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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>潮騒に汽笛響かせて

完了

参加者 : 60 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 本日モ晴天ナリ!
 異国情緒あふれるネオフロンティア海洋王国は長い歴史の中で常に外圧に悩まされ続けていた。その悩みは何も女王のものだけではない。貴族派筆頭と自他ともに称するコンテュール家もまた頭を悩ませていたのだ。
「我が国は抜群の航海技術、そして海軍力で独立を保ってきました。しかし――! 脅威は常に外に存在しているのです。
 だからこそ、我らが悲願を今、叶えるが為、大号令が発布されたのです」
 堂々たる様子で告げるソルベ・ジェラート・コンテュールに「お兄様は今日も麗しく囀りますのね」と穏やかに笑ったカヌレ・ジェラート・コンテュール令嬢は興奮隠せぬ兄と対称的に穏やかな調子だ。
「カヌレッ」
「ふふ。コンテュールの御兄妹様はいつも仲がよろしいのですね。
 ああ、けれど、わたしだって! 遥かなる外洋。その先に或る新天地に何度焦がれた事でしょうか!」
 亡き夫も喜ぶ事でしょうと声を震わせるセイラ・フレーズ・バニーユ夫人にソルベは僅かに肩を竦めただけであった。

 ソルベやバニーユ夫人が興奮隠せぬ海洋王国大号令は、海洋の外に広く広がる遥か外洋『絶望の青』に挑まんとする国家を挙げての宣言だ。
 国力は大陸に位置する幻想や鉄帝と比べれば脆弱であり、ソルベの言の通り外圧に悩まされ続けて来たのだ。二十二年振り――カヌレに言わせれば二十二年と七カ月、それから四日振り――の発布であり、大罪をも退けるイレギュラーズを迎えるのだ。国家を挙げての大事業に英雄が協力してくれる。これ程までに期待できることはないだろう!

 ――という事で、浮足立った『ソルベ派(貴族派閥)』である。
 夜にはイレギュラーズを迎えて乗せ偉大なる祭りが行われる上に、洋上に慣れぬ彼らの為のクルーズ旅行も計画されている。
 祭りについては女王を敬愛するアセイテ提督が指揮を執っている様だが、貴族派としては日中の空いた時間に海自演習を行い士気を高め親交を深めることこそが此度の号令の成功のカギであると考えていた。
「それで、コンテュール卿。私達は観覧席より眺めているだけで良いのですか?」
 怜悧な瞳を一層細めてファルケ・ファラン・ポルードイは問い掛けた。
「いいえ、ポルードイ卿には『仲良くしていらっしゃる』方々へのお声掛けもして頂ければと」
「成程。承知いたしました」
 ポルードイ家を支えるファルケは海洋貴族としてそれなりに『顔が広い』。つまりは私掠許可証を得ている海賊――はたまたそうでない海賊もいるが今回は其方には要はない――にもこの演習の手伝いを頼みたいという事だろう。
「軍事演習、というのは私見たことがございませんでしたので……オルトリンデ家の当主として、この機会を嬉しく思いますわ」
 けほ、と小さく咳き込みながらも幸福そうに笑みを浮かべて見せた『蒼蝶嬢』フェノア・ロア・オルトリンデ。
 彼女の周りに躍る蒼き蝶々は満足に動けぬ彼女の中に溢れる魔力が顕現したものなのだそうだ。
「潮風は障りますよ。どうぞ、観覧席でゆっくりとなさってください」
「ええ。有難うございます。バニーユ夫人。社交界でも何時も気を回してくださって……」
 顔なじみなのであろうフェノアは穏やかにバニーユ夫人へと微笑んでいる。オルトリンデ家の当主たる深層の令嬢はふと思い出したようにソルベやカヌレを見遣った。
「昨日仰っていた『御伽噺の魔物』の様に此度の演習も激しいものになるのでしょうか?」
「ええ! ええ! 勿論ですわ。御伽噺ではなんでしたっけ? 麗しの声で『愛しい人』を海へと引き摺り込む魔物でしたかしら。
 そのような魔物を退治するのもまたイレギュラーズの仕事なのだと私、知っておりましてよ。ねえ、お兄様?」
 ふふん、と鼻を鳴らしたカヌレにソルベは「静かに」と呆れを含むがバニーユ夫人の表情は僅かに固かった。それも、彼女の異名が『嘆きのセイレーン』だということもあるだろうか。社交界では随分とそれを揶揄われてきたようだが……。
「御伽噺は御伽噺よ。子供だって、本当とうその違いは分かるもの!
 ねえ、今日は此処から眺めるのよね? 私、いっつも衛兵たちに捕まえられて詰らなかったの」
 ぬいぐるみを抱き締めたミント・アイス・フォルネウス令嬢はフェノアの隣に腰かけ「楽しみなの」と幸福そうに笑みを浮かべた。
 さあ、と前に立ったソルベが両手を広げ堂々と言い放つ。

「――さあ! 海洋王国軍事演習を始めましょう!」


 私掠許可証を得た海賊や海洋軍人の姿が多数見受けられる。海洋王国軍事演習ではイレギュラーズチームと海洋王国誇る海軍及び海賊に分かれての演習が提案された。
 しかし、それでは面白くないと言い出したのがカヌレ・ジェラート・コンテュールである。
 この天晴と讃えたくなる晴れの日に彼女は「チームなどお好きにすればよろしいでしょう」と言い放ったのだ。
 凪ぐ風の心地よさ、鮮やかな海の色。存分に特異運命座標としての力を発揮して欲しいとソルベは云う。

 さあ、国家を挙げての大事業。その足掛かりに特異運命座標達よ、協力して欲しい。

GMコメント

夏あかねです。軍事演習といきましょう。

●海洋軍事演習
 海洋王国の総力を挙げての軍事演習です。OPに登場していない関係者(軍系/海賊)の姿も散見されます。
 貴族は観覧席に、軍人・海賊は演習に参加します。
 広い海。海洋近海。美しい場所です。戦艦などはこの為に大盤振る舞いされています。お披露目も兼ねているようです。
 観覧席の出入りは自由ですが、一般人と貴族の席は分けられているようです。
 ※海賊は王国より私掠許可を得た者たちだけです。


 プレイングには行動【1】【2】のどちらか、と同行者を記載してください。
 また、同行者欄にはID or グループタグの記載をお忘れなく!(ないと迷子になっちゃいます)

【1】軍事演習に参加
 軍事演習に参加します。海賊や軍人たちとの模擬戦やイレギュラーズ同士での模擬戦を楽しむ事が出来ます。
 海賊や軍人たちとの模擬戦や軍事演習(近海警備)においては、
 ・近海のモンスターを協力して倒す
 ・海賊たちや軍人たちとの船上での戦闘を経験する
 などが出来ます。こんな名前の海賊が居るぞ! や こんな軍人さんがいるぞ! というのはある程度自由に指定しても大丈夫です。

 イレギュラーズ同士では必ず互いに模擬戦をする相手を指定してください。シチュエーションなども自由に決定できます。
 (※一方的な戦闘は禁止です。その場合はNPCとの戦闘になります)

【2】観覧席
 一般観覧席/貴族観覧席があります。
 貴族観覧席ではソルベ・ジェラート・コンテュール、カヌレ・ジェラート・コンテュール、セイラ・フレーズ・バニーユ夫人をはじめ、
 ファルケ・ファラン・ポルードイ、フェノア・ロア・オルトリンデ、ミント・アイス・フォルネウスの姿も見られます。
 また、他にも家族やNPCが観覧しに来ているというプレイングでも大丈夫です。

●NPC
 ステータスシートのあるローレット所属のNPCに関しましては『ざんげ』以外はお名前をお呼びいただけましたらお邪魔致します。
 (※他GM担当NPCに関しましてもOKですが、ローレットの所属NPCに限ります)


●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

よろしくお願いいたします!楽しんでってくださいね。

  • <青海のバッカニア>潮騒に汽笛響かせて完了
  • GM名夏あかね
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年12月04日 22時10分
  • 参加人数60/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 60 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(60人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)
引き篭もり魔王
結々崎 カオル(p3p007526)
死の香りを纏う守り人
東門・カズミ(p3p007594)
月喰らい
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

リプレイ


 青空に汽笛響く。貴賓席に腰かけるソルベとカヌレの間に無理矢理に腰掛けて、ルル家は海洋の偉い人の様な顔をして神妙に呟いた。
「ついに始まりましたね。海洋の悲願が……」
「ええ、そりゃあ思う楽しみにしておりましたとも! 妹のカヌレが知らず共ですね――! ………」
 大きく頷いていたカヌレ共々『今誰に話したのか』という顔で声のする先を見た海洋貴族コンテュール兄妹。にんまり笑顔のルル家は「拙者、ローレットの夢見ルル家です! お見知りおきを! キラッ!」ととりあえずソルベに粉かける目的で声をかけたのだ。
 独身でチョロそう(重要)。因みにルル家の中ではレイガルテ>ディルク>ソルベ←ここ。
「ソルベ殿! 拙者が今回いい感じに功績を上げたら結婚を視野に入れたお付き合いをお考え下さい!」
「はッ――「なんですのーー!?」
 カヌレの絶叫が響いたのだった。その様子にくすりと笑いながらアンナはいつも通りの淑女の礼をひとつ。
「ご無沙汰しております、ソルベ卿。今年も寒くなって参りましたね。風邪など引かぬよう気を付けて下さい」
 去年の――とそこまで言って口を噤んだアンナにソルベは慌てた様子で「大丈夫です!」と声を震わせる。海の上でもあの病気はあるのでしょうかと首を傾いだアンナにソルベがぶんぶんと首を振り、カヌレがじいとアンナを見遣る。
「ふふっ、冗談ですわ」
「お、お兄様何を……?」
 震える妹君に小さく笑い、アンナは「それよりも、イレギュラーズを紹介しましょうか」と申し出た。
「よお、三十路男。そろそろ結婚しないの? 婚期逃すよ?」
「なっ!」
 にやりとして姿を見せた史之。「本当ですわよ、お兄様」と揶揄うカヌレに「カヌレ!」と厳しい声を上げる。
「女王陛下に言ってやれって? バカだなあ。あのお方は海のように偉大で潮風のように自由だからこそすばらしい。
 それにあのお美しさはお年を重ねるごとに円熟味を増していくよ。間違いないね。
 ほらじっくりことこと煮込んだシチューって美味しいじゃん。チキンだとよけい美味しいよね? 鳥貴族?」
「むきー!」
 ぷんすこするソルベにカヌレは面白いと笑いを溢した。
 ファルケの紹介状を手にしながらソルベに挨拶をしたレイヴン。ポルードイ家として、しっかりと挨拶するのは重要だ。
「兄上、お久しぶりです」
「元気にしていたか?」
 柔らかに返答してくれる兄にレイヴンは大きく頷いた。自身が世話になっているイーリンの騎兵隊の事含め、ポルードイ家の為にもなるだろうかと報告は欠かさない。
「兄上...レイヴンは、しかとご期待に応えて見せます。海洋のため...…ポルードイのため」
 武器商人は商売人として大勢が集まったイベントは見過すには惜しいと白髪の男を従者として販売へとあたる。
 ビール、ソフトドリンク、ポテトや唐揚げ、チュロスなど大衆向けのスナックは観覧にはピッタリだ。勿論、一般観覧席に座った町娘たちには特別感が出て売れ続ける。
 ワイン、紅茶、果実のジュース、サンドイッチなど上品な感じの軽食、オペラグラスや日傘を販売する武器商人にソルベは「カヌレ、戴きますか?」と妹を気遣う様に声をかけた。
「よろしくて? お兄様の奢りですって。お紅茶とサンドイッチを戴けるかしら?」
 にんまりと笑ったカヌレに武器商人は商売繁盛間違いなしだとにんまりと笑みを浮かべた。
 ラド・バウ観戦もお馴染みのから揚げとお茶、ホットドッグを持ち込み観戦するエルはもぐもぐと食べ続ける。
「……もちろん、見る事で得られる経験を糧にする為です。サボる為では無いですからね! 本当だよ!!」
 けれど、から揚げはとってもとっても美味しいのだ。
「海洋王国軍事演習……海洋に来るのは何気に初めてだから、色々見てみたいね」
 穏やかな声音でそう言ったヨゾラ。戦闘方面にはあまり詳しくないからと、彼がは喧騒の軍事訓練を眺める。
 海洋は様々な文化が交わると土地だ。この為にと用意された食事を購入し、海洋ならではの戦い方に小さく瞬いた。
 これから目指すは新天地(ネオフロンティア)。前人未到の絶望の青を越えるが為。
(……それらを無粋に邪魔する輩も、蹴散らせる事を願って)
 潮と共に観覧席に居るポチはお弁当としておにぎりをもぐもぐと食べ続けれる。
「うーむ、わしは皆を楽しませる様な技量が無いからのう。一般観覧席から気楽に見学と行こうかのう」
 サポート系の動きを重点的に観察するのも大事な勉強だ。今後の参考になるだろうと考える潮の隣でポチはおにぎりから顔を上げて貴賓席の煌びやかさに首を傾いだ。
「ソルベ様カヌレ様、お初にお目にかかります。名をレスト・リゾートと申します。
 この度は、大号令の発布おめでとうございます~。きっとローレットの子達が様々な成果を上げてくれると思いますわ」
 柔らかに微笑んだレストにソルベは大きく頷いた。きっと、新天地には様々な『商売』の好機が存在するはずだと告げたレストに「どんなものがあるかは分かりませんが、皆さんに相談することもあるかもしれませんね」とソルベ派大きく頷く。
 未開の地を観光名所にできたならば、きっとそう、誰もが楽しい航海を出来るはずなのだ。
「お姉ちゃん嬉しいな、久しぶりだもん。ゆっくりできるの。
 だからそんなに、たまの休みを邪魔されたみたいな顔しないでよぅ」
 カタラァナの言葉にクレマァダはふん、とそっぽを向いた。彼女自身女王に用事でリッツパークへと訪れていたのだろう。
「ソルベくんもありがとうね。地盤固めもあるんだろうけど――こんなに勇ましく送り出してくれれば、きっとたくさんの人が夢を見る。夢、そう夢だよ。情熱と、熱狂と、狂奔」
 そう言ったカタラァナにクレマァダも頷いた。まあ、それは『悪い事ではない』と言う様に。

 ――おさとう すぱいす すてきなもの そのはてに あるものの なんであろうとも
 ゆめは すべてに まさるもの そのさいはてに ねむりしものも
  ゆめみる ままに まちいたり――


「ほー、盛り上がってるねぇ。か弱いおっさんは、一般観覧席でのんびり見物させて貰うとするか。
 見ることで学べるモンもあるってことで……おっと、断じて体よくサボってるわけじゃねぇぞ?」
 頬杖を付いてそう言った縁。特異運命座標と言えど思想は様々だ。
 海を眺めて縁は小さく息を吐く。大事な『縁』を自分から壊した以上、世界を救うなんて大義名分掲げることもできないのだ。
 きっと、ソルベやイザベラにはこの姿は見せられないと大きなため息を吐き出して。
 船上戦はあまり得意ではないというベイクは観覧席より眺めれば何か学べるだろうかと考えた――それから、軍人はハラペコが多い事もあり命の危機を少し感じつつ……だ。
「白兵戦とか……後は、そういう指揮が上手な人とかもいるので、そこらへんも見ておきたいところです。軍の上位階級の人たち同士の訓練とかあったらいいんですけどねー」
 人型は保ちたいと食事にならぬために気を配りすこしばかりびくびくとしながらベイクは戦闘の様子を見下ろした。
「おー! なんて人の量だ!! どっかで見た事ある有名人から知り合いまですっげぇ人来てる!」
 コンテュール家やバニーユ夫人、そして海洋貴族たち。見上げれば、心が躍るのだとプラックは確りと手を組み合わせた。
「よしっ、んじゃ、先ずは百人組手……いや、千人組手で行くか!! 海戦訓練なら戦略眼での行動の先読みと航海術のぶつけ合いで鍛える+軍人相手にどこまでも行けるかって確認だ!」
 絶望の青に行くためならば自己アピールもしっかりとだ。海種である以上飛行種の彼らにウケるのだろうかと見上げたプラックの視線に応える様にカヌレの「ご覧になって、面白い戦いでしてよ」という愉快な声音が降りて来た。
「うきゅ! 保護者のウェールさんと海賊さんや軍人さんたちと協力して大型のモンスターを倒すっきゅ!」
 船酔いを防ぐために努力するレーゲン。バランスを崩さぬようにと足元を確認するレーゲンの傍らでウェールは軍人と海賊と共にモンスターの許へと飛び込んだ。
(中々でかいな……? レーゲン、いけるか……?)
 盾で受け止め言葉なく顔を上げたウェールに合わせレーゲンがバキューンと一撃を放った。
「あっちは盛り上がってるし、リリーに格好いいとこ見せないとな!
 で、なんで親父が前線に出てるんだよ。軍人ってことは昔っから知ってたけどさ! 丁度いいや、勝負しろ!」
 指さすカイトにファクルは「構わねぇよ」と肩を竦めた。ぴょこりと顔を出したリリーは首を傾ぐ。
「え、おとうさんもここにいるの?しかもいっしょにたたかいのれんしゅーもするって? リリーもいく! わー、おとうさんもかっこいい……え、にたいいちでたたかうの? いいよ!」
 リリーとカイトのタッグを相手する父は「彼女は?」とさらりと問い掛けた。
「リリーは俺の大事な彼女だよ!」
 さあ、そう言われれば父も『恥ずかしい所は見せられぬ』と一撃が飛び込んでいく。
「まあ、海洋王国軍事演習なのですか……ずいぶんと大規模と言うよりは陣営の多い演習のようですが」
 周囲を見回したヘイゼルはふむ、と小さく呟いた。演習という事は制御された逃走であり実践とは掛け離れているというのが彼女の言だ。
「演習で一々死人を出すようでは問題ですからね。『救護部隊』としての技量を競って見せませうか」
 空中より要救護者を探しながら、回復や捜索中の充填での持久力を活かして見せると彼女は空中より看護師の様に立ち回る。カヌレは「面白い着目点ではありませんこと?」と兄を振り返っていた。
 シュラハ少将が堂々と――エイヴァンに言わせれば『ギャーギャー』と軍事訓練に参加していた。 イレギュラーズとして参加すると告げるエイヴァンに許可はできないとシュラハが首を振る。さて、どういう事かと言えば、幼馴染権限で艦長をし、訓練に参加しろというのだ。
「別にそこら辺にいる少佐でいいんじゃないか? ……中佐や大佐は恐らく出払っているだろうし」
 練習もしていないし、と首を振ったエイヴァンに兎に角来いとシュラハは大きく手招いたのだった。
 海洋の仕事も経験があるといえどラダにとっては『絶望の青』へ挑む技量が必要であると再認識する機会であった。あの水平線――その向こうに何があるのか気にならないわけではない。
 エイヴァンの船の上、近海のモンスター退治を担ったラダは船上での戦闘訓練になると認識し、冬の海を見下ろした。
(一回くらいは落ちてみるのも訓練の内かもしれない……でも水の中、寒そうなんだよなぁ)
 海を見下ろすラダに焔は「落ちても溺れない方法とか気になるよね……」と呟いた。大号令に協力体制をとる以上、船や海に慣れなくてはならないと焔は揺れたり濡れたりする足場での戦い方のコツを掴むために体幹を鍛える様に足に力を込める。
「落ちたら…… だ、大丈夫だよ! 浮いてるだけでいいならちゃんと! ……それなりに、少しくらいは出来るもんっ!」
 大いなる海と云うのは惧れの対象である事をデイジーは知っていた。クラーク家私設海洋警備隊と率いアセイテ提督の隊と協力体制をとりながら軍事演習に取り組んでいく。
「普段は妾達クラーク家の者の護衛や船荷や商船警備にあたる者達じゃが、此度の海洋進出はひと味違うからの。かのアセイテ提督の者達と演習をさせて貰えるのであらば得るものも大きいじゃろう」
 あの女王陛下の信も厚いアセイテ提督だ。蛸入道の異名もつビッグ・オクトパスを狙うぞと船をぐんぐんと走らせた。
「絶望の青進出、これはその前準備にちょうど良いな。
 水中での戦闘や船上での戦闘はまだ慣れてねぇからここである程度慣らしておかねぇと。それだけじゃなく、海上特有の連携も磨きたいところだな」
 黒羽はモンスターを捉えて離さぬように鎖で絡めとる。水中は陸と違って下からの攻撃も可能だという事は忘れてはならないと黒羽が下を見下ろせば、モンスターががばり、と飛び出した。
「っと――」
「不安定な船の上、大規模な船同士の連携こそオイラ達飛行種や海種のヒトたちが力を発揮できる場所だよ! この後に控える絶望の青の攻略のために、まじめに演習に参加するよー!」
 黒羽の頬を掠めた一撃にアクセルは癒しを送る。楽し気に飛び出した洸汰が堂々と声を張り上げる。
「そーゆーわけで、オレも一緒に頑張るぜ! たーのもー! たーのもー!!!
 誰か、オレの相手をしてくれる軍人さんはいねーかー? 一対一でもそれ以上でも、オレはどっちでもいいぞー」
 やる気十分の洸汰に応える様にソルベがコンテュール家の私兵がお相手しましょうと声を張り上げた。
「コンテュール家の私兵さんだって! 気になるけど私は海賊船に乗ってみたいなあ」
 義理に篤くて義賊みたいな人もいるのかな、と気にする素振りのスティアに「勿論いらっしゃるでしょう」とバニーユ夫人の声が降ってくる。
 私掠許可を得た海賊たちはスティアに巨大なイカとの戦いの話などを繰り広げた。
 愛薬い少女であるというのにバリバリ前に出て『タンク』をするというのだから海賊たちは驚いた。
「あ、怪我したら教えてね。本職の事は忘れてないし、きっちり治すからね!」
 躍り出るモンスターを相手取り雪之丞はくるりと振り返る。
「シオン。眠気は、大丈夫ですか? 今日は頑張ったら、後ほど、おやつを用意していますから……終わったら、パフェがありますよ」
 その言葉にシオンの瞳がきらりと輝いた。おやつを食べれるならば全力で頑張るしかない。
「では、拙が抑えますのでシオンは自由に攻めてください」
 地面を蹴り飛翔し攻撃を続けるシオンに合わせ、雪之丞がモンスターを惹きつける。
 遠方の敵に向けて攻撃放ち、くるりと振り向いたシオンがぱちりと瞬いた。
「どーゆきのじょー……? かっこ良かった……? ふふ……じゃあパフェ食べよー……!!
 ……フェノアおばさんやケイカおねーちゃんには俺の活躍、見えたかな……?」
 フィーゼが卵丸の袖をくい、と引く。可愛い女の子だけの海賊団を相手にするのだと聞き、卵丸は慌てた様に振り返る。
「いや、フィーゼは女性だけど、卵丸、男!男!」
「卵丸、折角なら文字通り胸を借りても良いんじゃない? 卵丸も男の子だし、色んな意味で鍛えてくれるかもよ?」
 かあ、と頬を赤らめてフィーゼが攻撃を続けていく。「フィーゼ、今だっ!」と告げた卵丸の手をぐんと引いた海賊団が「べえ」と舌を出す。
「やーん、かわいい! うちに入らない?」
「だ、だから卵丸、男! 男!!」


「よっしゃ! んじゃ、手合わせといこうぜ! カオル!」
 模擬戦が出来るならばとテンションを上げるカズミにカオルは「おい、あんまハメ外すなよ……って聞いちゃいねえ」と肩を竦める。軍事演習にはあまり興味もないが、これはいい機会だとステップ踏んで一気呵成、カズミへと距離詰める。
「っと――!」
 ダガーを振るい、カオルへと振り上げて寸止めたそれを弾く様にぐん、とカオルが寄る。魅せる戦いにぐん、とダガーを振るうこともできないままにカズミが手をひらりと振ればカオルはゆっくりと肩竦めた。
「……ふぅ。満足したか、カズミ? 今度からは一言寄こせよ……まったく」
「……熱くなりすぎないように、だな。相変わらずクールだぜ、カオルはよ。あとで何かおごってやっからさ!」
 お祭り騒ぎの様子にアランはぽかんと周囲を見回した。「海洋版ローレットトレーニング」と言えば言い得て妙だ。
「冒険に駆られていてもたってもいられない方々の発散のように感じますよアラン」
 首を傾ぐメルトリリスのその言葉に私掠許可を得ている海賊を許容するのは大号令のおかげかとアランは頭を悩ませ――剣を手にした。
「しかし、訛ってた体を叩き起こすには丁度いい。まずはあそこのデケェ船に居る連中全員ぶちのめすぞ。てめェがどんだけ力付けたか、俺が見極めてやるよ」
 ――聖女になりましたって伝えた筈と僅かに混乱するがそんな場合でもないだろう。真っ先にやられればアランに『ぶち殺されて』しまうのだ。
「わ、私の力は守る為であって無闇な喧嘩のためでは……って、ああっ、行かないといけない空気がひしひしっ……わ、わかりました! 戦場の敵を排除するのですね、それは命令ですか?」
 命令じゃなくてお願い。その言葉に笑い、数の暴力にぐいぐいと足場を追われ――落ちかけたメルトリリスの名を呼んだアランに『悪戯めいて』メルトリリスは笑う。
 ……落ちるとメルトリリスを救おうとした手がするりと抜ける。冬の海は冷たいですよと笑う彼女は、飛べるのだ。
『酔いどれ海賊』ジャンク・スワロウとその仲間達を相手取りウィズィは「ふへ」と小さく言った。
「結構な人数いるねぇ……でも此方は親友とのコンビーー二人なら負ける気しないね」
「言ってくれるじゃねぇか!」
 ジャンクが笑えばそれに実況と解説がついてくる。酔いどれ海賊団は成程エンタメ性に優れているか。
「海賊達の度肝を抜いてやろ。さあ――行こうか、親友(あいぼう)!」
「ああ――任せろ、親友(あいぼう)」
 ぐん、と上空より飛ぶようにして浮足立った海賊たちを蹴散らしていく。エクスマリアの背と合わせハーロヴィットを振るうウィズィは細剣の煌めき共に加速する。
 時間は二人の味方に違いない。主人公(メインヒロイン)は何処までも敵を圧倒すべく刃の切れを鋭く変える。
「決めるよ親友(ハニー)。トドメは勿論?」
「心得た、親友(ハニー) 無論、トドメ、は」
 ――さあ、後は親玉只一人! トドメは勿論、二人、揃って!!
「最近少し戦闘スタイルを変えてみたのじゃが、相手になってくれる者はおらぬかのう?」
 呟くニルの声に応える様に顔を出したのは亮。日本刀を構えてやる気十分の亮が「いっくぜぇ!」と走り寄る。その横面へと魔砲を放ったニルは「ふむ、すまぬが加減が分かってなくてのう……?」と首傾ぐ。
「うぉっと――お、俺で良かったな!? やられっぱなしじゃないぜ!」
「ううむ、やはり動きにくいのう……」
 振るわれた刃受け止めニルが唸り、空飛べばぎょっとしたような顔をして亮が負けたと手を振った。飛行も役立つのだと戦法のひとつに組み込んで。
「ほぅ、海軍と共に軍事演習か。観客もいて、やりがいはありそうだなぁ。
 俺は守るのとかが性に合ってるから、共にモンスターを倒すのが良いかな」
 連携を意識し戦い方は何処でだって必要だ。フレイがそう言えば、芽衣も同意だと言う様に頷いた。
「無理しない程度に頑張りましょう。あくまで演習だし、ね」
 近海のモンスターを相手に指揮官に軍人を据えれば機動力も上がる気がすると芽衣は走り出す。空のモンスターを殴り墜とせば、フレイが続き止めを刺してゆく。
「ヒールグレネードやねねこグレネードだって基本的には平地で投げる練習しかしてないですし……ちゃんとした場所に投げれる練習しておこないと,攻撃が味方に自爆したり,回復が敵に誤爆したり――」
 そう思えばねねこは海賊や軍人の動きをチェックするのも大事だとモンスターの討伐に歩を向けた。モンスター知識と日頃の趣味でモンスターがどの様に倒れたかのチェックもお任せあれと倒れた市街をちらりと見て、小さく笑う。
 沙月は軍人がどの様な動きをするかも参考になるし、と船上戦闘を楽しむ様にモンスター撃退へと飛び込んだ。
 船上での動きになれるのも必要かと彼女が見遣れば、海洋軍人たちは足元を気にする素振りなくその体幹をしっかり支え戦場へと飛び込んでいく。
(実践も必要ですが、まずは観察ですね――)
 速やかに、軽やかに、そして優雅。そうして戦うべくその足に力を込めた。
「私はまだまだ未熟だからね、海洋の戦い方を学びたい…その為には海洋に元々いる方と演習するのも一つの勉強になるかと思ったの!」
 に、と笑ったErstine。彼女が相手取ったのはソルベの側近として立ち回る海洋の紳士だ。
「クグロフ! コンテュール家の者として負けてはなりませんわよ!」とカヌレの声が響くのを聞きながらErstineは折角ならば強い人と戦いたかったと目標として彼を定める。
「船上での戦い方だとか色々知っておくチャンスだもの、上手く活かさないとね!」
 流石はコンテュール家の側近か。クグロフと呼ばれた飛行種の紳士は穏やかな顔をして表情一つ変えぬ儘、Erstineの一撃を捌く。無論、慣れぬ船上戦闘のせいもあるのだろう。足元慌てる様に動くErstineにクグロフは「お気をつけください、イレギュラーズ様」と静かに声かけた。
「船上での戦いはバランスが大変ね……っ! これは…個人的にも訓練しておかないと……っ」
 海上での戦闘経験を積んでおこうと心躍らせたリゲルはポテトの手を引いて軍医演習用の船へと乗り込んだ。
「俺は砲台を使ってみたい。ずっと撃ってみたかったんだ。……やらせて頂けますか?」
 ワクワクしながら砲台に向かうリゲルにバニーユ家の私設船団の男は「どうぞ!」と輝かんばかりの笑みで告げる。男の子だなあと愛しい旦那様の姿にくすぐったくなる気がしてポテトは小さく笑う。
「へぇ……あんな風に動くんだ。海の中なのに早いな……」
 簡易飛行を用いて上空より確認するポテトにリゲルが「来たぞ!」と敵襲を告げる。さあ、ここから戦闘の始まりだ。
「実際に事を進める前に、こうして演習の機会を設けてくれるのは助かりますね。
 まあ、海洋王国にとっても必要な事なのでしょうが……私達の側としても、海上戦闘、船上戦闘の経験がある人がどれほど居るものやら?」
 くすりと笑った冬佳。水上と陸地では感覚が違うと、実践の前に模擬戦をできる事に感謝しながら、足場の感覚を確認し続ける。
「それでは――参ります」
 地面を踏み締め海賊への距離を詰める。冬佳より感じた凍て付く気配を弾く様にした海賊にティスルが「隙ありっ」と飛び込んだ。
「海洋主催のおまつ……じゃない、演習だー! てことで当たって砕けろってやつだよ!」
 海賊向けて光を放ち戦うティスルの足元を甲板を転がりながら戦うアズキ伯がその姿を現した。
「なッ――!」
「成程……そう言う戦い方(?)もあるのですね……」
 海洋軍人個性豊かである。しかし、海賊たちも個性豊かだ。モフモフ猫の獣種で構成されたモフモフ団はバッカニャ! と煽りながら戦いを挑んでくる。
「あたしはベルフェゴール! 黄金製の便器に座って采配するよ。魔王の玉座さ。もれなく補正するんで遠慮なくヤッテおしまい!」
 ニャンニャン大戦争をびしりと指さし鈴音は個性豊かな海賊を大きく頷きながら見つめた。


「海戦は全然経験無いからなー。演習でしっかり学んでおくべきだ。経験は力だ、って師匠も言ってたしな!」
 大きく頷いた風牙。その道のプロに学ぶが一番だと海賊を相手取り、どうしてそんな戦闘スタイルをとるのかと風牙は問い掛けた。
「足元おろそかにすると滑るぜ!」
「っと――成程?」
 理解は尤も近道だ。どんどんと前線へと飛び出し軍人や海賊たちのアドバイスを実践し続ける。
「吾も海戦するー! うむ、陸の戦いはいくらでもしてきたのであるが、甲板で戦ったりするのは数えるほどしかしてこなかったのである! 故に名高い海洋海軍の皆様方に甲板上での戦い方をご教授願いたい!」
 戦闘型美少女こと、百合子は『海戦美少女』になるべく海軍軍曹たちへと声かけた。足場として利用された軍船であればそれ程、振りを感じないが小型船と鳴ればやはり揺れる。柔軟に動かねばならぬかとその掌に力を込めた。
「吾は海戦の経験はないがま溶岩に囲まれた岩の上で修行した事もある故、ちょっと懐かしさもある! では行くぞっ! 白百合清楚殺戮拳! 参る!」
 海に落ちれば終いのデスマッチ気分でいざ!
「……観客に見られながら戦闘というのは……ちょっと新鮮だな……見栄えのする戦闘は……出来る自信は全くないけど……
 ……でも……折角演習に参加できるわけだし……自分の実力を……改めて確認してみるのも……アリかな……」
 グレイルはそう小さく囁いた。接近してくるモンスターに対し、グレイルはゆっくりと顔を上げる。
「……迎撃だね……スコル……迎え撃つよ……」
 モンスターが飛び込むのを眺めながら汰磨羈は連携を行う機会はある筈だと軍人たちの動きを確認する。
 先ずはモンスターを船には乗せぬという事を心がける軍人たちに合わせ、グレイルが攻撃を重ねれば、汰磨羈は軍人たちの統率の取れた戦いに感心した様に頷いた。
「と、言う事で。新兵に叩き込む心づもりで、ビシバシと鍛えて欲しい」
 誰もが軍に所属したことがある訳ではない――だからこそ、それが重要なのだ。あの海に向けて飛び込むのならば知っておくべきものもある筈だ。
「海洋には特殊なコネがあるでもなし。普段通りやれることをやるのです。
 ……え、ありませんよね私? この場に変なピンク髪した銀色脚のたこ人間とか来てませんよね???」
 きょろきょろと周囲を見回しながらクーアはとりあえずモンスターを焼いた。もしも知り合いがいたならばどうしようかななんて考えながら、沿岸警備(うさばらし)しながら流れてくるモンスターへと放火を続けていく。
 海上戦となればクーアは非常に戦い辛いと考えていた。だからこそ……今のうちに陸(おか)を堪能しておくのだ。
「わたしたちのやり方を知ってもらって、こっちも彼らの戦い方を知る。今後に向けて重要だし、気合入れていきましょ、ヒィロ!」
 美咲の言葉にヒィロは大きく頷いた。『ボクらの戦い』がどこまで有効であるかを試せるのだ、ヒィロはぐん、と地面を踏んだ。
 先駆けで真っ先に飛び込むヒィロ。美咲を護る様に立ち回るヒィロがくるりと振り返る。
「――からの……美咲さん! どっかーん!」
 防御の固さが売りである軍人が中々やると小さく声を張ればそれに美咲はにいと笑う。
「そんなひとにこそ、私たちのフルパワー! ――喰らえ!」
 軍事演習と言われれば蛍はどこか緊張してしまうと息を大きく吸い込んだ。
「よしっ、珠緒さん、行きましょ!」
「ええ、蛍さん。お呼ばれした期待に応えるよう、頑張りましょう」
 柔らかに微笑んだ珠緒に蛍はぐ、と手に力を込めた。
 視野を広く持ちながらハイテレパスを駆使して司令塔に当たる珠緒の声に従いながら蛍はモンスターへと攻撃を続けていく。
「実はここに、とっても心強い部隊長候補さんがいるんだけど……演習だからこそ、ぜひ試してほしいわね」
「イレギュラーズ殿がよければ」
 司令塔として、と珠緒を据えた事に満足げに頷いて索敵する蛍が「いきましょう!」と盾役として攻撃を続けた。
 近海掃討を兼ねたモンスター退治。これまでに軍事演習で倒されたモンスターは多いが、一人でモンスターを『どつき続ける』者が居た。コンテュール家のメイドであり軍閥だという射撃の名手のブールドロだ。
「アンタやるね、俺と一つ勝負してみないか?」
 に、と笑ったシラスにブールドロは「コンテュール家の名誉が為に」と海種をけん制するように攻撃を続けていく。それに面白いと乗ってきたのが海賊たちだ。
 演習とはいえこれは絶好の機会だ。魔物を倒し続けんとシラスはゆっくりとモンスターに向き直った。
「よし、どちらが沢山仕留めるか競争だ」
 ざざん、と音が鳴る。船の上で釣竿を手にしたヴァレーリヤは「暇、ですわねー」と小さく呟く。
 モンスターはどちらかと言えば別の方向で大盤振る舞いだがヴァレーリヤとアレクシアの傍には余りに寄って来ない。
「お魚が釣れたらどうしようかしら。アレクシアは、お魚得意で……」
「まあ、警戒するのも大事な訓練だよね……ってヴァレーリヤ君、釣りなんてしてないで海見て海!」
 海? と首を傾いだヴァレーリヤの瞳がきらりと輝いた。
「アレクシア、いつもの花がぶわーって舞うアレをお願いしてもよろしくて?」
「花がぶわーって舞うやつ……ってどれ!? だいたいそんな感じだと思うけど?!」
 大体そんな感じなアレクシアの攻撃に「あれですわよ、あれ!」と告げたヴァレーリヤが「アッ」と声を上げる。モンスターの突進でぐらりと揺らいだ船。その儘、落ちていったヴァレーリヤに気付かずに無事にモンスターを討伐したアレクシアは「ヴァレーリヤくーん?」と首を傾いだ。
「アレクシア、ここ! ここですの! 助けて下さいまし!
 私、まだ泳げな……わぷっ! このままだと海底で謎のオブジェになってしまいますわ!」
「あー! ちょっと待ってて、今助けるからね……! まだ冒険は始まってすらいないんだから!」
 そう、まだまだ冒険は始まっていない。
 あの大いなる海へ――行く前にヴァレーリヤが海底のオブジェになりかけたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 海洋軍事訓練(大がかり)でした! お楽しみいただけましたら幸いです!
 さあ、大号令に備えろ!

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