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シナリオ詳細

<夏祭り2020>西紅花の誘い

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 サフラン――彼女は嘗て神隠し事件でその姿を消した混沌『大陸』の少女である。
 神隠し事件について調査隊をペリカ・ロズィーアンが編成した際に、専門家として呼ばれた神召の巫女。曰く、沈んでは昇る太陽を再生や不死、豊穣の象徴として崇める古い信仰における主宰一族の娘であり今代の神子だそうだ。田舎特有の土着信仰の象徴であるのだが、彼女はそう言った以上に詳しい事で調査隊に加わっていた。
 ――が、神隠しで姿を消した。それ以上も、それ以外もなく。その結果だけを残していたはずだったのだ。

「でらうみゃー」
 その手にはタピオカドリンクを。神ヶ浜にタピオカを流行させた新時代の発起人となっていたサフランは神隠し後、黄泉津の此岸ノ辺へと召喚され何不自由ない生活を送っているらしい。
 旧『絶望の青』――今や『静寂の青』と呼ばれる――かの大海を踏破せし、先遣隊が至った東方の島『黄泉津』と海洋王国との合同開催であるサマーフェスティバルは特異運命座標にとっても、そして、サフランにとっても新鮮であった。
「わしは何となく鬼人種達と遊んでしもーたから、人種差別的な? はあんまり気にしてにゃーよ。けど、そういうのがあるってのは住んでみればよぉ分かる」
 今は其れを気にしても仕方がないというのは、先まで治世を行っていた霞帝が眠りにつき、巫女姫と天香が頂点に立っている状態では其れを覆す事は難しいだろうというのがサフランの――ふわっとした認識での――考えなのだろう。
「けど、気にしてても仕方ないにゃー。どぎゃーするのがいいかっていえば――パーティーだぎゃ!」
 ――え?

 カムイグラと海洋王国の合同開催である夏祭り。其れを大成功させる事こそが海洋王国との和平につながる事は確かだ。その裏の思惑を考えても意味がないと、サフランは言った。
「祭りは祭り、その他はその他だぎゃ。今は目いっぱいに楽しむのが良いにゃー」
 振り仰いだサフランの背後、どどん、と大きな音が響く。
 祭り太鼓が音鳴らし、からんからんと下駄を鳴らすものが歩き回る。
「さ、祭りだにゃ。あ、くれーぷ? も美味しいらしいんよー。行こぉー」
「サフラン、海でも遊べるらしいぜ。夜の海って神秘的だよな」
 にこりと微笑む月原・亮(p3n000006)の言葉にサフランは頷いた。
 今日は楽しいことばかり――さあ、夏祭りを楽しもう。

GMコメント

 夏祭りの時間ですよ。ぴゅーひゃらら。

●できること
【A】~【C】から1つセレクトしてプレイング冒頭にご記載ください。
また、グループ、誰かとという場合はIDの指定か【グループタグ】の指定を二行目に入れてください。
 浴衣着用時、参照イラストがある場合は『今年の!』『●●絵師の!』などのご指定でもOKです。

【A】屋台を巡る
 神ヶ浜の祭り会場での屋台を巡れます。射的やくじ引き、りんご飴に綿菓子、焼きそばなどなどオーソドックスなものやタピオカ、クレープなど。
 酒類を販売する屋台もあります。勿論年齢確認アリ。未成年には代わりのジュースも販売してますよ。
 また、『蹴鞠パーリィ会場』というのがあります。蹴鞠で相手に勝利すると景品がもらえるとか……。

【B】花火を眺める
 屋台の並びから花火を見つめる事ができます。屋台でおつまみなどを購入して食べ歩きなんかいかがでしょうか?

【C】夜の海に遊びに行って見る
 海開きの済んだ神ヶ浜のビーチで遊びまわる事ができます。
 水場で遊ぶ際はよければ水着を着用しちゃってください。夜の海は冷たいですが、神様のご加護があるのか不思議とすごしやすいのです。

●NPC
 当シナリオにおいてはNPCはお名前を呼んでいただけましたら登場する可能性がございます。お気軽にお声かけくださいませ!
 ご希望に添えないNPC(各国の有力者など)は登場できない場合がございます。その場合は申し訳ございません。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • <夏祭り2020>西紅花の誘い完了
  • GM名夏あかね
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年08月06日 22時37分
  • 参加人数50/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(50人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
秋月・キツネ(p3p000570)
でっかいもふもふ
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
古木・文(p3p001262)
文具屋
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
弥狐沢 霧緒(p3p001786)
傾国邪拳士
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
剣崎・結依(p3p005061)
探し求める
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
薊の傍らに
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
シグレ・セージ(p3p007306)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
薫・アイラ(p3p008443)
CAOL ILA
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
豪徳寺・芹奈(p3p008798)
任侠道

リプレイ


『絶望の青』と呼ばれた混沌世界の大きな水溜まりでの戦いを経て――辿り着いたは黄泉津、カムイグラと呼ばれたその国は今夏、海洋王国との『サマーフェスティバル』の合同開催を行う事とした。
 神ヶ浜まで続いた道は楽しげな声が弾んでいる。様々な屋台が立ち並び往く人々は浴衣に身を包む。刻の流れさえ穏やかに思わせたその中で初めて訪れる新天地を見回して縁は自然に緩む頬を抑えられない。
 どこか落ち着く長閑な風景に、海洋では見かけない酒の並んだ屋台をまじまじと眺めれば、その背を追う蜻蛉を振り返る。
「その内こっちの酒も仕入れたいねぇ。嬢ちゃんはどれが好みだい?」
「うちは……あの青い綺麗な瓶のが好きやわ」
 右手には林檎飴。空いた左手が少し寂しい――けれど、何時もより近い距離は縁にとって『ほんの少し前から』気にならない位置になったのか。
「ねえ」と蜻蛉はその手を引いた。
「お酒もええけど……今年の浴衣はどない? 可愛らしでしょ
「可愛いってのはわからねぇが…綺麗、だと思うぜ。そういう色も似合うな、お前さん」
 きょと、とした表情。屹度濁して無かったことにすると思ったのにと蜻蛉の頬が朱色に染まる。行き交う人混みに攫われぬようにとその手を握りしめて、歩き出す。
 待ち焦がれたその時間に目頭がじわりと熱くなった。けれど、その手は離さない。振り向くことのない彼の背に蜻蛉は小さく笑った。
 浴衣は着たことがないけれど、本場となれば気分が高揚するとからんころん下駄鳴らす。
「ごめんなさい。下駄は履き慣れていなくて」
 人にぶつからないようにと引き寄せられてアンナは結衣を見上げて肩を竦めた。浮かれていたかしら、なんて呟いて建ち並ぶ屋台の中を巡っていく。
「アンナは気になる食べ物あるか?」
「お勧めのものはあるかしら。お金は私が出すから気にしなくても良いわ」
 その言葉に結衣の表情がぱあ、と華やいだ。腹にたまりそうな物と考えていた彼は焼きそばと考えていたが――アンナが一人前は食べられないと言うならば、これほどに嬉しい物はない。
「あの白いふわふわしたものは何かしら?」
 アンナの視線の先の綿飴は一つ分購入。ちびちびと食べる彼女をじい、と見遣った結衣にアンナは「一口どうぞ」と差し出した。大きな口を開けてあーんとそのままあんなの指までばくりと一口。
「と、悪い」
 ついついと指を齧った結衣にアンナは小さく笑った。もう一つ買いましょう、ソレか他の物でも、とおなかをいっぱいに出来る物を探して歩き回る。
「ここ最近は薄味が多かったからのう……。
 屋台に舶来の物品、妾はじゃんきぃなものやすいぃつがたぁっぷり食べたい。
 皆まで言うなキツネ! 二人で美味を食い尽くしてくれようぞ!」
 そう堂々と言った霧緒へとキツネは大きく頷いた。色々食べてみましょうと意気込むキツネもやる気たっぷりだ。
 適当な所で何か食べようと凄まじい量を抱えた二人。その様子を眺める鬼人種の青年達は蹴鞠大会に参加しませんかと問いかけた。
「あら、キリオ、行くの?」
「無論。景品が出るとなればやるしかないな!」
 やる気漲らせる。アクロバティックな蹴鞠アクション、しかと見よ――!
「これが噂のタピオカ? 単体で売っている訳ではないんだね。うん、喉が渇いていたから丁度良かった」
 文がゆらゆらとカップを揺らせばその中で『タピオカ』が揺れている。メロンミルクを手にしたイーハトーヴは蹴鞠で体を動かした後だから余計に美味しいはずとストローに口を付けて――
「……! わ、わ、黒いつぶつぶがずずずって来て、むにってなる! これがタピオカなんだね! うわー、すごいなぁ……!」
「ゼリーみたいな食感かと思ったけれど、意外と弾力性に富んでいるな」
 無難なミルクティーをセレクトしたけれど、他のも良かったかなとメニューを見返す文はイーハトーヴの反応に小さく笑う。
「それにしても、蹴鞠、難しかったねぇ」
「蹴鞠、簡単そうに見えたんだけどねぇ。
 うーん、上手な人は靴の横面を使って毬の飛ぶ方向を調整していたり、膝を使って体勢を立て直したりしていたよ」
 前に飛ばない、と肩を落としたイーハトーヴを励ました。文の観察を参考にすれば次だって屹度とイーハトーヴは瞳を輝かす。
「うー……俺、再挑戦したくてウズウズしてきちゃった。
 飲み終わったら、もう一回パーリィしに行かない?」
「よし。それじゃあもう一度、パーリィしにいこうか!」


 まるで花火の様に着こなした浴衣で咲耶は花火のためのつまみとなる物を探して夏祭りを巡る。
「綿菓子に焼きそば、串カステラにえーっとこの黒い粒粒のこれは『たぴおか』と読むのでござるか? ふぅむ、聞かぬ名前でござるなぁ。ならば店主よ、これを一つ」
 そう告げて指さしたのはタピオカ。どうやら店主もまだ慣れぬ様子なのだろう。ミルクティーで良いですかという問いかけに咲耶葉取り敢えず頷いた。ストローで『紅茶』を吸い上げれば口の中にいくつもの不思議が入り込む。
「この何とも不思議な感覚、中々楽しいでござるな『たぴおか』とやら!
 ふむふむ、これを広めたのはあのサフラン殿? はっはっは!
 ――どこにおられるのかと心配していたがどうやらご無事の様で何より。どうやら神隠しも悪い事ばかりでは無い様でござるな!」
 咲耶が笑う声にひょこりと顔を出したサフランは「面白いにー」とへらりと微笑む。太陽信仰の巫女。今代の引きこもり今時少女は神隠しに遭ったにしては明るく元気だ。
「サフラン様サフラン様! ご一緒お願いしてもよろしいですかしら!
 わたくしまだ豊穣は不慣れです故、宜しければサフラン様にご指導をば……」
 ちら、ちらとサフランを見遣るタント。その視線ににまーとサフランは笑みを浮かべた。
「何処に行くかにー? 太陽ちゃん食べたいものは?」
「えと、たこやきいかやきやきそば、わたあめりんごあめかき氷! 豊穣は美味しい国ですわねー!」
 ぺかーと輝くタントにサフランは楽しげにからからと笑う。どうやらサフランからの『ウケ』はばっちりだ。蹴鞠パーリィを行うというサフランについていくタントは初めてのことに四苦八苦。
「ちょあっ! ……あら? んぬぬぬ……ちょあー!」
 発光。目眩ましとなって落ちていく蹴鞠にサフランは腹を抱えて笑った。ちなみに、反則なのである。
「やっぱりこういう雰囲気は懐かしいな。
 こっちの世界に来る前はうちの神社でも年に何回かやってたのを思い出すや」
 周囲を見回す焔は菊や花柄の浴衣を身に纏い周囲を見回した。ぽよん、と花火を思わせる水風船を手に遊ばせて焔が辿り着いたのは――
「『蹴鞠パーリィ会場』?」
 異様な雰囲気を思わせる蹴鞠会場は蹴鞠で勝てば商品が貰えるという。よく分からないけれど、面白そうと心を躍らせて、普通の蹴鞠ではなくアクロバットの技能を駆使したちょっぴり変わった蹴鞠アクションを見せつけていく。
 その様子に鬼人種と――何で居たのか分からない蹴鞠スト怨霊達が沸き立った。
 カムイグラの祭り囃子は心地よい。響いて、わくわくと胸を騒がせる。鮮やかな花を避けた浴衣に身を包みからころと下駄を鳴らしたメイメイは羊模様の内輪片手に何処へ往こうかと周囲を見回した。
「お祭り、といえば、屋台……です」
 ふんす、と食べ歩き。けれど、一人では限度があるから――と亮を見つけて手招いた。
「荷物持ちするよ。何が食べたい?」
「そう……ですね……ゆめかわ綿飴、ちょっと焦げた焼きそば、甘酸っぱいりんご飴、もちもちの磯辺焼き、クリームたっぷりクレープ……
 甘いモノ、しょっぱいモノ、バランス良く。まさにワンダーランドです、ね」
 凄い食いっぷりとからからと笑う亮にメイメイは「少し、如何……です?」と首を傾げる。二人して沢山の食べ歩き。ふと、メイメイが目をとめたのは蹴鞠パーリィ会場だ。
「月原さま、蹴鞠パーリィ、です。ふふ、あれは、楽しいゲームでした、ね」
 脱がされたけど、と呟く彼女に亮は可笑しくなって小さく笑った。それじゃあ、後で蹴鞠を見に行こう。
 リヴィ、とニアは手を振った。タピオカを片手にずるると吸い込んだリヴィエールは「遅いっすよー!」と楽しげに笑みを浮かべる。
「折角だし屋台を回ろうと思ってさ。……しゃ、射的は、あたしは良いかな。
 ほら、向こうに蹴鞠パーリィ会場があるし。勝つと景品が貰えるらしいからさ。今日の記念にサクっと取ってくるよ」
「ニアって蹴鞠出来るっすか?」
 ぱちり、と瞬いたリヴィエールにニアは得意げに「まあね」と鼻をならした。鎧武者を相手に蹴鞠パーリィを行ったことはある。並の蹴鞠ストと比べればその実力も高いはずだと自負がある。
「――っと、大人げないかも知れないけど本気でやらせて貰うよ」
 蹴鞠ストとして出陣していくニアにリヴィエールは応援の声を掛けた。
「さぁ珠緒さん、気合入れていくわよ。ボクはまずあの綿あめからね! 珠緒さんは?」
 手を繋いでわくわくと心躍らせる蛍へと珠緒はうん、と悩んで見せた。
「珠緒は……そうですね、あの棒のついた林檎のお菓子を」
 二人して日常を謳歌する。蛍にとっては召喚前はこうした夏祭りに毎年遊びに行っていた。家族やクラスメイトと共に歩き待ったその思い出が不思議と楽しかったとはっきり思い出せて――
「きっと、親しい人と非日常的な空間にいるのが、嬉しかったんだろうなって」
「非日常の嬉しさ、楽しさですか……何となく、わかります。
 普段過ごしている家や街とは、違った空気がありますものね」
 珠緒にとってはお祭りは蛍と共に過ごす物。友人や家族と過ごした経験がこうして珠緒を『エスコート』してくれるのだと感じればその経験が生かされることを感じて珠緒は笑う。
「よろしければ、沢山の思い出のお話、聞かせてくださいね」
「うん。あ、だから、ボクは今、とっても楽しくて、嬉しくて、幸せを感じてるのよ。
 愛する珠緒さんと、こんな賑やかなお祭りを堪能できてるんだもの……ね」
 頷く。今日のお祭りを目一杯に楽しもう。それじゃあ、次は――『くじ引き』で運試しだ。


『豪徳寺組』としてシノギをやっている部下への見舞いや見回りを行う美鬼帝と芹那の二人。
 その『仕事も』そろそろ一区切りだ。親子で飲み比べというのも悪くないだろうと微笑む美鬼帝は杯を手に「行くわよ~」と愛らしく微笑んだ。
「……ふむ、やはり祭りの時の酒は尚更美味い。まあ酒は大体美味しい物ではあるが」
「そうねぇ~♪ 特に祭りの時は皆が楽しそうだから更に美味しく感じられるわね~。
 芹那ちゃんもお酒を堂々と飲める年齢になって……もう二年なのね……。ママ、感慨深いわ」
 頬に手を当てて、薫も――芹那の母も、そう思っているはずと微笑む美鬼帝に芹那はにい、と笑った。
「……しかし親父殿とこうして酒を飲み交わせるのは久々ではあるさね……どちらが酒飲みに相応しいか、一つ勝負をしないか?
 くっくっくっ! 思えば親父殿とこうして勝負をするのは久方ぶりか!」
 久方ぶりの勝負となれば親子で盛り上がるのも仕方が無い。そうして――豪徳寺親子の酒宴は祭りが終わるまで続くのだった。

 \ビバッ、お祭りっ!/

 花丸はエルピスの手を引いた。浴衣に身を包んだ花丸は「どうどう? 似合ってる?」とエルピスに問いかける。
「とっても、似合ってます」
「ふふーん! エルピスもかわいーよ!
 んーっ! イイね、イイねっ! これぞ夏のお祭りって感じでとってもヨシっ!」
 びしっと指し示したはなまるにエルピスはくすくすと笑った。初めてのお友達とお祭りを過ごせるのが嬉しいと微笑んだ彼女に手を引かれ、エルピスは「何処へゆきますか?」と首を傾いだ。
「屋台を回ろう! はぐれないようにしようね」
「はい。手を離さないで下さいね」
 勿論と笑って。お祭りは楽しい。皆笑顔で、皆楽しげで。――心も躍ってくるから。
「祭っつったら、やっぱ屋台巡りだろ。いやー、まさかこの身で巡れる日が来るとはな。召喚さまさまだぜ、ホント」
 升麻は何処から巡っていこうかなと周囲を見回した。屋台を全種制覇するには先ずは射的などからだ。食べ物を巡るならば腹がきっちり空くまでは我慢の子なのだ。
「……って、なんだ。蹴鞠パーリィ会場?
 おうおう、面白そうじゃねぇか。これは参加しねーとな!」
 ぽん、ぽん、と音を立てる蹴鞠。長期戦に持ち込めばこっちのもんだと升麻は主人公的ににいと笑った。
「――時間が経つほどに調子が上がるタイプだからな、僕は」
 腹がるまで蹴鞠を楽しんで、そのあとは食事をたっぷり。此れが一番のコースだ。

 どうせなら花火を打ち上げたいわ、とイナリはミニ五号球セットを打ち上げ続ける。
 どかんと一発、特注品の花火はひとつひとつが美しく花咲くのだ。
 屋台で買い込んだ食事を手に、「行くわよ」と花火を打ち上げた。
「どうかしら? えっへん」
 自慢げなイナリに周囲の鬼人種達が素晴らしいと手を叩く。さあ、次の花火はどのようなものだろうか?
 遮那君はいないかな、と朝顔は周囲を見回した。彼も『お役目』があるのだろうと沢山買った食べ物をもぐもぐと食べながら中央で職務に励む彼の姿をちらりと見遣る。
(とはいえ、遮那君に話しかけるのは怖い……!
 はじめましてだし、そもそも嫌われる為にヤンデレ演じなきゃだし!
 だから、そう! それとなーく近くにいる感じで……! あれ? ……これを人は『すとーかー』とか言うんじゃないだろうか?)
 其処まで考えてから朝顔は首を振った。遮那が楽しげに笑っているだけで幸せになれる。
 けれど――彼の兄は魔種だ。その兄を滅するとき、彼は、絶望するのかも知れないと、そう思えば自然に涙が零れ出た。まだ観測されぬ未来がどうなるのかは分からないけれど。

 未散セレクトのサギソウの描かれた着物を身に纏いヴィクトールは何時もより低めのヒールでしっかりとした足取りで進む。サガリバナで描かれた浴衣でからりころりと下駄を鳴らす。
 疲れてしまった、と吐いた弱音は雑踏に掻き消えた。見えないかしら、と顔を上げた所をふわり、と抱き上げられる。
「足もお疲れでしょうし、僕が抱えれば見やすいでしょう?
 ――と、どうですか、チル様。花火、見えます?」
 ぱちり、と視線が交わった。彼の肩から見た空の花はとても美しく、そっと未散は手を伸ばす。
「此れがあなたさまが何時も見ている景色なのですね
 ――まるで、あの空に咲く花に、手が届きそうだ」
 普段の視線の高さ、と微笑むヴィクトールは空に届くのだろうかと美しい花を救わんと指先のバス。
「手が届くようなら手折ってお渡しできるのですけれどもね」
 花火を束ねて一つのブーケにすれば、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫……きんいろに、ぎんいろに煌めいて見えるだろう。
「ああ、夜空に燃えるそれは花の如く。命を燃やして、華となって、眩闇に散るのだ。それの、なんと儚いことでしょうか」
「けれど、そう――屹度、眺る人が居るから幾たびでも咲けるのでしょう」
 あの空の花盗むことは出来ないけれど――それに届いたならば、どれ程美しい花束になるのかと、二人揃って小さく笑みを零した。




 からりころりと下駄を鳴らす。花火が始まってしまうと急かすルアナの後ろをゆっくりと歩むグレイシアは「おじさま」と自身の袖引くルアナに首傾ぐ。
「足痛い」
「ふむ……下駄は履き慣れんか…仕方ない」
 足が痛い、と告げる彼女を見下ろして、幼い少女のその身を背負うのが良いかとグレイシアはしゃがむ。しかし――反応はない。
「ルアナ? ……花火のついでだ、足が痛いなら背負って行こうかと思ったが……不要だったか?」
 その言葉に何度も瞬いた。本当に、おぶさってもいいの、と問いかければ頷き返される。本当のおじいちゃんみたいだと何時もより高い目線で『おじさま』の背に揺られる。
「折角の花火だ。観やすい状態で観るに越したことはあるまい」
 何時もより高い視線で、傍にあるぬくもりにどうしてか泣きたくなった――そのぬくもりが続く内に噛みしめなさい、なんて。もう一人の『私』が囁いたから。

「リズ……――じゃない、ファーレルご令嬢」
 そうカイトはリースリットに声を掛けた。今まではリズと呼び仲の良い友人同士のように振る舞っていたが彼女が婚約したと言うのだから誤解を生みやすい行動は避けたいと心がけた。
「花火。綺麗ですね」と素っ気無く呟く彼にリースリットは「はい」と静かに答える。居心地が悪い――そう感じたのは間違いなく自分のせいなのだけれど、とリースリットはギコチナク笑みを浮かべた。
「……この国も問題は有るようだれど。それでもこんな風に、お祭りで人々が笑い合えてます。きっと霞帝の治世は良いものだったのでしょうね」
 統治するものが悪ければ、それは失われていってしまうもの。そんなことを考える貴族は特異なのだけれどとぎこちない笑みを浮かべたリースリットに「君の考え、俺はとても好き」と頷いた。
「私は……こうしたものを守りたいと、思っています。
 その為に出来る事……何が一番いい方法なのかは、難しいですけど。
 ――カイトさんは、お家を再興して……守りたいものとかあるのですか?」
「俺は強欲なので国も領地も世界さえ護りたい。
 今も、例え再興しても、やりたいことも夢も変わらない。
 誓ったんだ。……父の炎に焼かれた男に、誰かが不幸になるなら俺はその倍、幸福を守ると」
 けれど、その両手の届く範囲は狭いから。イレギュラーズや騎士として戦い続け救い続け、小さな積み重ねを行える事が誇らしい。
「俺は、その積み重ねが今日のような誰かの笑顔になるはずと信じてるんだ。
 ……本当は君の笑顔も守りたかったんだけどな」
 呟きは――花火に飲まれた、そんな気がした。リースリットはどこかぎこちなく笑った。

「アルー、色々買ってきたよーっ」
 地上を泳ぐシャチのその背に乗りながら屋台に並んでいた食事を運んできたリリーの声にアルペストゥスは顔を上げる。前足でかりかりと砂を掻いていた彼はリリーの声に反応し勢い良く近づいた。
 リリーが選び抜いた屋台の食事に目線をとられるアルペストゥスに小さく笑みを浮かべ、「アルの体だと屋台の所はちょっと邪魔になりそうだもんね」と小さく笑う。
「まあいっか、花火、楽しも!」
 リリーの言葉にアルペストゥスはゆっくりと顔を上げる。どん、と破裂音が聞こえてアルペストゥスは驚いたようにリリーへと視線を向けた。
「わー、綺麗だね。花火っていうんだよ! いろんな光がアルに反射して、こっちも綺麗になってる……!」
 まるで地上の花火だ、と笑うリリーは「たーまやー」と楽しげに手を振った。
「グオオオオウッ! グォォォォウッ!!」
 真似をするように――花火を愛でる想いを口にした。光を纏った地上の花は何処までも楽しげに。

「去年は海洋だったけれど、こうしてお祭りに来たわね」と小夜は柔らかに微笑んだ。
 朝顔柄の浴衣はフィーネをイメージした物。フィーネはといえば小夜の名である白薊を身に纏う。
「ふふふ。海洋の次に、海の向こうのお祭りに参加するとは思いませんでした。今年も、たくさんの色々な事がありましたね」
「ええ」と小夜は頷いた。一年、色々あったけれど――戦いに挑む小夜とそれを待つフィーネ。どちらもが、今年の夏を共に過ごせたことに安堵している。
「お姉様の事は信じていますけど……今年の夏も、一緒に居られて嬉しいです。本当に。
 花火も、お姉様に見せられないのが残念なくらい、素敵です。
 こうしてずっと、この時間が続けば良いのに……なんていうのは、ちょっぴり贅沢ですね」
「ふふ。私には花火は見えないけれど、音と、楽しげなフィーネで満たされるわ」
 そう囁く声に、フィーネは覗き込むように微笑んだ。その視線を受け止めれば、小夜は嬉しくなってしまうから。
「また来年も、そのまた次もその次も……楽しい時間を過ごせると、信じています」

 海がよく見えるベンチに腰掛けて、京司は傍らのヴォルペに視線を送った。彼が買ってきた海鮮焼きと焼きそば、後は麦酒を並べれば大人の晩餐のスタートだ。
 食べたいとねだられればつい――というのはお願いを聞くのも甘やかすのも好きなヴォルペらしい。
「コンテストで見せあったが、選んで良かった。似合う、その柄」
「君はいつも可愛らしいけれど、浴衣を着ているととても色っぽいね。おにーさんそういうの、好きだよ」
 あーん、と京司はそっとヴォルペの口へと海鮮焼きを運ぶ。照れを隠すように目を閉じて耐える。優しく囁く言葉がむずがゆく感じてしまう。優しい夜風に揺れながら京司は静かに息を吐いた。
 冷えると駄目だから、そろそろ帰ろう、とそっと腰を抱かれる。彼を見上げてから京司は「あげる」と射的で手に入れたもふもふとしたウサギを押しつけた。


「海だー! せっかく今年も新しい水着を仕立てて貰ったし、ビーチに繰り出しちゃうよーっ!
 今日は折角のお祭りなワケだし、踊り子はちょっとお休み!」
 そう言って、浜辺でスーはぱしゃりと踊る。風の音、波の音、総ての自然の音を身に纏い踊り続ける。
 神ヶ浜は神様の加護がある、や、神様の通い路であるとも言われている。ならば、神様に見せてあげると『休業日』だからと荒削り、何も考えずに踊り続ける。
(――思い返せば、色々あったからね。
 って言っても私、境界図書館に籠もってた時間の方が長い気がするけどっ!)
 そこまで考えてから口を押さえた。「はっ。流石に、異世界(ライブノベル)の方が有名って踊り子として不味いかなっ!?」なんて、自身で小さく笑って。
「……今日は目一杯おやすみ! 明日から頑張っちゃお!」
 だから――もっと踊っているから、見ていて、神様。
 折角の夏だからとアイラは美しい紅色のビキニ姿で笑みを浮かべる日傘は畳んで折角だからと海遊びだ。
「夜の海、というのは星明りも降ってロマンティックですけれど、少し怖くもございますわね」
 指先だけを海に浸せば、その冷たさが伝わってくる。運動は余り得意じゃないからと潮風と波音に心地よく揺られ続ける。
「戯れに、童心に帰って砂でお城でも作ってみましょうかしら?
 わたくし、お嬢様ですもの。わたくしの手にかかれば、どれほどささやかな砂上の楼閣でも、そこは豪邸ですわ。
 ふふ……今年はこのように一人で参りましたが、来年は、何方かとご一緒できますかしら?」
 美しい浜辺で、夏の祭りを楽しめれば――とそう願う。
 ラサで生まれたから砂には慣れていても、海には縁が無かったと鹿ノ子は楽しげに海を見回した。
 海で遊ぼうと彼に声を掛けてはみたが『兄上の代わりを務める』とそう言った彼は鹿ノ子の様子を眺めて居ると微笑んだ。
「遮那さんと遊びたかったッス……御役目もあるから大変そうッス……」
 天香家に生まれたからこそなのだろう――そんな彼も特異運命座標には好意的だ。また遊んで欲しいと声を掛けてくれたのだから、いつかはそんな機会に恵まれるだろう。
 浮き輪でぷかりと浮かびながら須磨浜に転がっていた貝殻の事をふ、と思い出す。
「拾った貝殻、あとで持っていきたいッスねぇ。少しでもお祭り気分をおすそわけしたいッス!」
 彼のことだ屹度喜んでくれるだろう。カラフルな可愛い水着姿の鹿ノ子はそうしようと力強くエールを送るように貝殻を探し続けたのだった。

「夜の海って結構危ないから、機会はうまく作らないと……と思っていたのだけど。
 ここは何やらいい感じにしてくれているっていうし、狙わない手はないわね」
 美咲の言葉にくるりと、新調した水着のパレオを揺らしたヒィロは「水着選びした時の約束、覚えててくれたんだ……」と嬉しそうに笑みを零す。
 揃いの水着は似合うようにデザイン違い。それを纏って二人で過ごせることが嬉しくて。
「わースゴい! 月明かりで波がキラッキラ! 美咲さんが言ってた通り素敵だね!
 あっ花火も映った! 夜の海がこんなに綺麗って気付けて、ボクすっごく嬉しい! ――美咲さん、ありがと!」
 花火の音に飲まれぬように笑みを零したヒィロへと美咲は「こちらこそありがとう」と微笑んだ。昼間の太陽とは違った魅力に、一人では楽しめない事も二人なら、と微笑んだ。
「……ボクね、今夜もう一つ気付いちゃったんだ」
 月明りの下、照らされる美咲の傍でそっと、彼女を見上げる。
「ボク、美咲さんのことが好き。仲良しのお姉さんとしてだけじゃなくて」
「ん? 私も、好きよ。お互い何時も――」
「……よくわかんないけど、このもやもやした気持ちは、たぶん恋って言うんだと思う……」
 こい、と美咲の唇が紡いだ刹那、ヒィロの頬に朱色が登る。
「え、えへっ。ごめんね、月の光でボク少しおかしくなっちゃったのかも。海で頭を冷やそーっと!」
 危ないと、追いかけて。ああ、どうしてか――二人とも水の中なのに暑くって仕方が無い!

 うんと背伸びした水着を身に纏って、くるりと回る。可笑しくはないかな、大丈夫かな、と緊張を滲ませて。
「……えへへ。『イザベラさまとソルベさまが、なかよくおまつりを過ごせますように』って、わたしたちのおねがい、かなっているといいね」
 エーリカのこと場にラノールは頷いた。空と海が仲良くありますようにと願いを込めた水着。そっと手を取ればまるで二つの種族が親しくしているかのようで。
「あぁ、今宵くらいはね。私達がそうであるように」
 くすくす笑ったラノールはエーリカが顔を上げたその仕草を追いかける。空に弾けた花火の残響が星に紛れて消えていく。
「綺麗だな。ほら、海にも花火が反射している」
 その光を追いかけて、そっと足先浸せば、ひやりとした冷たさが伝わってくる。そらを泳いでるみたいだと反射する花火の中を舞い踊る。
「ふふ、綺麗だよ。透き通ったヒレがよく見える。」
 大きな波に攫われてしまわぬようにと、そっとその体を抱き上げた。そらとうみ、ふたつが重なるようにぴたりとひっついて。

 夜の海辺はどこか不思議な心地で。アレクシアは神様の加護があるというのもうなずけるとしらすに笑みを浮かべる。何時もより気分が良く感じられて、シラスは海の中へと足先を浸す。
「ねえ、潜ってみない?」
 彼の言葉にアレクシアは頷いた。「今年はだいぶ泳ぐ練習をしてきたからね!」と自慢げに。海色の水着を纏ったシラスを追い越してアレクシアは「早く!」と呼んだ。
 陽の色の水着が揺れている。水が擽ったいと進むシラスは足が付かない深さになったとはっと振り返れば、海面を背に綺麗に泳ぐアレクシアがすいすいと真っ直ぐに進んでいく。
 ――こうやって一緒に泳げるの楽しいね。手伝って貰ってばかりだから、やっと一緒に並べた。
 そう言われなくっても彼女の言いたいことに気付いて。シラスは神秘的に泳ぐ彼女に手を伸ばした。
 月明りに花火の光、総てが反射している。差し伸べた手を握りしめ、二人でもっと、海の底――煌めく光に手を伸ばせば、空の中を泳いでいるかのようで息苦しさなんて感じない儘、二人して笑った。




 水着姿になるのは恥ずかしい、とディアナは水の中を進んでいく。膝まで海へと向かっていく彼女の背を見詰めてセージは「ディアナ」と呼んだ。
「ちょっと、まっててね」
 背を向けて、着用してきたサマードレスを脱ぐ。緊張しながら月光の下で彼に背を向けたまま、ディアナは唇を震わせた。
「似合ってる?」
 白いワンピースも、白いビキニもセージが選んでくれた物だから――不安を押し出したかのような顔をした彼女はまだ、セージの方を見れない。夜の海、月明りの下の彼女が大人びた魅力を感じさせて、セージは終、その背に近づいた。
「……ああ、綺麗だ」
 月明りの魔力に当てられたように普段は零さぬ本音を漏らして、そっと抱きすくめる。
「……え?」
 顔をあげた、けれど、まだ恥ずかしくてディアナは埋めるようにセージの腕に埋まっていく。子供っぽい反応だろうか、と羞恥心を揺らす彼女に見惚れぬようにと抱きしめた『子供っぽい反応』とはどちらだったのだろう――

「夜の海ならえりちゃんも日差し気にせず歩けるかな?」
 そう問いかけたユーリエにエリザベートは頷いた。ユーリエだって『こちら側』なのだから感覚は似ているでしょうとそっと、その手を握りしめる。
「星とか見えるのかな?」
「そうですね……この世界の星座、は把握しきれてませんしこの国特有の星座もあるでしょうし――」
 そうやって星を眺めたエリザベートの頬へと「私の星は隣で輝いてるけど、隙あり!」と頬へ一つ口づけた。
「豊穣の地は、なんだか私に合ってる気がするんだ。
 和風な土地に住んでたわけじゃないけど。えへへ、海が近いからかな?」
「なら、こちらに本拠なり別荘なり構えましょう。そしたら過ごせますし。
 私はどの国でも然程生きていけますし……二ホンの箸はあまり得意ではありませんが」
 ユーリエに頷くエリザベートは寒くなったとすり寄る彼女をそのままに海の中へとどぼんと押し倒す。
「夜は海の方があたたかいそうですよ」――そう告げて、海に沈むように口づけた。今夜はもう、眠れない。

 新調したばかりの水着。満天の星空に、美しい海。それから――恋人と二人きり。
 海と言えば戦場だという認識だったけれど、その先がこんな楽しげなビーツだと思うと不思議な心地。
「行くぞー! イーリン!!」
 その手をぐ、と握りしめる。勢いよく走るウィズィはそのまま海へとダイブした。
「うっわ冷たっ!? あ、でもちょっと気持ちいいかも……ってこら、あっは」
「っぷぁっ――はははは!」
 笑みが漏れる。ああ、たのしいと水を掛けるウィズィに負けじとイーリンは応戦する。一緒に海に出ると決めてから一年の半分以上、この海を共に『航海』してきたと思えば感慨深い。
 跳ねたイーリンは腰のジェットで思い切りウィズィの顔へぶっかけた。
「んもう! やったわね!」
「あはっ、っぷはっ! やばいこれ、青春感すごいぞ!」
 高揚した彼女の髪から淡く燐光が漏れ出した。少し冷えた、と抱きしめて収めたばかりの笑いを小さく唇から漏らす。ぎゅ、と真っ直ぐに抱きしめればウィズィに答えるようにイーリンの唇が重なった。
「ほんと、貴方と居ると暇をしなくていいわ」
「‪──‬……夏の一夜くらいはさ、ちょっと塩辛い唇もいいものでしょ?」
 揶揄う彼女に「プレーンも好きよ」なんて照れ隠しをしてもう一度、塩辛い唇に口付けた。

 初めての花火。メルトリリスは恐る恐ると摘まみ上げて炎を眺める。
「気を付けて待てよ。俺に向けたら殺すぞ」
「そんなことするわけ――ってパパ!? そんな振り回したら危ないよ!? ぎゃあ」
 少年のようにぐるりぐるりと思い思いに振り回す。ネズミ花火地獄から逃げ出して、メルトリリスは静寂の海を眺める。楽しげな彼と比べれば自分は何とアンニュイか――小さな砂が義手と腕の間に入って擦れていたい。潮風がじめじめと肌に張り付いて気持ち悪い。海洋の荒れ狂った海を思い出せば、胸が辛い。
「おい」とアランはメルトリリスに線香花火を持たせた。どうしてこんな物を、と言う顔をしたメルトの頭にぽん、と掌が乗せられる。
「海洋で冠位を倒し、リヴァイアサンを封印して、今はこうして花火をしている。……色々と思うところはあるだろうがな。メルト」
「あたっ」――手加減無く背を叩かれる。ばか、と拗ねたように言ったメルトリリスにアランは小さく笑う。
「今は楽しめ」
 嗚呼、全く。調子が狂う。打ち上げ花火に火をつけて、上っていく音に紛れて口にした。
 すき。
 今なら姉が反転した理由がよく分かる。愛に飢えて、愛に狂った。そのときは――どうか、私の心臓を止めて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は夏祭りをお楽しみいただけましたでしょうか。
 皆さんの素敵な夏の想い出になりますように!

 それではまた、お会い致しましょう!

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