シナリオ詳細
再現性東京202X:Rockin' the Night in Style.
オープニング
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練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区だ。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域――。
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≪アマチュアミュージシャンの少年、マンションからの転落。飛び降り自殺をはかったか?≫
ベルナルド=ヴルァレンティーノ(p3p002941)は、暗いニュースを報じる紙面に暗いため息を落とした。
「西島君はまだ16歳か。好きな子と喧嘩してフラれたあげく、あてつけに飛び降りとは……」
幸いにして命は助かったようだが、意識不明の重体だ。
詳しく報じられていないが、事件の数時間前、現場近くで件の男の子と黒ずくめの服を着た女の子が言い争っていたところが目撃されていた。
男の子は、あるバンドの悪口を女の子に向かって大声でまくしたてていたと、新聞には書かれている。女の子はそのバンドのファンで、とくに――。
ベルナルドは新聞を畳んで脇におくと、ライブハウスの中を見回した。
ステージの上からざっと見積もったところ、オールスタンディングで数百人というところか。
ベルナルド=ヴルァレンティーノ(p3p002941)は高い天井に目を向けた。小規模に属するライブハウスだが、想像するよりフロアはずっと広い。
さっきスタッフの誰かが愚痴っていた。
満員電車の中には1車両にもっと人が入るんだ、ここだって詰めればまだまだ入るはずだ、と。
満員電車がどんなところか知らないが、きっとここと同じようなハコなんだろう。
あと3時間もすれば、この空間は人で埋まる。体を動かさずにはいられない至福のショーが、間もなく始まるのだ。
開演の2時間前になった。
ところが、ギター兼ボーカルとキーボードがステージに姿を現さない。とっくに最後のリハーサル時間になっているというのに。
楽屋を見にいっていたドラムのマーク・クーマが戻ってくるなり吼えた。
「おい、どうなってるんだグズナルド。2人はどこだ? お前じゃあるまいし。これじゃあリハーサルなしのぶっつけ本番でやるしかなくなるぞ!」
マークが2メートルを越える毛深い体でベルナルドに迫る。
「グズナルドっていうな。それに『お前じゃあるまいし』って、俺が一体なんだっていうんだ。俺は4時間も前にここに着ているし、いままでだって遅刻したことは一度もないぞ」
「『お前みたいに』泣かせた女に足止め食ってるんじゃないのかって、思ったんだよ」
「失礼な。俺がいつ――」
ベルナルドが反論を始めた途端、フロア奥の扉が勢いよく開かれた。
ボロボロの血まみれになったキーボードが転がり込んできて、泣きながらステージへ手を伸ばす。
「た、助けて」
ベルナルドはマークと一緒にステージから飛び降り、キーボードに駆け寄った。
「しっかりしろ、何があった!」
「ここに……来る途中で後ろから……『ブラックバード?』って声をかけられて。振り返ったらいきなり目の前が真っ暗になって」
目を覚ましたとき、2人の前に巨大なエレキギターがあったという。
「は? そのエレキギターがおまえたちを攫って、こんなになるまで痛めつけたっていうのか?」
とても信じられないと言った感じで、マークが鼻を小さく鳴らす。
「いや、痛めつけてきたのは、大勢の……女の子で。みんな同じ格好で……顔も、顔も……あれ? みんな同じ顔? いや、やっぱり違う……ベルナルドの取り巻きにいた子たち……全員の顔が混じったような……みんなすごい力で、めちゃくちゃ怖かった」
嫌な予感がした。
2人を攫って痛めつけたのは夜妖かもしれない。
ベルナルドはボーカリストの安否を訊ねた。
「いまのところは無事……だと思う。港の……廃倉庫の中にいる。ボ、ボクは逃がしてもらえたんだ。ベルナルドを呼んで来いって、巨大なギターに『男みたいな』声で凄まれて……」
そのあとは嗚咽に喉をふさがれて、言葉が出てこないようだ。
マークが優しく背中を撫でてやる。
「おいおい、しっかりしろ。ギターが喋るはずないだろ。だが、わかった。これはベルナルドに冷たくあしらわれてキレたファンたちの仕業にちがいない……って、ウソだよ。睨むなよ、ベルナルド。悪かった、冗談にしていい事じゃないよな」
ベルナルドはゆるゆると首を横に振った。
「別に睨んじゃいない」
ベルナルドは立ちあがった。
出口に向かって歩きだす。
「待てベルナルド、俺も一緒に行く。なかなか凶暴な女の子たちみたいだしな」
「いや、マークはここに残ってくれ。彼の手当とライブの準備を頼む」
「おい、まさか1人で助けに行く気か?」
こんなときに頼りになる連中を呼ぶ、とベルナルドは振り返らずに言った。
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アデプト・フォンが鳴っている。
気づいたあなたは大急ぎでカバンの中から、あるいはポケットの中からアデプト・フォンを取りだした。
液晶に表示されているのは希望ヶ浜学園の電話番号だ。
耳に当てると、いきなり用件が告げられた。
「ベルナルド=ヴルァレンティーノ氏からの依頼だ。夜妖に人が攫われ、危害を加えられている模様。辞退は緊急を要する。指定する廃倉庫に向かい、ベルナルドと力を合わせて夜妖を退治せよ。諸君の健闘を祈る」
例のごとく、通話は一方的に切られた。
- 再現性東京202X:Rockin' the Night in Style.完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「あ、ここだ」
店の名前を確かめると、『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)はアデプトフォンを閉じた。
古びたシンガーソングライターのツアーポスターが、地下へ降りる階段の横にぞんざいに張り付けられている。
階段を降りようとしたところで、地下からやってきた人物に気がつく。
『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)だった。
奇声を発しイヤイヤしている男の襟首を片手で掴んで、険しい顔で一歩、一歩、階段を上がってくる。
ベルナルドは階段口に立つ一悟を認めると、空いている手をあげた。
「一悟、来てくれてありがとう」
「久しぶり……って、のんびり挨拶している場合じゃねえよな。てか、誰?」
「一緒に戦ってくれる仲間だ。ドアの前で待っていたのをみつけて、引っ張ってきた。優だ」
『特異運命座標』安藤 優(p3p011313)が、襟首を掴んでいたベルナルドの手をやんわりと払う。
「お、おかしい……俺はブラックバードのライブを見に来ただけのはずなのですが……」
「面倒事に巻き込んじまってごめんな、優。後でいい席、割り当ててやっから」
「あ、オレ一悟。ヨロシク、優! とりあえず上ってこいよ」
ライブハウスの入口を離れ、3人で夜妖に指定された倉庫の方角へと駆け足で向かう。が、進みだしてすぐ、優が立ち止まった。
「あの、あの……あのですね、俺はまだ事情がよく飲み込めていないのですが、簡単に話を聞かせて……」
優のすぐ横、暗がりの中から、カキン、とライターの蓋が開く音が響いた。
スナックの壁に背も垂れた『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が、馴れた手つきで紙巻き煙草に火をつけ、ふたたび親指で蓋を閉じる。
手の中でその銀色の光沢を放つライターをいとおしそうになでながら、「ご機嫌なステージと聞いて、アーカーシュの歌って演れるDJが、頼もしい仲間を引きつれて混ざりに来たぞ」と言った。
ヤツェクの親指が肩の後ろを示す。
『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)がネオンの灯りの下に進み出てきてにっこり微笑み、「ヤツェク様と恩様、 イズマ様と4人で飲もうって言ってたところだったんですよ!」と言った。
あとを継いだのは『柳暗花明の鬼』形守・恩(p3p009484)だ。
「そこへ緊急の依頼連絡がアデプトフォンに入ったのじゃ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が、挙動不審になっている優の肩をだきながら、「詳しい話をベルナルドから聞くのは、移動しながらでいいかな」と提案する。
「ステージが控えてるんだ。早く助けないといけないし」
「ア、ハイ。アッ、アッ……皆サン……ヨロシクオ願イ致シマス……」
「それならうちのドレイクチャリオッツに、みなで乗って行くかえ。すぐそこじゃし」と恩。
すかさずアンジェリカが、「飲む前でよかったですね!」とツッコむ。
「どんな事情があれ、飲酒運転はいけませんからね!」
「ハ? いくら再現性東京、希望ヶ浜っていったって、亜竜が引っ張る馬車は規制外じゃねえの」
よく通る声に振り向けば、色とりどりのネオンに背後から照らされて、元気よく駆けてくるツインテールの小さな影があった。
ヤツェクとイズマが同時に声をあげる。
「キサナじゃないか!」
『野生の歌姫』キサナ・ドゥ(p3p009473)はニヤリと笑い、「通りすがりのアイドルだ」、と訂正した。
「アデプトフォンの通知を見て、飛び入り参加を決めたぜ。歌は任せな!」
「『通りすがりのアイドル』もとい、キサナ様。馬車には車がついています。だからやっぱり、飲んで乗っちゃダメなんですよ」
「ハ?」
いまにも議論を始めそうな2人の間にベルナルドが割って入る。
「みんな来てくれてありがとう。詳細は馬車の中で話す。とりあえず急ごう」
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目的の倉庫が近づくにつれ、耳に聞こえるギターの音が輪郭を尖らせていく。黄色い歓声すら、曲の一部のように感じられる。
夜の街を疾走する竜の馬車の中では、ベルナルドが仲間たちに依頼の背景となる先日の事件を伝えていた。
「飛び降りの直前に口論していたカノジョは『ブラックバード』のファンで、俺を押してくれている子じゃないかと思う」
ベルナルドは俯いて表情を隠している。
「だから夜ギターは俺を名指して呼び出したんだ。たぶん……、間違いない」
「ブラックバード」のキーボードが証言した巨大なギターはおそらく、自殺を図った池田少年の過度なストレスから生み出された怪異だろう。定まらぬ顔を持つ少女たちもまた、池田少年のゆがんだ承認欲求が作り上げたものに違いない。
駆け上がるギターの音と悲鳴に近い歓声が急降下で落ちる。
突然やってきた静寂と同時に、馬車の揺れが止まった。
御者台の後ろにかかる幌の幕がめくれあがり、恩が顔の半分を覗かせた。
「ついたのじゃ」
いわれるまでもなく、客車の中からイレギューラズたちは飛び出していた。
恩は竜の背中をそっと撫でて労をねぎらう。
鉄のすべる重い音に振り返れば、仲間たちの手によって倉庫の巨大な扉が開かれていた。
下界よりも一段と濃い闇の中に、青白い光を放つ目が無数に浮かびあがる。
一悟は殺意を乗せた複数の視線に晒されながら、堂々と名乗りをあげた。
「やあ、みんな。スーパーミュージシャン(自称)の一悟が来たぜ。オレを知らないなんて、遅れた子はいないよな?」
「はぁ、誰よ? アンタなんか知らないわよ!」
優が一悟の肩越しに、更にあおりを入れる。
「ウヒャアー、ヴァババババーカ。知らないんだ。オオレモ、シラナイケドゥ、へー、シラナインダ」
「バケツ頭 にツンツン頭、マジ、ムカつく」
たちまちのうちに殺意の津波が入口めがけて押し寄せてくる。
「ヒィィー! い、一悟さん、来た。来ましたよ! ドドドド、ドー」
優しく落ち着いた声と神聖な光で優を励ますのはアンジェリカだ。
「みなさまに神のご加護があらんことを……はい、これで大丈夫です!」
ベルナルドもスキルで幻想のスモークを焚いて、おとり役の2人の姿をぼかした。
「よし、このまま女の子たちを倉庫の端まで引っ張っていくぜ!」
一悟と優が取り巻きの少女たちを引きつれて離れていく隙に、アンジェリカと恩が床に伏している人の元へ、他の名仲間たちは未だ姿を闇の中に隠す夜妖ギターを探しに急ぐ。
「ボーカル様、発見ですわ!」
「うちがカバーする。はやく傷の手当をするのじゃ。傷の手当が終わったら、うちが外へ連れだす――と邪魔をするでない!」
アンジェリカと恩の動きに気づいた少女が一体、ボーカルの元に戻ってきた。
恩が素早く大弓に霊力の矢をつがえて引き絞り、放つ。
それほど狙いは定めず、存外無造作に放ったようにみえて鮮やかに的を射抜いてみせた。
矢を受けた少女が闇に消え、アンジェリカに手当てを受けたボーカルが意識を取り戻す。
「うっ……」
「恩様、彼をお願いいたしますわ!」
恩は指を咥えて口笛を吹くとドレイクチャリオッツを倉庫の中に呼び込んだ。
「ちょくっと待ってておくれねえ、すぐ戻るゆえ」
稲妻がはじける音に続いて熱い爆風が倉庫の端から端へ駆け抜けていく。
「ウワーーーッ! 死ぬ死ぬ死ぬぅ!」
「痛ててててっ。爪、爪ぇー。目はダメ、ヤメテー」
悲鳴を聞いて顔を振り向ければ、倉庫の壁を背にした一悟と優が、倒す端から復活する取り巻き少女たちに囲まれ、押しつぶされそうになっていた。
アンジェリカは首を回して夜妖ギターに向かった仲間たちへ視線を飛ばした。
あちらはまだ夜妖ギターを見つけられずにいるようだ。
ベルナルドが体にまとわせるキラキラした光の中に、敵の姿はない。イズマの暗視も捕らえられないようだ。幽玄の狭間に逃げ込みでもしたか。
ならば――
「一悟様、優様、いま行きますね!」
シスター服が翻り、恩が駆るドレイクチャリオッツが車輪の音を響かせて倉庫を出て行く。
ベルナルドが大声で夜妖ギターを呼んだ。
「どこだ、どこにいる! お望み通り、来てやったぞ!」
真っ暗闇の中、ステージにパッとライトが当たる。
青白い光のすべてがステージ上に集められ、巨大なギターのシルエットが浮ぶ。
ファンクラブの親衛隊よろしく、4体の取り巻き少女たちがステージ前に陣取っていた。
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「呼んだのは『ブラックバード』のベルナルドだけなんだけどな」
声、いや、テンションの低いビビッて暴れるような舷の音だった。
ヤツェクはそれがエクストラライトゲージやスーパーライトゲージなどの細めの弦であると見抜く。
初心者や指の力に自信のない者でも押さえやすく、弾きやすい弦だ。
「悪いな、邪魔するぜ。悩める若人の悩みを払い、憧れを見せるも、大人の役目ってな」
イズマはテキパキと、キサナは文句をいいつつ、素早く対バンのステージを作り上げる。
夜妖ギターが不機嫌そうにボディを揺らした。
「うるせえ、俺がナンバー1なんだ。憧れられる存在であって、どこのどいつともわからないヤツに憧れることなんかねぇよ! 俺の音に痺れてひれ伏しやがれ」
ライブの始まりを察知して、一悟や優、アンジェリカに群がっていた少女の何体かが、走り寄ってきた。
「絵も音楽も、アーティストなら、その土俵で表現するのが筋ってもんだ。文句を言いたい相手の周りを巻き込んで、暴力で我を通そうってのはロックじゃねぇ」
ベルナルドは蒼穹の絵筆に魔力を注いでベースギターを形成すると、驚くほどの音数の多さで誰も思いつかないベースラインを鳴らし、夜妖ギターをたじろかせた。
ライブの始まりを察知して、一悟や優、アンジェリカに群がっていた少女たちが走り寄ってくる。
3人もやや遅れて少女たちを追いかけ、急いで位置につく。
入り口には、弓と弦を満月のように引いて構える恩の姿があった。
ベルナルドが再び蒼穹の絵筆を振るい、恩が持つ大弓にエネルギー体の三味線を、イズマのフォルテッシモ・メタルにエネルギー体のキーボードを接続する。
「いくぜ!」
イズマが光る鍵盤の上に指を乗せ、滑らせ、音を奏でる。
何かが始まる、そんな期待させてくれるイントロに大荒れの取り巻き少女たちがピタリと止まった。
間髪入れず、曲線を描くまばゆいライトがステージに放たれるとともに、花道がスポットライトで照らされる。
同時に取り巻き少女たちが腕につけているシンクロライトが光りだし、会場はたちまち光の洪水だ。
そこに現れたのはキサナ。
「くひひ、上等上等。オレが合わせるから、せいぜい泣かせてやりなバンドマンども!」
一悟の電子ドラムが吼えた。
ベルナルドがかっこいいチョッパーベースを披露して、分厚いリズムを構築する。
ヤツェクが胸に迫るロックなリフレインをかき鳴らせば、イズマのキーボードからまた音の砲弾が波のように発射される。
イレギュラーズの圧倒的なパフォーマンスに、夜妖ギターのステージの前で張っていた親衛隊たちが、荒波に翻弄されるワカメのごとく揺れている。
その隙をついて、アンジェリカが夜妖ギターのステージに飛びあがった。
「これだけ巨大なギターですもの、きっと叩いたり引っ搔いたらさぞ破壊的で美しい音色を聞かせてくれますよ!」
「や、やめろっ」
「弦が切れる? 大丈夫です。だってほら、ギターは1本切れてもまだあと5本も弦のスペアが付いてるじゃないですか」
シスターの乱入と微笑みながらの乱暴に驚いた夜妖ギターが、慌てて弦を震わせ始めたが――
そこへ猛然と、噛みつくように、キサナが轟く潮の声を放ち、絶泣のディスペアー・ブルーを浴びせかける。
On a cold night, the wind does blow.
The darkness spreads and chills the soul.
The waves' lament, a haunting sound.
In the sea of despair, we're surely bound.
取り巻き少女たちの頭の上には、不可避の雹が降り注いだ。
恩が奏でる三味線の音が、キサナが起こす歌声の波に絡む。
キンキンに冷えた硬質なメロディに、ちんとんしゃんと響く音が乙粋で、そこはかとなく色っぽい。
「いいね、めぐりん! すごくエキゾチックだ」
絶望の海から溶鉄の滾る熱い鉄帝へ。
夜妖ギターとオーディエンスを真理に導くのはヤツェクが奏でる『燦然たる詩人の口上』だ。
「アンタがベルナルドに敵わないのは、おまえさんに驕りがあるからだ。他のプレイヤーをを見下している傲慢さがあるからだ。それじゃ、人の心を打つ音は出せないな」
ヤツェクの指によってツインネックのアーデントから次々と押し出されていく熱い旋律を、一悟のドラムとベルナルドのベースが支え、イズマのキーボードが輪郭を固める。
「ベルナルドさんに勝つ方法ならあるよ。教えてやろうか? それは、彼よりも長く音楽を続ける事だ。世間が君に注目するまで奏で続けるのさ!」
そしてできるなら、とイズマは叫ぶ。
「更に楽しみ、君の人生を音色に詰め込むと良い。聴かせるのは悪口より音楽だ」
ステージの上からヒュン、ヒュン、と恩が放った矢が赤と黒の線を引いて飛ぶ。
優が奇妙な図書館に引きこもっている間に習得したオタ芸で、演奏の邪魔をしようとする取り巻き少女たちを翻弄した。
「さあ、盛り上がってまいりました。みなさん、ご一緒に!」
アンド―、サンダー、サイバー!
キサナ、ハイパーボーカル、ヨイヨイヨイ!
キテレツな掛け声に怒り狂ってハイになった取り巻き少女たちが、まるで催眠にかかったように優と一緒にオタ芸をやりだす。
アンジェリカが夜妖を叩く音に合わせ、力強く躍動する恩がステージを縦横無尽に踊り狂い、奇妙な高揚感と稲妻で倉庫が弾け飛びそうになる。
「誰が一番ってもんじゃないだろ、一緒にやった方がずっとよくね?」
一悟が夜妖に呼びかけた。
イズマもきらめく笑顔と音で夜妖ギターを誘う。
「そうさ、音は音に触れあわせて初めてドラマが生まれるんだ。さぁ、楽しもう! 君の格好良いところ、見せてくれよ?」
「オレのベースがリードする。西島君、こっちへ! 音楽で奪われた心は音楽で奪いに来い」
ベルナルドが腕を高くあげた。
手にしたピックがライトを受けて光る。
アンジェリカが戸惑っている夜妖ギターをひょいと持ち上げ、「いってらっしゃい!」、と対バンのステージに投げ込んだ。
キサナが小さな体でパワフルにキャッチし、センターに据え置く。
「オレはボーカルだ。言葉を喋らねェ。ゴチャゴチャ言わない。だから、こんくらい聴き取って理解しろや。な?」
Embrace the freezing heart so true.
Despairing blue, we sail with you.
キサナと恩の歌声に、夜妖ギターがたどたどしく音を絡ませる。
夜妖ギターと背合わせになったヤツェクが、大胆なストロークで音を弾きだし、つたない演奏をサポートする。
サビの「But, dawn will come!」というキサナのシャウトにあわせて、アンジェリカと取り巻き少女たちが飛ぶ。
恩の三味線とベルナルドのベースが寄り添い、イズマのキーボードが彩りを添え、一悟のドラムが天井を突き抜けて夜空へ駆け上がった。
「ほ、ほわぁぁぁ! 奥州さぁぁぁん! ヤツェクさぁぁぁん! イズマさぁぁぁん! キサナさぁぁぁん! めぐりぃぃぃん! ベルナルドさぁぁぁん!」
夜妖が払われてシーンと静まり返る倉庫の中に、感極まった優の絶叫が響く。
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心身ともに傷ついている『ブラックバード』の2人を、アンジェリカが治癒の傍ら姉力を発揮して「お客様達がきっとあなたを待っていますよ」と励ましている間、ベルナルドはイレギュラーズとともにステージを温める。
「今日は俺のイカした仲間を紹介するぜ!」
キサナはライブには出ず、一足先に引き上げていた。
「一日に1ステージが限界だっての。喉ガラガラで、もう童謡だって歌えねっ」
帰ったらボイストレーニングの量を増やすそうだ。
かわりに恩が艶めいた声でメインボーカルを張る。
ヤツェクは急遽集まってくれた地元のダチの前で『勇気もて友よ』をソロ弾きし、楽屋にいる2人にカツを入れた。
イズマと一悟が期待に満ちた音の連なりで、『ブラックバード』のメンバーをステージに呼ぶと、ライブハウスに歓声が響き、床が揺れた。
「オ、オアーーーッ! ブラックバードォォォ! ヴェア゛ア゛ア゛ッ!」
回復直後のメンバーを優が気合の入ったオタ芸で勇気づける。
後日。
一悟はのちに伝説となるライブを録画データを手に、意識を取り戻した西島君を見舞った。他の仲間たちも一緒だ。
「音楽は上手い下手でなく。訴えたい心に、本当に合う音を見つけていくものと、ウチは思いますぇ」
「音楽の世界は不条理だが、とても魅力的で楽しい。だから西島さんも始めたんだろう?」
「あとは、経験だな」
「なあ、今度一緒にちゃんとライブやろうぜ」
ベルナルドは涙ぐむ西島君の目を待っ正面から覗きこんだ。
「ステージで待ってるからよ」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
最高のライブバトルをありがとう。
西島君のネジくれてシワシワだったハートも、イレギュラーズたちの演奏によって元に戻ったようです。
夜妖ギターと取り巻き少女たちが現れることはもうないでしょう。
MVPは圧巻の歌唱力でステージを盛り上げてくれた通りすがりのアイドルさんに。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●依頼目的
・夜妖を祓い、『ブラックバード』のボーカルを助け出す。
●場所と日時
・夜
・希望ヶ浜のとある場所にある廃倉庫
中はがらんどうで何も置かれていません。
明かりはついていますが、全体的に薄暗いです。
倉庫の丁度真ん中あたり、夜妖たちに囲まれて『ブラックバード』のボーカルが倒れています。
●敵
・夜妖ギター/……1体
意識不明の状態で治療を受けている西島君の怨念が作りだした、巨大なエレキギターの夜妖です。
「僕のほうが、上手くてかっこいいのに!」
ブラックバード、その中でも特にベルナルドのことを逆恨みしています。
呪いを込めたギター演奏で、精神的ダメージを与えてきます。
・夜妖ギター のとりまきたち/……複数
黒ずくめの服を着た10代の女の子の姿をした夜妖です。
顔は刻々と変貌して定まりません。
殴る、蹴る、爪でひっかくなどの攻撃をするようです。
倒しても倒しても復活します。
夜妖ギター を祓うと消えます。
●NPC
『ブラックバード』のギター兼ボーカル。
意識を失った状態で倒れています。
●その他
よろしければご参加ください。
お待ちしております。
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