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シナリオ詳細

<伝承の帳>覚悟の騎士と救いの町

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暗躍のリーベ教
 生きる希望を失った者へ、もう手の施しようがない者へ、死という救済を与えてくれる。
 その謳い文句は天義国内に留まらず、幻想にまで広がっていた。
 リーベ教。
 上記の謳い文句を教義とし、若い女性を教祖とした新興宗教。
 少人数だったそれも次第に信者が増え、今では彼女を慕う者は護衛騎士を含めてもあちこちに居る。
 教祖の女性の名はリーベ。ただの薬師であり、教祖に持ち上げられていた彼女は、先日イレギュラーズの前に『遂行者』として現われた。
 『遂行者』となっても、彼女のやる事は変わらない。
 死の救済を望む者へ、死を贈る。
 ただ、それだけ。

●その町は救いを求める
 一人、物々しい様子の騎士が立っていた。
 白銀の鎧を着込み、白のマントを纏うその者は、兜を着けず、大剣を地面に刺している。鎧から出ている顔から壮年の男性である事が窺える。彼は、正気の目で町を見渡せる丘に立つ。
 彼が居る場所は『神の国』と呼ばれる一つの地域。『遂行者』リーベが作り出した領域だ。
 その場所は一つの町だった。
 身寄りの無い者達や、病気で伏せる者達、故郷を追われるか失った者達などが集った町。
 彼らはリーベ教に縋りに来た者達だ。死という救済を賜る為にやってきた。
 教祖であるリーベはこの場に居ない。彼女は別の場所へ己の使命を遂行する為に移動していた。この町と『聖遺物』と複数の空飛ぶ猫を彼に託して。
「イレギュラーズが近い内にやってくるはずよ。彼らは私達の目的を阻害する者達。
 貴方たちにこの町を託すわ。お願い、この町の人々を護って」
 鮮明に思い出せる彼女の言葉。
 かつて治せぬ病に犯された恋人の願いを叶えてくれた彼女に恩義を感じている彼は、彼女の第二の騎士だ。恋人を救ってくれた彼女へ報いる為、此処に居る。
 彼の元に五人程の騎士達がやってくる。壮年の男性よりも若い彼らもまた兜を外しているが、マントは着けておらず、鎧も通常の騎士が着込むような鈍色をしていた。
「隊長。イレギュラーズがこちらに向かってくるとの情報が」
「わかった。では、行こう。リーベ様に託されたこの町の人々を護るのだ」
「はっ。我らがリーベ様の為に」
 隊長と呼ばれた男が丘を降りる。騎士達が規律ある動きで彼についていく。
 町中に降りれば、空飛ぶ猫達二体と合流した。猫といってもその体躯は大型の犬程あり、尻尾は二つの尾を持っている。
 彼らは町の人々の感情を食べる獣達だ。限定的な感情のみを喰らい、糧とする。
 町の人々は建物の中に潜んでいる。隊長格の男が予め告げておいたからだ。「戦闘になる故、ここに残りたいと思う者は中に潜め。逃げ出したい者は今の内に逃げよ」と。結果、誰一人として逃げる事無くこの町に留まっていた。
 そうまでしてリーベに救われたい者達を、見放す真似などする事も無い。
 町の中央にある円形状の広場。四つ辻の中央にある広場の周りは石で積み上げられた建物だらけだ。二階建ての建物は長方形の作りをしており、窓には植木鉢が添えられているものもあり、建物tと建物の間には洗濯物を干す紐が吊るされている。今も洗濯物は紐に吊るされて舞っている。
 そのまま待つこと暫し。イレギュラーズの集団がやってきた。
 隊長の男が声を張り上げる。
「引き返しては貰えぬか! ここはリーベ教の庇護下にあり、死という救済を望む者達が集う町だ! 彼らの為にもこの地を引き返していただきたい!」
「出来ない相談だ」
 即答で否定される。予想の範囲内だ。
「それより、聞きたい。そこの猫達は何だ」
「彼らはリーベ様より賜った者達だ。死という救済を望む者達が少しでも死への恐怖を和らげる為に遣わされた聖なる獣達である!」
「感情を奪うそれのどこが聖なる獣だ、笑わせる」
「何とでもほざくがいい。我らにとっては聖なる獣だ。死への救済を望む者達が少しでも心安らかに死ねるのならば、それでいい」
「そうか。それと、もう一つ聞こう。リーベはどこだ」
「此処には居らず。あの方は違う地へ赴かれた。そなた達と対峙する事は叶わぬ。あの方に会うのが目的であれば引き返す事を勧める!」
「出来ない。この地を解放させてもらう」
「ならば、戦うしかあるまい。我ら全てを殺してみせろ。その上でこの地に集った者達の恨みを買う覚悟があるならば!
 我が名はリーベ教第二の騎士、アグリア! いざ尋常に勝負!」
 大剣を鞘から抜く。柄に埋め込まれた宝石に模様が見えた。薬便にドクロマークの模様が。
 配下の騎士達も剣を抜く。彼らは全て、正気の目をしていた。

GMコメント

 三度目のリーベ教との対決となります。
 ただし、今回はリーベ不在。彼女が信を置く一人の騎士と配下の騎士達、そしてワールドイーターとの戦いになります。
 今回の戦いの舞台は町中という事もご留意ください。

●成功条件
・アグリアを含めた騎士達の殲滅
・ワールドイーターの殲滅
・聖遺物の破壊

●バトルフィールド
 二階建ての建物に囲まれた四つ辻の広場。
 円形状になっており、広さは直径百メートル程。
 障害物は無し。周りには住民が潜んでいる建物ばかりです。

●敵情報
・アグリア
 リーベ教第二騎士。リーベへの恩義により絶対の忠誠を誓っている。予めワールドイーターに死への恐怖心を食べてもらう事で今回の戦いに臨んでいる。
 柄に宝石を埋め込んだ大剣を所持している。どうやら『聖遺物』のようだが……?
 【必殺】を所持。他、【出血系列】を持った至近距離物理攻撃と、【足止】を持った衝撃波(神・近・域)などを飛ばす。

・騎士達×五名
 若い男性達で形成された配下の騎士達。彼らもリーベ達への忠誠を誓い、その為なら戦いで命を落とす事も厭わない。
 既にワールドイーターによって死への恐怖心を喪っている。
 【足止系列】を持った近距離物理攻撃を所持。

・ワールドイーター×二体
 二叉の尾を持つ、大型の犬程の大きさの猫。
 人の死への恐怖心を喰らう。
 【痺れ系列】を持つ雷撃(神・近・範)を放つ。
 また、【HP吸収(小)】を持つ噛みつき(物・至・単)を持つ。

●聖遺物
 薬瓶にドクロマークが描かれている。
 どうやらアグリアの剣の柄に埋められている宝石を破壊すれば神の国は消滅するようだが……?

●住民達
 戦う力の無い者達です。今回の戦いについて騎士達を応援する者ばかりです。
 既にワールドイーターによって死への恐怖心を喪っています。
 ワールドイーターを斃すと恐怖心を取り戻しますが、同時にイレギュラーズを憎むでしょう。
 彼らのケアも必要そうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <伝承の帳>覚悟の騎士と救いの町完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月06日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
リサ・ディーラング(p3p008016)
特異運命座標
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

リプレイ

●死を願う騎士達と、死を喰らう捕食者達よ
 騎士達の剣が、イレギュラーズへと向かう。
 各個撃破を目指しつつ動いたイレギュラーズ。その中で一人、彼ら騎士を纏め上げる隊長格のアグリアへと肉薄する者が居た。『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)だ。
 師匠の名に恥じぬ一撃を、まずは一つ。それを大剣で受け、いなすアグリア。
 両手で抱える武器とはいえ、それを慣れた様子で扱える辺り、相当手練れと見て良いだろう。何故そんな人物が遂行者に従っているのかという疑問はあれど、その辺りを話せるような雰囲気では無い。
 ピリピリという空気が似合うほどの睨み合いを経て、互いにもう一撃を繰り出していく。

 剣の音が響く。
 『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は平然と立っている。与えたはずの傷は見当たらず、かといって即座に再生した様子も無い。
 眉を顰める騎士の一人や、他の騎士も巻き込んで、彼女は振るう。神秘の暴力を。
 さほど遠くまでのものではないとはいえ、騎士達の動きを止めるのは十分と言えた。
 その足止めの隙を狙い、『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)の追撃が入る。彼女は広場から大分離れた位置を陣取っており、そこから敵へと狙いを定めていた。
 最後の天国という名前を持つ魔導蒸気機関搭載巨大火砲。それによる一撃は重く、広い範囲で鋼の驟雨を降らせる。
 彼女の追撃を確認して、ルーキスは笑う。
「さあて、暴れるぞー」
 既に暴れてるのでは、というツッコミは野暮である。
 新たに自身にシールドを展開し、次の標的を狙う。
 彼女に怪我が無いのを見て、『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)が辺りを警戒しつつ回復の為の機会を窺う。
 また、戦いが始まった頃に、既に彼女は保護結界を展開させていた。これで建物に理不尽な被害が出たとしても、元通りになるだろう。
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)もまた、動く。
 騎士達の怒りを一身に受ける為の術を自身に施す。
 集まった視線、足音。それらを視認し、まずは一人を定めた。騎士の一人に向けて放つ力。速さによる力は鉄帝国最強の男が生み出した技であり、会得している沙耶がそれを騎士に向けて放った。少し離れた距離だが、確実に入った一つの技。
 鎧という防具を抜きにしても、それなりにダメージは与えられている事が、少し凹んだ鎧によって証明されていた。
 攻撃の範囲から漏れた騎士達が、仲間達に襲いかかる。
 盾などで受ける仲間達。
 一人の騎士が近付けば、別の騎士が違う方向から仲間を狙う。
 それを阻止すべく、リサの巨大火砲が火を噴き、驟雨を降らせる。
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は彼らの状況を見た上で怪我を癒していく。

 死を恐れずにイレギュラーズに向かう騎士達。
 何故こうも向かってこれるのかの答えは、二叉の猫達が知っていた。
 『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が一体へと距離を詰め、特殊な縫い方をした布製の手甲で一体を炎で焼く。
 悲鳴を上げて飛びすさった猫又は、威嚇の声を上げる。
 もう一体へ、『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が注意を引きつける。眼前に召喚した鏡面が猫又を映す。突然の鏡面の出現と、自身と認識できない猫又が、鏡の中の相手に向かって威嚇を開始する。
 そのまま注意がこちらに向くように維持しつつ、仲間達から離れるように誘導していく。ウルズも同じように誘導を行ない、手伝う。
 二人へと怒りを向けた猫又達が雷撃を放つ。それを回避しつつ、次の一手へと繋いだ。
 肉薄した鏡禍の反撃たる一撃が猫又のボディを打つ。短く醜い悲鳴を上げて、地面へと転がった。
 少し乱れた息を整えようとする鏡禍の肩に、別の猫又が噛みついた。
「っ……!」
 血を吸われる感覚。このままではまずいと判断し、猫又の顔面に掌底を叩き込む。
 鏡禍から離れたのを見て、ウルズも手を出す。もう一度炎を出して、顔面に一撃を与える。折角何かしら吸えたのだろうが、ダメージが再び与えられた事で元の木阿弥となった。
 ワールドイーターとの攻防を見ながら、沙耶は胸中で嘆息する。
(アドラステイアの時といい、どうして聖獣ってのはこんな歪んだ意味で使われることが多いのだろうな?)
 そして、ワールドイーター共を聖なる獣と称するリーベとやらは、どういう者なのかが窺い知れるというものだ。
 呆れの感情を乗せながら、沙耶は仲間の補助をしていく。
 相手取っている騎士達の動きも次第に精彩を欠いていくのが目に見えて分かる。
 そういった意味では、イレギュラーズの方が経験値が上だった。
 叩き込んでいく攻撃。
 それを眺めながら、茄子子が吐き捨てる。
「私、求めるだけ与える人って嫌いなんですよね。それは優しさじゃなくて甘えさせてるだけだって、騎士様ともあろうお方なら理解できますよね?」
「甘えであろうが、死を望む者に最後の甘えを渡す事の何が悪い」
「話が通じませんね……」
 頭が痛くなる思いだ。
 それを理解した上で、ルチアも問う。
「確かに彼らは死を希っているのでしょう。でも一方で、感情を奪う道具を使わなければいけない程には、死を怖れているのではなくて?」
「何?」
「死への恐怖は、裏返せば生存への欲求なのだろうから……貴方のやろうとしていることは、所詮は人心の一面だけを見た、薄っぺらい自己満足に過ぎないのよ」
「自己満足と断ずるか、小娘」
 膨れ上がる怒気。
 もう一発、騎士達の中へリサの砲撃が入る。それを確認したリサの呟きがその場で溶ける。
「恐怖心がなくとも痛みはあるだろうっすよね。
 ──怯んだな?」
 見逃さなかった一瞬の隙。そこをルーキスが切り込む。
「泥に塗れるか、骨の髄まで痺れるか。好きな方をどうぞ」
 だが、返答を待たずして、彼女の技は完成する。
 周囲の運命を、黒く塗りつぶした。

 猫が鳴く。断末魔の悲鳴を上げて。
 一体の姿が灰となって消える。それによって、騎士達の一部に迷いが生まれた。
 死への恐怖心を取り戻したのだとわかる。もう一体を殺せば、元のようになるだろう。
 ドラマは大剣を持つアグリアと打ち合いを続けながら、隙を見て一撃を与えていた。アグリアもまたドラマに傷を負わせており、その傷を仲間が癒した。
 そうなれば、勝敗を決するまでにさほど時間は要しない。
 最初に膝を突いたのは、剣士アグリアのほうだった。
 鎧は既にあちこち凹んでいるし、傷も相当深手を負っている。それでも彼は騎士らしくあろうと立ち上がる。己の命の起源があと少しであると知りつつも。
「見事。敬意を表し、一つ言おう。
 自分亡き後にこの剣の宝石を割れ。さすればこの地は元に戻ろう」
 敵とはいえ、あっさりと情報を割った騎士に、ドラマの眉が顰められる。
「いいのですか? それは、あなたがリーベ様とやらに託された物なのでしょう?」
「良い。あの方の命令通りにこの町を護りたかったが、それも叶わぬならば致し方あるまい。
 騎士として、ここで散るならば、せめて自分を打ち負かした者に最大の敬意を払うが道理」
 深手を負っているはずなのに、その目に死への恐怖は無い。ワールドイーターは倒したはずなのに、彼は出会った時と揺るぎなく、騎士然としてそこに立っていた。
「……最後に、一言を。リーベ様とやらに伝えられる事があるならば、伝えます」
「……では、剣士よ。もし会う事があれば伝えてほしい。
 貴女様の望みがいつの日か果たされるのを、遠き地より祈っております、と」
「承りました」
「感謝する」
 大剣を地面に突き刺し、両手で柄の上を持つ。
 そうして目を閉じた男は、そのまま永遠に瞼を開ける事は無かった。
 一瞬だけ黙祷の後、ドラマはリトルブルーの名を持つ蒼い刀身の武器で、宝石を砕いた。
 薬瓶にドクロマークがついたその聖遺物は、その力を失っていったのだった。

●願う住民達の、その結末は何処へ
 神の国とやらが消滅したこの場所はどこまでその影響を与えていたのかと思ったが、意外と大きな変化は無く。
 建物や位置が変わらない事から、そっくりそのまま使っていた事が窺える。
 神の国だった場所の住民達を広場に集めるのもそう手間はかからず。いや、一人が町の外に忘れ物を取りに行った為に七人で事にあたる事にはなったけれども。
 寝たきりの住民に対しては建物の中にそのまま滞在してもらった。その状態で石畳の上に連れてくるのは酷というものだ。
 ルーキスが冷ややかな視線を向けながら住民達に語りかける。
「いい加減に目は醒めた? 死に救いを、何て言ってるけど、結局のところ誰かに押し付けたいだけでしょう」
「違うね」
 そう言った住民達の言葉に、眉を顰める。何が彼らをそこまで盲信させるのか、理解が出来ない。自分達と騎士達、それからワールドイーターとの戦いを見ていた筈だろうに。
 ワールドイーターが食べたという感情も戻った筈なのに、何故そこまで死への救いを求めるのか。
 集まった住民達の一部には祈りのポーズを取って「リーベ様、お助けください……」と呟く者達も僅かながらおり。
 それを聞いていたウルズが嘆息する。
「リーベ……ねえ。さっきの騎士達もリーベ様とか言っていたけど、そのリーベ様とやらは本当にあんたらを救う気あるんすかね?」
「あるに決まっているだろう! あの方は今までにも救った実績がある方なんだ! 会った事も無いお前達に何が分かる!」
 吼える住民の一人に対し、鏡禍が横やりを入れる。
「僕もそのリーベさんって方は知りませんが、全く分かりませんね。死が救済だというのなら、死ぬ恐怖に向き合ってこそでしょうに」
「向き合ったからこそだ」
「でも自分で死ぬ勇気も無いんでしょう? そんなの、ただの弱虫と同等です」
 その言葉に、住民の顔が赤くなるのを見て、鏡禍は更に言葉を重ねる。
「恨みに思うなら恨んでもいい、生きて僕を殺しに来たいなら相手になりますよ」
 いつもは柔和な笑みを浮かべる彼も、流石に無表情だ。
 彼の言葉に対して、住民達が怒りの表情で睨みつける。
 これくらいは想定内と思っていた鏡禍の肩をルチアが叩く。
「あまりそう苛めてやらないのよ」
「ルチアさん……」
「まあ、手っ取り早く理解してもらうならあれを見せた方が早いわよ」
 彼女が指差したのは、死屍累々となった騎士達の姿。
 絶命した騎士達の内何名かは「死にたくない」と言っていた。その事を告げれば、僅かながらに怯む様子が見えた。
「これでも、まだ死にたい?」
「……ああ」
 その返答に、横で聞いていた沙耶が尋ねる。
「どうして?」
 彼女には理解できなかった。
 これだけの死体を前にして、そして、彼らの中に僅かでも死への恐怖を持ったまま絶命した事を知ってもなお、死を望むその心理が。
「我々は救われたいだけだ、リーベ様に。
 あの方はお前達のようなやり方で死を贈らない」
「戦闘になった以上、このようなやり方でしか死ねないのは自明の理だろう? それとも、そのリーベとやらは理想の死とやらを贈ってくれるのか?」
「ああ。騎士達が話してくれた。穏やかに息を引き取るように死を贈ってくれるそうだ。
 苦しまずに死ねるのなら、それが一番いいとリーベ様が話していたと、聞いている」
「苦しまずに、か……」
 話から察するに、安楽死の類いだろうと推測する。となれば、そのリーベとやらは薬師か。
(その顔を拝んでみたいものだな)
 自身に信仰を集める教祖とやらがどんなものなのか、見てやりたい気持ちだった。機会があれば、拝める事もあるだろう。
 推測と希望を考える沙耶の耳に、言い争う声が聞こえる。
 茄子子と住民達のものだ。
「縋るってなんですか。救済? 違うでしょう。勝ち取ればいいじゃないですか。最期くらい勇気を出して立ち向かってみてくださいよ」
「ああ?!」
「死への恐怖に抗って、それでもなお絶望した今世に終止符を打ちたいというのであれば!」
 茄子子の苛立った声が響く。声量に押されて、住民達が怯む。
 続きの言葉を、茄子子が紡ぐ。今度は落ち着いた声色で。
「それこそが前向きな一歩なんじゃないですか。例えその先が奈落の底だったとしても」
 何故そう諦められるのだと、言外に語る。
 何も言えずに居る住民達に向かって、茄子子は言葉を更に重ねる。恋煩と名付けられた白紙の紙切れを突き出して。
「死にたい人はここに並んでください。私が殺してさしあげます」
 手を染める事は極力したくない。だけど、彼らがそれを臨むのならば、その覚悟はとうにある。
 険しい顔の茄子子を止めたのは、車両に乗って戻ってきたリサだった。
「まあまあ、待って欲しいっす!」
「リサさん……?」
 一体何事かと思った。何せ、彼女が乗っているのは装甲蒸気車両『グラードⅢ』と呼ばれる、鉄帝国の最新型改良モデルだ。
 車両から降りて、彼女は「車に乗せるのを手伝って欲しいっす!」と良い笑顔で告げた。言いながら、早速住民一人の首根っこを掴んでいる。
 何が何だか分からない顔をするイレギュラーズ。それは住民達も同様だ。
「は?! 一体何だ、お前は!」
「リサ・ディーラング、おいらの名前っす。自己紹介はここまでにして、あんたらの内何人かを私の領地に連れて行くから覚悟してもらうっすよ」
「は?!」
「どーせ陰鬱な雰囲気にやられてるだろうし、そんな事考えられなくなるくらい仕事と馬鹿な事やりゃ死にてぇ気持ちなんぞ消えるはずだろ。
 というわけっすよ!」
「は???」
 理解が及ばない、という顔の住民達。
 どうにか考える力を取り戻した住民達から抗議の声が上がる。
「病気や身体の一部が無い奴だっているんだぞ」
「あ? そんなの義肢なり改造なりで生きれる」
「天涯孤独な奴だっている!」
「それで希望が無いって? 人間そっから這い上がれる」
「第一、戸籍も無いのに……」
「安心しろ。私も無いが、問題無い。大丈夫だ」
 打てば響く。
 そんな調子で返される言葉に、住民達は言葉を失っていった。
 彼らが絶句しているのを尻目に見つつ、比較的マシに動けそうな住民を選んでいく。乗せていくのはいいのだが、確かその車両は乗り心地が良くない筈。良いんだろうか。
 どう声を掛けるか迷うイレギュラーズや住民達。
 そんな中、ドラマが彼女の様子を見て、「まだ治療が必要な人も居るんですから、その人は動かさないでくださいね」と声を掛ける。
 「おうよ!」と力こぶを作って返すリサ。
 その返事を聞きながら、ドラマは治療が必要な住民への治療に当たる。多少、医療の心得があるとはいえ、出来る事に限りはある。
 それでも、少しでも改善したい。
 もうじき、この地を治める領主が来るだろう。それまでに少しでも良い状態で彼らを渡したい。そして、この地の状況が少しでも改善される事を願うのだ。
 ドラマの動きに触発されて、イレギュラーズも少しずつ手伝いを始める。二手に分かれて作業を手伝う中、人数分を確保したとかでリサは住民を何人か連れてどこかへ行ってしまった。多分、彼女の領地だろう。
 残された住民達もどこか戸惑いを浮かべて居心地悪そうに座っている。リーベ様とやらに祈る様子を見せる住民達は見えない。
 彼らの動きを見つつ、ウルズは胸中で呟く。
(扇動するまでも無かったっすかねえ……。でも、少しでも生きてくれればとは思うっすよ、あたしは)
 願わくば、彼らの未来が死という出口ではなく、生という未来に進んでほしい。
 その結末は、誰が知るのか、知らぬのか。

成否

成功

MVP

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
どうにかワールドイーターも消滅し、騎士達も殲滅する事が出来ました。
リーベ教並びに教祖リーベは今後も暗躍しようとするでしょう。
その時にまたご縁がありましたら、お会いいたしましょう。

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