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聖夜のプリマ
聖夜のプリマ
イラストSS
●Étoile
タランテラ、響くのは無音の靴の音。
タランテラ、誘うのは可憐なシェネ。
金属質な靴が、広場のタイルとステップを交わす。
降り積もる柔らかな雪に、靴跡が軌跡を残していく。
シャイネン・ナハトの広場で、一人の踊り子が躍っている。
一人の。たった一人の。
音を立てるも殺すも自在に、美しいひとりが躍っていた。
聖夜のプリマ。
「今年もまた輝かしい夜に踊りにきたわ!」
人々は瞬きを忘れ、息も止めてその羽ばたきに魅入った。
唇には、妖艶な笑みを浮かべる。
あれは、誰?
きっと高名なプリマに違いない。
けれども、誰も答えを持たなかった。ベネチアンマスクが貌を隠しているがゆえに。名乗ることがなくとも、その動きが、舞いが、何よりも雄弁にヴィリスを語った。
花弁のように広がる赤と白の衣装。
このショーに居合わせた幸運に人々は色めき立った。
シャイネン・ナハトが永久に続きますように。どうかこの踊りが永遠でありますように。
無理なこととは思いながらも、人々は祈った。
細い、細い、オルゴールの人形のような、陶器のような美しさを持った踊り子は自由に跳んだ。重力すらからも自由であるように。誰からの束縛も受けず……。
※SS担当者:布川