PandoraPartyProject

シナリオ詳細

薔薇と十字

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●薔薇十字の庭
 ノブレス・オブリージュなる言葉が正しく使われないのはこの世の常だ。
 貴族お歴々の『高貴なる遊戯』は一般層には到底理解しかねる話ではあるが、その一翼を担わされたからには、その仕事を完遂するのは重く重く架せられた使命になる。
 正直を言えば、有り難い話である筈もなかったが……生きる事は大変だ。特に政情が不安定で、民政等期待出来よう筈もないレガド・イルシオンにおいてはどんな仕事でもあるだけマシと割り切らなければ到底やっていられる話でもない。
「……やれやれだ」
 溜息を吐いた兵士の一人は馬車の御者台から幌のかかった荷台に少し恨めしい視線を投げた。
 重過ぎる責任を背負っての任務は憂鬱と緊張感を禁じ得ない仕事ではある。それも、国王への献上品――依頼人は貴族の中の貴族、幻想の黄金竜――レイガルテ・フォン・フィッツバルディ公爵その人だ――無事に届けなければならないとなれば、それもひとしおだ。
「溜息を吐くなよ」
「ああ……悪い」
 輸送馬車の周囲で警戒に務める同僚に諌められ、御者役の兵士は苦笑した。
「そうだ。明るく行こうぜ。仕事がはけたら飲みに行こう」
「そうだな。王都まで、あと数日って所だろう。少しゆっくりしたいもんだ」
 もう一人の兵士にそう声を掛けられ、御者は頷いた。
 考えてみれば、今回の仕事は『もう少し』なのだ。
 特に問題を生じやすい国境や田舎道はもう過ぎた。比較的都会に位置するアーベントロート領までやって来たのだ。任務の達成は少なからず近付いている状況だ。
 勿論、最後の段階で気を抜いて失敗をするような事があってはいけない。
 だが、幻想三貴族の一角であるアーベントロートは大した軍閥だ。面従腹背の気こそ否めないものの、彼等も自領でのトラブルは望むまい……
(もう少しなんだ……)
 疲労困憊の兵士は溜息を辞めた。
 王都では家族が待っている。大変な仕事だったが、フィッツバルディ公は今回の贈り物に自信を持っている様子だった。一先ず無事に終われば何日かの休暇位は頂けるだろう。
 彼は生まれたばかりの子供と少し美人な妻の笑顔を思い浮かべ、丹田に力を込め直した。
 何、大した話じゃない。
 あと数日の辛抱だ――

●薔薇十字の門をくぐる(昼)
「皆さんは御存知でして?」
 目の前で極上の笑顔を浮かべる令嬢にイレギュラーズの表情は一様に硬い。
「人生には、幸運の二倍の不運がつきまとうそうですの。
 今日、皆さんは『身共の御招待』という幸運を得ましたから、帰り道には二倍の注意が必要やも知れませんね――もう、そんな顔なさらないで。冗談ですわ」
 ソファを勧められたイレギュラーズの目前で椅子にちょこんと座っているのは、リーゼロッテ・アーベントロート。幻想を蝕む病巣である貴族連合の一角を率いるとされるアーベントロート侯爵家の名代で、事実上のトップと目される少女である。
「……御招待どうも、というか仕事の話なんだよな?」
「ええ」
 目の前で心地よい湯気をたなびかせる白磁のカップに目もくれず、そう問うたイレギュラーズにリーゼロッテは頷く。彼女は薄い唇を白磁のカップにつけているが、アーベントロート家の代名詞と言えば『暗殺』なのだから、まぁ、落ち着く場所では無い。
「態々ご足労願った事をお詫びしますわ。私、市井に足を運ぶ事は少ないもので」
 選民意識と貴族主義が服を着ているかのような幻想貴族の中でも、彼女はトップの中のトップ、その一人である。何の気後れも無くそう言う彼女は、相手が御用聞きに来る事を何処までも当然と認識しているのだろう。
 ……まぁ、そんな話は余談として。彼女は幾ばくかの社交辞令と歓談を極々無難に楽しんだ後に、本題を切り出した。
「仕事は、盗賊共の討伐です」
 私兵を出せば解決しそうな依頼だが、彼女にはその心算は無いように見える。
「皆さんには盗賊共を駆除していただき、彼等の収奪物を持ち帰って頂きたいのです。
 全く人様を襲って蓄財しよう等とは、何とも浅ましい性根で頭痛がいたしますわね?」
 カップを机の上においたリーゼロッテは涼しい顔だ。アーベントロートはアウトローな勢力と結びついているという噂も絶えないが、そういった噂をイレギュラーズが知っている事を察しているのかいないのか、全く彼女は動じていない。
「ともあれ」
 リーゼロッテは念を押す。
「私が皆さんに執行を認めますから、盗賊連中はきちんと全員『駆除』して下さいませ。
 一人残らず、です。いいですわね? 一人残らず、ですわよ」
 彼女の念押しにイレギュラーズは苦笑した。
 まぁ、このお嬢様が頼むのだ。素直な人道の為の討伐では無かろう。
 薔薇十字の門は昼に潜っても――仄かな毒香を隠す事はしていない。

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 通常依頼一本目、4日の最速相談です。
 以下詳細。

●任務達成条件
・盗賊団の殲滅(全員殺して下さい)
・収奪品の奪還(何をと言われてはいませんが、奪還して下さい)

●盗賊団
 団員は十五名程だそうです。
 武装はバラバラ、少なくとも数名は遠距離武器で武装しているようです。
 個々の戦闘力はイレギュラーズ(LV1)に劣ります。
 アーベントロート領の山中の廃砦を根城にしており、門に三名の見張りが居ます。
 内部構造は単純なもので、大きな広間の奥に幾つかの小部屋がある程度です。
 砦は崖を背にしています。(崖下にあります)
 老朽化が激しい為、防衛施設としての防御力は低いです。

●情報精度
 Bです。
 リーゼロッテは親切なクライアントではありません。
 とは言え、仕事に関わる盗賊団の所在やステータスは一応信頼出来るデータです。

 以上、よろしくお願いいたします。

  • 薔薇と十字完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

心野 真奈子(p3p000063)
一ツ目
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
エスタ=リーナ(p3p000705)
銀河烈風
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
ファリス・リーン(p3p002532)
戦乙女
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼

リプレイ

●価値ある労働I
 冬枯れの山中を、集団が行く。
 進む程に寒々しい季節の風景はしんと静まり返り、白い息を弾ませる八人の気配を否が応無く際立たせている。
 獣は眠る季節、人は寄り付かない場所――言うまでもなく歳若く見える者の多いこのメンバーには不似合いである。
「何だか――つくづく、ジェットコースターみたいな状態だよなあ」
 枯れ枝を踏んだ『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が視線を一瞬だけ足元に落とした後、何処かのんびりと独白めいた。
 経歴も出身世界もバラバラである彼等、『特異運命座標(イレギュラーズ)』にとって『ジェットコースター』は馴染みの深いものでは無かったかも知れないが、『混沌肯定(崩れないバベル)』はそんな一同にも「ああ」と合点させてしまう程度の親切さを持っている。
 まったく――人生は選択の連続だ。
 望むもの、望まないもの、二者択一であるもの、欲張りでも許されるもの――
『無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)』に――厳密に言えば、あの神託の少女の居る空中神殿に――降り立った特異運命座標(イレギュラーズ)達は、まず最初の選択肢は与えられなかったと言える。
 だが、(これもまた殆ど選択の余地は無かったが)一先ずは少女の告げた導きに乗り、ギルド・ローレットに属する事となり、異世界生活、或いはこれまでと違う生き方をする事を選んだのは確かな一つ目の選択と言えるだろう。
「あのね、ナーちゃんね! すっごくたのしみなの!」
 蛇のような細い瞳孔をもつ赤い目にキラキラとした童女のような期待感を輝かせたのは『アイのキューピット』ナーガ(p3p000225)。
 鈴の鳴るような電子ドラッグ――じゃない、可愛らしい声に相反するように彼女の大きな口はエラのあたりまで裂けている。全体的には蛇を思わせる面立ちだが、粒々たる肉体と肉食獣を思わせる鋭い歯は蛇のそれでは無い。
 ……彼女が「すごくたのしみ」と称した仕事は盗賊退治。
 ただし、彼女が「たのしみ」なのは他者を殺める事を殺(アイ)すと認識する彼女独特の感性による部分が大きい。
「盗賊は一人も逃がさないゾ☆ 悪人に人権は無し!」
「盗賊に報いを与え、収奪品を奪い返す。それは至極当然の事です」
 屈託無く真っ直ぐにそう言った『銀河烈風』エスタ=リーナ(p3p000705)に『銀翼の歌姫』ファリス・リーン(p3p002532)が大きく頷いて同意した。
 何だかずっと昔から既視感(デ・ジャ・ヴ)すら覚える程にサンシャインなヒロイン(リーナたん)に、部族を率いる生真面目な若き族長であるファリスである。
「スーパーヒロインとしてはそんな悪党はビシっと退治しないといけないからね!」
「全くその通り。その為に我々がいるのですから」
 腕をぶすリーナにファリスが再度同意する。
 彼女等に悪事を働き、他者の生命や財産を脅かした危険な盗賊を捨て置く道理は無いのは当然だ。
(……暗殺が生業と聞くのは……正直、好くかどうかで言えば好きにはなれないが)
 ファリスは戦う事を好むが、卑怯な手は余り好きではない。笑顔のクライアントに思う所が無い訳では無い。
(切っ掛けは何であれ――今回の事で彼女に歩み寄れたら良いかな、と思うのです)
 とは言え、その反面でクライアントに不思議な親近感を覚える『夜想吸血鬼』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)も居る。
 成る程、銀髪に細身の体躯、如何にも品の良いお嬢様――彼女は吸血姫――両者に共通点は多いようにも見受けられる。
 人間の感情は複雑である。同じ人物、同じ対応を見てもやはり価値観は様々だ。
 一方で竹を割ったようなリーナやファリスに比べて、『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)や『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)の調子は幾らか含む所がある。
「初めての仕事は、『単なる』野盗狩り……ね」
「別に、いいけどね。どんな阿漕な事情が絡んでいても。私の讎(あだ)にさえならなければ」
「……そうね。この世界の歪な部分を識るには、お誂え向きじゃないかしら」
 二人は短いこのやり取りから、お互いが状況に対して『概ね同じ見解』を持っている事を確認した。
 物事には知らない方が良い事も多いし、知っていても言う必要が無い事もこれまた多い。
 気になる所が無い訳でも無いが、仕事は仕事である。
 大貴族リーゼロッテ・アーベントロートが賊を駆除しろと言ったからには、それがこの世界、この土地における真実なのは間違いないのだし。
「……個人的にはりーぜろって様には、かつて『ぷらいべーとびーち』に御招き頂いた御恩もあります。
 皆殺し、というのは心が痛まないでもありませんが……これも務め。情けはかけられません。今はただ、一人の武芸者として戦に臨むとしましょう」
『一ツ目』心野 真奈子(p3p000063)の一言は丁度いい具合にバランスを取った『まとめ』になる。
 何れにせよやる事は変わらないのだ。これからパーティは『大公爵の献上品を強奪した不遜の盗賊を全滅させる』。
 最初の仕事に多少の緊張はあるが、何の事はない。弱い者にだけ強い連中等、蹴散らすのみである。
「……でも、何が盗られたんだろうな。北の輸送路からなら、例の鉄帝の『極めて先進的な古代兵器』みたいなモンだったりして……」
 遠く影を見せた盗賊の廃砦を眺めて一悟は呟いた。
 その言葉は半ば自身の中に棲むギフト(性格の悪い誰か)に向けたものだったが、彼はやっぱりそっぽを向いたままだった。

●価値ある労働II
「へっへっへ、飛んで火に入る何とかってヤツか?」
 下劣な視線が遠慮無く少女の肢体を舐め回す。
 彼女の姿形は出来の良い芸術品のようで――どうしようもない連中の欲求を刺激するのは間違いあるまい。
「こ、これは……きゃあ!」
「お、お嬢様……わ、わたしの後ろに……!」
 少女を庇うように前に出て、気丈な所を見せた少年の声も震えている。
「おーおー、勇ましいナイト様の登場かよ。いいね、いいね。盛り上がる」
「良し、コイツは半殺しにして『見物』させてやろーぜ。きっと燃えるぜェ!」
 ……嫌になる位のテンプレートは、この手の連中の全く嫌気なフラグである。
 当然ながら廃砦に迷い込んだ世間知らずの令嬢(エリザベート)は唯の被害者では無いし、これから半殺しにされるらしいナイト様(一悟)も犠牲者では無い。
 廃砦に巣食うターゲット、つまり盗賊達の数は十五程であると聞いていた。
 崖を背に立つ砦は朽ち果て、当初の防御力を持っていないが――数だけ見てもイレギュラーズ達の倍近い人数がおり、烏合の衆が相手であったとしても、クライアントのオーダーは一人残らずの殲滅なのだから、不測の事態が絶対に起きないとは否めない。
 敵を確実に仕留めんと考えたパーティはそこで一計を弄する事にしたのである。
 頭の余り回らない連中を目立つ餌で引きつけている内に――
「――はっ!」
 ――気配を消失させ、忍び足で近付いた真奈子が油断しきっていた盗賊の一人を一閃する。
 囮の二人を除く六人のイレギュラーズ達の行動は実に迅速だった。
 面々は、
「先手必勝。一気にいくぞ――」
 勇壮なマーチで自身等を激励するファリスの声を受け、爆発的に動き出したのである。
 特に奇襲の術を得手とした真奈子は言うに及ばず、
「『不運』だったわね」
 木の陰から飛び出したミスティカの放つ術式が敵を捉え、
「リーナたん、ニークラッシュ!」
 伸び上がるような姿勢で膝を突き出したリーナの一撃が更にその顎を跳ね上げた。
 彼女のしなやかな動きは正確で、唸りを上げた膝は力強い。美しいと称してこそ正しい見事な蹴撃だが、羨ましいと言えないのは威力が故か。
「ひ、ひいいいい!」
 泡を食った盗賊は恐慌し、咄嗟に森の方へ駆け出さんとするが――そこはこれまでに勝る『最悪』であった。
 地獄の釜はある日突然口を開く。
「ナーちゃんとあそんでくれるの!?」
 自身の射程に飛び込んできた盗賊を喜色満面、出迎えるナーガの姿があった。
 狂戦士と呼ぶに相応しい彼女の攻撃特化は、出色の威力を誇っている。格闘の一撃を受け損ねた盗賊は骨をへし折られ不自然な形に傾いでいた。
「ナーちゃんのハツコイのヒト!? カンゲーするよ!」
 自身の『初恋』の予感にナーガの裂けた口が三日月を作り出す。
「っ、……くそ!」
 まだしも冷静だった盗賊の一人は砦への後退を画策するが、これもパーティは警戒していた。
 その飛翼で背後の崖より舞い降りたミニュイが「行き止まり――気の毒だけど」と彼を封じたのだ。
 自棄になった盗賊はすかさず彼女に襲い掛かるが、彼女はこれを軽くいなした。
「よしっ、これで全部だ!」
 周りを確認した一悟が大きく頷いた。
 エリザベートと一悟の最も近くに居た最後の一人も、犠牲者の仮面を脱ぎ捨てた二人に簡単に制圧されていた。
「焼きますよ」
 喉元に指先を突きつけ、エリザベートは詰問する。
「何度もは聞かないのです。中の正確な人数と、布陣は?」
 どの道、仕事のオーダーは皆殺しだ。パーティに敗北した時点で彼の生き残る道は無いのだが……
「言う、素直に言うから――お、俺だけは見逃してくれ!」
 ……こんな連中の言う事等、決まっている。
 先程まで、自身と一悟を見逃す心算等、毛頭無かった盗賊の無様な姿に少女は小さく嘆息した。
「な、なあ。いいだろ? 俺も悪い事だって思ってたんだ、でもこの国じゃ生活するには……」
 どうやら唯の盗賊らしい。全く、何と益体の無い事か。

●価値ある労働III
 まず前哨戦は『巧遅』であった。
 時間制限は決められておらず、油断した相手の隙を突くのが最良だったからだ。
 見張りは苦も無く制圧し、内部に恐らく情報は届かなかったが――時間をおけば不測の事態も起きかねない。
 見張りを尋問し、内部の盗賊の数が情報通り『十二』である事を確かめたパーティは連中を処理した後、本格的な戦闘へ移行していた。
「巧遅は拙速に如かず」
 まさにファリスの言はこの場に相応しい至言であった。
 砦の制圧――本戦はそれに比すれば『拙速』であるべきである。
「――飛び込みましょう!」
 複雑な戦術よりも強硬な突破が効果を発揮する局面もある。
 パーティは廃砦の中に一団となって飛び込み、ぎょっとした顔で自身等を見た盗賊達にまず手痛い先制攻撃を加える事に成功する。
「逃がさない――」
 ここから先は総力戦、速力勝負。
 大部屋の敵の数が想定通りの十二である事を確認したミニュイは持ち前の反応で誰より先に動き出した。
(まずは――奥!)
 狙撃手の集中力で自身の射程と敵の配置を計算。大翼をはばたいたかと思えば鋭く羽が飛んでいる。
 精密なる『羽の射出』は彼女の干戚羽紡(ギフト)のもたらすその力だ。
 パーティの算段は、広間へと飛び込み出入り口を封鎖。そのまま押し込み、小部屋へ逃げた敵は複数班で追撃というものである。
 戦力やバランスをある程度考慮し、一班を一悟、真奈子、エリザベート、二班をナーガ、リーナ、ミニュイ、ファリス。
 押し込んで、押し込んで、袋小路ですり潰す。
 貧弱な連中でも数を頼みに突破に来れば撃ち漏らす可能性は否めない。
 それを防ぐ為には、その判断をさせない事。電撃戦に勝る制圧は無い。
 広間にミスティカを残せば、小狡い盗賊が班の追撃をやり過ごそうと考えても封鎖は十分に出来ている――といった算段だ。
「くそ、テメエ等、何者だ!?」
「悪党に名乗る名は持ち合わせていないけど!」
 慌てながらも応戦の構えを見せる盗賊をビッと指差し、リーナが叫ぶ。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。それ以外もとにかく一杯呼んでいる!
 悪党を倒せと、わたしの中で炎が燃える。悪人に人権無し! 慈悲も無し!
 誰が呼んだか、スーパーヒロイン、リーナたん! 呼んでね、さあ、一緒にリーナたん!(さあ、ご一緒に:リーナたーん)
 兎に角、成敗するから! 諦めなさい!」
 持ち合わせていない割に、お釣りが来る位持ち合わせていたような気がするリーナたんは置いといて。
「くそ、お前等、そのなり――噂のローレットか。
 なら、畜生! あの性悪女、上手い事言いやがって――結局はそういう事かよ。
 おい、お前等! 黙ってやられてる場合じゃねえぞ! もうここにはいられねえんだ!」
 苦笑を浮かべたのはミスティカ、ミニュイ。
 存外に分かりやすい『ヒント』にエリザベートも概ね経緯を理解したようだった。
 リーゼロッテ・アーベントロートは確かに美しいが、受ける仕事を間違わなかったのはイレギュラーズの幸運だろうか。
 十二対八の乱戦は、かなり済し崩し的に激しさを増していく。
「死んでたまるか!」
 盗賊の一人が矢を放ち、その一撃がミスティカを掠める。
 頬に一筋の血を流した彼女は蠱惑的な赤い瞳を細めて、僅かばかり口元を綻ばせた。
 笑っている――かのようで、それとも違う。何とも不思議な表情だった。まるで『感情の伽藍堂』を思わせる――
「命ある者は、善悪問わず、遅かれ早かれ、等しく何れ死ぬ。
 貴方達にとっては、それが今日だっただけの事。運命は、そう決められたのだから――」
 応じるように放たれた術式が残酷に盗賊を蝕んだ。
 半ばは彼に言うでも無く、誰に言うでも無く――赫き深淵の魔女は言葉を紡ぐ。
「――だから安心して死んで。貴方の魂は、冥府の住人達がきっと快(よ)く出迎えてくれるから」
「オレは奥州一悟だ! さあ、ビビってねぇならかかってこいよ!」
 一悟の挑発めいた名乗り口上で、パーティにとっての最大脅威である『逃げる判断』を数名の盗賊が失った。
 代わりに彼は苛烈な攻撃に晒されたが、相応に打たれ強い彼は傷付きながらもこの攻勢をやり過ごす。
 まず時間を稼ぐ事が重要な局面で、確かに働いた一悟に応え、ナーガの重く鋭い斧の一撃が振り下ろされた。
 一悟に気を取られた盗賊は背骨に致死の一撃を受け、壊れた玩具のように血溜まりに沈んでいた。
「一気呵成に――参ります!」
 動揺を隠せない盗賊陣営に鋭く切り込んだ真奈子の切っ先が二度踊った。
 辛うじて防御姿勢を取った盗賊を一刀両断とはいかなかったが、一刀で足りぬなら二刀両断。
 示現流は二の太刀要らずだが、執拗に攻め、仕留めきった彼女の武技もまた、美しい。
「逃がすか!」
 一方で専ら支援による動きを仕事とするファリスが、立ち回りで盗賊の逃走を牽制する。
「そこなのです」
 更には出し惜しみ無し――素早く敵を殲滅にかかっているエリザベートの火焔が赤く室内を染めた。
 一瞬のアイコンタクトを交わしたファリスとエリザベートは一班、二班それぞれの動きで、早くも脱落者を出し士気の鈍ってきた盗賊達を追い詰めにかかる。
 元より、強敵が相手では無い。すり潰すばかりの仕事と化した消化試合を多く語る必要は無いだろう。

●価値ある労働IV
「――御免。せめて、ご冥福を」
 納められた刀の鍔がチン、と澄んだ音を立てた。
 最後の盗賊を倒した真奈子が一つきりの目で瞑目したのは、死者へ手向ける憐憫である。
「……これで全部か」
 小部屋の中に集められていた財宝は確かに相当の価値がありそうだった。
 一悟にとって残念だったのは、それが彼の中に棲む者に諮る程特別なものでは無かった事、位か。
 北方より運ばれた見事な金銀宝石を守る箱には双竜の刻印が刻まれていた。
 元の持ち主が誰か等、説明を受ける意味もない位に強く自己主張している。
「まんぞくした!」
「無事完了ね」
「ええ。後はこれをお嬢様に届ければいいのね!」
 ナーガ、ミニュイ、リーナの言葉にエリザベートが頷いた。
「……きっと、『喜んで』くれるのです」
 仕事は盗賊の全滅と、収奪品の『奪還』。
(事件の顛末が、最初から『誰か』に仕組まれたのだとしても、欲に目が眩んだ愚かな悪党達が、始末されただけの話で全ては終わり。
 それと収奪物が何であれ、その価値と用途は求める『彼女』が決めるもの。この世界の在り方が垣間見れたなら、個人的にはそっちの方が収穫ね)
 そう、ミスティカの考える通りだ。
 これ以上の詮索も、これ以上の理解もイレギュラーズ達には必要無いのだ。
「しかし、『家族が居るんだ。見逃してくれ』とはな……」
 渋い顔をしたファリスは苦笑い混じりに呟いた。
 小部屋の中にあった兵士の鎧には血がついていた。そんなものまで剥ぐのか。彼等にも家族は居ただろうに。
 嫌悪感と同時に否めないのは謎の失踪を遂げた自身の兄の事だった。
(イレギュラーズが可能性を集める者なのだとしたら、兄様も、いつかこの手で……必ず)
 静かで激しく、何より強い決意だった。

成否

成功

MVP

ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女

状態異常

なし

あとがき

 YAMIDEITEIです。

 一切無事完勝で。
 通常リプレイを書いたのは数年振りなのですが、楽しかったです。
 また機会があったら遊んで下さいませ。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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