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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>大事の最中の小事

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ――知った事ではない、と言うのが正直な感想ではあった。
 より多くに臨み、観測し、記したかっただけだ。その為に何物が消費されようが、何某かが喪われようが関係なかった。
 知らず、この身は魔種となっていた。それもまた些事と切り捨て、私は尚も我欲に溺れるままに生き続けてきた。
 余計な『呼び声』は幾らか神経をささくれ立たせたが、反面食事や睡眠と言った些末事から解放されたことは得難い幸運だったと言えるだろう。
 その後も生活は変わらなかった。知るべきを知り、記すべきを記す。何を変えるでもなく、こうした日々に満悦していた私は、しかし。

「……は?」

 それが、終わりを迎えることを、唐突に知らされた。


「……終焉(Case-D)は、訪れつつある」
 喧騒は、最早留まるところを知らなかった。
 至る所で聞こえるのは、種々様々な伝達の声音や助けを求める悲鳴。或いは世界崩壊に対する怒号など。
 その中に在りて、彼らは。特異運命座標らは、いっそ静かな面持ちで眼前の情報屋を見遣る。
「Bad end8の攻勢に加え、『影の領域』と接続したワーム・ホールからの魔種たちによる侵攻。各国はこれに全力を注いでいるが、逆を言えば守勢、迎撃以上の対応を取れていないのが現状だ」
「必然、動けるのは俺達『ローレット』だけ、ということか?」
 然り。そう頷いた情報屋の少女は、これまでに告げた現状から、今後の展望へと会話をシフトさせていく。
「ともあれ、出来ることはそう多くない。正確には出来るだけの猶予が無い、と言う意味だ。
 敵方はこの終焉の好機に対し、後先を考えぬ全戦力の投入を以て『滅びのアーク』の力を限界まで高めようとしている。突如として起こった魔種たちの一斉攻撃に若し此方が屈すれば、その後の未来は閉ざされてしまう」
「なら、どうする?」
「首魁を叩く。彼奴等が繋いだワーム・ホールをそのまま利用してな」
 ……『乾坤一擲』と。誰かがその言葉を想起した。
「現在、『ローレット』は投入できる限りの戦力を用いて影の領域への一点攻勢を図っている。その中のメンバーには貴様らも含まれているかもな。
 だが、それが開始されるまでのこの短い猶予時間を使って、貴様らには一つ対処してほしい任務がある」
「……人使いが荒いな」
「その分報酬も良いだろう? 魔種と言う脅威が世界から取り除かれるんだ」
 苦笑を返す特異運命座標らに笑みも返さず、情報屋は彼らに資料を展開する。
「場所は幻想首都、メフ=メティートだ。
 現在、この場所の一角では逃げ遅れた避難民たちがいくつかのグループに分かれて家屋等に立てこもっている状態なのだが……これに現在進行形で介入している魔種が存在する」
「『している』、か」
「ああ。彼奴は自身の能力を介して、立てこもっている一般人たちに自分が作り出した『偽物』を潜り込ませ、あたかもその一員のように振舞わせているらしい」
 例えば、ある家族の母親に扮して夫の庇護を受けていたり。
 例えば、小さな幼子に扮して寄せ集めの一団に引き取られていたり。
 様々な一般人の姿を取っては、避難民たちの中に潜り込んでいるそれらに戦闘能力は無い、が。
「当然、それらを連れて他の避難民たちと合流させたりは……無理だろうな」
「必然、引き離すか、その場で『処分』するかが必要となる。
 だが前者を選ぼうにも上手く拒絶されるだろうし、後者を選ぼうものなら……」
 ――最悪、『仲間』を失った避難民たちは絶望を覚え、『原罪の呼び声』に誘われる可能性だってある。
「どうすれば?」
「……非戦スキルやギフト、アイテム等で他の一般人を黙らせるか、意識を奪う方法も在るだろう。
 方法は其方に任せる。肝要なのは時間を掛けないことだ。『偽物』を生み出す魔種は、時間経過とともに避難民たちへ『呼び声』を届かせる深度を強めているという報告もある」
 魔種と、それが生み出した眷属についての詳細資料を与えられる特異運命座標らは、最後の最後に与えられる厄介ごとに顔をしかめた。
「……最終決戦の片手間にこなす依頼としては、難易度が高くないか?」
「どんな依頼でも変わらんさ」
 情報屋は。その時初めて、少しばかりの笑みを浮かべる。
「地獄を見てこい、イレギュラーズ。
『たかだか世界崩壊の危機』、更にはその序でだ。貴様らならばこなせるだろう?」
 諦念を、或いは信頼を込めたようなそれは、存外に可愛らしかった。


「何故だ」
 悲嘆を覗き、絶望を識り、慟哭を覚え、憤怒に学ぶ。
 私がしてきたのは、唯それだけだ。誰を害するでもなく、ただ人々の哀惜を眺め続けていただけだ。
 だのに、何故。
「何故、私が。
『魔種などと言う存在と一緒に』滅びねばならない?」
 無論、知っている。この身は既に魔種のそれだということは。
 だが、この身が斯様な行いをしたことは一度として無い。誰かを『呼び声』で堕としたことも、若しくは誰かを害したことも。「魔種らしいこと」は、ただの一度もしてこなかったというのに。
「………………ならば」
 ただ、成ってしまっただけの存在。
 それをこの世に住まう者たちが悪と断じ、諸共に滅ぼそうと。そう言うのなら。
「嗚呼、ならば。
 せめて私は、この末期により多くを観測させてもらう。私自身が望むものを、私自身の介入で以て」
 認めよう。
 この願いはこれまでのもの行いと違い、この身から生ずる知的好奇心に身を委ねたが故ではない。
 ただ、気に食わなかった。只の傍観者であった私を滅ぼすことすら何の躊躇もしない、彼奴等特異運命座標共に。
 なればこそ、この鬱憤を貴様らで晴らさせて貰う。私が望むものを観測するために、貴様らにも手を貸してもらうとしよう。
「……せめて、滅びの間際に味わうがいい」
 笑う。
 ただ、人を見るだけであった双眸が、言葉など碌に発さなかった口の端が、その時初めて、笑みの形へと歪められたのだ。
「人の世で臨む、人の地獄を」
 ――或いは、それを崩壊の角笛へと変えて。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『ストーリーテラー』『ガストドッペル』の討伐

●戦場
 幻想、首都メフ=メティート。基本的に住人たちの撤退が既に為された場所ですが、本シナリオでは逃げ遅れた人々と下記『ガストドッペル』達が混在した状態で都内に陣取っている状態。
 今現在も戦場内では魔種やその眷属たちが活動し続けている状態にあり、一般人が長くこの場に居ると何らかの悪影響が生じるものと想定されるため、早期の脱出が求められています。
 戦場としての解説ですが、特定の建物に全員が居ると言ったわけではなく、一定の地域に於けるそれぞれの家屋内で家族同士や友人同士等のグループ単位に分かれて立てこもっている状況です。
 一部の家屋にはバリケードも存在していますが、特異運命座標の皆さんであれば然したる障害にはならないでしょう。
 そして討伐目標である『ストーリーテラー』ですが、シナリオ開始時の居場所は不明。『ガストドッペル』を生成し続けています。
 
●敵
『ストーリーテラー』
 特異運命座標達の大規模召喚の頃から存在していたにも拘らず、「多くの人々の悲嘆を最も安全な地点で観測し続けたい」と言う己の欲望を叶えるため、これまで行動らしい行動を取らなかった魔種です。見た目は二十代後半の無個性な男性。
 ステータスは魔種と言うカテゴリに対して高くない反面、幾つかの厄介なスキルを有しております。以下詳細。

・「生成:ガストドッペル」
 主行動消費。1ターンに一定数、下記『ガストドッペル』を生成し、その直後戦場内の自由な場所に転移させます。

・「ストーリーテリング」
 常時発動。戦場内に存在する「『ガストドッペル』の数×1%(最大値100%)」分だけ最終ダメージを減算し、また同値分だけ状態異常も別判定でレジストします。

・「絶望階梯」
 常時発動。戦闘能力が著しく下がる反面、シナリオ中特異運命座標の存在全てに対し『原罪の呼び声』を常時展開し続けます。余りにも長時間が経過するか、然るべき切っ掛けが起こった場合、対象は魔種となる可能性が大きく上昇します。

『ガストドッペル』
 上記『ストーリーテラー』が生み出した存在です。自身が一定期間内に視認した対象とそっくりの姿を持つ分身を生み出します。
 戦闘能力は皆無ですが、反面所作や幾許かの記憶なども模倣しており、シナリオ中に於いては戦場内にて立てこもっている一般人グループごとに一人~二人程度がすり替わっているパターンが多いでしょう。(因みに、PCの皆様方はこれを判定無しで看破することが可能です)
 討伐は容易である反面、仮に周囲の一般人に何の説明も無く討伐を行った場合、それを家族や友人等の身内本人だと思っている一般人は大きな精神的ダメージを受けます。上述した「絶望階梯」により魔種となる確率も非常に高いでしょう。

●その他
『一般人』
 戦場である王都内の建物に立てこもっている一般人です。大抵がそれぞれの建物にグループ単位で存在しており、上記『ガストドッペル』はこれらグループ内に一人から二人程度いると予想されています。
 避難を呼びかけた場合彼らはそれに応じ、また戦場からの脱出をサポートする別働体も存在しております。ただし当然ながら『ガストドッペル』を同行させることはできません。
 避難から『ガストドッペル』を外すか『ガストドッペル』を討伐する際、非戦スキルやギフトのみならず、然るべきプレイングが伴っていないと判断された場合、彼らは高確率で「絶望階梯」による『原罪の呼び声』を受け魔種となるでしょう。
 因みに、本依頼に於いて彼らの生存は成功条件には含まれておりません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • <終焉のクロニクル>大事の最中の小事完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 蓋し、人の価値など往々にして重くも軽くも捉えられる。
 その重量の違いは、即ちその人との距離に比例していると言えるだろう。即ち自身に近しい人ほどその価値は重く、そうでない人ほど価値は軽い。
 逆説、そうでない者が――自身との距離に関わらず、全ての存在を等しく重く(或いは軽く)捉えるような存在が――いるとすれば、それは最早人としての在り方を逸脱している。
「……長期戦を覚悟していたのだけど」
『そのような存在』が、目の前に居た。
 幻想の首都の一角にて。到着と共に他の仲間達との役割分担を済ませ、戦場であるこの地の各所を回ろうとしていた『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)の眼前に、討伐対象である魔種は「ふむ」と何気ない調子で彼女を見遣る。
「それは、私を倒すことが? それとも私を見つけることが?」
「後者よ。戦えないのでしょう? あなた」
「然り。魔種にしては、だが」
 ……ゆるり、緩慢な動作で携行品を中空に打ち込むメリーノ。
 それは、今彼女の眼前に居る存在……通称ストーリーテラーを見つけるため、各所に散開していた仲間を招集する合図。
「残念ね、お前はもうおしまい」
「知っているとも」魔種は、すぐさま応答してにいと笑う。「だから、お前達にもそれを味わわせてやった」
 少なくとも、眼前の魔種がメリーノに敵対するような行動を取ることは無かった。さりとてメリーノの側はそれに乗る心算は無かった。
 ソリッド・シナジー、SSSガジェット3.0b、完全逸脱。三種の付与を絡めた彼女が、その華奢な身体から放つ音速の一撃を、けれど魔種は何の対処もせず受け止め――無傷。
 メリーノは舌を打った。「ネーヴェは僅かに下唇を噛み」、「ルーキスは静かに眦を険しくする」。
 合図を放ってから幾許もしないうち、彼女の傍には既に二人の仲間が到着していた。『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)と『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、未だ変わらず聞こえる悲鳴や微かに覗く惨劇を望み、手にしている手記へ何事かを書き込んでいる。
「……厄介な事この上ない」
 吐いた言葉は、今現在魔種がルーキスらの攻撃を防いだことだけに留まらない。純粋な戦闘に於いてでなく、このような形で被害を生じる在り方がルーキスには気に食わなかった。
「――ひとつだけ、聞かせてください」
「何かね」
「貴方がすり替えた『偽物』の、元となった人は?」
 訥、と。表面的には何の感情も浮かべないネーヴェが、しかしその内心にどのような想いを抱いているかを、仲間たちは良く知っている。
「悲劇の端役にすらならない者は興味が無い」
「答えになっていません」
「『舞台装置』にすげ変えてやった。これで満足か?」
 ……つまり、彼らはもう。
 刹那の瞑目の後、ネーヴェは今度こそ、迷いなく眼前の男性を見つめる。きしん、きしんと、義足をきしませながら。
「逆効果な事をしたな。何もしなければ俺達の目を逃れたのに」
 次いで、聞こえた声は冷たかった。
 侮蔑や憐憫と言った感情が込められたそれではない。ただただ無機質で、機械的。
 そのような声色で話しかけた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に対し、魔種は何も応えない。
 それが、この逸脱者にとって何の痛痒も示せていないことは、当のイズマ自身が良く分かっていた。
「仮に私がこの場を生き延びたとて、その後の『混沌』なき世界に何の意味がある?」
「道理では、ありますね」
 問い返した魔種に対し、答えたのはイズマではなかった。
 言葉と同時に聞こえたのは、ぢりん、と言う重い鈴のような音。呼び寄せた四象はしかし、やはり微塵も魔種を揺らがせることは無く。
「生憎、此方は今日で世界が滅ぶ等とは考えていませんので。
 不和の種が芽吹く前に、狩らせていただきます」
 ――望む事象が見られぬ世界で生きる意味など無いと魔種は言い、ならばそのまま死ぬがいいと『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は言う。
 ならば、両者の主張は一致しているのだ。その間際における「悪あがき」の是非を除くのならば、だが。
「……ええ、認めまスよ。このクソ忙しい時に其方が起こした騒動は、なかなか効率的な『嫌がらせ』でス」
 既に、魔種の周りに仲間は集結しつつある。リトルワイバーンから降りた『無職』佐藤 美咲(p3p009818)が忌々しいものを見る目で魔種を睨み、左手を起点にいくつかのウィンドウを虚空へ展開する。
「ただ、ご自身がそれより最悪な目に遭ってるのはご存じで?」
「ほう。具体的には?」
「私が此処に居ることっスよ」
 ――悲鳴は、未だ止まない。
 それはきっと、この戦場のみのものでは無いのだろう。世界を終わりに導く戦争の最中、各所で聞こえる怒号や慟哭を全て収めることは出来ないと、この場の特異運命座標達は皆が理解している。
 ……それでも、と。
「やって見せろ」
 魔種は言う。
「この身の最期に、私に絶望を味わわせて見せろ」と。


 戦闘が想定していたよりも前倒しになった以上、「その苦境」を特異運命座標らは十分に理解していた。
「やはり――」
「――通りませんか」
 美咲が呟き、アッシュが言葉を継ぐ。界呪・四象を二重に束ねた両者の連携に対し、しかし魔種はそれを見えない膜か何かを以て完全に防御する。
 戦場に存在する、彼が生み出した『偽物』の数に応じて防御力、抵抗力を上昇させる能力が、美咲らの攻撃を完全に無力化していた。魔種はそれを眺めているのみであったが、時折、思い出したかのように彼女らの側を向いては枯れ木のような腕を振るう。
「健気なことだ」それは、能面の如き無表情で。「思わず手折ってしまいたくなる」
「……!!」
 魔種のステータスは、確かに同種の中では羸弱であり、打ち込む攻撃も強力とは言えないのだろう。
 しかし、それでも魔種は魔種なのだ。食らった一撃が容易いものであっても、それを二度、三度と繰り返されれば明確にダメージとして蓄積する。
 だが、それをさせじと。
「わたしの前では、誰も倒れさせないし、ガス欠もさせません」
 歌声は、或る時から特異運命座標らの傍に居た。
 それは、一人で歌う斉唱にも聞こえた。『灯したい、火を』柊木 涼花(p3p010038)が言祝いだコーパス・C・キャロルは幾度も受けた範囲攻撃に拉ぐ仲間たちを確かに癒し、支え、また新たに立ち向かう一助としている。
 畢竟、泥仕合である。敵方にはその攻撃の大半が無効化され、反対に魔種が撃ち放つ攻手は受ける度癒されていく。
 それを理解しているのは、自然特異運命座標達だけではない。訝しむような魔種の表情は、故にこの場からの撤退を考慮させるも。
「また、趣味の悪い『観測』に戻るつもりか?」
「貴様らに構うよりは有意義だろうさ……!」
 既に遅い。それもまた、魔種には理解出来ていた。
 鍔迫り合いの如く肉薄するルーキス然り、今この場に居る者の殆どは何らかの追跡、乃至探知系スキルを備えた者ばかりで構成されている。これが元々の居場所が分からず、何の手がかりも無い状態からの捜索であるならばこうしたスキルは「捜索の一助」としてしか働かないが、今現在のように居場所が露呈している存在が雲隠れした程度であるならば再度の発見に対し極めて有効に働く。
 即ち、逃げられない。倒されないものの、倒せない。
 それは、現時点のメンバー7人による巨大な時間稼ぎであった。遅々として経過する時間の中、それでもほんの少しずつリソースを削られていた特異運命座標達が、終ぞ「その時」を迎えうる。
「――――――あは」
 メリーノが、笑った。
 理由は明白であった。幾度となく繰り返した三光梅舟。絶えることなき殺人剣が、戦闘が開始して以降、初めて魔種の腕に僅かな傷を残したのだ。
「……『削っていた』か、私の分身を!」
「言ったでしょう? お前はもうおしまい」
 そう、この場に居るメンバーは7人。
 残る一人が、彼の魔種の護りの異能の発動条件……「生じさせた『偽物』の数に比例した防御」を、この遅滞戦闘の間確かに削り続けていたのだ。
 それは、特異運命座標達にとって確かに福音であり、
「……私も、既に応えたぞ」
 けれど。
 同時に凶報もまた、彼らへと鳴り響いた。
「貴様らにも、それを味わわせてやろうと!」
 魔種の視線の先に居たのは、ネーヴェ。
 その彼女は、自らの背後から『変異した一般人』に切り裂かれていた。


「助けてください、お願い、お願いします」
 ――例えば、命乞いをする者を踏みつぶした。
「人殺し、地獄へ落ちろ。お前は、お前は……」
 ――例えば、此方をそしる者を切り伏せた。
「はは、あはは、あはははははは」
 ――例えば、笑うしかなくなった者を灼き尽くした。

「ずいぶん、気の合いそうな魔種だけど」
 ……呟く女性の前には、多くの人間が転がっている。
 その大半が、彼女の魔眼によって無力化させられたか、不殺系のスキルを以て昏倒している者である。動けなくなった彼らの内、「人ではないもの」を見つければ、彼女はそれを何の躊躇いも無く殺害していった。
「仕方が無いわよね? お仕事だもの」
 趣味も合いそうにないし、と小さく笑んだのは『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)。
 彼女は此度の依頼に於いて、他の仲間達から離れ、件の魔種の防御の要となっている『偽物』を排除する役目を主に背負っていた。
 方法はシンプルであり、避難民たちを誘導した後、彼らを射程内に収めて以降上述の方法で無力化し、動けなくなった『偽物』を処分しては残る一般人を外部へと運んでいく、というもの。
 尤も、彼女個人ではこの方法も幾らかの時間がかかったが――仲間たちが戦闘を開始してから数十分の時間が経過した現在、少なくとも彼女が誘導した限りの避難民はほぼ『処理』し終えていた。
「……なら、後は」
 終局は近い。その筈だ。
 ならば、彼女はどうするべきだろうか、そう『自問』して。
「……ええ、高台へ行きましょうか。
 今まで観測していた彼が、観測されて滅びを迎える様を楽しみましょう」
 同じく『自答』した彼女へ、『マリエッタ』は胸中で歎息を吐いた。

 ――趣味が悪いですね、魔女。

 その言葉は、当の『彼女』自身にしか聞こえなかったけれど。


 特異運命座標達の行動は、大別して二種に分けられている。
 先ず大前提として、「ストーリーテラーの捜索と即時討伐」、またその過程における「避難民の誘導(及びその内に居る『偽物』の処分)」である。
 ――この前提に於ける部分が既に破綻を孕んでいることを、彼らは果たして気づいていただろうか。
「………………っ」
 ごめんなさい、と。ネーヴェが小さく呟いた。
 戦場を跳びまわり、且つ『敵』を誘き寄せるネーヴェの周囲には、既に「少なくない数の魔種」が群がっている。
 これが何を指すかは明白だ。事前に情報屋からの戦場解説にあった「長期間の滞在によって悪影響を及ぼした元一般人たち」である。
 上述した行動はその順番を違えている。既に何度もストーリーテラー自身が示した通り、彼が生ずる防護結界は『偽物』たちの数に比例してその強度を増している。
 であるならば、特異運命座標達が最初に行うべきは『偽物』たちの捜索と可能な限りの討伐であった。それを考慮せず、ストーリーテラーを発見した時点でその後の行動を彼に注力した結果が現在である。
 結果的にはマリエッタの行動によってストーリーテラーの防護結界は貫通することに成功したが、それを可能とするまでの時間が長すぎた。
 結果的に被害を生じてしまったことによる罪悪感が、慟哭が、またその発端となった魔種への怨嗟が、『絶望階梯』に応えて特異運命座標達へと『呼び声』に転化しようとする。
「……その、悪辣さを」
 だが、応えずと。
 それを最初に誰よりも叫んだのは、涼花だった。
「今こそ悔いなさい、ストーリーテラー!」
 戦闘は佳境であった。
 先にも言ったがマリエッタの尽力によって彼の結界はその大半が挫かれていた。元々スペックの足りなかった個体である彼は、最早多種の状態異常と幾重もの攻撃に因って瀕死の体を作っている。
「ハ――はは、ハハハハハハ!!」
 だが、ストーリーテラーは止まらない。
 状態異常の合間、少しでも自由になった身体を使って『偽物』を生み出した。それが一般人たちの合間に送られなくとも、彼らは存在しているだけで防護結界の「足し」になる。
 それは、最早消滅までの時間稼ぎに過ぎない。それを分かっていながら、それでも。
「往生際が悪い……!」
「無論だとも! こうして私が生き延びる時間が、無辜の民を魔種へと変えるのならば!」
 ストーリーテラーは、笑っていた。
 それまで始終つまらなそうな表情の彼らが、特異運命座標らの忸怩たる表情を見る度、その表情を輝かせ、子供のように笑顔を浮かべている。
「貴様らの絶望の観測に繋がるならば、無様にでも生き永らえよう!」
「それは残念ね」
 哄笑に対して、くつ、と笑ったのはメリーノ。
「結局のところ、わたし、わたしとわたしの周りの子が生きてさえいれば他なんてどうでもいいの」
「良くぞ言う……!」
 魔種の大笑に劣らぬ嘲弄の笑みは、果たしてどちらが狂人かを分からせぬほど。
 死棘がストーリーテラーを縛る。拘束できたのは一瞬だけだが、仲間たちにとってはそれですら十分。
「バッドエンドの物語を好むのは自由だが、現実でやる事じゃない……!!」
 変異した一般人たちは、その数を増やしつつある。
 叫ぶイズマとて、攻撃の最中に幾度も彼らからの介入を受けた。仲間たちの中にはパンドラを消費した者すら居り、焦りと怒りを綯い交ぜにした表情で、彼は、彼の仲間は叫ぶ。
「……嗚呼、クソ」
 懐に潜り込んだ美咲が、怒りの感情を隠しもせず、十秒間に至る連撃で魔種を拉がせる。
 膝を着き、頽れる身体、それの前に立ったアッシュは。
「長らくの惰眠はさぞ、心地よかったことでしょう」
 まるで、断罪する処刑人のような面持ちで、己の得物を構えて。
「然し、其の怠惰さが結局は貴方を滅ぼすのです」
「……は、」
 何かを言いかけた魔種の首が、けれど、その瞬間に刎ねられた。


「貴方も、私の行いを見て欲しかったわ」
 ――戦いの終わりを、『些事』の終わりを、高台から観測する女が居た。
「もし観てくれていたら、貴方はどんな反応をしたのかしら。
 ふふ、貴方こそ面白くないと呆れた顔をしたかもね」
 独り言ちる『彼女』の裡で、マリエッタは何も応えない。
 即ちそれこそが、この魔女が此度取った行いを、不承不承ながらも認めたという証左であるがゆえに。
 遠方から透視と遠見の異能で、消滅する魔種の姿を捉えていた『彼女』は、幕引きのように呟く。
「さようなら。それが貴方のチェックメイトよ」



 結果として。
 特異運命座標達は依頼目標を達成したが、その過程で変質した一般人たち……現在となっては魔種となった者たちが多く発生することとなった。
 これに対処するべく派遣された別働隊が、果たしてどのような方法で「処分」したのかは……この報告書では割愛する。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ネーヴェ(p3p007199)[重傷]
星に想いを
柊木 涼花(p3p010038)[重傷]
絆音、戦場揺らす

あとがき

ご参加いただき、ありがとうございました。

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