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存在シナイ記憶
存在シナイ記憶
イラストSS
夕方から降り始めた雪は、冷えた石畳の上にうっすらと降り積もり始めていた。
真新しい雪の上を靴で踏みつける罪悪感に後ろ髪を引かれながら、それでも一歩を踏み出せば自分だけの足跡が残る楽しさに上書きされていく。
滑らない様に慎重に。化粧をした石畳を慎重に踏みしめて、鳴は聖夜の町へと繰り出した。
窓から見上げるだけでは分からない雪の軌道や、肌に触れた時の冷たさ。
吐く息は白く曇り、汽車の様に後ろへと流れていく。
それら全てが綺麗で、鳴は目を輝かせながら夜の町を歩く。
「綺麗なのー!」
ブーツの底がかつんと音を立てて軽快なリズムを刻めば、即興の鼻歌も合わせて一人だけの演奏会の始まりだ。
両手を広げてくるりとターンすれば、そこは鳴だけの舞台になる。
回転に合わせてスカートやケープの裾がひらり。結い上げた金の髪が尻尾の様にぴょんと跳ねる。
聖夜に降る雪は特別だと聞いていたけれど、こんなにも素敵で綺麗だとは思ってもみなかった。
「今日降ってくれてありがとうなの!」
きっと鳴だけではなく、沢山の人を笑顔にしてくれているから。
まだ、もうちょっとだけ。
楽しい時間を目に心に焼き付けるために、雪明りの町に消えていった。
*SS担当者:水平彼方GM