シナリオ詳細
盗賊隊商
オープニング
●幌馬車隊
軽装に身を包んだ複数人の男達は、交易品を大量に積んだ幌馬車を引いて、街道より離れた平地を周囲を警戒しながら進んでいた。
此処、幻想(レガド・イルシオン)の地は言わずと知れた物流の要衝であり、こういった交易馬車のやそれらを運ぶ交易商人というのも珍しくはない。
「隊長、あとどのくらいで物資の買い手が居そうな場所まで辿り着けますかねぇ。この馬、すっとろくて敵わねぇや」
馬車の手綱を引いている若手の男が気だるそうに、隣の席で座っている年配の男へ伺う様に声を向ける。
この「隊長」と呼ばれた年配の男性は集団の中でも立場が強いのであろう、その証左に他の男達の武器は安っぽいダガーやナイフなどといった貧相な代物しか身に付けていないのに、この隊長は如何にも立派な大型銃を大事そうに手入れしていた。
「そう焦るな。足が遅くたって、商品を眺めて勘定して余韻を楽しめばいい。足が早いシロモノが混ざってる訳でもないだろう」
若手の男は背後に目を向けた。交易品だけを見れば、確かに高価そうな装飾品や酒など、簡単に腐敗しない物ばかり。
隊長は自分の考えが至極正論であるかの様に、手元の銃から目を逸らさずに調整を続けていた。
「だからって……」
若手の男は交易品の横に置かれた赤黒い塊へ目を移し、顔を顰める。隊長は視界の端でその表情を感じ取って、銃を弄る手を止めた。
「い、いえ。決して隊長の行動に不満を言いたいワケでは……!!」
若手の男は、それに対してひどく怯えた顔を浮かべる。幌馬車を徒歩にて警護していた他の男達も、弁護まではせずとも剣呑な雰囲気に息を呑んだ。
隊長は、それらを意にも介さずに馬車の助手席から幌へ乗り込み、荷台にあった赤黒いモノを勢い良く外へ蹴り飛ばした。
幌馬車の周囲に居た男達が、その光景に情けなく悲鳴を漏らす。
当然かもしれない。赤黒い――風穴だらけで、腐敗しかけた女性の躯が目の前に蹴り飛ばされて来たのだから。
そして隊長は仲間達を威圧するかの様に一言発した。
「オマエらもこの商人の小娘みたいに”足が早くなりたくない”だろう?」
●穏健とはただ無抵抗にあらず
「やぁ、俺は『黒猫』のショウだ。気軽に情報屋、とでも呼んでくれ」
ギルドに集まったイレギュラーズに対して、落ち着いた口調で自己紹介を述べる『黒猫の』ショウ (p3n000005)。
ショウは自分の事は簡潔に話し終え、依頼の詳細を語り出す。今回の依頼内容は交易隊商を複数回に及んで襲撃している盗賊団を討伐して欲しいとの事だ。
「周辺の目撃情報や命からがら逃げ延びてきた隊商の人から構成やアジトにしている場所ほぼ確定している」
相手は六人。尚且つ、隊長格の盗賊以外は武器も実力も未熟で、たかが知れている。ショウが話している情報でさえも盗賊達が恐怖によってただ従っているだけに過ぎないのが薄々察しがついた。
逆に言えば、隊長格の盗賊だけはどうにかしなければこの盗賊達は中々に面倒な手合であるのも理解出来る。
「……それと、これは耳に入れておきたいのだけれど、依頼者はあの『遊楽伯爵』――ガブリエルの手のもんだ」
ショウは秘密話とばかりに声を潜め、その場のイレギュラーズ達に事情を話す。
彼は商人ギルドと繋がりがあるのは周知の事実だが、ガブリエル・ロウ・バルツァーレクの庇護下にある交易隊商が盗賊に蹂躙されている事態は、黙って見過ごし続ければガブリエルにとって沽券に関わる。
しかし、盗賊のアジトが他の貴族派閥――『暗殺令嬢』や『黄金双竜』など――との縄張り上のボーダーラインにあり、安易には私兵を動かすのも躊躇われる状態だという。
「だから誰にも属さない様な立場である俺達ローレットが頼られたってワケだな。討伐対象は全員Dead or Alive……生死問わずと依頼者から言われてるが、もしも余裕があるならば一人以上は生け捕りをお望みとの事だ」
万が一他に隠れ潜んでいる盗賊が居ないか聞き出したりするなど、依頼者側にも色々事情があるのだろう。
「そこら辺も含めて、イレギュラーズの皆ならどうにかしてくれるって信じてるさ。それじゃあ、頼んだぞ」
- 盗賊隊商完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月22日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●狂犬と狼
街道に沿う山林は、斧鉞の打ち込まれた事のない木々が立ち並ぶ深緑の森である。
木を隠すなら森の中という諺はあるが、森に隠せるのは木に限った事ではない。
「今日は獲物が来ないな」
その山林に隠れ潜む、年配の盗賊――隊長とされる男が、苛立った様に低い声で呟いた。
共に周囲を警戒している見窄らしい風体の盗賊が、おずおずと隊長に意見を述べた。
「隊長、この前のは流石にやり過ぎたんじゃないでしょうか。あぁまで派手にやったら交易隊はココを通るのを忌避しちまうってのが必然です」
隊長は部下の意見に、不愉快そうに眉を顰めた。
そんな事は言われなくとも分かっている。しかし、交易を行う上で要となるルートは存在するものだ。利益を追求する商人達からすれば、この道は重要と言わざるを得ない。
その利益を得る為には、盗賊に襲われる危険性を承知の上してでも傭兵を雇って押して通るか、或いは……。
「……隊長、潮時じゃないんですか。いくつも隊商を襲って、あまつさえヒトゴロシまでやらかしたときたら。ここは貴族から取り締まり難い場所だからって、そろそろ討伐の手が」
その進言を、隊長は遮る様にして手を向けた。
部下の盗賊は、それに対して押し黙るしかなかった。なにせ、何人もの商人に躊躇いもなく風穴を開けて来た銃口が向けられているとあらば。
「その時はその時だ。それに、討伐に来るとしたらおそらくは『ローレット』の奴らだろう? いわば傭兵、連携なんて取れない烏合の衆だ。俺達が負けるはずない」
彼は嘲る様に笑みを作った後、身を震わせて口を噤んでる盗賊から銃口を上に逸らした。
「こっちには銃がある。ローレットだかルーレットだか知らねぇが、歯向かって来たとしたらあの商人の小娘みたいに風穴だらけにしてやるよ」
部下に向けてそう言い切った後、傲慢じみた高笑いをあげた。
その光景を、山林に先行して偵察を行っていた巨躯の狼――『なんでも食べる』ヨキ(p3p001252)に獲物として目を付けられていたとも知らずに。
●キルマーク
暫くして、見張りを交代で行っていた盗賊達は、隻眼の大男を先頭にした者達が街道側から真っ向に自分達へと距離を詰めて来ている事を察知する。
「何しに来やがった。女を売りに来た、ってんなら、買ってやらん事は無いが。男手ばかりで昼にも夜にも世話係が必要だったんだ」
隊長の男は、イレギュラーズの目的を分かっていながらも挑発する様に『猫メイド』ヨハン=レーム(p3p001117)へ卑しい目を向ける。キット、その風貌がその盗賊に気に入られたのだろう。
ヨハンはそれを受けて微妙な顔をするも、ヨキは淡々と隊長に言葉を返す。
「流通を、妨げるのは、良くない。食料、腐るのは、勿体無い、から」
ヨキの言葉に、盗賊の隊長は鼻で笑った。
「肉は腐りかけが美味い、って知ってるか? お前らが寝返るっていうんなら腐りかけの肉を分けてやるよ。貴族の狗め」
隊長格の盗賊はイレギュラーズを見下す様にそう言い捨て、銃を構えながら相手が攻撃の間合いに入ってくるのを待った。
間合いに入って来た瞬間、あの大男の顔面を吹き飛ばしてやろう。先手で一人ブッ殺してやれば、大概はビビって仔犬みたいに従順になるもんだ。
「えらいひとは、できるだけ捕まえるようにする……?」
「生き物の、人のどこを射ればってのは、わかってるからね。よーく狙い撃つよ」
しかし、隊長の目論見は外れた。
ヨキの後ろに控えていたイレギュラーズの二人、『虹彩の彼方』セレン・ハーツクライ(p3p001329)と『竜騎夢見る兎娘』ミーティア・リーグリース(p3p000495)が繰り出した攻撃は、盗賊の隊長が武器とする銃の間合いよりも射程を上回っていたのである。
「!!」
しかもそれらは全て前線に居る部下の盗賊ではなく、後方に控えていた自分へ目掛けて放たれた。飛んできた二つの矢弾を避ける為に、隊長は体勢を崩さざるを得なかった。
「ヒトを殺した悪人か。ならば殺す事に躊躇する理由はねぇな」
そして射程外から攻撃出来る三人目のイレギュラーズである、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は、決してその隙を見逃さなかった。
数瞬間を置いて放たれた魔術の弾丸が、隊長の右肩に突き刺さる。
傷を受けた隊長は怒りに満ちた呻き声を漏らした。
「ぐっ……お前ら、何やってぼーっとしてやがる! アイツらを殺せ。さもねぇとお前らごとブッ殺すぞ!」
八つ当たりの怒号としか言い表しようがない命令を、配下の盗賊達に浴びせる。
その命令に対して、五人の部下は仕方無しと言わんばかりに短い刃物をイレギュラーズに向けた。
「全く。久し振りに刀が振るえそうですね」
それを受けて『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)は、灰桜色の鞘からすらりと刀を抜き出した。
「我が愛剣フロッティにて、正義の裁きを下すでありますっ!!」
薫子の構えに呼応する様に、『銀翼は蒼天に舞う』エルヴィール・ツィルニトラ(p3p002885)も両手剣を軽々と掲げる。
二人とも剣の使い手であり、構え方を見るだけでも、生半可な修練すら積んでいないであろう盗賊よりウワテである事は明らかである。
それだけに盗賊の隊長は、力を込めて静かに歯噛みした。いつ部下を捨て駒にして逃げ出したものかと。
●生死は問題にあらず
イレギュラーズの予想通りというべきか。部下の盗賊達は脅される様に命令されるやいなや、隊長格の者を庇う様にして立ちはだかり、また射程の長い攻撃を使える者を狙おうとする。
おのずとそれを防ぐ前線の者と入り乱れ、戦場は激しさを増す事となった。
「小細工はせず、正面戦闘であります!」
始めに迎え撃つはエルヴィール。まさしく竜に翼を得たる如し。猛々しく羽を広げ、掲げていた両手剣を振り下ろし、その一撃によって盗賊の片腕を粉砕する。
片腕が使い物にならなくなった盗賊は、悲痛な声をあげた。しかしながら、もう片方の手にナイフを握り直して破れかぶれにエルヴィールの頭蓋目掛けて斬り返し、他の盗賊も立て続けに周囲から斬りかかってくる。
「おわ、っと!?」
切れ味の悪いナイフが、嫌な音を立てて翼についた鉤爪と龍角を浅く削る。
野盗にしては存外とも言えるイヤに連携の取れた蛮勇な行動に、盗賊達の顔を伺えば、どうにもイレギュラーズに倒される事よりも別のモノに対しての恐怖に滲んで見えた。
事前に隊長格とその配下の関係性を聞いていたイレギュラーズは、なんとなしにその理由の察しが付く。
「首輪の付いた狗は俺達だけじゃぁないってか」
レイチェルが思わずそう漏らし、苦い笑みから尖った八重歯が見え隠れする。
「でも、できれば全員を生かしてあげたい」
「賛成だ。食べられも、しないのに、殺すのは、俺としても好ましくはない」
ヨハンとヨキが受け応える様に、片腕が潰れた盗賊へと格闘戦を仕掛ける。ヨハンの剣柄による打撃でよろめいた瞬間、繰り出されるヨキの足払いを避けきれず、盗賊は頭を打ち付ける様にしてその場に昏倒した。
レイチェルはその一連の攻防を見届け、金銀の双眸を盗賊達に向けながら再び遠距離の術式を構築する。
「めんどくせぇ事はやらん主義だが……今は首輪の付いた狗で居てやるさ」
そう言って、自嘲気味に笑みを強める。それは一種、盗賊達への脅しも含んだ言い方にも聞こえた。
開幕早々仲間の一人が無力化された事、そしてレイチェルの妖しい眼光を向けられた盗賊達は少なからず動揺が走ったが、隊長格の盗賊だけはお構いなしとばかりに口を開く。
「面倒な事を好きこのんでやるたぁ、貴族の狗は案外お優しい事で。何なら、このまま俺の事も見逃しちゃくれないかい? 俺だって生きる為にシカタなーく……」
隊長の盗賊は煽る様に挑発をしながら、何の躊躇いもなくエルヴィールの心臓へ狙いを付けて銃弾を撃ち放ってきた。
その様な騙し討ちなど容易に予測し得たといえど、ナイフを避け続けた隙を付いて放たれた弾丸を避けるには敵わず、エルヴィールは咄嗟に急所から弾丸を逸らすに精一杯であった。
「ぐっ!」
先端の尖った鉄の塊が、エルヴィールの肩口の肉を抉り、鎖骨を削る。
「エルヴィールさん!!」
その光景を見た『深き峡谷の銀鱗』オロディエン・フォレレ(p3p000811) が、事前に用意していたSPD――スペシャル・ポーション・ディフェンスを咄嗟に投げ渡した。
「大丈夫、であります……!」
エルヴィールは骨を損傷した激痛によって気絶しそうになりながらも、回復薬をすぐに傷口へ振り掛けて負傷の悪化と痛みを抑える。
隊長の盗賊は苦い顔をする。こういう傭兵モドキの手合は一人殺しさえすれば後はどうにかなってきたというに……仕留め損なった上に回復されるとは何と面倒な。
「騙し討ちとは関心しませんね」
穏やかな。そして冷淡とも言える声色を耳にし、隊長格はそちらに目を向けた。
エルヴィールと同じく、頭に生えたうねる様な角。レイチェルの金銀とは趣の違った、深紅色の両目。彼女を見て思わずヒヤリとしたのは、彼女のその眼や構えた銘刀の美しさによるものではない。
「では――――参ります」
他の盗賊達には一切の脇目も触れず、自分の事を斬り伏せようと全力で間合いを詰めて来た事にある。
「くそっ……!!」
彼自身にとって、何故自分がこうも執拗に狙われるのか訳が分からなかった。イレギュラーズを連携の取れない即席の傭兵風情と高を括っていたからこそ、それは確かに効果的な戦略であった。
距離を詰められては、銃で撃ち抜こうにも間合いが近すぎて具合が悪い。それ以上に刀と銃では一対一の接近戦では分が悪いというに、彼女の与える異様な威圧感に盗賊の隊長もたじろんだ。
堪え兼ねて反射的に薫子の顔面目掛けて銃を向けたところで、食い止める為にミーティアとレイチェルが弓矢を構えて射放った。
「みだりに命を奪うつもりはないけど……!」
「俺達がやられたら元もこうもねぇな」
依頼人からは盗賊を一人以上生け捕りにして来て欲しいとは言われたものの、それを優先するあまり仲間の命が奪われては意味が無い。
元々そう意識していたミーティアは狙い澄ました矢を、レイチェルは死者の怨念による一束の矢を放つ。
致命と成り得るそれらの攻撃が脇腹に突き刺さろうが隊長は歯を食い縛り、瀕死の状態で薫子の顔面に銃口を向け続けた。
――貴族の狗風情が調子に乗りやがって。コイツだけでも殺してやる。
隊長格の盗賊は憤懣に満ちた醜い執念で、道連れとばかりにトリガーを引こうとする。
しかし、突如として魔術が籠もった縄が銃目掛けて飛来し、引き金に掛かった指に絡んだ。
「なっ……!!」
その縄を放ったのは、銀髪のハーモニア。セレン・ハーツクライ。森の賢者は戦う術も、守る術も持っている。この瞬間、薫子に対して射撃を行えなかった事は彼にとって致命的となった。
薫子は自分に銃口が向けられているのも構わず、相手の行動を阻害せんと互いへ獲物を押し付ける様に迫った。
「ああ、楽しいです。楽しいです。楽しいです!!!! そう、こんな感じでした!! 殺し合いは!!」
刹那の死線を体感して、彼女は狂喜する様に言い放った。武器を突きつけ合いながらを相対して、彼はヤット威圧感の正体を察する。
戦いを楽しむ異端の象徴。化け物と評するだけでは生易しい。無意識に敗北を悟って、尚も相対せざるを得ない恐怖は、まさしく“鬼気迫る”としか言い様がない。
状況が完全に不利だと分かって目の前のソレに立ち向かおうとする勇気も、負傷しているエルヴィールに対して攻撃を続けろと配下に命令する度胸も、彼には無かった。
そうして、深く考えずとも体が勝手に後ずろうとした。
「お前、だけは、逃せない」
逃走の素振りを見せた彼に対して、低く吠える様な声をあげながらヨキが飛びかかる。
その攻撃を盗賊の隊長は反射的に振り払おうとするも、先程の攻撃で瀕死の彼には荷が重すぎた。
押し倒され、完全に組み伏せられた盗賊の隊長はヨキに対して震えた声で持ちかける。
「なぁ、金なら分けてやるから見逃しちゃくれないか……お前が好きそうな肉もあるし、貴族の用意した報酬よりよっぽど――」
「大丈夫だ」
彼の言葉を遮る形でヨキは言葉にする。盗賊の隊長は了承を得たのかと思い、一度は安堵した。
しかしすぐに気づく。ヨキは表情は、肉食の獣が狙いを付けていた馳走を手に入れたかの如く。
「腐る前に、食べてやる。お終い、だ」
ヨキは彼の、負の感情が極まった“記憶”を捕食する為に、あんぐりと大口を開ける。
そしてついには堪えきれなかったのか、恐怖に満ちた悲鳴が山林に響き渡った。
●無力化完了
「ククク……てめぇらの頭よりも俺の方が恐ろしいだろう? 何しろ吸血鬼――生き血に餓えた化け物だからなァ喰われたくなけりゃ、大人しくするんだな」
隊長格の盗賊が無力化された事を確認したのち、レイチェルが笑みを浮かべながらその様に言う。まがりなりにも目の前で他人が捕食された後だと、その瞳の鋭さも相まって言葉にも妙な説得力を帯びていた。
レイチェルに併せて、ヨハンが盗賊達へ語りかけた。
「僕たちの雇い主に協力する事で罪を贖い足を洗うチャンスが生まれるかもしれない。投降すれば命までは取られないでしょう。だから――」
大人しく降参しろ、と。
ヨハン自身死罪にならないと確約は出来ない口約束とは分かりつつも、勝ち目も逃げられる可能性も無い状況において抗い続けるのは盗賊達にとって利が無い。
隊長の意に背いて何か手酷い事をされる可能性も見えなくなった今となっては……。
「……わかった、投降する」
見窄らしい風体の盗賊が、降参の意志を示す様に武器を捨てる。それが呼び水になったのか、次第に他の盗賊達も、武器をゆっくりと地面に置いた。
「ウチの部下として働くとか……は流石に無理だよねー」
オロディエンは仲間と共に盗賊達を拘束しながらも、持ち物から薬瓶を取り出した。
そして片腕を大きく負傷して半死半生の盗賊に、エルヴィールに与えた物と同じポーションを塗り与える。一応、盗賊の隊長にも。
「……これからは、心を入れ換えて真面目に働いてよね!」
塗り終わってから冗談の様にパチンコを構えてみせたが、恐怖で満ちていた彼らの心にはその慈悲こそが響いた様子であった。
盗賊達が互いの顔を見つめ合ってのち、その一人がオロディエンに明瞭とした声で伝えた。
「奪った交易品の在処を教えるよ」
●圧勝凱旋
「まさか盗賊達を全員生け捕っただけでなく、交易品まで奪い返して来るなんて。依頼主にとって嬉しい誤算だね」
ローレットのギルドに報告へ行くと、ショウ・ブラックキャット(p3n000005)はニンマリ顔でイレギュラーズを迎えた。
「ちょっと、けっこう緊張したけど……」
「依頼人の意向には沿ったまで、だ」
「正義の裁きを下したまで、であります!」
ぎこちなく返答するセレンに、偶然にも同時に言葉を繋げるレイチェルとエルヴィール。
「俺は、空腹が癒えた」
「私もまた強き者と戦えるのなら」
それぞれ成し遂げた事を報告し、ショウは何処か微笑ましそうな表情を浮かべながら皆に告げた。
「追加報酬として依頼人からキミ達宛に渡してくれと頼まれたものがあるんだよ」
そうして、部屋の隅に置いてあった木箱を皆が席に着いているテーブルへと持ってくる。
……そんな彼がやたら機嫌が良さそうに見えるのは、自分達の気の所為だろうか。
木箱の蓋を開けてみれば、その理由が分かった。貴族御愛好の、高級品のワインや装飾品だ。機会がなければ早々お目に掛かれるものではない。
酒好きであるショウも、イレギュラーズが依頼を成功させた恩恵に預かったというところか。
「キミ達のお陰もあって、脅しつけられてた部下達も素直に交易品を返還してくれた様だから公明正大な扱いは受けられるだろうね。……隊長格の奴はともかく」
「投降してきた方を死罪にしたところで生まれる利益はありませんしね」
「それでも商人さん達を殺したのは彼らってのは忘れちゃいけないことだから」
ヨハンとミーティアの言葉に、ショウも同意する様に頷く。たとえ彼らがどうなろうが、死人は決して戻っては来る事はない。彼らの行末は、もはや依頼人側に委ねられる事だ。
「ともかくとして、成功を祝って飲み交わそうじゃないか。……ところでオロディエン」
「へ?」
不意に名指しされたオロディエンは、彼が先程とは違って微妙な笑みを作っている事に不思議に思った。
「依頼をこの様に成功させただけでなく、キミ個人がわざわざ交易品の返還に尽力してくれて、商人の間で話題の的にはなってる」
駆け出し商人として名声を得るところは本人も望むところであったから、それ自体は喜ばしい事なのだが。ショウは咳払いを一つして話を続ける。
「いや、ちゃんと商売仲間の利益を追求した対象として憧憬の目で見られてる事は情報屋として保証するけれど……生き馬の目を抜くというか、『盗賊のように抜け目ない』と噂されてて――」
「誉め言葉だけど、ホントの盗賊はノーサンキュー!?」
商人達からしたら暦とした褒め言葉なのだろうが、どうにも喜んで良いのか悪いのか分からない『称号』であった……。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
初依頼お疲れ様でした。だいぶ緊張しながら書いた新人ゲームマスター稗田です。
何かしらの形で隊長の実力を上回る必要がありましたが、射程だけならいざ知らず。ほぼ全員から狙われれば彼もマトモに対処出来なかった様子です。此度はそれにて圧倒と相成りました。
皆さんの成果は、ガブリエルの御膝下である商人ギルドの話題になりました。追加の報酬として交易品の一部が彼らなりの返礼として融通される事となります。
成人のキャラクターにはワインが、未成年のキャラクターには装飾品が贈呈されています。
また、どうやらオロディエンさんは商人達にとっての話題になった様で『盗賊のように抜け目ない』という称号が授与されます。実際にその称号を名乗るかどうかは本人に委ねられますが。
(これらは、記念品として実際にアイテムや称号という形でシステム的に送られます)
作風の方向性を模索している最中ですが、皆さんに公平なリプレイを描ける様に尽力していく所存です。
よろしければ、またいずれかの依頼でお会い出来れば幸いです。
GMコメント
初めまして、新人の稗田 ケロ子と申します。
今回は『盗賊隊商』への参加ありがとうございます。
ゲームマスター側から補足する情報は以下の通りです。
●達成条件:
本目標『盗賊全員の殺害もしくは捕縛』
副次目標『一人以上生け捕りにする』
本目標を達成すれば副次目標は達成できずとも依頼は成功となります。
●情報確度:
Aとなります。討伐対象についてはオープニングと補足で記されてた事がほぼ全てです。
●討伐対象:
・火器を持った手練の盗賊が一人
・短剣やダガーなどの刃物を携えた手下五人(イレギュラーズと同等以下)
●盗賊アジトの情報:
街道を行く隊商の馬車がすぐ見える山林に陣取っているとの事。
盗賊のアジト側からは見晴らしがよく、何かしら視界を制限するなどの手段を講じなければ真っ向からの戦闘となるでしょう。
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