イラスト詳細
描く星天/届かぬ星
描く星天/届かぬ星
作者 | あきやま菜摘 |
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人物 | ウィリアム・M・アステリズム エト・アステリズム |
イラスト種別 | 2人ピンナップクリスマス2020(サイズアップ) |
登録されているアルバム | |
納品日 | 2020年12月24日 |
8
イラストSS
教会だった場所に影がふたつ。忘れられたステンドグラス越しの月では明かりには頼りなく、暖を取るには不向きだが、誰にも邪魔されない静謐がそこにはあった。
カツン、と床を打つ音が響く。それが始まりの合図だった。片手で握った大きな杖に力を込める赤毛の青年を中心に、室内にもうひとつの星空が顕現した。魔力を外へ外へと広げるように右腕を翳し、その余波が黒の外套や編んだ後ろ髪を揺らしていけば満足げな微笑みが浮かぶ。そうして視線はいくつも並んだ星座をなぞったまま、人ひとり分の余白を残して隣に佇む少女の名を紡ぐ。
「コルク」
その声は出会った頃の少年のものではない。振り返らない背中も、三年の間に立派になった。——それなら私は?
「ウィリアム様」
比べてしまえばその差は大きく、少女は声も体も華奢な乙女のかたちをしている。届かない。埋まらない。星が繋げた不思議な縁は、そこまで至れない。こんなにも美しい夜なのに。
毛先に星が滑る夜空色の髪を靡かせ、同じものを見て、同じものを楽しんでいるように装えば、隣の彼は気づかない。くすんだ星に寂しさが宿っているだなんて。
魔力を孕んだ凍てつく風がふたりの間を吹き抜け、少女はどこへも伸ばせない両手をただ握り締めた。
*SS担当者:氷雀NM