イラストSS

「さ、此方に」
　リーゼロッテの声音にどきりと心臓を跳ねさせたのはオウェードであった。偶然の対面ではない、此度は彼女の気紛れなのだ。
「リーゼロッテ様、どちらへ？」
「あら、近くではありますのよ。けれど、分かって居ますでしょう？」
　レディに必要以上の事を聞くだなんて、と言いたげな彼女にオウェードは眉を下げた。
　嗜虐的で困ったその人に心惹かれる己を翌々理解している。リーゼロッテとてオウェードの気持ちを知りながらも斯うした悪戯をするのだ。
「何時もと違いますのね」
「……まあ」
「ふふ、私のお陰でなくって？」
　蒼薔薇のカフス。彼女の所有物であるようなここちである。「しっかりなさいな」とそう告げた令嬢の心配りをムダにはするまい。
　しゃんと背筋を伸ばしたオウェードを見詰めていたリーゼロッテはくすりと笑った。
「外出には護衛が必要……でしょう、リーゼロッテ様」
「ええ。けれど、そんなも堅苦しい言葉は野暮でしょう、今は私の騎士（ナイト）なのだから」
　デートと称する悪戯な淑女にオウェードは小さく頷いた。目的地までの少しだけのパートナー。それでも背筋はぴんと伸び彼女を守るが為にと心は揺るがない。
「さ、着きましたわ」
「……此方で？」
「ええ。また色々と忙しくなりそうですもの」
　その場を後にする彼女を見送ってからオウェードは大きなため息を吐出した。


　＊SS担当：夏あかね