PandoraPartyProject

イラスト詳細

想うことは多けれど、只々

作者 あさぎあきら
人物 イーリン・ジョーンズ
エマ
クレマァダ=コン=モスカ
イラスト種別 3人ピンナップクリスマス2020(サイズアップ)
登録されているアルバム
納品日 2020年12月24日

12  

イラストSS

●The sea grows old in it.

 ――あの、人の心の機微を全く理解していなくて。呑気に歌を唄う、誰よりも優しかったあの子はもう、居ない。

 遠い、遠い、桔梗色の夜空の塵の中のひとつの内の、一際赤に耀く蠍の様に身を灼いてしまって、此方の気など識らないで、勝手に皆のさいわいを祈っている。

 だから、或る時『僕』が居た所には今は『我』が居て、『彼女』に逢いたいと願う臆病者と、今は未だ此処に居ると誓った何者にも成れない女と。そうして三人で静かな夜を過ごして居た。


 街は賑わいに満ちていて、少しだけ嫌いだ。往来する人々の中に居ると自分が何者だか判らなくなる様な錯覚で気疲れしてしまう。自然と足が向いた先は、そんな人類の『叡智』が積み重なって出来た紙の城。

 海種には幻想の冬の寒さは身に沁みるらしい――其れも其の筈、彼女がシャイネンナハトに家族以外の者と過ごすのは初めての事で、海洋の方は此処とは比べ物にならない程暖かい。そして、自分の一生とは彼の地で終わるものだとずっと思っていた――空に浮かぶ神殿に召喚されて、全てを悟り涙した日から、半年とちょっと。其れは『クレマァダ』と云う個を確立するのに思い悩んだ日数を意味する。

 自分の握るマグカップから立つ湯気越しに、ふたりをぼんやり、見遣った。ふたりは『■■■■■』の友人だったのだと云う。そんな、ぽっかり空いたスペースに自分が腰を下ろして居ても良いのか、もう随分と思い悩んだ。彼女達とて、何も『あの子』の代わりにしようだなんて思ってはない、其れは判って居たけれど、自由に生きると云うのは、難しい。


「其れで、――まあ、――な事が――……あれ」

「あれ? 寝ちゃったみたいですね」

 エマとイーリンがふたり、顔を見合わせて、其れから「しー」と脣を人差し指で封じて笑う。

 膝を抱えて、くうくうと寝息を立てるクレマァダは燥ぎ疲れて睡ってしまった子供の様にあどけなくて、其れで――何だか、とても楽しそうだったから。エマは、自分のケープを。イーリンはブランケットをで寒がりな其の子を包んでやって、掛け替えの無い友人を挟み込む様に寄り添って――


「そう云えば、昨日、夢にね、あの子が出たの。『いーちゃん』って」

「其れは良い、私と此の子の夢にも出てくれる様お願いしてくれました?」

「……忘れてた」

「今度はお願いしますよ」

「うん」

「輝かんばかりの――」

「――此の夜に」




 *SS担当者:しらね葵NM

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