イラストSS

　それは、聖なる日の穏やかな昼下がり。冬のやわらかな陽射しが窓辺から降り注ぐ、清潔感のあるキッチン。
　鍋のなかで、ぐつぐつことことと音を立てているのは野菜たっぷりのホワイトシチュー。
　作り慣れている好物ではあるけれど、うっかり焦げてしまわぬように、火加減と鍋の中身を見つめるジョシュアの視線は真剣そのもの。
　なんたって、これは今晩、大切な友人と共に食べるごちそうなのだから。
「……うん、いい匂い」
　ふわりと鼻をくすぐるシチューは、バターやコンソメがしっかりと溶けあっているのを教えてくれた。おたまで時折丁寧に具材をかき混ぜながら、すべての味が馴染むように意識する。
　料理の最中ずうっと思い浮かべていたのは、森に住むお菓子作りの得意なやさしい魔女のこと。
　だから、つい口遊んでしまうのは魔法の言葉。
「おいしくなあれ」
　このおまじないは、誰にだって使える素敵な呪文。大切な人を想って愛情をこめた料理は、いっとうおいしさを増すものだから。
「……喜んでくれるかな」
　ちょっぴりの不安と、おおきな期待。不安はきっとすぐにかき消えて、期待以上の喜びであふれるはず。

　あたたかいごちそうをお供にした少年には、魔女の笑顔と楽しい夜が待っている。

　※SS担当者：遅咲