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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>これはあの子のためだから

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●『聖女に憧れた少女』
「教会領?」
 大きな麻袋を馬車に積み込みながら、クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭ムラトは振り返る。
「そうなのですよ。同志アミナが『教会領を聖地とする人が居る』って話していたのですよ。確かそれって、同志ヴァレーリヤが収めている鉄帝領地でしたよね」
 ここはルベンの駅からすこしだけ離れた後衛拠点。前線の兵站を支えるべく物資を蓄え随時送り出すという役割を持っており、当然多くの革命派スタッフがその作業にあたっている。大半が非戦闘員であり、このムラトもそうだ。
「その通りだ。モリブデンをはじめとするいくつかの地域を分譲した形でできた領地だ。
 鉄帝国の中では数少ない、貧富の差を少なくした土地だったが……。
 しかし、今は食糧不足が迫りギアバジリカの難民キャンプに居を移す者も多い」
 このムラトという司教は非常に物知りで、かつ理知的。革命派の一人としていろいろな事を学ぼうとするブランシュ=エルフレーム=リアルト (p3p010222)にとって非常によい先輩であり、ある意味教師のような存在でもあった。
 そして彼と話をする時には必ずといっていいほど、アミナの話になる。

 ムラトは司祭という立場にあるが、同時にアミナの後見人でもあった。
 死の床にあった族長からアミナを託されて以来、彼女を自らの娘のように大切に育ててきたのである。
 それゆえアミナの話になれば、彼は『父親』のような顔になる。
「あの子は本当に明るくなった。教会領での領地経営もそうだが、革命派として皆と接することで明るい顔を見せる機会も多い。
 勉強が好きで得意な子ではあったのだが、いかんせん人付き合いが得意というわけではなかったからな」
 やや親バイアスのかかった視点で語るムラト。
 それは荷物の積み込みを終え、拠点脇で休憩していた時の会話だった。
「同志ムラト、こんなところに。もう積み込みは終わりましたの?」
 ちょっと足元のフラついたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がぱたぱたと手を振る。
 ムラトはそんな彼女をジト目で見つめた。
「同志ヴァレーリヤ。……飲んだな?」
「いっさいなにも一滴たりとも飲んでませんわよぉ?」
 目を泳がせ、背中に小瓶を隠すヴァレーリヤ。
「全く、同志アナスタシアが苦労していたのがわかる。アミナはお主に甘すぎるのだ。アナスタシアの幼なじみであるというだけでそこまで神聖視することもなかろうに」
 額に手を当てやれやれと首を振る。
 ブランシュはそんな様子の二人を見比べて、その人間関係に首をかしげた。
「えっと……同志アミナって、同志アナスタシアを神聖視しているのですか?」
「あー……」
 ヴァレーリヤが顎にゆびをあて、虚空をあおぐ。
「アミナは、いつも『聖女様』と呼びますわね。彼女にとってアナスタシアは目標ですし、尊敬すべき人物なのですわ。きっと」
「…………」
 過去におきたギアバジリカ事件を、ブランシュも記録で知っている。聖女アナスタシアが反転し魔種となり、村々を食らい首都へ進撃したあの事件だ。ヴァレーリヤはじめイレギュラーズたちに討伐されたと記録されているが……それにしては、肯定的すぎやしないか。
「アミナにとって、あれはある意味『正しい献身』だったのだ。浚われた子供たちを助けるために力に手を伸ばすこと。富を独占する強者からそれを奪い分配しようとしたこと。手段はともかくとして、聖女のあるべき姿の一端を見ていたのだ。
 だから彼女は勉強を重ね、多くの者の力を借り、今度こそ正しく『聖女』になろうとしている」
「聖女に……」
 アミナの姿は、確かに『聖女に憧れた少女』だった。そのために政治を学び、武力を背景につけ、派閥の象徴的存在にまでなったのだ。目標に向け階段を駆け上がるその姿は、とても立派なものにみえた。
「まあ、そのおかげで最近は儂のところにあまり来なくなってしまったがな! 昔は儂の後ろをずっとついてきて――」
 おっと、とブランシュが口を閉ざす。ムラトはアクセルがかかると本当に父親モードになる。それほどアミナが『可愛い娘』なのだろう。その一方でアミナは目標をもって努力し始めたことでムラトへの依存を外れ、いわゆる大人になったのだ。
 そうなればパパは寂しいですよね、などと……実の親子でないながらも、ブランシュは微笑ましく眺めるのだ。

●襲撃
 それは何度目かの休憩時間。
 爆発音が響き、ムラトやブランシュ。そしてヴァレーリヤが飛び出してくる。
「倉庫の方からだ! 急げ!」
 ムラトたちと共に物資倉庫へ向かうと、既に火があがっている。
 巨大なレックスタイプのアンチ・ヘイヴンが口から火を吐き、倉庫に引火させているのだ。
 集まった革命派の僧兵たちが魔法によって攻撃をしかけるも、アンチ・ヘイヴンの纏った黒い金属装甲を抜くことができない。
「武装したアンチ・ヘイヴン……グロース将軍の部隊か!」
 『後衛拠点への攻撃』は当然警戒していたが、警戒ラインが既に突破され、ついに攻撃の手が及んでしまったのだろう。
 ムラトは同じく駆けつけたスタッフに大声でよびかけ、物資を無事な場所へ運び出すよう指示した。
 そしてブランシュとヴァレーリヤへと向き直る。
「物資の運び出しと負傷者の避難は任せてくれ! お主等はあのモンスターたちを頼む!」
 言って走り出していくムラトたち。
 ブランシュとヴァレーリヤは顔をみあわせ、頷き合った。
「ここを落とされれば前線への兵站が潰されますわ。ルベンを手に入れるためにも、邪魔はさせませんわ!」
 腰にさげていたメイスを手に取り、走り出すヴァレーリヤ。
 ギラリと目を光らせ、アンチ・ヘイヴンがこちらを向く。
 そこへ、狼型のアンチ・ヘイヴンに騎乗した兵達が更なる突入をしかけてきた。
 間違いない。肩の紋章からしてグロース将軍の部隊だろう。
 まずは彼らを、ここから排除しなければならない!

GMコメント

●オーダー
 ここはルベン奪還作戦における後衛拠点。兵站を送り出し前線を支えるための拠点であり、非戦闘員も多く常駐しています。
 そこへ、首都側から攻めてきたグロース将軍派の部隊が攻撃を仕掛けてきました。
 当然彼らの狙いは物資の破壊と拠点の寸断。そんなことをされれば作戦継続に対して大きなダメージを負うことになるでしょう。
 彼らを撃退し、拠点を守りましょう!

●エネミーデータ
・ケヴィン少佐
 新皇帝派の軍人であり、グロース・フォン・マントイフェル将軍直属の部下。
 将軍から騎乗用に調教・武装したモンスター『ドゥーベン・ウルフ』複数体と強力な拠点破壊用モンスター『バスター・レックス』を与えられています。
 彼自身もそれなりに高い個人戦闘能力があり、そのことからもグロース将軍に認められているようです。
 一方彼はグロース将軍にあらゆる意味で心酔しており、彼女に踏まれ命令されることに快感を覚えているようです。

・ドゥーベン・ウルフ・ライダー
 ヴィーザル地方ドゥーベンで利用されていた騎乗狼が名前の由来となっているアンチ・ヘイヴンモンスターとそれに騎乗した兵士です。
 ウルフは非常に俊敏で機動力があり、人を乗せて走ることに優れています。
 これ自体にも多少戦闘力があるため、背に乗せた兵士と共に戦います。
 兵は背からライフルによる射撃や、ライフルにオプションされた剣による格闘などを行うでしょう。
 数はそれなりにあり、こちらを派手にかき乱して混乱させるような戦い方をしてくる筈です。
 元々散らばって攻撃してくると思われますので、こちらも多少は散りつつ早く撃退してしまいましょう。

・バスター・レックス
 ティラノサウルス・レックスに似たフォルムのモンスターで、黒い鋼の装甲を纏っています。
 口から火炎のブレスを吐く能力と強靱な顎。そして尾による打撃によって建物を破壊することに優れています。
 これを放っておくと倉庫や関連施設が破壊されてしまうので、序盤からこれをおさえるメンバーを確保しておきましょう。
 更に言うと装備させている鎧の効果で特殊抵抗値がとても高くなっています。BSよりも物理的なブロックやマークで押さえ込むのが理想です。(反応が100以上あるとvary good!)
 また高い攻撃性能をもつため、ヒーラーによる援護もあるとよいでしょう。

●味方
・ムラト
 彼は非戦闘員ですが、物資の運び出しや避難を他のスタッフと共にやってくれています。
 なので皆さんは戦闘に集中して大丈夫です。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>これはあの子のためだから完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オジヴァン・ノクト・パトリアエ(p3p002653)
民誘う勇猛
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ


 補給基地は混乱しかけていた。
 火の上がった倉庫から物資を急いで運び出すクラースナヤ・ズヴェズダーのスタッフたちに、ドゥーベン・ウルフ・ライダーが射撃を加える。
 それを守るべく盾を持った警備僧兵や歯車兵が割り込むが、それゆえに場に縛り付けられていた。その間もバスター・レックスが尾を振り回し倉庫を破壊し火を付けることで、物資の運び出しを困難にしている。そうなれば消火活動を行うしかないが、ドゥーベン・ウルフ・ライダーによってちくちくと射撃をくわえられては思うように動けない。
 ケヴィン少佐が無能ではない証明であり、それだけ『効率的に運用される魔物』は厄介だという証明でもあった。
「まずい、このままでは――」
「ムラト、物資の回収と消火を優先して。私はドゥーベン・ウルフ・ライダーを相手しますわ!」
 兵站袋を抱え走るムラト。その背を狙うライフルのアイアンサイト上に『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が割り込んだ。
 構わず引き金をひく兵士。ヴァレーリヤや翳したメイスを盾にすることで銃弾を弾くと、そのままドゥーベン・ウルフ・ライダーめがけて突進した。
 直接の衝突は避けたいのだろうか、急カーブをかけ飛び退くドゥーベン・ウルフ・ライダー。ヴァレーリヤは追撃をかけるようにメイスから炎をあげると、鞭のようにうねるそれを放ち更に退かせる。
「やはり牽制と足止めが目的――ならば攻めれば抑え込めますわね。ガイアドニス!」
「りょーかい! こっちはおねーさんに任せて!」
 別の倉庫でバケツで水をかける形で消火活動をするスタッフをドゥーベン・ウルフ・ライダーが狙うが、『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)がそれを強引にはねのけた。
 具体的に述べるなら、バケツを必死に運ぶ僧兵へドゥーベン・ウルフが食らいつこうとしたその瞬間、ダッシュによって勢いを付けたガイアドニスの跳び蹴りがその上顎を踵で砕きにいったのだ。
 追加装甲によって頭部を砕かれることはさけたものの、激しく頭をゆすられたことと興奮状態が混ざったのかガイアドニスへと食らいつきにかかる。
(食べないと生きていけない。
 貧しいと生きていけない。
 か弱いわ。ニンゲンさん達はとってもとってもか弱いのだわ!
 だからおねーさんが護ってあげなくちゃ!)
 ガイアドニスはあえて背を向けてドゥーベン・ウルフから逃げるそぶりを見せると、半透明なワイヤーの上を跳躍。ワイヤーに気づかなかったドゥーベン・ウルフは派手に転倒し、乗せていた兵士が転げ落ちた。
「クソッ! 言うことを聞け!」
 悪態をつきながらも兵士はガイアドニスへライフルによる射撃を開始。ガイアドニスはといえば、その頑強なボディで銃弾を受けながす。纏っていた綺麗な服が破れるが露わとなった体表は硬い素材によって守られていた。
 必至になって撃ち続ける兵士は、側面から迫る漆黒の影に気付かない。
 『民誘う勇猛』オジヴァン・ノクト・パトリアエ(p3p002653)が剣を抜き、まるで翼を広げ飛び立たんとする鴉のごとく剣を広げ兵士へと一気に距離を詰めたのだ。
「――ッ!」
 咄嗟に振り向き、オプションされた銃剣によって受けようとする兵士。
 が、受けられたのはオジヴァンの長剣一本のみ。もう一本のフランベルジュ状の黒い剣は見事に兵士の首を切りつけ、激しい鮮血を吹き上げさせる。
「兵站を襲うは戦の常套。なればこそ此処を守り切れば敵はただ徒に物資を喪い、我らのライフラインは保たれる」
 オジヴァンは呟くと、周りで足止めを喰らっていた歯車兵や僧兵たちへ呼びかけた。
「手を貸せるものは我の指示に従い防衛線構築を頼む、この拠点を決して落とさぬために」
「わ、わかった! 何をすれば良い!」
 消火活動をするスタッフを守る必要がなくなった僧兵が尋ねてくるが、オジヴァンにゆっくり答えている時間はどうやらなかったようだ。新たなドゥーベン・ウルフ・ライダーが二人がかりでオジヴァンへと射撃をしかけてくる。
 なんとか二本の剣で撃ち落としにかかるも、何発かは身体に銃弾がめり込んでいく。
「ドゥーベン・ウルフ・ライダーは我が抑える。ガイアドニスのはったトラップの内側へ逃げ込むのだ」
 一瞬でも時間が稼げるなら、その間に取り返せる。こちらとあちらの戦力差はそれほど開いているとは思えない。つまりは、余計なものに手を伸ばしている暇はあちら側にもないということだ。
「物資の運び出しを終えたら安全な場所へ隠れよ。敵は――」
「敵は私達が片づける!」
 オジヴァンへ更なる射撃が浴びせられようとした、その時。
 熱風がドゥーベン・ウルフ・ライダーたちを襲った。
 直後に現れた『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)。
 黒いビジネススーツを纏い二本の剣を握った身軽なスタイルだが、操る剣は集中した銃撃の『すべて』を弾き落としている。
「ほう……良い腕だ」
 オジヴァンが感心したように頷き、ブレンダは不敵に笑いながら彼に治癒の魔法をかけた。
「ここを抜かれて出る被害は想像もできない。
 なにより民が傷つくというのが看過できない。
 つまり私が戦う理由としては十分すぎるというわけだ」
 ブレンダはスッと背筋を伸ばすと、一旦銃撃をとめ左右に散ったドゥーベン・ウルフ・ライダーたちに意識を向ける。
 正面からの突破は不可能と判断したらしく、ブレンダの周囲をぐるぐると回って隙を伺い始めたようだ。チクチクと飛ばしてくる銃撃を剣で弾きつつ、ブレンダは目を鋭く光らせる。
「私が戦うのは戦えぬ誰かを守るためだから、な」
 瞬間。完全に背後をとったドゥーベン・ウルフが飛びかかりブレンダの首筋めがけ牙をむ――いた瞬間。素早い後ろ回し蹴りによってドゥーベン・ウルフの顎に革靴がめり込む。タダの靴ではない。鉄板を仕込んだそれによる蹴りはメイスで殴ったそれに等しく、ドゥーベン・ウルフは下顎を砕かれだらんと顎をおとす。
 より酷いのは騎乗していた兵のほうだ。急に減速したために放り出され、地面をころがった。
 頭を打ったらしく血を流してうめくが、兜の下から歯を食いしばって立ち上がる表情が見えた。
 せめて一矢報いようとか、銃口がブレンダへ向く。
 が、それより早く兵士は一発の銃声によって力尽きた。
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が『蛇銃剣アルファルド』によって射撃をしかけたためである。
 蛇頭方の銃口部分を引っ張って開くと、コイン束状の弾を装填。叩いて閉じる。
「『正しさ』の在り方がヒトにより異なるもの。その範囲を規定するのが法であり、教義である……のかもしれない」
「?」
 小首をかしげるブレンダに、アーマデルは『独り言だ』とかえしてから振り返った。
 ドゥーベン・ウルフ・ライダーがスタッフたちが逃げ込んだエリアへ駆け出したのを見たためだ。
 アーマデルもまた素早く走り出す。その俊敏さは砂漠を吹き抜ける風のようで、ドゥーベン・ウルフ・ライダーもまくことはできないと判断したのか銃口を向けてくる。
 撃ち込まれる銃撃――は、あえて避けない。
 肩に銃弾をくらったアーマデルはそのまま『英霊残響:逡巡』を奏でた。
 目に見えてドゥーベン・ウルフ・ライダーの動きが鈍り、そこへ『蛇巫女の後悔』を撃ち込む。要するに神酒を塗った『蛇鞭剣ダナブトゥバン』を蛇腹状に伸ばして斬り付けたのだ。
 機動力を殺されたドゥーベン・ウルフ・ライダーを、逆に機動力によって翻弄し始めるアーマデル。
 周囲を飛び回りながら次々に斬撃を入れ、最後には騎乗した兵士の頭部を蹴りつけることで無理矢理転落させた。
 トドメだ。そう思った矢先、激しい炎がアーマデルを襲う。
 バスターレックスの炎だ。
 ブレンダが『危ない』と呼びかけるが炎はたちまちアーマデルを覆い――尽くさなかった。
 立ち塞がり、祈りの姿勢をとる『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)によって球状に展開した聖域によって本保尾が阻まれたのである。
 ンクルスの魂に刻まれた定型文(スクリプト)によって発動した『原初の祈り』だ。
「大事な兵站を狙うとは本当に悪い人だね!
 そんな悪い人にはシスターの私がしっかり天罰!」
 ンクルスはバスター・レックスの続く尾による打撃を自らのボディで受け止め、逆にその尾をキャッチした。
 大きさの差は大人と子供のそれより酷い。が、ンクルスはいかなる力によるものかバスター・レックスを持ち上げ、振り回し、そして放り投げてしまった。
「皆に創造神様の加護がありますように!」
 ぱしぱしと手をはらいながら祈りの言葉でシメるンクルス。
 すぐに立ち上がったバスター・レックスが炎を吹き付けるが、ンクルスは構わずまっすぐに突入していく。
「接続――ゴットクロー!」
 突き出す腕は大気に接続され、巨大な透明な腕となってバスター・レックスの頭部を掴む。
 炎の向きが無理矢理変わり、天を炙るように焼いた。
 装甲の硬いバスター・レックスをンクルス一人で倒す事は確かにできない。しかしバスター・レックス側もンクルスを容易に倒すことはできないようだ。
「その馬鹿力なシスターは放っておけ! お前は倉庫の破壊に――」
「させないのですよ!」
 指示を飛ばそうとしたケヴィン少佐へ、高高度からの急降下突撃がしかけられる。
 『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)によるものだ。
 咄嗟に飛び退くケヴィン少佐だが、彼の立っていた場所には軽いクレーター状の破壊がおきていた。
 地面に突き立てた剣を引き抜き、後光を放ちながら剣を突きつけるブランシュ。
「グロース将軍はそんなに偉大ですか?
 革命派を騙り、人々を襲い虐殺する……そんな名誉が貴方は欲しいのですか?」
「なんだと?」
「今一度お考え下さい。後世に語り継がれる名誉はそれでいいのか!」
 ブランシュの呼びかけは、普通ならば掃いて捨てられるようなものだ。戦いの場に話し合いなど、と斬りかかってもいいだろう。しかしケヴィンはブランシュの言葉を無視することができなかった。不思議な説得力に、言い返さねばと頭を回す。
「名誉だと? 弱者が群れ、弱者に称賛される名誉にどんな意味がある。
 グロース将軍はこう言っていた。『人類はバルナバスになるべきだ』と!」
「何を……」
「強さは全てに代替される! 貴様等とて、その暴力をもって革命派を守ると抜かし、この私に牙を剥くのであろう! ならば暴力が全てとなるこの国になんの不満があるか!
 全ての人類がバルナバス皇帝陛下のように強くあれば、国は栄え富むだろう!」
「強くなれぬ人もいるのですよ。パンを焼く職人は、小麦を育てる農夫は、強者が生きていくには必要なのですよ!」
「そんなものは不要だ! 弱者は死ねばいい!」
「過ちを正し、英雄として蘇ったと語り継がれる。そんな伝説を刻めるのですよ!?」
「ああ刻むとも! 弱者を救うなどという過ちを正し! 我々も『バルナバス』となって伝説を刻むのだ! 貴様もそうすればいい! 今すぐその無力な豚共を焼いて食い、君臨すれば良い!」
「そんな伝説が何になるですよ!」
 ブランシュは吠えた。そして、ブースターを噴射し殴りかかる。
「決めました。ブランシュは革命の聖女となる。
 同志達と共に旗を掲げる者となりましょう」
「アナスタシア気取りか、小賢しい!」
「いいえ、聖女に『続く』のです!」
 パワーではブランシュが勝っていた、ケヴィンは派手に吹き飛ばされ、地面を転がる。
 追撃を逃れるべく走ってきたドゥーベン・ウルフ・ライダーにつかまり離脱するが、それを『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)はしっかりと狙っていた。
 銀色の矢が走り、ドゥーベン・ウルフ・ライダーの騎乗兵へと刺さる。
 腰にささったそれを抜こうと掴んだ兵めがけ、アッシュは素早く接近をしかけた。
「冬を前に抵抗勢力の兵站を叩く。
 実に効果的、効率的作戦かと。故に、其れを実現させるわけにはいかないのですが」
 弓の前面についていたカバーを外し、刃部分を露わにする。弓によって斬り付けるという大胆なその行動に、兵士は思わずライフルを翳して防御した。
 いや、してしまったというべきか。
 アッシュの撃ち込んだ弓は刃を銀色に発光させ、兵士のライフルを切断してしまう。
 その勢いのまま、相手の鎧をも切り裂いた。
 血を吐き転落する兵士。ケヴィンは舌打ちし、ドゥーベン・ウルフに騎乗した状態でアッシュに拳銃を向けた。
 発砲。アッシュは素早く首を動かし、靡く髪だけを銃弾が抜けていく。
 アッシュは空に飛ばした鳥からみた視覚情報を片目でうけとり、他のドゥーベン・ウルフ・ライダーたちが物資とスタッフの避難場所まで届いていないことを確認する。
「もはや諭す言葉等不要でしょう。
 貴方は此の状況を愉しんでいる。
 ならば、わたし達は其れに抗うまでです」
 ケヴィンはアッシュから遠のくようにドゥーベン・ウルフを走らせる。
 弓に矢をかけ、アッシュは狙いをつけた。
「こんなことが続けば、皆共倒れになる筈なのですが。
 新皇帝は其れすらをも望んでいる、とでも云うのでしょうか」

「バスター・レックス! 建物の破壊はいい、リミッターを解除しろ!」
 ケヴィンがそう叫ぶと、バスター・レックスは咆哮をあげた。
 抑えていたンクルスが思わず飛び退き身構えてしまうほどの。ただでさえ凶悪にみえた目は赤くギラリと光り、全身を覆っていた装甲は部分的にパージされ動きがより機敏なものへと変わる。
「新皇帝派の将校よ、汝は強き者ぞ。
 故に我が貴公を倒せずとも立ちはだかるのだ、汝にいくつもの縛りを設けて止めさえすれば。爾に終わりが来るまで我と相対そうぞ」
 ドゥーベン・ウルフ・ライダーの対処を終えたオジヴァンが駆けつけ、剣を抜きバスター・レックスへと挑みかかる。
 放射される炎はそのままだが、走る速度とその勢いはそれまでの比ではない。
 オジヴァンは防御しつつも派手に吹き飛ばされ、それをブレンダがキャッチした。
「ここは力を合わせるべきだ。ヤツにBSは効きづらいとみた。防御を突破する手段はあるか」
「必中の技がある」
「それでいこう」
 オジヴァンは『享楽のボルジア』を発動。フランベルジュ方の剣に黒い微光を纏わせると、再びバスター・レックスへと斬りかかる。
 装甲に弾かれる――が、纏ったオーラは確実にバスター・レックスへと浸透した。
「毒が効くかは運だ。しかし――」
「抵抗している隙を突くことはできる」
 ブレンダは暴風を纏った剣を叩き込むことでバスター・レックスの装甲をを破壊。
「政治だなんだに興味はないが……貴様らの諍いに民を巻き込むな」
 そこへアーマデルとブランシュが全く同時に強襲を仕掛けた。
 装甲をはいだことでうまれたごく小さな隙。そこをアーマデルの蛇腹剣とブランシュのブーストアタックが同時に突き刺さったのである。
 悲鳴を上げるバスターレックス。振り払おうと暴れ、実際にアーマデルたちが振り払われたが、アッシュはその隙を実に見事についた。
 銀の矢が放たれ、バスターレックスの目を貫いたのだ。
「行きますわよ!」
「ええ!」
 ヴァレーリヤとガイアドニスが助走を付け、屋根から飛ぶ。
「「どっせえーーい!!!」」
 ヴァレーリヤや炎のメイスを、ガイアドニスはその辺に落ちていたスコップをバスターレックスの頭部へと叩きつけた。
 そしてついに崩れ落ちるバスター・レックス。
 ケヴィンは逃げだそうと走るが……。
「おっと」
 ンクルスはそんなケヴィンの足を払って転倒させると、その背を踏みつけた。
 同じくブレンダも踏みつける。
「踏まれるのが好きなんだったかな?」
「足をどけろ! 貴様等に踏まれて喜ぶ者など――ぐお!?」
「このまま踏み抜いても構わんが」

 最後にはケヴィンは投降し、捕縛することに成功した。
 彼もそれなりの地位だ。今後のグロースによる計画を吐き出させることができるかもしれない。
 イレギュラーズたちは一度破壊されてしまった拠点をある程度修復しつつ、補給任務を継続するのだった。
 その中で、ぽつりと。
「アミナ……あの子は大丈夫だろうか」
 ムラトは心配そうに、そう呟いた。

成否

成功

MVP

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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