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シナリオ詳細

【イレクロ】Silver tower~愛と獣の果て~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●銀月の塔

 ――それは昔々の物語。

 広大な森に聳え立つ、一つの塔。
 その頂きにて、空に浮かぶ銀色の月を眺める魔女がいた。

 ある日のことだ。
 魔女は塔の前に、行き倒れた一人の青年を見つける。
 慌てた魔女は青年を介抱し、そのおかげか青年は一命を取り留めた。

 世捨て人である魔女は、久しぶりの人との接触を楽しげな物だと思い、青年もまた、命の恩人たる魔女に感謝の気持ちと共に、その見目麗しい容姿に心引かれていった。
 青年の傷が回復するまでの、僅かな日々。
 けれどそれは、二人の距離を縮めるのに十分な日々だった。

 日課となった、塔の頂きでの逢瀬。
 二人は銀色の月の下、恋に落ちたのだった。

 けれど、二人の運命は引き裂かれる。

 ある日、塔に王子を攫ったという悪しき魔女の討伐隊が訪れる。
 討伐隊はその周囲一帯を領地とする国の部隊だった。
 魔女は理解する。介抱した青年こそが王子だったのだと。

 王子は、何かの間違いだ、と討伐隊帰還させようと声をあげたが、討伐隊の隊長は魔女を庇う王子を、魔女に魅了され狂ったとして殺害した。
 悲鳴を上げる魔女に、狂気のまま振る舞う討伐隊が襲いかかる。

 魔女は塔の頂きまで追い詰められて――そこで悲しみと共に呪詛を吐いた。
 呪いは、討伐隊のみならず、討伐隊を嗾けた国へと届き、やがて人も虫も――遍く命は獣となって、一つの国が滅びた。

 魔女は王子の亡骸を抱えながら、今も空に浮かぶ銀色の月を見上げている……。


 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が話を終えると、『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)が訝しげに尋ねた。
「名前も残されていない国と、森の中に聳える塔、か……司書殿が話すのだから、御伽噺と言うわけではないのだろう?」
「ええ、その通りよ。長い間、伝聞のみの話だったのだけれど、歴史を辿りアタリをつけて調査してみた結果、一つの資料を見つけたの」
 イーリンがまとめた資料を開く。そこには詳細な情報と共に、ある場所の地図が添えられていた。
「先だって現地調査を行ったけれど……ああ、見事にあったよ。周りの木々に侵蝕され大木のように見せながら――しかしその木々、蔓草の下には石造りの壁の建造物がね」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)の言葉に『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は驚いて、
「つまり、塔があったわけ? 大発見じゃない!」
「まだ、魔女の塔と決まったわけじゃないけどね」
 肩を竦めるアトだが、その表情は明るい。そこが魔女の塔だと言うことを確信しているのだろう。
「それじゃ、今日集まったのは……」
 物部・ねねこ(p3p007217)の確認に、イーリンが頷く。
「そ、本格的な探索をする日取りを決めようと思ってね。今回は大変よー。なにせ周囲の森は魔獣だらけ、アトのように一人でスニークするなら別だけど、大所帯ならそれなりに戦闘することになるでしょう」
「そ、それは結構大変そうですね」
「いつも通りいけば我(アタシ)達なら大丈夫だよ。しかし塔の内部が気になるねぇ、魔女とやらが人を寄せ付けたくないと考えたら、リフォームでもしてておかしくなさそうだ」
 冗談を言うように『闇之雲』武器商人(p3p001107)が笑う。だがこの武器商人の考えはあながち的外れとも言えなように思われた。
「国中を獣に変える魔力があれば塔を迷宮のようにしてもおかしくない、か」
 『月光』ロゼット=テイ(p3p004150)が呟くように言う。『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ( p3p004390)も頷いた。
「塔の頂きで、今も魔女は月を眺めてるのかな? だとしたら、どんな気持ちなんだろう……」
「それを確かめにいかなきゃね」

 地図を指さすイレギュラーズ。
 場所は幻想、鉄帝、天義――三国の国境にある緩衝地帯。
 強力な魔獣達が跋扈する、大森林。その深部に聳える大樹の塔。

 悲恋の物語の結末が、そこで待っている――

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 シナリオリクエストありがとうございました。
 森林に聳える魔女の塔。
 果たして、その頂きに待っているものは……。

●達成条件
 塔の頂きまで登り、魔女との邂逅を果たすこと

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は信用できますが、情報に無いことも発生するかもしれません。

●シナリオについて
 リプレイ冒頭で塔の入口まで辿り着きます(森林突破は特にプレイングなくても自動的成功です)。塔に侵入するまでにやっておきたいことがあれば、記載しておきましょう。
 塔内部は魔女の魔法によって迷宮へと変えられています。
 あえて階数は示しませんが、外部からの見た目以上にしんどい階数です。

■入口~下層 
 塔に侵入してすぐの場所から数階登った階層です。
 主に外部から侵蝕してきた森林の枝葉が迷路のように入り組んで、侵入者を拒みます。
 謎解きとかは特にありませんが、冒険、探索スキルを駆使しなければ、上へは進めないでしょう。
 探せば魔女の日記が見つかるかも知れません。

■中層
 森林の侵蝕が薄くなり、石造りのフロアが続いています。
 どこから侵入したのか、多くの魔獣がうろついており、激戦が予想されます。
 群れて行動する魔獣が多いです。不自然なのは魔獣達の多くが身につけるような装備をしていることです。倒すとなにか手がかりが見つかるかも知れません。

■上層~頂き
 塔の頂きに至る出入り口の前で、大型の魔獣グレータービーストが一体暴れています。
 攻撃力が高く、厄介な魔獣です。なお必殺持ちです。
 中層と同じように人が身につけるような装備をしています。倒した後探索すればなにか分かるかも知れません。

■銀色の月の下
 塔の頂き、最上階に何が待っているか。その眼でお確かめください。

●戦闘地域について
 塔の中での戦闘となります。
 室内での戦闘になりますが、戦闘行動は問題なく取れるでしょう。
 明かりはありますが、暗がりを照らす灯りがあると、なにか目に付きやすいかもしれません。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 【イレクロ】Silver tower~愛と獣の果て~完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月30日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

リプレイ

●銀月の塔~下層~
 その塔について調べていくと、一つの国と隠者の存在に行き当たる。
 国の名はモクア。最後に記された王の名はダーレン・ドーナ・モクア。その息子にクウェインという者がいることが分かる。
 『銀の月』武器商人(p3p001107)はこれこそが王子の名だと見当をつけた。
 対して隠者の名はどうだろう。
 その不確かな存在は、噂話に聞くようなもので、記録に残る中には幾つもの呼び名があった。
 『ネフィス』『シーディウ』『リディドゥ』……どのような名にしろ、それらは全てモクアの傍の広大な森に聳え立つ塔に隠遁する女の名を指していた。
 武器商人は便宜上一番多く記されていた『ネフィス』を魔女の名とすることにした。
「魔女ネフィス……ね。俗世との関わりを断っていながら、行き倒れた者を見捨てることはできなかったわけね。結果としてそれが破滅に繋がったのかもしれないと考えると……悲劇と言わざるを得ないわね」
 塔へと侵入して小一時間。探索を続ける中で武器商人が話した内容に『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は物憂いげに言葉を零した。
「悲しいお話……。どうして……こんな事になったんだろ……」
 『願いの風を継いだ者』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)もまた目を細め、王子と魔女、二人を引き裂いた物語の終幕を悲しむ。
「でも、愛し合っていて幸せな時間もあったと思うから――今も世界を呪っているのなら……安らかに眠って欲しい」
 カンテラで周囲を照らしながら『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)は言う。塔に入る前、その高さを確認し一人残る魔女を思えば、寂しさを感じることは容易い。
 木々に支配された石造りの塔の中を、八人は探索する。
 下層は特に、塔の侵入直後が一番の難所だった。
 まるで来る者を拒むかのように、茨の付いた草木がフロアの一面に伸び、それらを排除しながら内部の探索を行った。
「特段の違和感を感じるのは塔の内部構造だ。外から見た目測より内部空間が広いように思える。恐らく魔女の魔力によるものだろう。そして、人を拒絶し追い返すような障害物の配置の法則性は――周辺の森林の構成によく似ている」
 塔内部の壁や、木々の配置に違和感を感じれば、丹念に調べ隠し通路を見つけていくのは『観光客』アト・サイン(p3p001394)だ。
 事前調査による森の突破で得られた冒険の経験は、塔攻略に置いて十分以上の成果をもたらした。
 また同行している仲間達もアトに頼り切ることなく、それぞれが探索に注力していたのは間違い無い。
 いつものようにマッピングをし探索の効率化を図るイーリンと物部・ねねこ(p3p007217)に、透視により見えざる空間を把握する武器商人とレイリー、ファミリアーを用いて多角的な視点を得て探索を進めるミルヴィ。『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)のエコーロケーションによる空間把握は、異質な空間と化している塔内部の把握に十分に役立った。
「みんなのおかげで探索も順調だなあ」
 仲間達の後について歩く『月光』ロゼット=テイ(p3p004150)が眠たげな目に言う。すぐにイーリンが苦笑してロゼットに言った。
「何を言っているの、ロゼット。貴女が荷物を持ってくれるし、細々とサポートしてくれるから順調に探索できているのよ。助かってるのはこっちだわ」
「そう言ってもらえたら何より。太陽と月の関係になれれば願ったり叶ったり」
 探索者たち八人は協力し合って塔を登っていく。
 そして。
「小さな隙間……なにかありそうだよ」
 カタラァナがエコーロケーションで何かを見つける。アトが慎重に警戒しながら壁を調べ上げ、壁の小さな隙間を見つける。罠などはなさそうだった。慎重に手を入れてみると何かが手に触れた。取り上げ隙間から出す。
 それは一冊の本だった。ホコリを被り、ボロボロになりながらも、読むことのできる最低限の形を保っていた。
「これは……魔女の日記?」
「紙の材質などから推測するにかなり古い。そうモクアという国があった時代と一致するくらいにね。筆跡も女性のものに思える……可能性は高そうだ」
「隙間にはまだいくつか本があったよ。魔術関係の本や研究ノートかなあ。こっちもだいぶ振るそうかな」
 イーリンとアトが魔女の日記を確認し、ロゼットが新たな書物を見つける。
 紐解いて見ると、そこには魔女ネフィスの苦悩が綴られていた。

『我が身を蝕む悪魔の呪い。色彩は奪われて、私の瞳に出来ることは銀の月を眺めることくらい。
 感情の高ぶりは、呪いの拡散に繋がる。私は人と関わることなく、この塔で長い生涯を一人で過ごすことを決めた』

「これが彼女の日記……導入から不穏な感じだ……これ以後はずっと漫然とした内容が続いているな」
 魔女の想いを知りたいと思うレイリーは一つ一つ確認しながら読み進めていく。
 そして、ある頁へ至った時、日記の内容が大きく変わる。

『今日、一人の男性を助けた。名前はクウェインというらしい。人との関わりを断った私がなぜ彼を助けたのか。自分でもわからない。けれど、行き倒れた彼を見たとき……世界に色彩が戻ったのだ』

 そこからは、献身的にクウェインを介護する魔女ネフィスの幸せそうな日々の日記が続いた。
 同時に、自身を蝕む呪いに怯え苦しむ様子も窺えた。
 だが、ある日転機が訪れる。

『今日、クウェインに呪いのことを話した。
 いつまでも一緒には居られないと告げると、クウェインはそれを否定して、私を抱きしめてくれた。
 共に呪いの解法を探してくれると約束してくれた。そんなことができるの? けど、彼と一緒に居られるなら……私は呪いを解くための研究をすることを決めた。
 彼となら、きっと叶うと信じて。
 私達を見下ろす銀の月よ、どうか、私達を見守っていて』

「なるほど、それでこの魔術の研究ノートの数々なのかな。自分に掛けられた呪いとやらを解こうとしたわけね」
「それから先も幸せな日々が綴られているけれど、ある日を境に途絶えているわね。とすると、ここで話に聞く討伐隊が来たという訳ね」
 日記を読んだ面々は、魔女へと想いを寄せると同時に、掛けられた”呪い”へと注視する。果たして、それはどのような呪いだったのか。
「先へ進もう。
 真実は、てっぺんにあるはずさ」
 アトに促され、一行は塔を登っていく。
 いつしか塔内部を侵蝕していた森林は姿を消していき、石造りのフロアへと周囲を変えていった。
 魔獣達の遠吠えが聞こえた。

●銀月の塔~中層~
 軽い休憩を終えた一行は、塔中層と思われる場所へと踏み込んでいく。
「センパイ、アト、アタシに任せといてっ」
 続々と現れる魔獣達を引きつけるミルヴィ。ファミリアーを天井へと忍ばせて俯瞰的な視点を得ながら、仲間の下へと誘導していく。
 ミルヴィと共に魔獣達を引きつけるのは武器商人だ。
「カーソンの方のやる気に水は差さないさ。サポートするよぉ」
 その飛び抜けたEXFでまさに不沈となる武器商人がミルヴィを庇えば、安定した魔獣誘導が可能となる。
「兵士諸君、お勤めご苦労――おやすみ」
「これは楽だ。一網打尽」
 そこへイーリンとロゼットの超距離貫通攻撃が刺さる。
「――♪」
「食べ残しは任せて貰おうか――ッ!」
 倒し損ねた魔獣達は、カタラァナの歌い上げる歌で魅了され、そこをアトが自身の誇る剣術奥義で確実に倒していった。
「怪我したら言ってくださいね。全快にしてみせます!」
 戦闘が終われば、ねねこが充填を活かして、仲間の回復を図る。これによってイレギュラーズ達は常に万全の状態で戦うことが出来た。
 魔獣達を倒していると、気づくことがある。
「二足歩行タイプの魔獣だが、まるで人が身につけるような装備をしている奴が混ざっている」
「死体を見ると……ボロボロだが確かにポケット付のベルトや軽鎧の残骸のようなものを纏っているな。アト殿、これらから得られる物はあるか?」
 アトの推察に、レイリーが魔物から引きはがした装備類を集めもってくる。アトは魔女の日記を調べたように、持ち前の観察眼で装備の分析を行った。
「かなり古いものだね……なにか手がかりになるようなものは――これは、手記かな。読んでみよう」
 ベルトに備え付けられたサイドポケットから手記らしい手帳を見つけたアトは、中を開く。

『王子の居場所が見つかった。あの怪我で生き残るとは運の良い奴だ。
 だが生き延びた先が、悪魔の呪いに犯されたという魔女の住処とは好都合だ。
 共に亡き者にしてモクアの繁栄の礎となってもらおう』

「これは……討伐隊隊長のものなのかしら? ずいぶんときな臭いことが書かれているわね」
「読める部分はここくらいだけど、ここから推察するにクウェイン王子の殺害は計画の内ということだね。もしかしたら行き倒れていたのも、暗殺から逃げのびたんじゃないだろうか?」
「思いつけるストーリーは……後継者争いとか? 魔女はそれに巻き込まれる形になってしまったんだ」
 想像の域はでないが、得られた情報から推察できることは、権力争いに巻き込まれた二人の話だ。
 少しずつ、ピースが嵌まっていくのを感じる。後足りないのは――
 情報を精査しながら塔を登っていく一行は、そこで巨大な魔獣と出会うのだった。

●変わり果てた者
 中層を超えると、異常な事態に遭遇した。

『グオォォォォオ――ッ!!』

 猛る咆哮と共に大型の魔獣が、周囲の魔獣を薙ぎ払っている。
 まるで、この先には何人たりとも行かせはしないと言うように。
 その鋭く燃える瞳がすぐにイレギュラーズ達を捉えた。
「話を聞いてくれる――とは行かないかな」
「僕の魔術で足を止めるよ。その隙に少しずつ体力を削るんだ」
 ロゼットとカタラァナが口々に言って戦闘態勢をとる。するとアトが全員に言って聞かせた。
「出来る限り命を奪わないようにするんだ! 僕の勘が正しければ――」
「不殺だなんて無茶いうわね! 仕方ないやるしかないわね――!」
 距離をとりながら側面に回り込むイーリンが不条なる魔眼を持って、大型魔獣の防御性能を推し量る。
「見た目の割りにそんなに防御力はないわね! みんな、大火力で一気に削るわよ!」
 イーリンの声に合わせて、仲間達が一斉に展開する。
「シュタインの方、任せても大丈夫かい?」
 武器商人の確認に、レイリーが力強く頷いた。中層まで温存していたレイリーだ。ここは見せ場を請け負った。
「さぁ、悪魔よ。このレイリー=シュタインが相手だ!
 他に目は移させぬ、私だけを見ろ!」
 防御を集中し、大型魔獣の怒れる両腕をその身を盾に受け止め弾く。絶対に倒れないという強い意思が、とてつもない質量を誇る大型魔獣の一撃を受けても崩れない程に、レイリーの身体を踏みとどまらせる。
「火力は皆に任せた! 戦線維持はお任せ下さい!」
 ねねこの回復にも力が入る。ここが正念場と、自らの体力を犠牲にしながら、戦線維持に努めた。
「後衛には行かせない……!」
 大型魔獣が後衛へと狙いを定める前に、ミルヴィがマークし、流麗な剣舞を見舞う。痺れを齎す一撃に大型魔獣が苦しげに咆哮を上げた。
 大型魔獣との戦いは、想定以上に短期決戦の形となった。
 大型魔獣の攻撃は確かに強力なものだったが、磐石の構えの中、大型魔獣の体力を削りきることに成功した。
 最後はミルヴィが、黎明剣をもって不殺で倒した。
「まだ息はあるが……しばらくは動けないだろう。少し調べさせて貰うよ」
 そう言ってアトが大型魔獣の身体を調べると、一本の銀の短剣を見つけた。
「年代物なのは間違い無いが――」
「ああ、このマーク。王子と魔女の名前を調べるときによく見かけたよ。モクアの国章だ。それも簡易的なものじゃないところをみるに……」
 武器商人の言葉にアトが頷く。
 どうやら勘は当たっていたようだった。
「この大型魔獣……グレータービーストとでも呼ぼうか。この魔獣こそ、討伐隊に殺害されたクウェイン王子に違いないだろう」
「でも殺されたはずじゃ……」
「恐らく魔女の呪いが発動する時、まだ息が合ったのだろう。目の前で致命傷を負った王子を見て、魔女は殺されてしまったと思ったんじゃないかな」
「そうじゃなくても、魔女は討伐隊に狙われていた。逃げるように塔を登ったと考えてもおかしいところはない、か」
 イレギュラーズは大凡この塔で何があったのかを把握し、悲劇の渦中にあった二人を思い言葉を噤んだ。
 恐らく王子は王子としての記憶を失っているとしても、魔女ネフィスを守るのだと言う強い意思は残っていたのだろう。塔の頂きへと通じるこの道で、魔獣となった討伐隊から魔女を守っていたに違いない。
 それを魔女が知っていたかどうかは――この先に行ってみる必要があるだろう。
「行きましょう。魔女ネフィスに会いに」
 イーリンに促されて一行は塔頂きへの階段を上っていく。
 そこで待つであろう魔女との対面を期待して。

●銀月の下の真実
 階段を上りきると風が吹いた。
 閉鎖された空間から外に飛び出したときの開放感を覚えながら、空を見上げれば暗い夜空に輝きを放つ銀の月が、イレギュラーズを迎えていた。
 その銀月の下。
 塔の屋上の一番奥に、微動だにしない真白に染まった人影があった。
 影はただ銀月を見上げ、ぼそぼそと独り言を呟いていた。
『クウェイン……クウェイン……何処……何処なの……』
 その手には一つの頭蓋骨。失った誰かを慈しむように撫で上げる。
 異様な雰囲気を察するも、イーリンは意を決して話しかける。
「悪いわね、逢瀬を邪魔して――けど、寂しいでしょう。外にデート、してみない?」
 イーリンの言葉に魔女がようやく月から目を離し、イレギュラーズを視界に収めた。
「コンバンハ、愛しき魔女。古の夜が、迎えに来た。
 歪んでしまったキミの望みを正しいカタチへ。さァ、長い嘆きを終わらせよう」
 武器商人の言葉に、魔女ネフィスが、口元を震わせた。
「階下の獣は打ち倒させてもらった。
 で、悪いがその獣の持ち物も検めさせてもらったよ。
 ―――君すら知らない何かを携えてるんじゃないかなってね!」
 アトが言いながら銀の短剣を見せる。それを目にした時魔女の瞳を大きく見開かれた。
「どこで……それを……!」
「気づいて居なかったのかい? 一匹の大型魔獣、あれが、あれこそが君の探すクウェイン王子さ」
 アトの言葉に、魔女は首を横に振るう。手にした頭蓋骨を抱きしめ、泣くように言葉を零した。
「ああ……そんな……アレがクウェイン……? 骨だけが残っていたから……まさかと思ったけれど……嗚呼、そんな……」
 嘆く魔女にカタラァナが問いかける。
「ねえ、どうして? そう、ただ復讐するなら、彼をああすることはなかった。
 そうしてまで一緒に居たかった?」
 責めたりするわけではない、ただ知りたいのだとカタラァナは魔女に尋ねる。
「違う……違うの……私の呪いは、私の感情のブレで拡散してしまった……どうすることもできなかった……それにクウェインは死んでいて……まさか、生きていたなんて……」
 話を聞いていたミルヴィが尋ねる。
「呪いはもう平気なの? いつまでも呪い続けるなんて、自分の悲しいがいつまでも続いてしまうから……復讐しちゃダメ、忘れろなんて言わない……けれど王子様との優しい思い出も暗く濡れていつかわかんなくなっちゃうから」
 ミルヴィの言葉に、魔女は何度も頷く。
「わかってる……わかっているわ……けどね、安心して。私が呪詛を吐き続けても、もう二度と呪いは発動しなかった。
 散々研究して、解呪の仕方を探したのにあっけなかったわ……一度使えば消える、そんな呪いだったのだから……」
 その一回が、取り返しの付かない自体を招いたことを、魔女はよく理解していた。
「もう、何も残ってない……ただ、貴女の想いは天の銀月が見ていた。
 もっと私は貴女の話を思いを全て聞いて受け止め遺そう。
 そして、彼の下へ笑っていってほしい」
 レイリーの言葉に、魔女は薄く微笑んで、涙を零した。
「そうね……もう悔やみ続けることも意味ないものね……ようやく決心が付いた。銀の月の下へ、私は逝くわ」
 自決を決心した魔女を止められる者はいなかった。
 ただ、イレギュラーズの後ろから、一匹の大型魔獣が現れて、魔女に寄り添った。
「あなたがクウェインだったのね。ごめんなさい気づいてあげられなくて……。
 一緒に、逝きましょう」
 魔女の身体を維持していた魔力が拡散すると、呪いを維持していた魔力も同時に拡散する。
 朽ちていく魔女ネフィスと、崩れ落ちていく魔獣クウェイン。
 ミルヴィとカタラァナが二人を送る演奏を奏で、ロゼットは言葉を零す。
「恋、恋かあ、そういえば昔憧れたこともあったなあ、そういうお話」
「死が二人を分かつまで……なんて間違いだと思ってるのです。きっと本当は死すら二人を分かつ事は出来ないのです!」
 ねねこの言葉にレイリーが頷いて、イーリンに尋ねた。
「司書殿、君も……残した想いがあるのか?」
「前の世界には、たっぷり」
 淋しげに笑いかけたイーリンは空を見上げる。
 そこにはネフィスとクウェインの残滓を受けて輝く銀色の月が、変わらずに塔を見下ろしていた。

成否

成功

MVP

アト・サイン(p3p001394)
観光客

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPはアトさんに送ります。おめでとうございます。

 今回は大変遅れて申し訳ありませんでした。
 またのご依頼お待ちしています。ありがとうございました。

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