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シナリオ詳細

再現性東京202X:月見て跳ねるは兎かマッチョかイレギュラーズか

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●中秋の名月といえばウサギですが
 月が煌々と照らす。
 中秋の名月も近付く夜、酔っ払いが千鳥足で灯りの下を歩く。
「うぇーい、いいねぇいいねぇ、お月サマぁ! 月のうさぎはどんな顔で餅ついてんのかねぇ。あー羨ましいよぉ、うさぎさんにお月サマぁ!」
「うさぎになりたいか?」
 若い男の声がした。
 何も考えずに酔っ払いは返す。
「なりたいねぇ。ぴょーんぴょーんって、跳ぶだけじゃねえかぁ」
「ではお主もうさぎにしてやろう」
「へぇー! 魔法使いかい、あんた?」
 酔っ払いの男が赤ら顔のままで声のした方を振り向く。
 そこにはいかつい顔の男が立っていた。髭を生やし、濃い顔をしている。
 頭のてっぺんから爪先までマジマジと見てみると、下半身の筋肉だけが異様に発達している。上半身も鍛えているようだが、下半身と比べるとそこまで発達していない。
 酔っ払いは考えた。どこかの選手だろうか。この脚なら陸上系かなぁなんて、のんびりと。
「うさぎになりたいのだろう?」
 顔に似合わず若いイケてるボイスが出てきた。ひどいギャップだ。
「そうだねぇ」
「ならば、なれ……!」
「へ?」
「そう、なるが良い」
「ん?」
 後ろから新たに若い男の声。
 酔っ払いにうさ耳がつけられた。ほら、あの、コスプレとかで使うようなやつ。ぴーんって耳が立ってるやつ。それが酔っ払いの頭につけられた。
 まだ頭は働かない。なんだなんだと首を傾げると、また別の男が現れた。そいつは何故か鞭を持っている。競馬で使うような物ではなく、何かのプレイで使いそうな、長い、よくしなる奴だ。
 びしぃ!
「なぁにをたるんどるかぁ!」
「ひぇ?!」
「うさぎになりたいのだろう! さぁ、なれ! ここから兎跳びをするのだ! 終わればお前は立派なうさぎだ!!」
 ここにきて漸く酔いが醒めた。なんだこれは。異常な集団じゃないか!
 逃げようとした酔っ払いは、あえなく男に捕まった。
「さぁ! やれ! やるのだぁ!」
「ぎゃあああああああ!!!!」
 鞭の響く音が夜道に響いた。
 翌朝、うさ耳をつけてスーツを汗だくにしたおっさんが、「うさぎになりたくない……」とうわ言のように呟いていたのが発見された。

●またやってきましたよマッスルが
 カフェ『ローレット』のテーブル席にて、マッチョメンが二人、神妙な顔をして座っていた。
 相席しているのは今日もボーイッシュな女装をしている『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)と顔の整った情報屋の青年だ。あれ、なんか見たことあるぞこの光景。
 マッチョメン達は腕を組みながら、神妙な顔で口を開いた。
「またにごわす」
「またでごわすか」
「なんで薩摩武士みたいになってるんだよ。で、本題は?」
 茶番をぶった斬って、ほむらは話を促す。
 「はい」とマッチョメンの一人は腕組みを解いて膝に手を置くと、神妙な顔を変えないまま本題に入った。
「マッスルネットワーク外の犯行がまた行われたそうなのです」
「また?!」
「はい。なんでも、夜になるとうさ耳を強制的につけさせ、兎跳びを夜通し強要する、レッグに特化したマッチョが複数人現れたとか。しかも一人は鞭で叩いていたという情報もあります。
 彼らはいつの間にか現れ、忽然と消えるとか」
「マッチョの風上にも置けぬ奴らです。どうか彼らを一度とっちめていただきたく」
「本当に、マッチョの風上にも置けぬ!」
「ああ。鞭で叩いて強要するなどもっての外! それに、夜通しは筋肉に悪い! インターバルも必要だし、睡眠も大事だというのに!」
「許せない所、そっち?!」
 もっと他にもあったんじゃないか、と言いそうになったが、憤慨してる彼らに何を言っても無駄だなと察したので口を噤むことにした。賢明な判断だと自画自賛する。
 情報屋の青年は一つ頷いてみせた。
「ご依頼、承りました。
 しかし、うさ耳かぁ……。多分兎跳びにかけてるのかな?」
「中秋の名月が近いのもあるのでしょうなぁ」
「ひどい話すぎる」
 側から聞いてても頭が痛い。
 何にせよ、早急に対応しないといけなさそうだ。

●マッチョは跳ねる。うさ耳つけて
 現場は人がよく通る道だという。
 時間帯は夜中が多かったので、人通りも少なかったらしい。
 だが、事件が噂になったせいで、まだ人が居そうな時間帯にも関わらず、全く人の姿は見えない。イレギュラーズにとって、好都合といえば好都合なのだが。
 ほむらに呼ばれてやってきたイレギュラーズは、改めて依頼の確認をする。
「マッチョを倒せばいいんだな?」
「そうなるね。突然現れて忽然と消える。まぁ、十中八九、夜妖だと思うよ、これ」
「マッチョの夜妖って、前にも居なかった?」
「やめて、思い出させないで」
 渋い顔をするほむらに「あ、はい」としか返せない。
「それにしても、ひどい依頼だよねえ。
 よりにもよって、中秋の名月の当日に兎跳び強要マッチョの退治なんてさ」
 その言葉が終わるとすぐに、何かを叩く音がした。
 暗がりの中から三人のマッチョが現れた。髭を生やした濃い顔のマッチョメン達。タンクトップにスポーツ用の短パンを履いている。下半身の筋肉だけが異様に発達していて、これなら腕だけ筋肉ムキムキの方がまだマシだと思った。どっちも嫌すぎるけど。
 事前情報通り、一人は長い鞭を持っている。
 ただ、情報と違うのは、三人ともうさ耳をつけているぐらいだ。
「強要とは人聞きの悪い!」
「そう、我々はうさぎになりたい者をうさぎにしようとしただけ!」
「その為に兎跳びをしてもらったのです!」
 ビシィ!
 しなる鞭が地面を叩いていい音を奏でた。絵面が色々と凶暴すぎるのでやめてほしい。
 聞きたくないけど、一応聞く事にした。
「なんでうさ耳つけてるの?」
「我々もうさぎになりたいからです!」
「中秋の名月に向けて仕上がってきた我々です。今宵はうさぎになるのです。さぁ、あなた達も! 是非!」
「だが断る!!!!」
 異口同音に叫ぶイレギュラーズ。仲良いね。
「中秋の名月は美味しいお団子食べるのが醍醐味なんだよ。兎跳びで終わらせたくないから、倒させてもらうね?」
「笑止千万!」
「我々と共に兎跳びしていただこう!」
 かくて、下半身特化のマッチョメンと戦うゴングがーー否、鞭が鳴ったのだった。
 お月様がそんな彼らを微笑ましく見ていた、かもしれない。

GMコメント

お久しぶりの再現性東京です。
中秋の名月ですね、という事で、うさぎに纏わるお話です。
イレギュラーズの皆さんにはレッグ特化したマッチョと戦っていただきます。
終わったらお月見ができるかもしれませんね?

●成功条件
マッチョ達の殲滅

●敵情報
レッグ特化マッチョ三名
 兎跳びを強要しているだけあって、跳躍力が高いです。普通に攻撃しようとすれば避けられるでしょう。
 また、脚力が強いので、当たれば【足止系列】を食らいます。
 鞭を持っているのは一人のみで、こちらは【乱れ系列】を有しています。
 普通に戦ってもいいですが、兎跳びに自信があるようなので、兎跳び勝負をして精神ダメージを負わせるのもアリかもしれませんね。

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京202X:月見て跳ねるは兎かマッチョかイレギュラーズか完了
  • 中秋の名月ですねえ
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱
安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ

サポートNPC一覧(1人)

暁月・ほむら(p3n000145)
性別に偽りなし

リプレイ

●マッチョにはマッチョを、うさぎにはバニーをぶつけるのだよ
 『特異運命座標』安藤 優(p3p011313)は、体を震わせていた。
 目の前の(うさ耳つけただけのバニーマッチョが怖い訳ではない。そりゃ、このバニーマッチョがうさ耳だけじゃなくバニースーツ着てたら怖いだろうけど、そうじゃないから安心してほしい。
 それはさておき、彼が体を震わせているのは別の事でだ。目の前に立つイレギュラーズの姿に、ある種の感動を覚えてすらいる。
「ヒョエッ!? ほ、本物のイレギュラーズだ……! アッ……アッ……ヨロシクオ願イシマス皆サン……」
 小説でしか知らなかった人物達。実在する者達が目の前にいる感動。思わず尻込みしてしまうのも無理らしからぬ事。
 だが、尻込みしている場合では無い。彼には数年分の入院費を支払うという重大な使命があるのだ。
 再現性東京であるこの場所ならば、故郷と大して変わらぬ光景であるし、出る敵だって大したことは無いはずだ。…………と思って臨んだのに、どうしてこうなった?
「トンチキモンスターじゃないですかああああ!!」
「失敬な。どこからどう見てもマッチョだろう!」
「普通のマッチョはそんな極端なレッグ特化はしないし、うさ耳つけたり鞭持ってうさぎ跳びを強要したりしないんですよおおおおお!!!!」
 半ば錯乱気味にマッチョその1へツッコミを入れるが、そのツッコミは仲間のイレギュラーズにまで及ぶ事となる。
「っていうか、なんでバニースーツ着てるんですかあなた達も!!??」
 バケツを被った彼の視線の先には、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)と『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)がバニー姿で立っていた。ウェールは狼のような獣人で、アクセルは鷹の飛行種である。そんな2人のバニー姿はもうどこからツッコめばいいのか、優以外にも分からない。
 わかるのは、ウェールの場合、今は亡き子がこれを見たら泣くんじゃないか、って事ぐらいだ。
「鯉が滝を昇って龍になるように。
 うさぎ、真なるバニーは空を蹴りて空を駆ける。
 故に古来から1羽2羽と数えるのだ……」
「オイラも羽単位で数える真のバニーのひとりだよ!」
 当人達、いたって、すっごく、真面目。
「アイツら、マトモに相手すると疲れるタイプだと思ったら、こっちもノリノリじゃねーかよ」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が言葉の後に溜息を吐き出す。
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)はそんな彼の呟きには聞こえなかった振りをして、「……たまにいるよな。近所迷惑なだけの夜妖」と零した。「近所迷惑で済む問題だろうか?」と呟いた、『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)疑問には誰も答えられない。
(……あいつらは、同じだ。マッチョは凄い、マッチョは強いと、自分もそうだと信じて疑わなかった、前のオレなんだ)
 敵であるマッチョを前にして、『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が思い起こすのはかつての自分。
 マッチョやプリンを盲信していたかつての己はもう居ない。今ここに立つ自分は、盲信を止め、一歩一歩地に足を着けて進む1人の秘宝種(ジブン)だ。
「マッチョは、その言葉は。決して万能じゃない。
 マッチョを語るなら、だからこそそそれを誰よりもわかってないといけない」
「よくぞ言った」
 傍らでしきりに頷いて見せるは、『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)である。彼女はうさ耳マッチョ達を隠れた前髪越しに見つめると、ふん、と鼻を鳴らした。
「レッグ特化だと? 笑わせる。筋肉とは一部分だけでなく全体的なバランスを取るように鍛えなければ醜いものだ。
 それすらわからぬならば、筋肉を愛する者とはならん!」
 普段口数の少ない彼女がここまで流暢なのは、筋肉が関係しているからだろう。筋肉を愛する彼女としては、彼らのような一部分に特化した醜いマッチョは耐えがたいものなのだ。
 葵もうんうんと頷いている。
「下半身だけ鍛えても最高のパフォーマンスにはならない。上半身も鍛えてこそ発揮されるもんだ。
 うさぎになりたいというのなら、上半身も鍛えるべきっスよ」
「ええい、良いのよ! 我らはこれで良いのだァー!!」
 マッチョ達の言い分を聞いて、今まで静かにしていた『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)が「あら……」と口を開いた。
「……『また』筋肉さん達の仕業だなんて。最近大人しくされていると思いましたのに……。
 これはおいたがすぎますね」
「なんですと、そこの女人! あなたに筋肉の何がわかる!」
「わかりたくはありませんね」
 細く白い指を、これまた美白の頬に当て、ほぅ、と溜息を零す。
「月の兎と申しますにはあまりにも見苦しいですね。ご退場いただきましょう」
 その黒い瞳に澱みを宿して、女は笑った。
 あれ。これ、ホラーだったっけ?

●跳ねて、踊って、月夜のダンスをあなた(うさ耳マッチョ)と共に
 前に飛び出したのはマッチョ(キラリの方)だ。(ややこしいので、戦闘中のみキラリと呼ぶ事とする)
 キラリにはマッチョがうさ耳をつけた姿の怖さなどわからぬ。だが、筋肉の誤りには人一倍敏感であった。
 自身の怒りを拳に乗せて、一人のマッチョAの懐へと入り込む。
「マッチョは確かに凄くて、色々できる。けど何でもじゃない。飛べる様になれるヤツがいても、誰でもじゃない。
 なによりまだ自分たちができる様になってない事を! できるって他人にやらせるな!」
 強要など恥ずべき事であると叫んで、そのボディへ一撃をお見舞いする。
 一応上半身もそれなりに鍛えているのもあってか、柔らかいという事は無かったマッチョAの身体。吹っ飛びにこそ至らなかったものの、彼らを己と同じように、怒りに燃えさせる事は出来た。
 これで彼らの標的はキラリに集中するはずだ。
 盾となる為に迎え討つキラリの後ろから、援護射撃としてウェールの口撃が放たれる。
「お前達の臀部のサイズは九十六だな!」
 いきなり何を言い出しているんだこの人。
「な、なんでわかった?!」
 わかりやすいぐらいに動揺するマッチョ達。当たってるんかい。
 精神的な揺さぶりをかけた所で、昴が美しくバランスの取れた自身の筋肉を披露する。
「見よ。
 この上腕筋の躍動!(ダブルバイセップス)
 キレのある大胸筋と腹直筋!(サイドトライセプス)
 羽が映えたかのような広背筋!(バックラットスプレット)
 そして輝かんばかりの大腿筋!(サイドチェスト)
 全ての筋肉を高いレベルで鍛え上げてこそ美しいのだということがなぜ分からない!(モストマスキュラー)」
「う、ぐぐ……!」
 彼女のギフトの効果も合わせて輝く筋肉に、思わず呻き声が上がった。
 ところで、何か掛け声みたいな副音声が聞こえた気がしますが、気のせいですかね?
 精神的ダメージを多少は与える事に成功したと判断し、詩織が放つ悪意の魔弾が、鞭を持つマッチョ(以降マッチョCと定義する)へと被弾する。
「なっ……?!」
 いくら我を忘れかけていたとはいえ、回避も出来なかった事に動揺するマッチョCへ、詩織は微笑みを崩す事なく、唇を開いた。
「鍛えた脚筋による、回避力の高さが御自慢の様ですけれど……。
 この魔弾の前では、あまり意味が無いと思いますよ?」
 そう言って口の端を横に薄く伸ばして、ニィ……と笑う女を見て、マッチョ達のみならず、それがたまたま視界に入ったイレギュラーズも恐怖を覚えたのは、気のせいでは無いだろう。
 背中を走る悪寒を振り払うべく、優が叫ぶ。
「ヒィエッ!? あ、貴方がたが三人で兎跳びバトルをするというのならば! こちらもニ人で兎跳びバトルです!」
 若干情けない悲鳴を上げてはいたが、それでも自身の役割を忘れてはいない。
 彼の持つ強化の力がエーレンへと降り注ぐ。
 一分だけとはいえ、戦いに関係ない力を強化できるその力を貰い、エーレンは礼を言う。
「ありがとう優。ふたりの力を結集したうさぎ跳び、夜妖たちに魅せようじゃないか。――さあ、俺はうさぎになりたい。うさ耳を寄越せ」
 真面目な顔で「うさ耳を寄越せ」と言い放った彼を見て、優が内心で「エーレンさんも実は……?!」と若干の混乱を抱いた事は内緒だ。口にしなかっただけ偉いと思う。
「何をしようというのかね!」
「こういう事だ!」
 問いの答えは実践で返す。足に力を込めて、エーレンが跳躍した。マッチョ達よりも高く、下から見上げると月に届くのでは無いかと思うほどだ。
「なっ……?!」
「なんだあの跳躍は?!」
「鍛えていない足をしているというのに、どうしてあんなに?!」
 動揺が広がるマッチョ達に畳みかけるべく、ウェールも飛ぶ。そう、跳ぶではなく、飛ぶである。そうする事で高く跳んでいるように見せる作戦だ。
 案の定、先程と同じぐらい動揺の色を見せる敵達へ、狼が描かれたカードを放つ。それは銀の矢となり、標的達へと降り注ぐ事で足止めを喰らわせる。
 その様子を後方から眺めつつ、嘆息する葵。
「何やってんだろうな、アイツら……」
 とはいえ、彼の狙いはブレる事は無い。
 先述した二人に対抗しようと跳んだマッチョ達の動きを見て、足を後ろへ振りかぶる。
 足の甲を灰色のサッカーボールに当てて、蹴る。速度を持ったそのボールに対して、空中で身動きの取れないマッチョ達は受けるしか出来なかった。しかも、彼の狙い通りに、マッチョ達の脚部へ直撃したものだから、
「くっ、これは……!」
「そこの男! 貴様もうさぎ跳びで挑まんとしないのか! 挑まずにボールをぶつけるとは何事か!」
「うるせぇ! こっちはうさぎ跳びしたくて来た訳じゃねぇんスよ!」
 それはそう。
 頷く数名のイレギュラーズ。
 アクセルが、追撃として神聖なる光を放つ。
「というか、筋肉を鍛えるのは悪い事じゃないけど、それを強制するのはよくないよ!
 それにうさぎ跳びは鍛えられる効果より体への負担のほうが大きいから鍛えるのには適してないし!」
「な、なんだってぇー?!」
「あ、知らなかったんだ?」
 おそらく、うさぎになりたいがために気付いていなかったのだろう。
 キラリがマッチョBに向けて速度を上げた攻撃を当てる。空中へと浮いた身体へ、追撃する。
「これは、自分か……自分が信じているものを。『過信』したらどうなるか、だ」
 蹴りが、綺麗に腹部へとめり込んだ。
 マッチョ達が蹂躙される様を見つつ、「ふふ……」と微笑む詩織。
 視線の先にはマッチョC。彼が持つ鞭を見て、詩織はポツリと言葉を零す。
「貴方が鞭で誰かを叩くのでしたら、私も同じ様に貴方を叩いてみましょう。私の場合は鞭では無くこの髪でですし、叩くのではなく切り裂くのですけれど」
 艶やかな黒髪が蠢く。伸びていく髪がマッチョCを絡めて捉える。
 怯える彼の目が最期に映したのは、澱んだ目をして笑う美人の姿だった。
 髪で切り刻む様を見て、跳び膝蹴りを食らわせていた昴が一言呟く。
「同じゼノポルタだが、敵に回したくないな……」
 同感です、と口には出さないまま、バケツ頭の男も頷いた。

●バニーマッチョは滅びを迎え、月見は優雅に行なわれ
 うさ耳をつけたマッチョ達の姿が闇夜にかき消えたのを確認して、誰もが安堵の溜息を零す。
 なんともはや、醜悪な存在すぎた夜妖であった。
 優が、バケツを被った頭を軽く振りながら叫ぶ。
「東京を再現した場所であってもやっぱりこの世界のモンスターはこんなのばっかりなんじゃないですかあああ!」
「こういうのばかりではないぞ」
「ちゃんとシリアスになる夜妖も居るし」
「むしろ、今回もそれであって欲しかったんですがそれは」
 ウェールとエーレンの言に(バケツに隠れて見えないが)至極真面目な顔で希望を言うも、戦いも終わった今では空の彼方へと消え去る希望だ。
 「まあまあ」と宥めるように口を開いた詩織が、細い指先を艶っぽい唇に当てて微笑む。
「終わりました事ですから。これでマッスルネットワークさんの気苦労も晴れれば良いのですが。
 ……とはいえ、これが最後の筋肉依頼……なわけもありませんね」
「やめてフラグ立てないで」
 顔は見えないが、声からして泣きそうな様子を若干見せる優を見て、詩織は首をほんの少し傾げてから妖しく笑う。少し頬を染めているのは何ででしょうかね。スイッチ入りかけてませんよね?
 昴はうさ耳マッチョ達が居たと思われる場所を数秒見つめ、それから小さく呟いた。
「次に出てくる時は、上半身も鍛えておくといい」
 それは多分普通のマッチョではないだろうか。
 彼女の言葉が聞こえてきた者達の胸中にそんな思いがよぎる。
 マッチョは、自分の筋肉を改めて確認するかのように、拳を作って腕に力を入れたり、足を曲げ伸ばししたりを繰り返していた。彼らと自分の違いを、筋肉によって改めて再確認する為の行為である。
 屈伸運動も取り入れた筋肉の再確認の後、マッチョは一度だけ頷いた。
「……やはり、マッチョは、正しく扱わないといけないな」
 人にマッチョを強要してはいけない。己が完成形に至っていないのであれば尚更だ。
 正しきマッチョを目指す事を目標にして、マッチョは両の拳を強く握って空を仰いだ。
 そんなイレギュラーズをよそに、周囲をきょろきょろと見回すアクセルの様子に、ほむらが「どうしたの?」と問いかける。
 バニー姿継続中の彼は、その動きを止めると、「えっとね?」と前置きしてから言葉を続けた。
「東京ではお月見をするって聞いたけど、お団子食べるのか?」
 その疑問に回答したのは、エーレンであった。
「そうだな。ここではお団子を月に見立てて食べている、事もあるだろう」
「曖昧な言い方すぎない?」
「断言する訳にもいくまい」
「それはそうかもだけど」
 ほむらと数度のやり取りをしつつ、横で聞いていた葵が口を挟む。
「じゃあ、気を取り直して俺らだけで月見やろうぜ」
「お団子はどうする?」
「それっぽいお菓子にしとけばいいって」
「そのようなアイスがありませんでした? 一つの箱に二個入っているような……」
「うん。それ以上言っちゃダメだぜ?」
 ギリギリで押しとどめた葵の功績にほむらが内心で拍手を送る。
 頷きを一つして、「では行こうか」と声を上げたウェールに、待ったをかけたのは昴だ。
「そ、の……格好で?」
 彼女の指摘で思い出したが、まだバニー姿なのだ。ウェールも、アクセルも。
 二人は慌てて更衣の為に公園に設置されているトイレへと駆け込んでいく。
 その後ろ姿を見て、詩織が「あら、まあ」と微笑んだ。
 慌ただしくはあるが、全体的には穏やかな雰囲気になっているイレギュラーズを見て、優がバケツの下でぽつりと呟く。
「……これが、イレギュラーズ……」
 あのうさ耳マッチョを前にしても後れを取らぬ。
 戦いに関して、自分よりもはるかに経験の多い彼らに対し、今後こんな事でやっていけるのだろうかと一抹の不安を抱く。
 彼の呟きが聞こえたエーレンが、その背中を叩く。優しく、トン、と。
「ああ優、イレギュラーズといってもそんなに偉いものじゃないし、そもそも優も同じイレギュラーズだ。頼りにしているぞ」
 頼りにしている。
 その言葉に、バケツの穴から覗いた目が数度瞬いて。
「はい!」
 大きく、頷くのだった。
 頭上で輝く満月に跳ねるうさぎのように、彼の心は憧れのイレギュラーズからの言葉で大きく跳ねた。

成否

成功

MVP

安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
うさ耳をつけたマッチョ達にも怯まないイレギュラーズ、流石です。
もう筋肉が悪さをする事は無い……と信じたいですね。ええ……。
ほら、二度あることは三度あると申しますから……(フラグ?)

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