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昇り堕ちては
昇り堕ちては
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シャイネン・ナハトだというのに、人々は水打つ水面を眺めている。
それも、一人や二人ではない。
旅人は足を止め、釣り人に尋ねた。
「何か釣れるんですか? 大きなイベントでも?」
「いや、何も」男が竿を引き上げて見せる。釣り糸の先には何もついてはいない。「ただね、待ってるんだ……」
待っている?
何を、と聞きかけたところで『それ』が訪れた。
大地がかすかに揺れ、ゆっくりと湖の水が引いた。
ぱしゃん。
水面から跳ねたのは美しい仔竜だ。
「…………」
ぎゃうー、と無邪気な声をあげて、その竜は無邪気に水浴びをしている。ぷかぷかと水面に浮いて、それから果実をがぶり、と齧り取った。
その声を聴いてその場に縫い留められたように動けなくなった。一連の動作が終わるまで、全く目が離せなかった。
ずっと見ていたい……。
「危ないですよ!」
気がつけば、一歩、湖に足を踏み入れようとしていた。女性が止めてくれたのだ。
「よかった、あの子の邪魔をしなくて……」
そう、落ちそうになったからじゃない。邪魔をしないことがよかった。
赤い目が、ちらりとこちらを見ている。がうー、という声が響いて、涙が出るほどその通りだと思った。あの声がもう一度聞きたい。そう思った男もまた、一行に加わることとなった。
※SS担当者:布川