PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<尺には尺を>からっぽの椅子がふたつ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●からっぽの椅子がふたつ
「おかえりなさい、パパ!」
 扉を開けると、小さな娘が自分を出迎えていた。
 シナモンの香りが漂う我が家は今日も明るく、窓から差し込むまぶしい程の光をレースカーテンが僅かに遮っている。
 娘は自分の足元まで来ると、手を引き家の中へと案内しようとする。
「今日はね、家族の絵を描いたのよ、パパ。ねえママ。ママ!」
 娘がしきりに名を呼べば、奥のキッチンから出てきたであろう妻が顔を出す。
「もう、ミーシャったら。久しぶりにあなたに会えたものだから、甘えているんですよ」
 妻は自分の顔を見て美しく微笑み、『おかえりなさい』と言った。
「ああ……」
 自分は――レイモンド・アーグナーは、顔に手を当て、表情がくしゃくしゃになっていることを自覚した。
「ただいま」

 娘が死んだのは三年も前のことだった。
 村はずれに現れた魔物に襲われ、命を落としたのである。
 同じ馬車に乗り合わせた妻も深い傷を負い、娘を失ったショックから後を追うように病に伏した。そのまま帰らぬ人となったのは去年のことだ。
 からっぽの椅子が二つある家は、なんとも静かで、そして重々しかった。
 酒でも飲まなければやっていられない。そう自分に言いきかせてずるずると生きるふりをし続けていた所に……かの聖騎士グラキエス様は現れた。
 『我等は星灯聖典。失ったものをとりもどそう』
 最初は半信半疑だった。けれど生きているふりを続けるよりは、なにかに縋ったほうが生きやすい。
 そうして彼らに加わるうち、私は見たのだ。
 ある貴族の男が、自らの失った娘と屋敷を取り戻すさまを。
 現実を文字通りに上書きして作り出されたそれは、まさに奇跡の産物であった。
 そして今、自分にも……。

「パパ、お祈りしよ」
 テーブルには椅子が三つ。空っぽのものはない。
 シナモンの香るクッキーと紅茶が並び、妻も娘も笑っている。
「ルスト様、今日も暖かなパンをありがとうございます」
「ルスト様、今日も我等に絶えぬ命を与えてくださいありがとうございます」
 自然と、自らの手が祈りの形を組んでいた。
 胸から溢れる暖かな気持ちをそのままに。
「ルスト様――」
 祈りを口にした。
 ああ、平和だ。
 どうかこの平和が、壊されませんように。

●世界を救うために
「星灯聖典の聖騎士レイモンド・アーグナーを倒し、この領域を管理している青騎士バッファを撃破してください。そうすればこの領域は破壊され、先へと進むことができるようになるでしょう」
 遂行者達の本拠地とされる『神の国』、その入り口部分に広がっていたテュリム大神殿の攻略を行なったイレギュラーズ。その先に見つけたのは世にも奇妙な『理想郷』であった。
 理想郷には冠位傲慢ルスト・シファーの権能によって作り出された村や人々が点在し、人々は絶えぬ命を与えられて暮らしているという。
「私達はこの先へと進まねばなりません。そのためにも、まずは領域を破壊し理想郷のベールを剥がす必要があるでしょう」
 領域の門番として配置されているのが星灯聖典の聖騎士レイモンド・アーグナー。
 彼は影の天使を従え、突入するこちらを迎撃するべく動くだろう。
 レイモンドの部隊を壊滅させたなら、次に狙うのはこの領域を管理している青騎士バッファだ。
「青騎士バッファの場所は判明しています。少なくともかなりの強敵になりますので、挑む際は充分に力を合わせてたたかう必要があるでしょう」

 領域を破壊すれば、レイモンドの妻と娘は再び失われることになるだろう。
 だがしかし、進まねばならないのだ。
 この世界を救うために。

GMコメント

 世界を救うために、この先へと進むために、聖騎士レイモンドに今一度の喪失を。

●前半:バッファの門前
・聖騎士レイモンド
 広大な庭園と小さなお屋敷があるフィールドでの戦闘になります。
 お屋敷にはレイモンドの家族がおり、レイモンドを倒すことに対して悲痛な叫びをあげるかもしれません。
 場合によっては、妻や娘が飛び出してきて戦闘を邪魔するかもしれません。

・影の天使×多数
 レイモンドに率いられている騎士甲冑風のモンスターたちです。
 剣や槍で武装し、集団で襲いかかってきます。

●後半:バッファの庭園
 庭園の奥には『予言の騎士』である青騎士バッファが控えています。
 バッファは高い回避能力をはじめ対多戦闘に優れた能力をいくつも保有した強力な騎士です。
 EXAも高く油断していると即座に斬り倒されるので注意が必要でしょう。
 戦う際には充分に力をあわせ、連携して挑んでください。
 青騎士バッファを倒すことに成功すればこの領域は破壊され、枯れた庭園と崩れた家屋のみの場所と化します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <尺には尺を>からっぽの椅子がふたつ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
冬越 弾正(p3p007105)
終音
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 テーブルに椅子が三つ。座って居るのは、聖騎士レイモンドとその妻、そして娘。
 窓からさす光は強く、そして空気は穏やかだ。誰もが幸福で、豊かで……。
 そんな時間のなか、レイモンドはゆっくりと席を立った。
 どうしたのと問いかける娘の頭を撫でて、傍らの剣をとる。
 扉を開き、外に出れば……そこは広大な庭園だ。
 遠く見えるのは、八人の影。
 誰かなど、わかっている。
 この楽園を――理想郷を壊しに来た人間達だ。

「我が神は死者と生者の境界を保つもの。
 我が守神は死者の未練に寄り添うもの。
 故に俺がより心傾けるのはヤツよりもその家族の方だ」
「どういうことだ?」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の呟きに対して、『お母さん……』冬越 弾正(p3p007105)が小首をかしげる。
「ここにはレイモンドの家族の霊はない。いや、霊の気配自体がない。からっぽな空間だ」
 どこか皮肉ともとれる言い方に、弾正は沈黙する。
「死せる本物の家族は無かった事とされた。
 これが作られし理想郷であると知る者が居るから――レイモンドも家族を失った事を知っている、故にここは完璧ではない」
 その言葉に誰より反応したのは、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だった。
「二児の父として気持ちは分かる。
 俺が同じ立場だったら確実に星灯聖典に尻尾を振っていた。
 息子達と過ごせなかった時間を埋めたくて。
 苦しく悲しい現実は夢だったんだと自身に言い聞かして。
 ある日思い出す……我が子の墓を掃除していなかったと」
 胸に手を当て、数年しか一緒に暮らせなかった子のことを思い出す。大切な我が子を思い出すというただそれだけの能力が、しかしウェールの背中を押す。
 『ここはちがう』と教えてくれる。
「大切な人が居なくなったのには同情する、世界の滅びより目の前の幸福というも理解できるがね。
 理解はできるが許容はできないって奴だ」
 そうだろ、とばかりに手を翳してみせる『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)。
「まったく。練達に籠ってて良かったよ。誘われてたら……どうなってたやら」
 誰にだってある。あのときこうしていれば。あの子が今もいれば。理想の誰かと共にいられる、理想の空間。それが現実に、いまここにある。
 その誘惑に耐えられなかった者は多く、そして聖騎士レイモンドもそのひとりなのだろう。
「ここを通るためにはたおさなきゃいけない……頭ではわかってる。でも」
 『薔薇冠のしるし』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が胸に手を当てた。
 痛むのは心の傷だ。
 良心の呵責なのか、それとも……。
 対して、『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)の答えは簡単で明瞭だった。
「だって進むしかないんだもの」
 そうするしか、ないのだから。そうするのだ。
「いずれにしろ、やる事はやるんだ。
 中途半端な仏心を出すつもりはない。
 一人で夢を見る分には構わないんだが、その夢は周りを巻き込む。
 良い加減、目を覚ましてもらわねえとな?」
 『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)がこきりと首をならし、歩を進めた。
 遠目に見えていた聖騎士レイモンドの家と、その前に立つレイモンドへと徐々に近づいていく。
「貴方は生きる理由を失って、目指すべき道も見つけられなかったのですね。
 だとすれば、簡単な話です。これから私は貴方の理想郷を蹂躙し、破壊します」
 『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は腕に巻いていた包帯をはらりと落とすと、流れた血から小さなナイフを作り出した。
「それは貴方の全てを奪う事。そして、貴方に生きる理由を与える事。
 恨めばいい。愛すべき全てを奪った死血の魔女を……そして、失った家族を思い続けて生きればいい。
 それが、私のしてあげる貴方への手向け」
「いいや、失うわけには行かない」
 レイモンドが剣を抜くと、どこからともなく影の天使たちが姿を見せ始めた。
「目覚まし時計が憎い今日この頃だろう。
 心の赴くままに全力で抵抗すればいいさ。
 見事、ミー達を皆殺しに出来れば、夢の続きを見られるぜ?
 足掻いてみろよ、悔いが残らないようにな」
 拳を握りしめ、構える貴道。それは騎士の抜刀と同じ意味を持つものだ。
 その隣で、ウェールがカードの一枚をショットガンへと変化させた。
「俺の子は血が繋がってないからか、俺と違って優しい子達だ。
 墓参りを忘れてたことはきっと怒りながらも最後には許してくれる。
 なあレイモンド。
 お前さんの奥さん娘さんはどうなんだ。
 お墓の掃除を忘れても許してくれるのか。
 他者と世界を犠牲にして自分じゃない自分と生活する父親を笑って許してくれるのか!?」
「黙れ! 娘も妻もここにいる! ここにいるんだ!」
「家族との死別の悲しみは理解する。だが、レイモンド殿の今の行為は亡きご家族の死を踏みにじる行為だ!」
 びしりと指をつきつけ、弾正は哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式に双刀『煌輝』を無線接続する。刀身に光が宿り、カッと一瞬のフラッシュをおこした。
「…………」
 リュコスは無言で構え、魔術を展開、構築していく。
 その間に、メリーノが大太刀をゆっくりと抜いた。
「わたしにとっての大切な家族ってかのちゃんしかいなくって レイモンドのいってることもウェールちゃんが言ってることもその真意なんてちっともわからないの きっとずっとわからないの
 でも、大切なものをなくしたら、「身代わりのお人形」で遊んでたらそれでいいなんて、都合が良すぎると思わない?」
「死者の蘇生は混沌の理に抵触する。
 だが生者の記憶より複製を生成する事は『蘇生』ではないから、抵触しないだろう。
 それ故、この『家族』は貴様の記憶より生成された複製なのではなかろうか、という疑問がある」
 アーマデルが蛇鞭剣ダナブトゥバンに弾を装填しながら語り始めた。
「何が言いたい……」
「帳もこの領域も現実を書き換えるものではなく、現実をベースに、書き換えた特殊空間を、現実に被せて展開するもの。
 それが維持される限りにおいて『現実が書き換えられた』ように感じられるだろうが
何らかの理由により壊れ得るもの。ここは理想郷ではない。完全では、ない」
 突きつけるダナブトゥバン。
 マニエラはそういうことだと頷いて、自らの能力を向上させる術式をくみ上げていった。
「速戦即決、連戦長期戦でも弾はこちらで用意しよう。全力で頼むよ」
 術式を組み終えたマニエラはそう仲間に告げると、ぴょんと後ろへと飛んだ。代わりに飛び出していく貴道たち。
 影の天使たちがそれぞれの武器をとり、襲いかかる。


 蛇銃剣アルファルドの引き金に指をかけ、アーマデルは迫る影の天使たちに狙いを付けた。
 槍を手にした彼らに表情どころか顔もなく、影でできたその姿はどこかうつろだ。
「邪魔だ」
 放った弾はコイン束状のもので、回転しながら散らばるそれは迫る影の天使たちへと広く命中し、一部の者には派手な足止め効果をもたらした。
 身体にめり込むコインを無視して、それでも突っ込んでくる影の天使。
 アーマデルは天使の放つ槍の一撃を飛び退くことでかわし、続く弓矢による射撃を腕にくらった。
「――ッ」
 影の天使たちも、これまで戦ったものより若干ながら練度が上がっている。
 マニエラが素早く治癒の魔法を飛ばしてくれるが、それでもこの数をいつまでも相手にするのは骨が折れるだろう。
 一方で、レイモンドはマニエラの存在の危険さに気付いたようだ。
「奴が治癒をになっている。先に潰せ!」
 レイモンドの命令をうけ、ヒーラーとおぼしきマニエラめがけ影の天使が殺到する。
「そうはさせん」
 そこへ割り込みをかけたのはウェールだった。
 影の天使たちの集団に飛び込み、『憤怒伝染』をまき散らす。精神に作用するウィルスが影の天使たちへと浸透し、その狙いがウェールへと向いた。
 天使の槍がウェールへと突き刺さり、無数の剣が繰り出される。
「くう……っ」
 痛みに耐えつつ、至近距離でショットガンを発射。影の天使を若干ながら牽制しつつ、カードの一枚をライフルへと変化させた。
「レイモンド、こっちを見ろ!」
 放ったライフル弾は『標的改竄』のウィルスが込められた特殊弾頭だ。
 それをレイモンドは剣で弾き落とす……が、込められたウィルスからは逃れられなかったらしい。ウェールめがけ斬りかかる。
 敵の注意がウェールに集中したところで、メリーノは早速動き出した。
 『カタバミちゃん』と呼ばれる大太刀を握り込み、影の天使もろともレイモンドへと斬りかかるのである。
 影の天使たちを纏めて切り裂くメリーノの斬撃を、しかしレイモンドは素早く屈むことで回避する。
 戦闘力が頭一つ抜けて違うということだろう。
 反撃にとばかりに、ウェールの術中にかかっていなかった影の天使がメリーノへと掴みかかるが、その腕をマリエッタの血のナイフが切り落とす。
 そして、素早く振り返ってレイモンドの出てきた小さな家へと身体を向けた。
 というのも、扉を開き小さな女の子が駆け出してくるのを察知したためである。
「止まりなさい」
 血のナイフを放ち、足止めを試みる。地面に突き刺さったナイフは人を殺めるに充分なそれだ。が、少女はまるで足を止める様子がなかった。ナイフに恐怖すら覚えず、まっすぐにレイモンドの元へと走る。
「パパをいじめないで!」
「――」
 マリエッタの行動に迷いはなかった。
 素早く血の大鎌を作り出すと、少女の足を切りつける。
 痛みに恐怖しなくとも、物理的に止められればどうしようもない。少女は派手に転倒し、血を流して呻いた。
 その様子を見たであろう女性が家から飛び出し、駆け寄ってくる。
「なぜこんなことをするのです! 私達は平和に暮らしていただけなのに!」
「『だけ』じゃないよ」
 リュコスが間に割り込むようにして入り、重圧の魔術をくみ上げて手のひらを翳す。
 まるで砲台から射出されるかのように放たれた魔術が、女性と少女を纏めて襲う。
 『この場』に出てきてしまった以上、もう敵だ。たとえ無力であろうとも。たとえ、心が痛もうとも。
(死んだことから目をそらして忘れ作り物のせかいにひたって……忘れられたほんものの2人はどうなるの……)
 リュコスには、つらかった。死したことを、生きていたことを忘れられることのほうが、ずっと。
 だから……目の前の『これ』は偽物だ。
「貴様ら!」
 その様子に怒りを露わにするレイモンド。自らの家族に手をかけるなとばかりに襲いかかってくるが、それを弾正の剣が受け止め、押さえ込む。
「永遠なんて物はこの世に存在しない。それはレイモンド殿が身をもって体験した事だろう?
 幻に縋って、現実から逃げ続ける事は簡単だ。しかしそれでは、奥方と娘さんの魂は救われない
 今を生きる貴方が! 不幸に命を散らした、お二人の分まで強く生きなければ……それが残された者に出来る事だろうがッ!!」
「そんなこと……そんなことは……!」
 溢れそうになる感情。それを貴道の拳が吹き飛ばした。
 顔面を正確に狙った貴道の拳がレイモンドの脳を揺らし、がくんと膝をつかせる。
「もう一度言ってやる。『足掻いてみろよ、悔いが残らないようにな』」
「――!」
 レイモンドが憎しみを込めた目で貴道をにらみ付けた。
 だが、それだけだ。
 アーマデルの放つ『英霊残響:怨嗟』がレイモンドを、そしてその家族らしきものたちを舐めるように命だけを削っていく。
 ばたばたと倒れる家族へと這いずり、そしてレイモンドは振り返った。
「なぜ、殺さない……!」
「最後に別れを告げる機会を作れるかもしれない、だろう?」
「……!」
 レイモンドはうなり、そして地面を殴りつけた。
「わかっているさ。妻も娘も、もう死んでしまった。もういない! けれどこの場所にはいるんだ! 『神』は与えてくれたんだ! そこに浸って、何が悪いっていうんだ……!」
「虚構の幸せに縋りたい気持ちは痛いほどわかるんだよ。ただ、それはそれ」
 マニエラが小さく呟いた。
「生きるのが辛いなら私が殺してやる。邪魔をしても殺す。
 絶望して生きるのなら……この先の未来で見守りたいものが見つかる事を祈るよ」

 レイモンドを置いて、庭園の奥へと進むマニエラたち。
 悲しみに泣く声だけが、背に強く響いた。


「レイモンドを殺さなかったかァ……仏心でも出したつもりか? どうせ死んでもすぐ生き返るのによ」
 庭園の奥で待っていたのは、この領域を管理している青騎士バッファだった。
 彼は青き剣を地に突き立て、何も書かれていない墓石のようなものの上に座っていた。
「貴様……『それ』はなんだ」
 怒りすら籠もった口調で、牙をむき出しにして問いかけるウェール。
「俺が椅子代わりにしてるモノのことか? なんだっていいだろう? 所詮偽物だし、ましてやいらないモンだ」
 自らの直感通りだと気付いたウェールは吠えるように叫び、青騎士バッファへライフルを向ける。発砲――その弾は剣によって弾かれ、そして付与していたウィルスの効果もまた弾かれた。
「何ッ」
 ウェールの『標的改竄』から逃れられる者など並大抵の相手ではない。
 それを察し警告を発するウェール。
 次の瞬間には青騎士バッファは一気に距離を詰め、マニエラの胸を派手に切り裂いていた。
 レイモンドとの戦いの様子を見ていたのだろう。先に倒すべき相手を見定めていたらしい。
 が、それを予期しないマニエラでもまたない。
 自らに素早く治癒魔法をかけながらウェールを挟んだ後方へと回り込む。意図を察してマニエラを庇うウェール。
 一方で貴道は青騎士バッファに強烈なパンチを見舞っていた。
「下衆ってのはどいつも最初は救い主ってツラして現れる。
 だからこそタチが悪いんだが、自覚はあるかよ下衆ナイト?
 まったく胸糞悪い連中だよ、お前らは?
 さっさと終わらせよう、お前の相手は愉快じゃねえ」
「自覚の有無なんざどうだっていいだろう? ここは理想郷なんだぜ!」
 パンチを食らってもギラリと笑って剣を繰り出してくる青騎士バッファ。
 刀身を『殴りつける』ことで軌道を無理矢理そらした貴道はその攻撃をギリギリのところで回避した。
 腕に激しい痺れが走る。
「跡形も無く蒸発しちまいな、外道騎士。夢を見せるテメェらだ、ゆめまぼろしの如く消え去るのが筋ってもんだろう?」
 そこへ割り込むように弾正の剣が繰り出される。
(俺も戦いの中で大切な弟を失った。だが終末は待ってはくれない。悲しみに浸るのは、全ての決着をつけた後だ……!)
 見事に青騎士バッファの腕を切りつけた剣は血を吹き上がらせ、青騎士バッファも流石にその表情を崩す。
「チッ、腕が立ちやがる……!」
 スッ――とリュコスの手のひらが突き出され、押し当てられる。至近距離に当たったその手から放たれるのは『神滅のレイ=レメナー』。強烈な破壊の魔法である。
 腰に魔法をくらった青騎士バッファは派手に吹き飛び、地面を転がり花畑を散らした。
 追撃。
 アーマデルの蛇鞭剣ダナブトゥバンが鎖状に伸びて青騎士バッファの足を絡め取ったかと思うと、左右から同時に襲いかかったメリーノとマリエッタが手にした剣と大鎌で斬りかかった。
「それにしても「死んだはずの人」が普通に動き回ってるのおかしいわねぇ。死んだら終わり、のはずでしょう?」
「悪いですがこの世界は終わらせさせてもらいますよ……彼の為にも」
「ぐ、ああああ!?」
 背を突き刺され、吹き上がる鮮血。
「この理想郷を壊した程度で、神を殺せると思うなよ……神は、お前ら程度……!」
 叫ぶ青騎士バッファの首がはねられ、そして塵のように消えていく。
 マリエッタはそれを見送ると、メリーノのほうをちらりと見た。メリーノはただ目を瞑り、黙るのみであった。

 理想郷の一角は壊され、寂れた墓地とツタにまみれた家だけが残った。
 聖騎士レイモンドがその後どうなったのか。それはもう分からぬことだが……少なくとも彼の幻想は壊された。それだけは、確かなことだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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