シナリオ詳細
フクロウ貴族・ミスティル卿の憂鬱
オープニング
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「やった、やっと見つけたぜ……これさえあれば、奴の悪事を暴くことが出来る!!」
深夜。フクロウの仮面を付けた赤髪の青年は、半年に渡る己の苦労が報われた事に思わず歓喜の声を漏らした。
ここは幻想国内にあふれる腐敗と犯罪の匂いに塗れた貴族の1人、ミスティル卿の屋敷。その一室である。
「こんな反吐が出るような屋敷からも、あのフクロウ狂いからもおさらばだ! ついでにこの仮面からもな!!」
そう言って仮面を投げ捨てた赤髪の青年の名は、ギース。彼は半年程前からこの屋敷に勤めている使用人……というのは仮の姿で、実の所は貴族打倒を目指すとある活動家グループの一員である。
彼はスパイとして悪名高いミスティル卿の屋敷に潜入し、その悪事を暴く証拠を密かに探し続けていた。
そしてこの夜、ようやくその証拠となる多くの文書を見つけたという訳である。
「どれだけの人間を私欲の為に苦しめてきたんだ、クソ野郎が……!! だけど待ってろ、てめえには然るべき法の裁きが下されるからよ!!」
怒りに燃えるギースは持てるだけの証拠を袋に詰め、屋敷を飛び出した。
仲間達の下に証拠を届け、憎き貴族に正義の鉄槌を下す為に。
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ギルドローレットへ、1人の少女がやってきた。メイド服にフクロウの仮面という、そこそこ異質な出で立ちの少女である。
最もこの世界では、ひいてはこのギルドの中には、もっと混沌とした出で立ちの者も多いであろうが。
「どうしてこうも、世の中には阿呆が多いのでしょう……。そしてその阿呆共に迷惑をかけられるのは、いつだってミスティル様の様な高貴な方達……。皆様もそう思いません?」
この少女は若くしてミスティル卿から深く信頼されているメイド長である。彼女はミスティル卿からの命を受け、直々に仕事の依頼に来たのである。
ちなみになぜ彼女がフクロウの仮面を付けてるかというと、彼女の主であるミスティル卿が生来のフクロウ好きであり、自身に仕える者たちに例外なくフクロウの仮面を付けさせているからである。一言でいうと趣味である。
「さて、それでは早速仕事の内容についてなのですが……単刀直入に言いますと、殺しの依頼です。この男と、彼の7人の護衛達、合わせて8人を1人残らず殺して頂きたいのです」
そう言って少女は、イレギュラー達に複数の写真を差し出した。
その写真の一枚には、赤髪の青年、ギースの姿も写っている。
「その赤髪の男はつい先日、畏れ多い事に我が主、ミスティル卿から盗みを働いたのです。我が主が様々なご友人たちと『有意義な取引』を交わした証拠となる文書を。調査の結果、彼は貴族打倒という悪行を成さんとするとあるグループの一員である事が発覚しました。なんて忌々しい男……」
少女は深い溜め息を吐き、更に話を続ける。
「……しかし実際の所、そんな文章があった所で我が主に危害が及ぶことはあり得ません。我が主は平民共には一生手に入れる事の出来ない財力と、多くの『ご友人』をお持ちですから」
要はコネと賄賂があるから有罪になんてなる筈がない、という事だろう。
「ですが我が主は今回の件で心底お怒りでして。二度とこんな事を起こさないため、見せしめとしてこの男と彼を護衛する傭兵共を全員処刑する事に決めたのです。そして皆様達は誉れ高い事に、その処刑人として選ばれたのです」
ミスティル卿は盗みが発覚した直後、自らの密偵を駆使してギースの居所と、彼が複数人の護衛を雇い入れている事を確認した。
そうなれば後は私兵を向かわせ処刑するだけ……となる筈だったのだが、ミスティル卿は怒りのあまり、盗みが行われた夜に屋敷の警護を行っていた私兵もうっかり処刑してしまっていた。
その為屋敷は一時的に人員不足。だけどギースは一刻も早く処刑してしまいたい。そんな経緯があり、ギルドローレットへ仕事が回ってきたのである。
「ギースは現在、とある薄汚い寂れた町の、一際薄汚い廃屋……正確に言えば潰れた酒場に、7人の傭兵たちと共に潜伏しています。恐らくどこかのタイミングで、更に薄汚い仲間達と合流する気なのでしょう」
ふう、と1つ息を吐き、少女はイレギュラー達を見回した。
「やり方は皆様にお任せいたします。煮ようが焼こうが、斬ろうが潰そうが抉ろうが裂こうが絞めようが。汚らわしい賊とその賊に助力する不届き者達に、正義の鉄槌を下してくださいませ。あ、ついでに文書も燃やしておいてくださいね」
そう言って少女は、フクロウの仮面の奥でにっこりと微笑んだ。多分。
- フクロウ貴族・ミスティル卿の憂鬱完了
- GM名のらむ
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月21日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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処刑当日。メイド長から渡された情報を基に、ギースと護衛達が潜伏しているという廃酒場付近まで到着したイレギュラーズ一行。
しかし念には念を入れ、イレギュラーズ達は廃酒場周囲の探索を行い、結果いくつかの情報を手に入れた。
「窓はどこもかしこも板で塞がれてるな……経年劣化で壊れたのかこそ泥に割られたかは知らないが、戦闘中にあの板を剥がして逃走するのは現実的じゃないな」
廃酒場周辺の物陰から調査を行った『農奴上がりの』ルガド・トキア(p3p004161)。窓からの逃走は恐らく厳しく、出入り口は正面扉と、建物裏手に存在した裏口の2箇所だと判明した。
「伏兵はいないみたいねぇ。ギースは自分の身を守るのに精一杯みたい……もしいたらたっぷり可愛がってあげたのにぃ」
ローレットによる人払いの効果もあって事だろうが周囲に他の人影は無く、それを確認した『世界の黄昏を知る者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)は小さく笑い、独りごちた。
「まあ、正面扉と裏口さえガードしておけば逃走される危険は少ないとは思うけど……警戒しておいて損は無いわね」
『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)は、敵の逃走防止の為、いくつかの簡単な罠を設置していた。
掛かれば完全に足を止められる、という程のものではないが、時間稼ぎにはなるだろう。
「周囲の地形もある程度把握出来ました。備えは十分です。後はもう、実行するだけです」
罠の設置を手伝い終えた『此花咲哉』叶羽・塁(p3p001263)は集まった情報を皆に伝達し、イレギュラーズ達はそれぞれの突入位置へと向かった。
「いよいよですね……初めてのお仕事、張り切っていきましょう!」
おおよそ真っ当な仕事とは呼べない代物かもしれないが、『夢見る幻想』ドラマ・ゲツク(p3p000172)はそんな事を気にするでもなく、只々純粋に気合を入れていた。
突入直前。イレギュラーズ達の間に僅かに緊張した空気が流れた気がしないでも無かったが、それも一瞬の事だった。
バァァン!! と威勢のいい破壊音と共に、正面扉と裏口の扉がほぼ同時に破られ、イレギュラーズ達は一斉に廃酒場の中へと突入した。
そのまま逃げ道を塞ぐように位置を取り、奇襲を仕掛ける。
「ごきげんよう、人間の皆さん。突然だけど殺されてもらうわ。楽しませてね?」
突然の襲撃に不意を打たれたギースと傭兵たち。その眼前に『妖花』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)は躍り出ると、身体から伸びた鋭い一本の蔓が、傭兵の肩を深々と貫いた。
「……あ、こんにちは。俺もまあ人間なんだけど、殺しに来たよ。同じ人間のよしみで死んでね」
次いで『鈍』東雲・和(p3p004336)が、和なりに礼儀正しい挨拶と共に刀で傭兵の1人を斬りつけた。
「な……!! だ、誰だお前ら!!」
椅子に腰掛けていたギースは転げるように慌てて立ち上がり、銃剣を手に取る。
「まあ、名乗るほどの者では……とでも言っておきましょうか。ひとまずは、借りた者のご返済をお願いしたく」
『水底に咲かず』ダンデライオン=フワ=ダンタリオン(p3p000255)はふわりと前に進み出ると、杖を前方に突き出した。
杖から放たれた衝撃波が傭兵の鼻先を強く打ち。更に後方からは銃弾やら毒ビンやらが一斉に放り込まれ。本格的な殺し合いが始まった。
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「クソ、まさかこの場所がバレていたなんて……!!」
予期せぬ襲撃に、ギースは焦りを隠せない様子で銃剣を構える。
イレギュラーズ達の突然の襲撃に対応できず、ギースと傭兵たちは一方的に攻撃を受けた。初手は上々といったところだろう。
「お前らはどうせあのフクロウ野郎の刺客だろうがな……そう簡単に仕事を終えられると思うなよ!!」
そう言ってギースが放った弾丸はニエルの肩口を掠め、流れ出す血がニエルの白衣に赤黒いシミを増やす。
「……あらぁ、生意気な事してくれるじゃない? これは『特別コース』も張り切って臨まなきゃねぇ。だけどまずはぁ……」
いまいち感情が読み取れない口調で言い、ニエルはバッグの中から劇毒の入った瓶を取り出し、放った。狙いは、奇襲の際多くの攻撃を受けた体術使いの傭兵。
割れた瓶から飛び散った毒液に蝕まれた傭兵は、口と目から血を噴き出した。ギリギリの所で立っているが、間違いなく死にかけだ。
「そのまま動くなよ。無駄に苦しみたくなけりゃあな」
ルガドはそんな傭兵にトドメを刺すべく、銃を構えた。狙うは傭兵の心の臓。
「ま、待て、待ってくれ……!! 助け……!!」
「そいつは無理な相談だ」
そして引き金が引かれた。放たれた一発の弾丸が傭兵の心臓を精確に撃ち抜くと、傭兵は糸が切れた様にバッタリと倒れ伏した。
それを確認したルガドは、表情1つ変えず弾を込め直した。
「早々に1人仕留められたのは大きいですね。このまま優勢を維持しましょう」
1人の殺害が完了した事を確認し、塁はすぐさま次の行動に出る。
狙いを定めたのは散弾銃の傭兵。距離を補うため、塁は手元にどす黒い弓を発現させて素早く狙いを定める。
「次はあなたの番ですよ」
深い怨念が込められた矢が傭兵の胸に突き刺さる。傭兵の身体に痛みと、暗い感情が染み渡っていく。
「この……!」
傭兵は塁に銃口と殺気を向けるが、傭兵が攻撃に出るよりも早く、ドラマが動いた。
「させません、このまま決めます!」
ドラマは手にした魔術書をふわりと開き、精神を集中。頁に刻まれた魔術を素早く詠唱する。
「全体的に動きが遅いです。次はもう少しうまくやれるといいですね」
直後、傭兵の足元に魔法陣が展開。避ける間もなく放たれた白い雷が傭兵の全身を貫き、傭兵は声も無く意識を失った。
「な、なんだんだこいつら……? もう2人死んじまったぞ!!」
大鎚の傭兵は額に汗を滲ませる。彼にとってこれは簡単な護衛の仕事の筈で、死ぬ事など全く想定していなかったのだ。
「今更どうにもならないわ、諦めなさい。誰を恨もうが呪おうが自由だけど、あなたが死ぬことはもう決まってるのよ」
「ふ、ふざけんな!!」
傭兵は自身をマークしているロザリエルに向けて大鎚を振り下ろし、ロザリエルの身体を強く打った。
「……やってくれたわね、人間の癖に。身の程を知りなさい」
ロザリエルは明確な怒りを傭兵に向け、身体に生えた一枚の葉を振るう。鋭い刃の如く葉は傭兵の胸を深く斬りつけた。
「ウ、ウグ……!!」
大量の血を流し、よろめく傭兵。その隙を、リアは見逃さなかった。
「あと一発で事足りるわね。仕留めるわ」
倒れたテーブルの影に身を潜ませていたリアは素早く立ち上がると、一気に弓を引き絞り、集中する。
「……結局の所、運が悪かったってだけの話よ」
勢い良く放たれた矢は、傭兵が身につけていた鎧の僅かな隙間を精確に射抜いた。
傭兵は引き抜こうと咄嗟に矢を掴んだが、そのままガクリと膝を突き、血の池に沈んだ。
3人の傭兵が瞬く間に倒れ、生き残った傭兵達の間に大きな動揺が走る。
「怯えるな!! 奴らも不死身じゃない、勝機はある!!」
「そうですかね。確かに俺達は不死身じゃないですけど、それとこれとは別の話です」
ギースの言葉に冷めた反応を返し、ダンデライオンは杖を構える。その瞳は、大剣の傭兵を捉えていた。
「あなたは半ば無関係かもしれませんが……利息分も、しっかりと頂かなくてはいけませんので」
ダンデライオンが杖に込めた魔力を放出する。すると傭兵の周囲が白く眩い光を放ち――次の瞬間には、その両肩に氷の刃が突き刺さっていた。
「グ……ウオオオオオ!!」
傭兵は痛みを無視し、必死の形相で刃を振るう。その一撃は、和の腕に傷を与えた。
「……痛いなあ。こういうのホント良くないと思う」
和は本当に嫌そうに顔をしかめると刀を構え、のんびりとした口調とは相反した凄まじい速度で、自らを傷つけた傭兵に肉薄する。
「まあ今のは許してあげるからさ、そのままじっとしててくれるかな。動くと殺し辛いから」
傭兵は和の言った通り動かなかった。というより、動く間もなく和に首を落とされた。だが和にはどちらだか判別が付かなかったので、とりあえず傭兵の亡骸に軽く頭を下げておく。お礼は人間の基本だからだ。
「クソ共が……!! 俺はまだ、死ぬわけにはいかねえんだよ!!」
ギースの叫びが、廃酒場にこだました。
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既に4人の傭兵が倒れた。そして残りも4人。対するイレギュラーズは8人。既に戦況はほぼ決していた。
ギースは周囲を見渡した。イレギュラーズ達は確実に逃走経路を塞ぐように位置取り、こちらの逃走も阻害する様に闘いを進めている。
数でも既に負けている以上、この廃酒場からも抜け出せないし、抜け出せたとしても逃げ切れない。そう判断した。
「だったら……だったら全員殺して生き延びるまでだ!!」
半ばヤケになっている節もあるが、ギースは更なる必死の形相で引き金を引き続ける。
「言うだけなら誰でも出来るわ。だけど貴方達はまだ、誰も殺せていない」
リアは冷淡に呟くと、魔力によって生み出した無数の矢を自身の周囲に展開させる。
「無駄なあがきで、依頼遂行の邪魔をしないで頂戴」
そしてリアが指差すと、魔法の矢が機関銃の様な勢いで放たれ、レイピア使いの傭兵の身体に風穴を空けていく。
「ああ、クソ、痛えな……こんな予定じゃなかったんだけど……なぁ!!」
最後の力を振り絞り、特攻に出た傭兵。勢い良く突き出したレイピアが、ダンデライオンの身体を突き刺した。
「……次の一手で仕留める予定でしたが、わざわざそちらから来て頂けるとは。ありがたいですね」
決して浅い傷ではなく、鋭い痛みを感じたが、ダンデライオンは平静を保ったまま杖を突き出した。
ゼロ距離で放たれた真空の刃が傭兵の胸をズタズタに引き裂くと、血塗れの傭兵はそのまま倒れ、そして死んだ。
「……っと、もっと苦しめた方が良かったんでしょうか」
どちらにせよ、死んでしまったら仕方がない。残る敵は3人。
「もしかしたら危ないんじゃないかと思っていましたが、上手くいきそうですね! このままお仕事完了させましょう!」
ドラマは槍使いの傭兵に僅かに接近すると、自らの体内に魔力を収束させていく。
「これは結構熱いですよ!!」
ドラマの手から色とりどりの火炎の華が放たれる。それは傭兵の全身を包み込み、焼き焦がした。
「グ……!! ウオオオオオ!!」
全身を焦がされたが倒れなかった傭兵。前へ飛び出し、和に向けて槍を突き出す。
「いやだからそういうのやめてって何度も言ってるよね」
咄嗟に身を翻し、槍を避けた和。そのまま傭兵に接近し、刀を振るった。
「……まあ当たんなかったから別に良いけど」
今日二度目の首刎ねを終え、和は刀に付いた血を軽く払った。
「クソ、クソ!! 死ね、死んでくれよ!!」
ギースは半狂乱になりながら銃を撃つ。最後に残った傭兵は逃走を試みてもいた様だったが、全てイレギュラーズ達に阻まれてしまっている。
「た、頼む、見逃してくれ……!! 仕事はもうどうだっていい。俺の命だけは……!!」
「残念だが俺達にとっちゃどうでも良くないんだ。それにこの仕事はある種の好機でもある。諦めろ」
最後に残った大盾の傭兵の命乞いを一蹴したルガド。銃を構え、狙いを定める。
「そのデカイ盾は随分邪魔だが……足元はガラ空きじゃねぇか」
直後、放たれた3発の銃弾。2発はそれぞれが傭兵の足元を撃ち抜き、傭兵は思わず苦悶の声を上げた。
「…………もう、こんなこと」
その光景を前に塁は思わず目線をそらし、呟いた。そしてしおらしい動作で、意味ありげな視線をギースに向けた。こんな戦いもう嫌だ、と。そう見える様な演技をした。
「……ふざけるな。これはお前らが仕掛けた戦いだろうが!!」
ギースは僅かに動揺した様だったが、頭を降って銃剣を構え直す。もしここが血潮香る戦場でなければ、ギースは完全に惑わされていたかもしれない。
「まあそうですよね。でしたら、普通に終わらせましょう」
さっぱりと方針を切り替えて、塁は瀕死の傭兵に術式を発動する。魔力によって現れた3本の光の剣が盾ごと傭兵の身体を貫き、そのまま傭兵は息絶えた。
「ゼエ……ゼエ……!! この化物共が……!!」
護衛が全員倒れ最早為す術も無いギースは、血走った目でイレギュラーズ達を見回し、銃剣を振るう。
「まだ抵抗を続ける気? よっぽど無駄なあがきが好きなのね」
手甲でギースの攻撃を受け流したロザリエル。トントンと軽く地を蹴ると一気に踏み出し、ギースの懐まで接近する。
「終わりよ。ひとまず生かしておいてあげるから、歯食いしばりなさい」
「なにを……ガッ!!」
ギースの顎先にロザリエルの飛び膝蹴りが綺麗に命中した。ギースの身体はふわりと浮き上がったかと思うと、そのまま頭から床に衝突し、そのまま動かなくなった。
「……え、死んだ?」
ロザリエル自身も予想外な威力が出た蹴りだったが、ギースは白目を剥き気絶し、ギリギリ生きていた。
戦闘終了。7人の傭兵の内6人が死亡。1人が気絶。ギースが気絶。イレギュラーズ達は負傷の大小すらあれど、全員健常。イレギュラーズ達の勝利である。
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戦いは終わった。後は生きている敵にトドメを刺し、文書を燃やす。それで仕事は完了する。
ルガドは戦闘終了直後、ギースが所持していた証拠文書入りカバンを掴み取ると、その中に左手を突っ込み、ギフトを発動した。瞬く間にルガドが持参してきた屑紙が、証拠文書そっくりに変容する。
「安心しろ、偽造しただけだ。元の文書は燃やせばいい……後は適当にやってくれ。今は時間がないからな」
そう言ってギースのカバンを放り投げ、ルガドはその場を去っていった。ルガドの偽造文書は30分後に屑紙に戻るため、その間に読み込むつもりなのだろう。
ちなみにニエルは証拠文書のいくつかを失敬する心づもりだったらしいが、
「仕事のうちだからね。悪いけど、止めさせてもらうよ」
といった具合に和に阻止された。
「それじゃ、綺麗さっぱり燃やしちゃいましょう」
そしてドラマが火炎の花を生み出すと、文書はカバンごと一瞬で燃え尽きていった。それを確認したドラマもまた、早々にその場を撤収していった。
ハイ・ルール的にも微妙なラインだったからか、次のお楽しみがあるからか。どちらかは分からないが、とにかくニエルは大人しく引き下がった。
「……ま、しょうがないわねぇ。それじゃぁ生き残ったお二方ぁ。慈悲は欲しい? 欲しくなぁい?」
「くれ。貰えるものは貰っておきたい」
「そう? 素直ねぇ、それじゃあ、痛みだけは少なくしてあげるわぁ……そうねぇ、護衛のあなたは仕事はできなかったみたいだけど、せめて臓器くらいは役に立ててあげるわぁ」
使う道具も環境も決して最良では無かったが、そうとは思えない器用な手捌きで、ニエルは生き残りの傭兵に対し、いわゆる『手術』を施した。『残虐な殺人』とも言えるが。
「……さっさと殺せ。もう逃げたりはしない」
意識を取り戻したギースは、目の前で行われる残虐な行為を青ざめた顔で見ていた。だが、腹は決めた様子だった。今の所は。
「そう焦っちゃダメよぉ。あなたは『特別コース』。私の能力って、こういう時には結構便利なのよぉ?」
ニエルは活き活きとした様子でギースににじり寄ると、自らの体力を他人に譲渡するというギフトと自らの医療的な知識と技術を駆使し、最大限長く苦痛を与え続けた。ギースの悲鳴が漏れる度、ニエルは震える程の快楽を得る事が出来た。
「4、5、6…………これで、7。ギース以外の傭兵たちは、確実に死亡しました」
そんな悪趣味な光景を余所に、淡々と。倒れた傭兵たちに確実なトドメを刺して回っていたダンデライオン。
「これ以上苦しみたくなかったら答えなさい。文書の写しを、どこかに隠しているんじゃない?」
「ソ、そんなもの無、ガ、アガ、ガァアアアアアアアアア!!」
リアの問いかけにそんな返事の様な叫びを返し、ギースの心臓は鼓動を止めた。
「……まあ聞いておいてなんだけど、完全に信用は出来ないわね。見つからなくても最終的には火を放つべきね」
そう言って、リアは廃酒場内部を調査した。結果的に隠された文書等は見つからなかったが、可能性としては低くなかっただろう。
「……終わったみたいですね。 文書の焼却と8人全員の死亡、完了です。帰りましょう」
仕事の完遂を見届けていた塁がそう呼びかけ、イレギュラーズ達は次々と廃酒場を後にする。
「あ、そういえば死体って持ち帰って大丈夫かしら。首とか残ってればいいわよね」
ついでにロザリエルは死体の一部を持って帰っていた。何に使うかは知らないが、多分何かしら有意義な使いみちがあるのだろう。きっとそうだろう。
そして去り際にダンデライオンが火を放つ。イレギュラーズ達が完全に町を去った頃には火は建物全体に燃え移り、全てを焼き尽くした。
数日後ギースと合流すべく訪れた仲間たちが愕然とした事は、言うまでもないだろう。
依頼完了。各自ギルドローレットへ帰還し、報酬を受け取るとしよう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
これにて依頼完了です。お疲れ様でした。
またのご参加、お待ちしております。
GMコメント
のらむです。
いきなりですが、依頼の補足をしていきます。
●成功条件
ギースと護衛全員の死亡、並びに文書の焼却
●廃酒場
元々人通りはほぼないが、ギルドローレットの手で周囲の人払いは済んでいる。
潰れてはいるが営業していた頃の物品は残っており、椅子やテーブル、酒瓶等が散乱している。
●ギース
赤髪の青年。銃剣を所持し、遠距離攻撃も近距離攻撃もそれなりにこなせる。多数の文書を所持。
●護衛達
ただの雇われの傭兵達だが、見せしめの為全員殺さなければならない。全部で7人。
7人の内3人はそれぞれ大盾、レイピア、槍を持ち、主にギースを守るように立ち回る。
残りの4人はそれぞれ散弾銃、大剣、大鎚、体術を駆使し、積極的に攻撃を仕掛けてくる。
●注意
この依頼は悪属性依頼です。
通常成功時に増加する名声が成功時にマイナスされ、失敗時に減少する名声が0になります。
又、この依頼を受けた場合は特に趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。
以上です。皆様のご参加、お待ちしております。
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