PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ローグ・ライク・カプリチオ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Ctrl+C
「なあおい、本当に大丈夫なのかよ」
「心配ねえって、ただちょっと触るだけなんだからよ」
 暗く湿った洞窟内部に、複数人の男の声が木霊する。掲げた松明に照らされる顔は、どう見てもカタギではない人間のそれだ。皆が皆一様に眼光鋭く、中には顔に傷を作った者も居る。腰に曲刀を佩いた者も居れば、その手にボウガンを持つ者も。ローグ。バンディット。彼らを示す呼称は数多く有れど、意味するのは共通して『無法者』――盗賊である。
 薄暗い洞窟は、後ろ暗い行いをする彼らに相応しい住処だと言える。実際、彼らは元居たねぐらを追われた身であり、新しいねぐらを探してこの洞窟に辿り着いた……までは良かった。
 問題は此処からである。人気の無い洞窟の奥、何故か土壁に設えられた扉を発見し、彼らは疑問を浮かべながらも扉を開けて中へと侵入した。そこに置かれていたのは、彼ら全員を収めても余りあるような巨大な箱――しかも、箱の側面にはハンドルまで付いている。
 明らかに自然物ではない、人工物だ。しかし、彼らはそのような箱の存在を見た事も、聞いた事も無かった。古代のマジックアイテムか、はたまた『練達』の発明品か。何故こんな所に置いてあるのか、誰がこんなものを用意したのか。分からない事だらけだが、しかし。
「……やっぱ、気になるよな」
「……そうだな」
 天井から垂れ下がった鍾乳石から雫が一つ、零れ落ち、地面で砕けて音を立てる。続いて誰かの唾を呑む音が響き、盗賊達の一人、無精髭の男が箱へと手を伸ばす。湿気で濡れた箱の表面に指が触れ、
「うわああああああ!?」
「ショーン!? おいショーン!!」
 何処からともなく伸びたアームにその身を掴まれ、箱の上部へと放り投げられた。禿頭の男が彼を助けるべく箱の表面を駆けあがるが、無精髭の男の体は既に、箱の上に空いたスリットに半ば飲み込まれていた。
「くそッ……!!」
 禿頭の男は今まさに飲み込まれんとしているその足を掴み、全力で引き上げようとする。しかし、飲み込む力は強く、逆に、自身の体まで引き摺られてしまう。手伝うぜ、と頬傷の男が彼の腰を支えるが、奮闘虚しく、三人纏めて箱の中に飲み込まれてしまった。箱が大きく揺れ、中で何かのひっくり返るような異音が響く。
 やがて、ちーん、という気の抜けるような音と共に、箱の全面がぱかりと開いた。乱雑に放り投げられる男達に、残りの盗賊達が慌てて駆け寄り、そして絶句した。皆が皆一様に顔面を蒼白にし、歯の根が合わぬ口をがちがちと鳴らす。
「くそ……なんだってんだ一体……」と無精髭の男が体を起こし、
「いてて……おい無事か、ショーン」と禿頭の男が痛みに呻く。
「ショーンはもっと危険意識ってのを持てよ……」と頬傷の男が愚痴を漏らし、
「へいへい悪ぅござんした!」と、無精髭の男が無精髭の男に対して唾を飛ばす。
「……今何かおかしくなかったか?」と禿頭の男同士が視線と疑問を交換し、
「……」頬傷の男が互いの顔を見て絶句する。
 つまり、

「「「うわあああああああああ増えてるうううううううううう!?」」」

 都合六人分の絶叫が洞窟内に木霊する。悪夢のような光景だった。が、悪夢はまだ終わらない。
「お、おい、後ろ……」
 盗賊の一人が箱を指差し、六人が恐る恐る振り返ると、そこには、
「畜生痛ぇな……!」
「ショーン、お前って奴はいつも……!」
「いてて、そこまでにしとけよグスタフ、ショーンには何言っても無駄……だ……?」
 新しく箱から出て来た三人が、青褪めた顔の六人を見て表情を凍らせていた。
 ちーん、と間の抜けた音が響く。新しく三人が追加される。同じく信じられないような表情をしていた。ちーん。また増える。盗賊達の恐怖がピークに達する。ちーん。増える。錯乱した盗賊の一人が武器を向け、別の一人に取り押さえられる。ちーん。増える。増える。増える。増える……

 ちーん。

「も、もう嫌だああああああああああ!?」
 その場に居た全員が絶叫し、出口へ向けて駆け出した。未だに盗賊を増産し続ける、謎の箱を残して……


●ローレット・一日目。
「盗賊が出たのです。どなたか討伐をお願い出来ませんか?」

●ローレット・三日目
「今日も今日とて盗賊退治の依頼なのです。皆さん、よろしくお願いするのです!」

●ローレット・七日目
「……え……今日も……なのですか……?」

●ローレット・XX日目
「ああああああああああああああああああああ!!」
 届けられた盗賊出現の報に、ユリーカがとうとう絶叫した。最初の報せから何日経ったのか、既に覚えていられないような日の事である。
「幾らなんでも! 多すぎ! なのです!!」
 毎日毎日昼夜問わず同じ内容の依頼を放り投げなければならないボクの身を案じてください! と、ユリーカは涙ながらに訴えた。
「確かに! ここ最近は! 組織だった動きも目立ってましたし! 数も増加傾向にありましたけど!! 幾ら何でも!! これは無い!! のです!!」
 ばんばんと机さえ叩き、絶叫する。昼夜問わず連日連夜同じ報せを受け続け、そして同じ依頼を出し続けて来たのである。こうして精神に変調をきたしてしまうのも、無理からぬ話だろう。頬を机に擦り付け、滂沱と書類を濡らし続けるユリーカが、そのままの姿勢でイレギュラーズに一枚の紙片を差し向ける。
「今までの情報から、恐らくねぐらと思しき場所は掴めたのです……皆さん……どうか……どうか原因を究明して……この騒動に終止符を……お願いするのです……」
 ボクの精神の安寧の為に。そう告げるユリーカが、それ以上何かを言う事は無かった。

GMコメント

 死んでません。どうもこんにちは、へびいちごです。
 今回はギャグシナリオです。ぽこぽこ増え続ける盗賊達を叩き、洞窟の最奥で今も元気に新しいショーンとグスタフとデイビットを増やし続ける謎の箱を破壊するのが目的です。
 判明している情報は以下の通り。

・無精髭の盗賊:曲刀を装備しています。錯乱状態にあり、攻撃するとワンパンで沈みます。
・禿頭の盗賊:ボウガンを装備しています。無精髭の盗賊を取り押さえようとしていますが、他の盗賊に危害を及ぼそうとすると攻撃してきます。
・頬傷の盗賊:無数のナイフを装備しています。何かを諦めたような顔で事態が収まるのを待っています。PC達に対して攻撃行動をとりますが、あまりやる気は無いです。
・これら三人の盗賊が箱を破壊するまで無限に湧き出てきます。
・箱に防衛機能は有りません。あってもアームくらいのものです。油断しなければ特に何かされるような事も無いでしょう。

 以上となります。繰り返しますがギャグシナリオになりますので、シリアスなプレイングを送ってもギャグに転びます。寧ろキャラ崩壊の危険性も有ります。ギャグ時空なので。悪ノリする気分で自由に投げてください。ネタは率先して拾いに行きます。
 一日目~の盗賊討伐依頼については、参加していた事にしていただいてもOKです。八つ当たり気味に盗賊を蹴散らしても良し。一騎当千の活躍も期待できます。恐らく。

 では。皆様の楽しいプレイングをお待ちしております。

  • ローグ・ライク・カプリチオ完了
  • GM名へびいちご(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月23日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
ガルズ(p3p000218)
ベイグラント
メテオラ・ビバーチェ・ルナライト(p3p000779)
鉄華繚乱の風切り刃
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
七鳥・天十里(p3p001668)
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
フユカ(p3p004485)
さよならマイハート(未遂)
エナ・イル(p3p004585)
自称 可愛い小鳥

リプレイ

●諸注意
 『ローグ・ライク・カプリチオ』のリプレイを見る際は、部屋と気分を明るくして現実から離れてご覧下さい。


●陽動班・女達と林檎のジャムセッション
 ユリーカから指示された洞窟はなだらかな丘陵の先に有る。葉を落とした木々はまばらで、視界を塞ぐ程立っている訳では無い。では、視界に映るものは何か、と言えば、
「うわ……」
 誰ともなく嫌悪に呻きを漏らす程の、人、人、人――その全てが大別して同じ、決して見目麗しくはない顔の群れである。それはもううじゃうじゃと、視界を埋める程有るのだから溜まらない。どうしてこんな事になるまで放っておいたんだ! と言いたくもなるだろうが、しかし依頼としては毎日駆除に来ていたのだ。誰も責められはしないだろう。恐らく。
 『人間時々夢魔』雨宮 利香(p3p001254)も同じ依頼に参加し続けていた一人だ。この丘に至るまでは鼻息荒く、「なんか変だと思ったんですよね?最初のなーん回か行ったんだけど、全然魔石が反応しなくてー…魂の無い人間なんておかしいと思いませんか?これ絶対なんかありますよ!」などと言っていたのだが。
「え……何この……何……」
 今やこの有様である――それはもう、鮮魚売り場の魚にさえ『君死んだ魚みたいな目をしてるね?』と言われるような、現実を直視出来ない人間の顔を曝していた。合掌。
「同じ顔ばっかりは流石にうんざりしちゃうわよねぇ……」
 隣の利香程では無いが、『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)も言葉と共に腹の底から溜息を吐いた。うんざりしているのは好みの顔つきで無かった、と言うのも有るのかもしれない。「きっと彼らもそうなんじゃない?」とも言うが、それにそういう問題ではないのではないか、と言うツッコミを入れる人間は居なかった。入れられそうな人間は絶賛放心中である。
「も゛う゛(濁声)何なんですか!? 可愛いボクもそろそろ限界が近いんですが!?」
 憤りに声を荒げる『(自称)可愛い小鳥』エナ・イル(p3p004585)にツッコミを求めるのも酷だろう。彼女もまた、この依頼に精神を病まされた人間の一人であ――
「誰ですか楽勝な依頼だとか言ったの! ボクでした。ええ、ボクですよ!」
 ――駄目だこれボケしか出来ない類の人間だ――
「いくらなんでも盗賊にしちゃぁ、数と質がおかしすぎる。気を付けろ、新手のモンスターかもしれないぞ」
 『初めの一歩を踏み出した』ガルズ(p3p000218)が至極真面目に注意を促す。話を聞いているかは怪しいが、そうせざるを得ない。何せ彼ら陽動班の成否が、部隊を分けた工作班の命運を握る……かもしれないのだ。ガルズは先だって捕縛しておいた盗賊の首根っこを引っ張り上げると、「おい」と鋭く声を放った。剣呑な視線に晒され、指に手を掛けられた盗賊は顔を青褪めさせると、本格的な尋問を行う前にぺらぺらと自白し始める。

「実は……このシナリオに出現する盗賊エネミーは三体しかいない……!」
 そして彼の口から語られる衝撃の事実……!

「は?」
「クラード型のエネミーデータだ……HP1点を盗賊1体と換算し……あたかも集団に囲まれているように演出する……TRPGでは良く有る手法だ……!」
 だからワンパンで沈むし無双も出来る。
「増殖するのは単にボスがエリア回復を行っているに過ぎない……演出……あくまで演出の問題だ……後基本的にこのGMのエネミー、低耐久高火力の傾向が強いから注意するんアバーッ!?」
 言葉の途中でガルズが指を折った。盗賊は絶命した。
「崩れないバベルが崩れる事ってあるんだな……」
 有りません。
 ともあれ。
「陽動作戦なら私の得意分野です! この際もう異常は気にしない方針で!」
 現実から目を逸らしきった利香がくるりと宙返りをする。
 突如現れる七色の背景!
 良く分からない原理で発光する体!
 以下省略!
 ふつうのおんなのこである雨宮利香は彼女の持つギフトにより、ボンキュッボンのなんかすごいえっちな淫魔になる事が出来るのだ――!!(演出は次回以降省略される事が有ります)
「よし、これで多少はマシに……ぅおぇっ」
 えづいた。直視してはならない物を直視したが為に、精神に再び多大な負荷がかかったのだろう。屈みこんで小刻みに震える利香の背中を、何とも言えない顔でガルズが叩いていた。
 なんだなんだどしたどした、と盗賊達が集まってくる。これだけ騒いで見つからない方がおかしいのだが、元より注目を集めるのが目的だ、いっそ好都合と言えるだろう。するりとパーティと盗賊達の間に身を滑り込ませると、胡蝶は身体を見せつけるようにしながら、艶然と微笑んでみせる。
「ねぇ、お兄さん達。私とイイことして遊びましょう?」
 その言葉に、俄かに盗賊達が色めき立つ。女旱りの盗賊達だ、その効果は絶大だっただろう。何処からか生唾を呑む音が聞こえ、盗賊達が胡蝶の下に殺到する。かくも悲しき男のサガよ、見る間に釣られた男達で人垣が形成されていく。
「はぁい、そんなに焦らずに。女だったらこっちにも居るわよ?」
 どうにか立ち直った利香が、集まり切れなかった男達を誘惑する。しなを作り、零れ落ちそうな胸を強調し、甘えたような猫撫で声で男を誘う姿は、先程えづいていた人間とは似ても似つかない……但し、未だかつてない程に死んだ目を除けばだが。
「何ですかこの敗北感……!」
 性的魅力を存分に発揮する女性二人の姿を見て、エナが大地に膝を突く。おっぱいか、おっぱいがいけないのか――
 否。負けてなどいない筈だ。エナは拳を握り締めると、大地を踏みしめて立ち上がった。エナちゃん可愛い! その言葉を頼りにして!
「これで! どう! ですか!!」
 感嘆符毎にポーズをばっちり変え可愛らしさを猛アピール!
「……」
「……」
「……」
 しかし盗賊達には効果が無かった!
「どうしてこんな酷い事するんですか?」
 おおっとここで上目遣い! エナ選手必殺のカードを容赦なく切ってきた!
「おっぱいないし……」
「なあ……」
「流石に娘と同じくらいの子はちょっと」
「イヤーッ!!」
「「「グワーッ!!!」」」
 ぐるりとエナの頭上で旋回したハルバードが、三人纏めて首と胴を切り離した。響き渡る絶叫。吹き上がる血飛沫。虚しさを噛みしめ世を儚むような憂い顔のエナちゃん可愛い! と自画自賛する隣でガルズが顔を伏せて涙を隠していた。もっと早く止めてやらなくて済まない、と……。
 攻撃された事に気付いた盗賊の一部がようやく事態を把握し、めいめい武器を構え始める。胡蝶と利香に集っていた者達も同じく。無精髭の盗賊たちだけは彼女たちの豊かな胸に伸ばした手を「踊り子には手を触れないでくださーい」と捻り上げられていたが。あまつさえ胡蝶に手を伸ばした盗賊は寝技で盛大に締め上げられていた。悲鳴が響く。
「お前、モンスターだろ? なぁ、モンスターだろ。モンスターだろう?」
 ガルズが吠えながら、盗賊達に盾を叩き付ける。
 エナと共に、獅子奮迅と派手に暴れ回る彼だが、皆様お気づきだろうか。彼が先程からちらちらと視界の隅に映っていた事に。
「モンスターだな! さぁ、そのボウガンとかナイフとかその他もろもろの素材、置いていきな!」

 彼が章題では盛大にハブられている事に――!

「おいてめぇら! 俺のギフトを言ってみろ!」
 断じて彼に「え? 居たの?」等と言ってはいけない。ちゃんと居ます。ネタがブレブレなのは無理に存在感をアピールしようとしているからなのでは? と言ってもいけない。他意はない。他意はないのだ――
 本格的な戦闘の火蓋が落とされ、響き渡る同一人物達の悲鳴の多重奏に、露店のたい焼きにさえ「君死んだ目をしてるね?」と言われそうな目の利香がぽつりと呟いた。
「これ帰ってもいいかしら……?」



●工作班・Ctrl+Pパレードは止まらない

「ぃやっほう! 七面鳥撃ちの時間だ!」
「スタイリッシュに、ぶちかますぜ!!!!」
 世紀末のモヒカンもかくやあらん。盲撃ちの銃撃が余す事無く盗賊達の体に吸い込まれては命を散らし、唸る大剣が盗賊達を案山子の如く薙ぎ倒す。返す刃を逆袈裟に跳ね上げ、木端のように盗賊の体をかち上げて、『紅薔薇の剣賊』メテオラ・ビバーチェ・ルナライト(p3p000779)が未だ同じ顔の湧き続ける洞窟の奥を見て溜息を吐いた。
「同じ手口の盗賊が多いと思ったけどよ……まさかこんなスライムみてえな増え方してると思わねえだろ」
「確かに単細胞生物みたいだね……単細胞おじさん?」
「それはまたちょっと意味が違うんじゃねえのか」
 攻め手を考えれば単細胞はこっちだね、と悪びれた様子もなく七鳥・天十里(p3p001668)がからころと笑う。

 陽動班が気を引いている間に洞窟内に潜入出来たは良いものの、何せ増殖の原因が最奥に有る状況である。隠形も試行回数を重ねればいずれはバレてしまうもの。早々に被発見状態となった工作班は強行突入へと舵を切り、汲めど尽きぬと言わんばかりに増える盗賊達を蹴散らしつつ洞窟を進んでいたのだが。キリが無い。
「先日ぶりです、盗賊様。ああしかし初めましてになるのですよね、ベラと申します」
 『風花之雫』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)が、背後に迫っていた盗賊に気付き、向き直って頭を下げた。外見から御し易し、と判断し人質に取ろう、とでも思ったのだろうか。しかしベラの思わぬ反応に「お、おう……」と戸惑いがちに返事をするに留まっていた。ずらりと並んだ三×無数の同じ顔に、ベラの顔に疑問が浮かんだ。
「そういえば」
 何気なく。
「何方が本物なのですか?」
 ざわり、と盗賊達がどよめいた。続々と増え続ける彼らには誰が本物かを見極める術は無いのだ。尤も、ここまで精緻にコピーされたものの真贋を見抜ける者などそう居はしまいが。あーでもないこーでもない、と飛び交う言葉。やがて全員、何かを悟ったような顔になる。傍で洞窟の奥へと砲撃を行っていた、『自称強者』フユカ(p3p004485)は嫌な予感がした。
「本物も偽物も無いのさ……」
「そう……俺達は誰もが皆……」
「元々特別なオンリー「おわああああああああああ!?」
 力任せに放り投げられた大砲が盗賊の頬骨を砕き、永遠に二の句を継げなくした。
「ビーンボール!!」
 どっちが。
 弾けんばかりに心臓を跳ねさせたフユカが膝から崩れ落ちる。こうなる事は分かっていた、だがせざるを得なかったのだ。その理由は分からずとも。
「くそっ、何だってこんな俺の体はひ弱なんだ……ッ!」
 吐き捨てる悪態に、優しげな微笑を浮かべたベラがそっとフユカの手に自身の手を重ね合わせた。視線を合わせる様、重ねた手を持ち上げると、
「余り自分を責めずに……貴女は貴女と言うだけで価値があるのですから」
「ベラ……」
「そう、ナンバーワンにならなくて「やめろォ!!!」
 喀血した。
(フユカ……聞こえるかフユカ……)
「誰だ何の前触れも無く俺に話しかけるのは!」
(俺はお前の心臓だ……良いか……よく聞け……)
 間。
(このままだと俺は破裂する……!)
「知らいでかァ!!!!」
 それは魂の叫びだった。
「……ってうわっ! メテオラ君、後ろ後ろっ! 挟まれてる、このままじゃ不味いよ!」
「ん? げっ、マジか! クソ、一気に駆け抜けんぞ!!」
 前方で盗賊達を相手に大暴れしていた二人が後方の様子に気付く。自然とメテオラが前方、天十里が後方へ。犠牲を顧みぬ大剣の一撃が文字通りに前方の道を斬り開き、足を目掛けてばら撒かれた銃弾が後方の盗賊達の足を止める。生じた隙を逃さぬよう、天十里はフユカとベラを抱えると「重い!」悪態を吐きながらも全速力で離脱した。
「メテオラ君! 片方! 持って!」
「悪いなこっちも手一杯だ!」
「男の子でしょーう!」
「そっちもだろうがっ!!」
 喧々諤々。天十里が二人を抱えて走るのに無理があるのは勿論だが、かといって大剣を振るうメテオラに余裕が有るかと言えば勿論否だ。次から次へと現れる盗賊達を斬り払い、叩き潰し、時には蹴り飛ばして道を開く。攻撃の対象を最小限に絞っているとは言え、どう考えても手が足りない。かといって抱えた二人を下ろすのは、
「……」
「ではでは盗賊様方、御機嫌よう」
「有り得ない選択なんだよねーこれが!」
 かたやぐったりとし、かたや呑気に手を振っている有様では叶いそうもない。
「泣き言言うくらいなら足動かせ足!」
「泣いては無いけど泣き言か! 足はしっかり動いてる!」
「結構!」
 洞窟を駆けるイレギュラーズの視界に観音開きのドアが映る。その他に道は無い。ままよ、とばかりに飛び込んだ。後ろ手でドアを閉め追撃を防ぐ。ドアの頑丈さと盗賊の武装から鑑みれば、このドアが破られる事は無いだろう。荒く息を吐き、呼吸を整える彼らの耳に、ちーん、と気の抜けるような音が届く。音のする方に目を向ければ、目の前に聳える箱から新しい盗賊が飛び出して来ていた。
「これが原因、って訳か……」
「あれ、俺の大砲は?」
「……あらまぁ……」
「改めて見るとホント、気持ち悪いね」
「ねえ俺の大砲は?」
 兎に角壊す方法を考えよう、と天十里が増えた盗賊に向けて発砲する。容易く絶命する盗賊を見て、メテオラも「そうだな」と同意した。
「皆様、あの腕が危険そうです」
 押すなよ。
「決して掴まれないように」
 絶対だぞ。
「注意して行動しましょう」
 絶対押すんじゃないぞ――
「いや流石にあんな見え透いたのに捕まうわあ捕まってる――!?」
「ホントに捕まる人いるんだ……」
 軽くアームに捕まれるベラにフユカがまたしても卒倒しかける。天十里がアームを狙って発砲、破壊に成功するが、遅い。ベラの体は既に箱の中に吸い込まれていた。
 ちーん。
「あら……」
「まあ……」
 当然増えた。
「どうするのコレ収集付きそうにないんだけど!」
「いやまあ小突けば偽物は死ぬんじゃねえの?」
「それで本物死んだらどうすんだよ!」
 そうこうしている間にベラは増える。増え続ける。幸いにして盗賊が増える事は無かったし、ベラの他にムとかロとかが増える様子も無かった。
「これはこれで」
「良くねえだろ!」
 呑気に構えるメテオラに激しく突っ込むフユカ。ベラは自分同士でパントマイムごっこを始めていた。
(フユカ……聞こえるかフユカ……)
「はっ、この声は俺の心臓……!」
(俺はもう駄目だ……)
「待て! お前が居なくなったら俺はどうやって生きてけばいいんだ!」
(心配するな……お前なら大丈夫さ……)
「待て……待ってくれ……」
(お前、良い女だったぜ……)
「俺……俺も……お前のお陰で大切な事に気付いたよ……」
 心象風景の中で、一人涙を零す。

「やっぱ人間、心臓止まっちゃ生きてけないよな……」
 そらそうだ。

「ああ! フユカちゃんが安らかな死相を!!」
「ほっとけ多分大丈夫だ」
「分かったそうする!」
 徐々にカオス度が増して行く空間で、メテオラが深く溜息を吐いた。
「やっぱ、壊すしかねえよな……勿体ねえけど」
 大リーガーの様に大剣を構えると、ぐるりと腕を回して見せる。どれ程の強度があるかは知らないが、やってやれない事は無いだろう。天十里も新しい弾倉を叩き込むと、スライドを引いて銃を構え直した。
「さーて」
「いっちょ派手に」
「「ブッ壊すとしようか!!」」


●夕日と狂騒のカンタータ
「……で、無事に破壊できたのは良いとして」
 日も落ちかけ、茜色に染まるメフ・メフィートの街角。依頼を終えたイレギュラーズの面々は報告の為、ローレットに向けて歩を進めていた。先頭を行くメテオラの手には破壊された箱の破片がある。これだけでどうこう、という物では無いが、報告の為の物証としては十分だろう。
「増えるなら……次はもっとこう可愛い……見て苦にならないのが良いですね……」
 気疲れした様子で利香が呟き、「そうねえ」と胡蝶が同意する。とは言えやはり、幾ら見目が良くても同じ顔の人間を相手にし続けるのは辛いものがあるのだが。
「全くです! どうせならボクを増やしてくれれば良かったのに!」
 と、エナが(薄い)胸を張って宣言するがスルーされた。慈悲である。
「ま、報告終わったらぱーっとやろうぜ。そうすりゃ気も晴れるだろ」
「だな。よーし、今夜は焼肉だぞ!」
 無事復帰したフユカが暗い顔の二人の背中をばしばしと叩くと、ガルズもそれに同意して大いに笑う。和やかに歩く面々だったが、ふとベラが視界の隅にあるモノを捉えた。すれ違うようにして向かいから歩いてくる、その三人の顔は、
「全く……ショーンのせいで偉い目に合った……」
「んだよまーた俺のせいかよ」
「またもまただよ馬鹿ショーン、いい加減反省ってモンを覚えやがれ」
「まあいいじゃねえかグスタフ、お陰でどさくさ紛れに足抜け出来たんだしよ……ん?」
 非常に見覚えのあるもので。
「おっかしーなー、全部潰したと思ったんだけど、まだ居たかー」
 ベラの視線の先に気付いた天十里が、にこやかに――けれど無慈悲にスライドを引いて薬室に弾丸を送り込む。他のイレギュラーズもめいめい武器を構え始めていた。笑顔とは裏腹に膨れ上がる殺気に、事情を察したのか盗賊達の顔が青褪める。
「「「ひ、ひぃいぃぃぃ!? お助けえええええええ!!」」」
 狂騒はまだしばらく、収まりそうも無かった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 毎度有難う御座います。へびいちごです。1週間程風邪で寝込みました。
 と言う訳でローグ・ライク・カプリチオ、お届けさせて頂きましたが、いかがだったでしょうか。3本目にして初のギャグシナリオでしたが、思えば前二本とも何かしらのギャグが捻じ込まれていたのでそう代わり映えの無い感じに仕上がっているかもしれません。
 今回執筆して感じた事と言えば、やはりツッコミの重要性でしょうか。フリ・ボケ・ツッコミの三拍子が成り立たないとギャグにならないと散々言われてきたへびいちごですが、未だにフリが弱かったりツッコミが出来てなかったりで上手くいかないな、と思う事も多々あります。精進したいものですね。目指せなんば。
 改めて、ご参加ありがとうございました。今回称号をいくらか配布させて頂いているので(主に扱いが酷かった人向け)、確認して頂ければ幸いです。
 では。また機会がありましたら、遊んでいただけると幸いです。

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