PandoraPartyProject

サンプルSS詳細

落ちもの、落としもの

 休暇を利用し、浜辺へとやってきた遼と響の2人。
 今日は九重市を少し離れ、夜になると声がすると噂の海へ調査にやってきたのだ。
 もともとは探偵である和泉や和馬が調査する案件だったのだが、和泉はオカルト嫌い、和馬は手が離せないということでオカルトに一番詳しい2人任された。


「和馬が聞いた話だと、ぬいぐるみが海辺に打ち上がってたらしいな」
「ほーん、どんなぬいぐるみなんやろね」
「そこまではわかんねえってさ。まあ探してみればわかるだろ」


 懐中電灯の明かりと街灯の明かりを頼りに、浜辺をてくてくと歩く2人。
 ざあ、ざあと波が寄せては引いていく音だけが辺りに響き渡っているだけで、話に聞いていた謎の声は聞こえる様子はない。
 ぬいぐるみの影形も見当たらず、落ちているのは枯木や海藻などと言った海に落ちているものばかりだ。

 依頼人の幻覚を語られたか? と考えながら浜辺を歩く2人。そろそろ深夜に近くなってきたので、帰ろうかと2人で考えていたところで……オカルト特有の寒気が不意に襲いかかってきた。


「おっと……ひーくん、来たみたいだ」
「せやね。この近辺やろか?」


 響の懐中電灯が辺りを照らしてみると……先程までおいてなかったはずのくまのぬいぐるみが、浜辺に打ち上げられていた。
 しかしそのぬいぐるみからは強烈な悪意が感じ取れた。2人はなるべく近づかないよう、棒を使ってぬいぐるみを拾い上げてみることに。

 ぬいぐるみは棒きれで拾われると、離せと言わんばかりに揺れる。この程度は慣れている遼はすぐに海辺からぬいぐるみを遠ざけ、街灯の下へと運んだ。
 街灯に照らされたぬいぐるみは……正直、あまりにも綺麗だ。本当に漂流物なのかと疑いの目を持つほどに。


「んん……、なんや、えらい綺麗やな?」
「確かに……。どっかから運ばれた漂流物かと思ったけど、これは……」
「……どないしよか? 特級呪物の可能性もあるし、ここは一旦りょーくんの封印かけて竜馬おじちゃんに……」


 そこまで響が言った途端、誰も触っていないのに、風も吹いていないのに、ぬいぐるみがごろりと横たわる。
 何かを行うのかと距離をとった2人だったが……次第に、幽霊の声を聞くことが出来る遼の耳に声が届けられた。


『あーあ、お前らも助けてくれないのか』


 若い男の声。ふてくされた時の和馬や優夜に似た様子のその声は、ぬいぐるみから発せられているらしい。
 助けてくれないのかという意味がよくわからないと遼が声をかけると、ぬいぐるみは再びごろりと動き……遼の声に反応した。


『ん、俺の声は聞こえてるのか』
「あ、ああ。それより、お前……」
『言ったとおりだよ。誰も俺を助けてくれないんだよ。こんなプリチーでかわい~いぬいぐるみに憑依したっていうのに』
「いやそりゃ怖がるっつーの。アンタ、この近辺で騒がせてる幽霊だろ?」
『騒がせてる? 誰が??』
「え、いや……お前、通行人に声かけたりしたろ?」
『ああー、気合い入れて声かけたらなんか逃げられるんだよな。拾われたと思ったら、海に投げ捨てられたりとかしてさあ』
「……んっ??」


 彼との会話の中で、なにか齟齬が生まれている。それに気づいた遼は、ぬいぐるみに近づいて1から全てを話してみることにした。

 すると、彼は別に人を驚かせてるわけでもなければ、悪意を放出した覚えはないと言う。
 ただ幽霊となってからは声は一定の人にしか聞こえてないし、覇気を出したら気づいてもらえるだろうと思って気合を入れてたことはあるそうだ。
 ぬいぐるみを拾った人に対してもお礼を告げたりはしたが、なんかいきなり海に投げ捨てられたりとかされているという。

 流石に養護できないと判断した遼。行きどころのない怒りを晴らすために、べしん、とぬいぐるみを叩く。


「りょ、りょーくん! 触ったらアカンのちゃう!?」
「大丈夫コイツ無害! 人畜無害!! むしろ大馬鹿野郎のクソ野郎だ!!」
「えええ……??」


 いいのかそれで。とツッコミを入れたかった響なのだが、流石に自分は遼と違って幽霊の声が聞こえないからなぁ、と諦めた。多分諦めないと永久に続く気がしたのもある。

 無害だと判断した遼は彼をひとまず連れて帰ることにした。
 こう見えて、遼はいくつかの無害な霊をぬいぐるみに封じては連れて帰っているので、彼も同じようにしたほうがいいと判断したわけで。
 響も同じく連れて帰るほうがいいだろうと、遼の話を聞いて判断する。この辺りの幽霊騒動を終わらせるためには、そうするしかないだろうと。

 まずはぬいぐるみの身体を洗うため、コンビニでペットボトルの水を購入してから洗い流す。しっかりとは洗えないが、表面の汚れと海水を落とすだけでも多少は効果的だろうということで。
 その間にもぬいぐるみの話を聞いて、部屋に持ち帰っても問題ないかを判断する。


「えーと、お前さんの名前は?」
『名前か……名前は、ハーヴィー。ハーヴィー・ヴェン・ルーテシオン』
「ハーヴィーか。お前、悪さとか企んでないよな?」
『当然。行方不明になってる兄貴を探すために彷徨ってただけだ』
「兄貴? おんなじ幽霊がいるのか」
『ああ。きっとこっちに来ていると思ってな』


 ……今の会話の中に少し不可思議な言葉が出てきたが、今の遼にはそれに気づくことはない。
 バシャバシャと水をかけては、ぬいぐるみを洗うだけ。

 ぬいぐるみを綺麗に洗った後は、自宅である睦月邸へと帰るのみだ。


「それにしても、浜辺の漂流物持ち帰った~って言ったら怒られるかね?」
「それ言うたらカズ君だっていろんなもん持ち帰っとるから、俺らもセーフやん?」
「違いねぇわ。なんか言われたら調査用なんで! って言っとこ」
「まあ竜馬おじちゃんにはちゃんと話したほうがええやろけどねぇ……」


 真っ暗な道路を、赤い車がずっと走る。
 その間にもぬいぐるみのハーヴィーはなんだこれ! と声を上げてばかりだったが。



 ――なお、ハーヴィー・ヴェン・ルーテシオンの探しものが見つかったのは、この後すぐだったという。

PAGETOPPAGEBOTTOM