イラストSS

「ねえ、ねえ、聞いていらっしゃるの」
　唇を尖らせるカヌレをまじまじと見遣ってからエイヴァンは肩を竦めた。
　視察の約束を行ってから、護衛として彼女付き従う事が増えてきた――だが、今日はシャイネンナハトだ。つまり『特別な日』なのだ。
「……こんな日にこんなおっさんを護衛でいいのかね」
「何か仰って？」
　カフェテーブルを挟んで首を傾いだカヌレにエイヴァンは「いや？」と肩を竦める。
　貴族令嬢であるカヌレと軍人であるエイヴァンの関係性は端から見れば主従だ。だが、兄のソルベからすれば「妹に恋の相手が！？」と焦るような――そんな日に。
「それで、聞いてましたの？」
「……何がだ」
「もう！　今日、シャイネンナハトだそうですわ。それで、この特別メニューを食べたくて」
「そういうのは恋人だとかそう言う相手とだろ」
「まあ、わたくしにそんな相手が居ると思いますの？　あのお兄様がいるのに！」
　膨れ面を見せたカヌレにエイヴァンは違いないと過保護な兄を思い出して小さく笑った。

　……勿論、帰り際に『エイヴァンとカヌレ』を見たソルベは卒倒しかけて「護衛ですね！？」と念を押すように飛び付いてきたのだが――それはそれで愉快な出来事なのだ。


　　＊SS担当者：夏あかねGM