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くすぐったいんだが
くすぐったいんだが
イラストSS
毛足の長い絨毯、ふかふかの毛布、クッション、枕——心地好いものはたくさんあれど、『それ』に叶うものはなかなか無い。
獣種の尻尾とはおおよそ彼らの弱点である。触れられるのも、見られるのすら嫌う者もいるかもしれない。そんな場所を預けられるとすれば余程信頼のおける相手だと言えるだろう。
アルヴァにとってのシキがそうだ。彼の青色の尻尾は今まさに彼女の腕の中に抱き締められ、本体共々身動きを封じられていた。もふもふ、もふもふ、嬉しそうな顔を左目で盗み見てしまえば、くすぐったくてもとても言い出せない。
アルヴァとて嫌ならば、シキでなければ、とっくに跳ね除けている。ただ、彼女が『彼女』であること——つまりは異性との距離感の問題なのだった。
親しい友人の、そして弟分のような彼のあたたかい毛並みを堪能することに、何の躊躇いが必要なのか。シキの指の感触がそう主張しているようで、ゆっくりと擦り寄せられる頬の温度を気にしてしまうアルヴァの方が気不味くなる。
腹を括るしかない。複雑な感情を持て余そうとも、気を許せる数少ない相手なのだから。背を向けたまま、彼は黙って彼女が満足するのを待っていた。
——尻尾が解放されたのは、それから数十分後のことだった。
※SS担当者:氷雀