イラストSS

●白銀に駆ける

「悪いね、仕事でさ。」
　ここぞとばかりにフラーゴラはアトとデートできるかもと思っていたのだが、その期待は案外簡単に裏切られてしまった。
「それなら、ワタシもついていく……！！」
　しかしそれならそれで、彼女も彼の仕事についていくと頬を膨らませて食い下がる。
　基本無表情な彼女が珍しくむぅっ、と頬をふくらませているが、ハの時に下がった眉のおかげで懇願するように見えたのが、アトからは愛おしく見えた。
　で、あればだよ、とアトから一つ提案。
「雪の平地を抜けるルートがあってね。犬ぞりを使えば効率よく目的地に行けると思ってね。」

　ーー当日。
　犬ぞりのドライバーだろうか。気のいい中年男性とそのビジネスパートナーであろう犬たちがニコニコしながら2人を出迎えてくれる。
　準備を整え、犬ぞりが走り出す。
　雪原のこの日の天気は晴れていて、冬にしてはあたたかく感じることが出来る。

「こういうのも……いいかも……？」
　ホッと一つ、フラーゴラは息を吐く。
　気づかれたかは分からないが、その表情は満更でもなさそうで、どこか満足げなものだった。
　銀世界に溶け込んでしまいそうな彼女のやわらかい髪が、ふわりと風に靡いていた。


　※SS担当者：水野弥生