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練達某所。電気街のジャンク屋の一角で、一人のエンジニアが発明品の完成を急いでいた。
彼の名は辻峰 道雪。イーゼラー教の信徒であり、ローレットの特異運命座標・冬越 弾正(p3p007105)と宗教活動を共に行う相棒でもある。
「……ふぅ。流石に眠気で効率が落ちてきたな。急ぎの仕事だが、少し仮眠を取るか……」
目頭を押さえて立ち上がり、作業場を彼が離れていく。
ほどなくして再び作業場に現れたのは、道雪ではなかった。
「こいつが道雪の新しい発明品か」
作業場に置かれていた作りかけのヘッドギア。その電子プラグに持ち込んできたコードを刺し、小型の端末に情報を抜き出す。データを眺めた後、侵入者が発した声は怪訝そうなものだった。
「どうやら味覚にまつわる道具らしいが、いったい何に使うんだ?」
しばしの沈黙。悩んでも結論が出ないと判断した侵入者は、端末のコンソールを弄りプログラムのほんの一部を書き換える。警告文をウィルスで巧みに握り潰し、何もなかったかのように更新履歴を書き換えて――
「フン、まぁいいさ。奴への復讐が果たせるなら、何が起ころうとしった事ではない」
元の位置にヘッドギアを置き直した侵入者は、残酷な笑みを残してその場を去った。