イラストSS

「……苦労を掛けましたわね」
　真面目な表情でリーゼロッテはオウェードの労をねぎらった。
「いえ……これもお嬢様の為です……じゃ。
　リーゼロッテ様も日々、苦しい事が多かったでしょうとも。その心労が少しでも和らぎますように……」
　オウェードの気遣いにリーゼロッテの強ばっていた表情が僅かに和らいだ。その笑みを見るだけでオウェードは穏やかな気持ちになるのだ。
　愛おしいその人を中心にした内乱。決死の覚悟で地を駆けた。彼女が斯うして無事にシャイネンナハトを過ごせているのはある種奇跡のようにも感じられている。
（――あの時、命をも賭して貴女を護る為に奇跡をも講じた、と言えば……）
　彼女はどんな反応をするだろうか。
　享楽的に笑い、常に悪戯めいた態度をとる蒼薔薇の真面目な表情を目にすればオウェードはそれ以上は何も言えやしなかった。
「……貴方」
「はい」
「貴方、怪我はしていなくって？」
「いや……はは」
　何気なしに問われたその言葉にオウェードは頬を掻いた。
「皆、私を置いていこうとするのですもの。気をつけてくださいまし」
　そう零された言葉にオウェードは目を瞠ってから「はい」と強く頷いた。
　その薔薇は強かで美しい。けれど、いつかは萎れてしまう可能性さえあるのだ。
「お嬢様の命であらば――」
　アーベントロートの騎士として、その心に深く刻み込む。


　＊SS担当：夏あかね