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ピンナップクリスマス2021
ピンナップクリスマス2021
イラストSS
迷宮森林の中にある鏡の泉は、冬の寒さですっかり凍って、いまやその名の通り鏡張りに見えた。
ふっとこぼれる吐息は白く、それすら凍ってしまいそう。
粉雪がふわりと舞い散るように、泉の上を滑っているのは一人の青年と一人の少女。青年の両手をとって、サンティールは満面の笑みで氷上を滑る。
「ねえ、ブラッド! たのしいね。とっても!」
「えぇ、年に一度と意識すれば景色も違って見えるようです」
少女にとって、氷の上で遊ぶことは、だいすきな母との大切な思い出のひとつ。忘れたくない、とても大切な記憶。混沌の世界では、うんと寒くなくては出来ない遊び。
慣れない足取りのブラッドも、少女につられてほんのりとやわらかな笑みをこぼしている。自分の感情に疎い彼は、人の感情をあまり理解は出来ないけれど。
――この『たのしい』という感情は、確かにこころの中に在る。
二人の姿はでこぼこでちぐはぐに見えるけれど、かたちのない、『たのしい』というこころを分かち合っていて。どれだけ空気が冷たくたって、こころもからだもあたたかい。
観客はひとりも居ない、さかしまの円舞曲。
はらはらひらひら、粉雪が舞う。ブラッドの微笑がサンティールをいつまでも見守って、少女のきゃあきゃあはしゃぐ華やかな歓声が、静かな聖夜の森にこだましていた。
※SS担当者:遅咲