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イラスト詳細

【己喰いの回想】

作者 のっふぃく
人物 Luxuria ちゃん
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

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イラストSS

 これは何時の話だっただろうか。少なくとも、『私』を『私』だと認識してからは大凡時間が経ち、それなりに『己食い』をやった後であることは確かだ。元々、『私』は回数を重ねている上に、そもそも日常茶飯事過ぎて『己食い』の回数を『私』はわざわざ数える事はしなかった。
 しかし、これは紛れもなく『私』ことLuxuria
ちゃん(p3p006468)の在り方そのものであり、現状で世界を渡る力を失った『私』は『行為』が出来ない事を非常に口惜しく感じている。故に、嘗ての『行為』に想い耽ることも増えてきた。
 今から語るのはその一つ。思うがままに、甘美なる愛欲と力を満たしていた頃のお話。

 世界を渡り見知らぬ夜を肌で感じるのは、シャワーで身を清めた後に羽織る極上のシルクのナイトガウンよりも素晴らしいものだ。
 夜も深まった頃に、『私』は1件の家へ音を立てずに容易に忍び込こみ、するりと寝室へ向かった。確かに『私』夜を渡り歩く夢魔ではあるが、特に隠密の心得を持っているわけでもない。ただ、寝室で眠る住人の心理を理解しているだけ。鍵のかけ方から調度品の置き方まで、『私』は手に取るように分かってしまう。

だって、この世界の『わたし』の住まいなのだから。


 寝静まり、安らかな寝顔の『わたし』の顔を『私』はこっそりと覗き込んだ。規則正しく上下する胸、体のラインにするりとフィットしたネグリジェとお気に入りの下着、何も塗っていないのに瑞々しさを湛える桜色の唇。その寝姿を、かんばせを、ゆっくりと眺める度に、『わたし』がこれからどんな顔に変わるのかを想像するだけで興奮し、体にゆっくりと熱が籠もるのを感じた。

 『わたし』を起こさぬように、慣れてしまった手つきで丁寧かつ手早くネグリジェと下着を脱がす。一糸まとわぬ『わたし』の無防備な寝姿は殊更に『私』の欲を掻き立てる。そして『私』も手早く脱いで、『わたし』と同じ姿になる。
 嗚呼、遂にこの時が来たのだ、と。『私』は「わたし」と唇を重ねる。柔らかく瑞々しい唇はとても心地が良い。
 「わたし」が目を冷まさぬように肌を愛おしく羽毛のように撫で、敏感な箇所に口づけを落とす『私』。『私』の躰を知り尽くしているからこそ、『わたし』への力加減を間違えることしない。
 段々と、『わたし』の呼吸音に微かに艶が混じる。願ってやまない瞬間が近いことに興奮を覚え、『私』は殊更に『わたし』と触れ合う面積も回数を増やす。その度に予想した反応が返ってくるのは非常に愉しいものだった。
やがて、『私』と『わたし』の吐息が早まり、シンクロするように重なり始める。その度に、『私』は『わたし』との境界線が無くなる感覚を覚える。そして最高潮まで達した時に『わたし』は身じろぎし、か弱く声を漏らして薄く目を開いた。
 眠りから覚めた『わたし』は、例えるならば、雫が零れ落ちる程に熟成した果実のようであり、今か今かと皿の上に並べられるのを待っているような存在であった。

 だからこそ『私』はこの瞬間を逃さず、あらかじめ傍に置いておいたダガーで『わたし』を刺した。深く深く、ダガーを突き立てる感触が非常に心地良すぎて笑みが零れてしまう。
『わたし』状況を飲み込めていないのか、あるいは『私』を見て理解してしまったか。『私』は大した抵抗を受けることも無く、ビクビクと痙攣しながら唇から深紅色を溢れさせ、垂れ流し続けた。
 驚きから絶望に変わった瞳はどの宝玉よりも美しく、か細い息の音は薄れゆく命の灯火を如実に表す。深紅色に染め上がった躰は、あらゆる芸術作品よりも美しい。そして、刺す度に返ってくる反応が堪らなく愛おしい。『わたし』の一挙手一投足の全てに愛情を抱かずにはいられず、ダガーを情動のママに振り下ろしていく。
 次に『私』はダガーを子供が玩具に飽きて放るようにベッド脇に投げ捨て、『わたし』が生み出した深紅色で染まった手を首に伸ばす。『わたし』の命が消えていく瞬間にが愛おしくて、体の中でちろちろと炎が燃える感触をゆっくりと味わいながら、手の力を徐々に強くしていく。
 最後に、『わたし』の命は掻き消え、『私は』完全に『わたし』冷めてしまう前にほんのりと熱を残した唇に再度口づけした。

 既に『わたし』の体は首から上は無事な場所などなく、四肢が外れかけている箇所もあった。『私』はダガーを拾い直すと、関節に沿って一つずつ解体していく。やがてバラバラになった『わたし』の体の柔らかい部分だけをダガーで削ぎ落としてはデザートのように味わい、頭部以外は綺麗に纏めて残して捨てた。
 『わたし』の残った頭部は、髪を梳き、化粧を施し飾りを付けて生前のように整えると『私』は『わたし』の額を合わせ、流れ込んでくる『わたし』の記憶と経験を取り込んでいく。

 初めて他者と『食事』をし、全身でその味に打ち震えて愉悦を覚えた経験。
 美しい耳飾りに心躍らせたが、とても手が届く値段ではなくて諦めた苦い思い出。
 そして、見知らぬ熱に浮かされて甘く蕩けるような心地を存分に享受した、最後の夢。

 どれもこれも、『わたし』にとっては最上の御馳走であり、力の源だ。これでまた一人『私』のものになる。真に、2人が1人になる瞬間は何度味わっても、これ以上の愉しみなど無いし、誰との『食事』にも勝るものだ。『私』が幾度世界を渡って、愛して食らって時には殺し合うのは、この為だけにあると言っても過言ではない。他者を食らって生きる上位者である夢魔という『わたし』を更に食らうという優越感も堪らない。


 『己食い』が終わったら、『わたし』の頬をぺろりと撫でて血飛沫を取り除き、髪の毛を丁寧に解いてお気に入りのサークレットを付けてあげる。それを、
極上のジュエリーを飾るように鏡台に置くと、溜息が出るほどに美しいオブジェが出来上がった。
 浴場を借りて体を清めた後、『わたし』の頭部の髪をさらりと撫でてあげる。これでまた、別世界で『私』が欲して止まなかったものは全て終わった。

 『わたし』だったものが住んでいた部屋を後にすると、心地よい夜風が頬を撫でてくれる。少しだけ、風や夜が纏う空気の感じ方が変わったと認識する。『私』の体内に流れる血潮が、また一つ力を得たことでほんの少しだけ変わっている事を告げ、体の芯が再び熱を帯び始める。このまま此処で『食事』に明け暮れるのもいいかもしれないが、今回は余韻に浸りながらこの世界を去る事を選んだ。
 世界を渡るまで冷めなかった体の熱は、また一つ力が付いたことへの喜びだろうか。それとも、次はどんな『わたし』に出会って愛せるかという期待と悦びだろうか。もし手元に手鏡があれば、その時の『私』は正しく夢魔と呼ぶに相応しいが、大凡の者では引き出すことの出来ぬ艶美な笑みを浮かべていたかもしれない。


 嗚呼、惜しい。

 次が来ない。次に行けない。力を失うというアクシデントがなければ、今頃『私』は今日も世界を渡り歩いていただろう。本当に口惜しすぎて、語るだけで体の奥に熱が湧き上がってくる。この混沌で再び『わたし』に出会い、『己食い』の本懐を遂げる事が出来るのは、一体何時の日になるのだろうか?
 焦っても事は始まらない。だから『私』は、何時でも『わたし』を食らえるように、少しずつ力を蓄えるのであった。

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