動く家。この情熱的で妖艶に弾むリズムは正にラテン。
「若い頃を思い出すわい」
 魔女。社交ダンスやっていたのか。

 さておき家が踊る威圧感は、ちょっとぱない。
「なんて楽しそうに踊っているんだ」
 思わず声に出したのは『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)だ。華麗なステップを踏む様を見て邪魔をするのも気が引けてしまうが。
 あの軽快な動き。そこにはどんな秘密があるのか。
「はて?」
 魔女マグダが腰を折って家の下の方を覗き込む。
 そこには、割と艶めかしい『生脚』が生えていた。
 如何ともし難い表情で半目になった魔女。
「な ま あ し じゃな」
 衝撃の事実。情報確度Aとは何だったのか。
「ヒヒヒヒヒ……! 普段はじっとしているんだから」
 動けるならば踊りたくもなると三日月の唇で『闇之雲』武器商人(p3p001107)が笑った。
 彼、或いは彼女にとって魔女は愛すべき存在。意志を持つ『魔法』が助けを乞うならば叶えてやるのが道理。
「家や家具が踊りだす……か」
 ギルドでマグダの話を聞いた時は何の冗談かと思っていた『誰ガ為』佐山・勇司(p3p001514)だったが、目の前で踊るそれらを見て小首を傾げる。
「……にしても、こいつ等は何で踊ってるんだ?」
 魔女の魔法が失敗したからなのか、将又他の理由があるのだろうか。
「婆ちゃん、こいつらってこのまま踊らせておけば、そのうち元に戻ったりしないの?」

「戻るのう」
「え!? 戻んのかよ!?」
「二ヶ月ぐらいかのう」
 ……あ、うん。二ヶ月は長いね。……倒そっか。

「今回も頼りにしてるよ」
 リゲルはメルヒェンな空間に目を煌めかせている『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)に頷いた。
「身の守りを優先し、負傷者へ回復をお願いできるかい?」
「任せて! アルエット頑張るの!」
 前回の戦闘でも声を掛けてくれたリゲルに安心した様子で返事をする少女。戦闘経験が少ないアルエットにとって的確な指示は心強く、咄嗟の判断で迷わずに済むのは戦略的にもプラスに働くだろう。
「いかにもな魔女のおばあさんがいて、家具や家が命を持って動き出して……?」
『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)が声を漏らす。
 現代日本から召喚された彼女にとって眼の前の状況は常識を逸脱していた。ゴブリンに氷乙女、牙が赤い巨大な猪と倒してきた敵を思い返しても。流石に、こう何というか。
 メルヒェンな家を倒す事になるとは思ってもみなくて。眼鏡のフレームを抑えながら頭を抱える蛍。
 御伽噺の様な光景に圧倒されていたイレギュラーズだったが、ゆっくりと悟られない様に戦闘陣形を組んでいく。
「楽しく踊っている最中ではありますが」
 家具としてあるべき姿に戻すのが自分達の役目であると『ナイトウォーカー』クロウディア・アリッサム(p3p002844)は確認するように呟いた。それに対して他のメンバーも同意する。

 トスッ――
 踊るチェアの足元にカードが突き刺さる。白い台紙に赤いリボンのデザイン。これは招待状であろう。
 ときめき。これは一体誰からの?
 その招待状を拾い上げるチェアの前に颯爽と現れる『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)の姿。
 野性味溢れる格好の王子様は彼女に手を差し出した。


「素敵な脚だな? 一緒に踊らないか?」


 何という殺し文句。チェアのハートは爆発寸前である。高鳴る鼓動を押さえて、ためらいがちにサンディの手に触れた。
(家具を口説く……いや、レディの手作りお菓子のためだ!)
 サンディの少し引きつった顔が見える。
 チェアのムードは最高潮。メロディラインは愛のダンス、ルンバへ。
 情熱的なダンスに夢中のチェアを横目に、仲間の陣形が整った事を確認するサンディ。
 好き。でも、口笛を吹く貴方は嫌い。だけど、離れられない――
 苛烈に求めて、時に切なく突き放し。
 負けじと家もチェストもポットも踊りだす。
 十分過ぎるほどに燃え上がる、ダンス・ダンス・ダンス!

「素晴らしいダンスだが、俺の方が上手く踊れるぞ?」
 赤く燃える熱気に鋭い氷晶の蒼き声が響く。
 一斉にグルリと振り返った家達。
 リゲルの挑発によって、戦いの火蓋は切って落とされた。



 骸の盾が武器商人の周りに浮かぶ。長い前髪の隙間から一瞬だけ見えるのは美しいアメジストの瞳だ。
 巻物を解きチェストへ単節の術を放つ。威嚇のための攻撃。
「あいたー!」と言わんばかりに大げさな動作で跳ねるチェストは怒った様子で武器商人へと迫りくる。
 その瞬間を狙いすましたクロウディアの蹴りが横から叩き込まれた。
 スローモーション。
 ぐるんぐるん宙を舞い、引き出しの中身を吐き出すチェスト。空に舞う魔女の――ぱんつ。
「あぁー!? わしのパンツがあー!?」
 猛ダッシュで拾いに走るマグダ。レース付きのショッキングピンクを拾い上げる魔女。68歳。心無しか頬を染めている。
 超視力がとらえた細かな装飾はそっと記憶から抹消されたい。
 ともかく蛍は引き出しからばたばた布が溢れたチェストに蹴撃を叩き込む。

 バイーン。

 一つバウンドしてひっくり返るチェスト。割と弾力があるらしい。大丈夫。痛くなさそうな効果音だ。
「喧嘩したいわけじゃないの!」
 優しい決意を胸に、アレクシアのロッドが輝く魔陣を軽やかに描き出す。
 宙に多重展開した輝きの螺旋が光を一点に収束させ――
「ちょっと静かにしてもらえればそれで!」
 光に撃ち貫かれたチェストはバタバタと悶えなるも、煙を吐き出し物理的に静かになる。
 大丈夫。壊れてないから。

 蛍とクロウディアは顔を見合わせ、戦闘の邪魔にならない場所にチェストを運ぼうとするが。
「意外と……」
 軽いし。
 というかそもそも想定よりもずっと弱い家具達にイレギュラーズは確信する。あ、これ楽勝なんじゃね?
 いやしかし、建前上、じゃない。ええと。とにかくNORMALだ。油断出来ない。

「怨念による呪殺ですから、物理的な破壊は起きにくい筈」
 鶫の奥深い紫色の瞳は狩人の視線となり、研ぎ澄ませた集中から死者の怨念を解き放つ。
「万が一、壊れたら……ごめんなさいね?」
 残りのチェストがこちらに近づいてくるより先に叩き込まれる怨念。弾力性のある音と共に弾むチェスト。今度の中身は薬草や魔法具の類であった。バサバサ。ガチャガチャ。バリン!
「あぁ! アレは高かったんじゃがのう」
 涙目になる魔女マグダに肩をそっと叩く武器商人。頬を染める魔女。肩に触れる温もりは暖かい。

 リゲルはリビングハウスの前に立ちはだかる。
 家から醸し出されるのは迸るパッション。ダンスへの挑戦状受けて立つと言わんばかりに小刻みなステップを踏んでいた。
 家が動けばリゲルも動き。後退以外の移動を防ぐ――それ即ちダンスと言えるのではなかろうか。
 え? 拡大解釈? 深く考えたらダメだ!
「ふ……その程度なのか? 君の踊りは」
 ダメージを受けたリゲルが格好良く台詞を紡ぐ。受けた傷はアルエットが直ぐに回復していった。
 ダンスは続く。このゆるやかでいて流れるような動きはスローフォックストロットか。
 その様子を待機していた勇司がしっかりと見つめている。真剣な表情だ。
 リゲルとの『ダンス』に夢中になっているリビングハウスであるならば、抑えに回らなくても良いと判断した勇司はチェストに剣を走らせる。ドルンドルン転がっていくチェストは戦場の片隅で沈黙した。

 ――――
 ――

 戦場は白熱を極めた。
 地を跳ね、宙を舞い。踊りは加速していたのだ。
 力尽きたダンサー達は戦場の隅に積み重ねられている。
 チェアはサンディが専任していた。踊るは楽しくハッピーなジャイブ。
 テンポの良いステップは土を蹴り上げる。どこかフロアの靴の音が聞こえてきそうである。
 近づいて、離れてを繰り返し、その度に雄々しいアタック(物理)を仕掛けるサンディ。
 貫かれるハート。チェアはサンディにメロメロであった。

 其処へ現れたのはエンバー・ラストの赤いマフラーを靡かせた英雄願望。彼の靴が土埃を作り出す。ザッとなるやつ。ザっと。
「手荒い事をしておいて都合のイイ事を言ってるのは分かってる」
 どこか自分の行いに対して後ろめたさのある表現。憂う瞳が少しだけ伏せられて。
「だけど、頼むから大人しくしててくれ!」
 どんどん近づいてくる勇司にチェアは胸を高鳴らせる。サンディと勇司の間で揺れ動く心。
「婆ちゃんの思い出の詰まったお前達を――――」
 掴まれるチェアの背もたれ。右手にはもちろん、剣。
 壊したい訳ではないのだと訴えながら、熱い拳を振り上げる。ときめきのチェア。強い者に惹かれるのはごく自然なことであろう。
 パカーン。こっちは野球的な効果音だ。

「メルヘンの世界のようだと思いきや」
 寸前の所でリビングハウスの回転技を避けたクロウディアは間合いを測りながら眼の前の敵を見据える。
 今やチェアは動きを止め、残るは大物だけとなっていた。
「蓋を開ければなかなかハードなのであります」
 それでもやらねばならぬ時がある。黒いスーツに隠した刃。シルバーの光を反射して何処か洗練された美しさがあるナイフをリビングハウスへと突き入れる。
 それは捨て身の攻撃だ。限度を超えた力は己の肉体をも傷つけてしまう。
 しかし、その代償を払って尚、余りある威力。
 クロウディア剣戟は痛打となり、敵の体力を大きく減らした。つまりは、ウッドデッキが大破した。
「っと、大丈夫?」
「すまない」
 反動でふらつくクロウディアを蛍が支える。鋭い観察眼で戦場をよく見ている蛍は、咄嗟のフォローが上手いのだ。
 前に出た蛍は眼鏡をかけ直し、ペリドット・グリーンが宿る心に喝を入れる。
 委員長の名は伊達ではない。眼光が鋭く光る。
「悠長なこと言ってられないよね」
 銃をホルスターに仕舞い、スパイクシールドを構えた蛍。走り込み体重を乗せてスパイクを叩き込んだ。
 今度は窓が枠ごと外れてしまった。

 武器商人の解かれた巻物は魔力に呼応して彼或いは彼女の周りをゆっくりと漂う。
 美しい刺繍の織り込まれた服の裾。漏れ出る影は不規則な輪郭を持ち、幼子の手の様にも見えた。
 御伽噺の魔法使いは眼の前に広がる光景に酔いしれる。
 魔法の音色響き渡るこの場所は魔素に溢れ、最早『メルヒェン』という固有の概念を引き寄せていた。
 それ即ち魔法そのものではないのかと、武器商人は三日月の唇で嗤う。
 鶫は黒塗りの弓を構える。番えるは死霊の魂その叫び。
 弦を引き絞ればギリギリと音を立てて弓が鳴いた。弓手と馬手どちらも極限まで、相反する力でせめぎ合いを経れば。狙いは自ずと定まり中たるのだ。
 鶫の攻撃と合わせるように武器商人は術式を組み、敵へと打ち込む。二人の攻撃で外壁の一部が剥げた。

 リビングハウスはよろよろと脚を絡ませて、その場に座り込む。
 まだ遊び足りないと言わんばかりに、上体をぐりんぐりんと動かしていた。
 最後の最後まで気を抜かず家の行動を制限していたリゲルは盾を構え腰を落とした。踏みしめた土がザラリと音を立てる。機を狙う。
 駄々を捏ねるように最後の力で、リビングハウスが力任せの大技を繰り出した。
 リゲルは身体のバネを使い、渾身のカウンターを叩き込む。
 真正面から受けた衝撃は痺れを伴ってリゲルの体幹を駆け抜けるが、それは相手とて同じこと。
「もうフラフラだ、不殺で壊さない様止めを頼む!」
 リゲルのよく通る声が戦場に響き渡った。

「もうやめよう!」
 アレクシアは語りかける。言葉が届くかもしれないと願う気持ち。
 彼女には家具たちが動く原理は分からない。けれど、きっと彼らには命が宿り、生きているのだと実感する。なぜなら、楽しそうに踊り、心を揺れ動かしていたではないか。
 思い出を壊したくない。だから――――
 満ちた光の中で走馬灯の様に流れる景色は、魔女と過ごした日々。
 家具達の記憶がアカシックレコードの如く空に浮かんで消えていく。


「壊れちゃったら」
 構えた杖の先に花開いた魔陣へ光が集い。
「もう――」
 少女の瞳に宿る切なげな煌きに呼応するかのように。
「おばあさんと一緒に暮らせないんだよ!?」
 膨大な魔力の光が貫き、膨れ上がり、一気に飲み込んでゆく。

 地響きと共に靄が晴れ――家は元の静けさを取り戻していた。


●Tea party

「家がまるごと踊っていただけの事はありますね……」
 鶫は目の前に広がる惨状に腕を捲くる。壊れた物を一箇所に集めて、修理班へと引き渡した。
 集められた家具や魔法具を手にするクロウディアと蛍。丁寧に修復を試みる。
「マグダの方ーァ。これ、何処に置くんだい?」
 めちゃめちゃになった家の中、武器商人が手にした壺を手に魔女の元へ歩み寄る。
「ああ、それはねぇ……こっちの窓の方にお願いするよ」
 窓を指さして微笑むマグダ。窓からは心地よい風が吹いていた。窓ガラスは無い。粉々に落ちている。
「ちょっと待って、そっち掃く」
 箒とちりとりを持った勇司が武器商人を引き止めた。
「ヒヒ……佐山の旦那、気が利くねぇー?」
 微笑む唇がどこか優しさを帯びる。一瞬後には手元の壺から感じる魔力に興味が移る。覗き込むと中に仄かな動きが見えた。
「あ、これいいナー。後で取引しないかぃ? ヒヒ……」
 マグダに視線を向ける武器商人。
「そうさねえ、後でその子に聞いてみるといい」
 魔女は微笑み浮かべ頷いた。

 勇司は硝子の破片を集めながら窓枠に触れる。
「手荒い事をしちまったからな」
 戦闘で歪んでしまった窓枠。外のウッドデッキは作り直しが必要だろう。
 それでも、完全に使えなくなってしまったものはない。
 修理をすれば、きっとまだ使えるものばかりだ。山積みの壊れたものを前に気合を入れる勇司。
「よっし! やるぞ!」
 リゲルは壊れたチェストのかみ合わせを一旦外して、組み直して行く。
「思い出深い家具なのでしょう?」
 チェストの表面。綺麗に使い込まれている事が分かった。魔女と共に長い間を過ごしたのだろう。
「壊してすみません……こっちも修理しますね」

 鶫と蛍は手際よく家の中を片付けて行った。二人共素晴らしい家事スキルである。
 どこか似ている二人の姿。さらりと流れる黒髪は艷やかで美しい。
 武器を持つ凛とした所作も捨てがたいが、こういった優しい雰囲気も良いものだろう。
「片付けはあっちに任せて、私達は料理に取り掛かりましょうか」
「そうね。そうしましょう」
「あ、私も手伝うよ!」
 アレクシアが二人に加わって、キッチンから甘い香りが漂い始める。

「ハーブ代わりになりそうなのはない? マグダさん」
 魔女ならば常備している薬草ぐらいはあるだろうと。蛍が問えばミントとカモミールを手に魔女が現れる。ハーブティにすればお茶会にもぴったりだ。

 ――――
 ――

 あたたかなひだまりの中に置かれた白いクロス。妖精たちや子リスも興味深々で近寄って来ていた。
 お茶会というには花見の様な風合いだが、気にしてはいけない。実は十人もの大人数が座れる椅子が無かったという訳だ。
「いっぱい働いた後は、甘いものを頂くに限りますよね」
 鶫が置いたバスケットの中にはお菓子の数々。クッキーにマフィン、シフォンケーキにスコーン。
「あんまり時間掛けるのも良くないから、簡単な物だけど」
 アレクシアがカップを乗せたトレーを持ってくる。お菓子作りが得意なアレクシアに掛かれば美味しいお菓子も短時間で出来上がるということだ。正直、羨ましい。
「簡素な物ではありますが」
「さあ皆さん召し上がれ!」
 二人の声に一様に笑顔が溢れる。
「レディと飲むお茶は美味い……」
 サンディはマフィンを食みながら意気揚々とした気分で体を揺らした。
 美しく可愛い女性に囲まれて食べるお菓子は格別である。幸せとお菓子を噛み締め目を細めた。
 琥珀色の紅茶に花びらが落ちて。勇司がほっと一息つく。
 笑って終わることが出来る。そう思うと嬉しさと安堵感が込み上げるのだ。
「チチ」
 膝の上に乗ってきたリスにクッキーの端をあげて。
 きな臭い事件が立て続けに起きているから。束の間の休息ぐらいは、楽しんでも良いだろう。

 追加のお茶を手に家から出てきた魔女。リゲルが爽やかに受け取って。
「こういう時こそ甘えて下さいね」
 優しい笑みで元気で居て欲しいからと言葉を紡いだ。
 お茶会に招かれた経験の無いクロウディアは、どの様な振る舞いが正しいのか悩んでいた。
 その様子に肩をポンと叩くアレクシアは「気にせず楽しめば良い」と笑顔で話す。
 表情にこそ出さないが、悪くないと思うクロウディアだった。

 物に命が宿る。それは有り得ない話しでは無いだろう。
 でも、沢山の命を奪ってきた武器に心が宿っていたら――蛍は空を見上げて物思いに耽る。
 ペリドット・グリーンの灯火は揺れ動き、それでも消えること無く。前を向いていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
全編ゆるーい感じでお届けいたしました。メルヒェン!
ご参加ありがとうございました。もみじでした。

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