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くゆる
くゆる
イラストSS
真っ暗闇の部屋だった。下着姿のつめたい膚で、やわらかなカーテンの質感を直に感じる。
窓の向こうに見える雪景色は、街並みのイルミネーションが輝いてやけにきらめいて見えた。
あの雪天の下では、愛する誰かと笑いあう人々が歩いているのだろう。あるいはその雪から逃れて、あたたかな屋内で想いを伝えあっているのかもしれない。
けれどウルズのふたいろの瞳には、なんの感情も浮かんではいなかった。
ぜんぶ忘れたふりの夏祭り。憶えていないふりの恋心。
そんなものもすべて何処かに投げ棄てられたら、もっと生きやすかったかもしれない。
それでも、こんな顔をして火をつけた煙草のにおいは、誰にも見せられやしなくて。
苦い煙草の味は、まだ慣れない。それでも貴方とお揃いだから、きっと一生棄てられずにいる。
くゆる紫煙ばかりが、ひとりの夜をやり過ごす彼女を慰める、かすかなぬくもりだった。
永遠に潰えた恋と縁の残り香は、確かにすこしずつ消えていく。
それが本当に、なんにも遺らなかったかなんて――彼女にしかわからないことだから。
泡沫に咲くスターチスが、紫煙にまぎれて揺れている。
こころのどこかで、ただはらはらと散っていく。
――窓の向こうで降りつむ雪は、いつまでも止まない。
※SS担当者:遅咲