PandoraPartyProject

イラスト詳細

Happy 3rd Anniversary!!!

作者 えんぷ茶
人物 ノースポール
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
登録されているアルバム
納品日 2020年11月15日

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イラストSS


 昨日よりはほんの少しだけ暖かい。
 そんな小気味いい一日の始まりと共に、ノースポール(p3p004381)はキッチンに立っていた。
 強力粉に薄力粉。2種類の粉を中心に、多くの材料を一通り並んでいる。材料に抜かりがないことを確認するとノースポールは満足気に頷く。
 今日という日のために、少しずつ考えていた記念日の過ごし方。成すべきことが多いなかで少し早い日程のお祝いとなってしまうが、それも些細なこと。
 この後訪れる彼のことを想えば、これから始める多くの作業も楽しい時間になるだろう。
 ノースポールの表情は幸せが溢れて出ているくらいの、笑顔だった。

「ふんふんふ~ん♪」

 鼻歌混じりに慣れた手付きで卵を溶かしていく。大きな泡を作らないように丁寧に。それでいて質を落とさないように手早くかき混ぜる。
 一度手を止めると、今度はグラニュー糖に薄力粉をふるって落とす。残ったダマをほぐして落とし切ると、すぐさま牛乳とバターを加え、頃合いを見て卵を混ぜる。
 お菓子作りでは定番の組み合わせ。それはこの3年の月日の間でも繰り返してきたこと。
 何度も楽しい日々を過ごし、何度だって笑い合ってきた日々の積み重ね。それは決して簡単に手に入れた日常ではない。
 牛乳とバターを溶かし、更にかき混ぜていく。多くの材料から、1つの形を造るケーキのように。ノースポールもまた多くの経験と出会いの渦があって、彼女という今を生きている。

 在り方に憧れて。
 目標が出来て。
 楽しいこと。
 悲しいこと。
 嬉しいこと。
 
 時に体を動かして。時にであった人とお話をして。どれもがかけがえのない思い出であり、ノースポールの今を形作る。
 3年近い日々の中で、少しずつ今が生まれるように、かき混ぜていた生地も少しずつ弾力を帯びてくる。更に切るようにして混ぜ合わせ。ケーキの軸となる生地ができあがる。

 生地を焼いている間もノースポールは手を休めずに、生クリームを丁寧に泡立てる。
 沢山の出会いの中でも、特別な出会いがあった時の高揚感。嬉しい時に感じる心の鼓動ように、細かく。それでいて優しい気持ちになれる。
 そんなリズムで混ぜられたクリームは、一度洗おうとボウルから外したヘラを追いかけるようにツンと先を立てる。
 その姿は鼓動が寂しく切なくて、思わずしがみついてしまうような恋心のように愛おしい。

「やっぱり主役は、いちごさんです♪」

 まだまだスポンジが焼き上がるまでには時間がある。ノースポールは大粒のいちごを丁寧に洗っていく。
 主役はケーキ。そして主役を彩るいちご。完成したケーキの姿を思い描くと思わずよだれがこみ上げてしまいそうになるが、今はグッと抑える。その心を満たす時が一人ではもったいない。

 ――肝心なことは、何をして過ごすかだけじゃないのだから。

 ここまで入念に準備するのには理由がある。勿論、お祝いだからということもあるけれど。それだけでは正解には遠く及ばない。

「ルーク、きっと喜ぶよね!」

 優しい言葉使いが外れてしまうほどに、特別な人。彼のことを思うだけで心の音色は鮮やかに響き、やる気もどんどん湧いてくる。
 焼きあがったスポンジを綺麗に二段に切り分けると、クリームを満遍なく塗っていく。弾む心のままに、その上を細かいクリームで模様を描き、真っ白で美しい花を更に綺麗に仕上げていく。最後に赤い果実を綺麗に添えれば、美味しそうなケーキが完成する。

 しかし今日はお祝い。作るものはケーキだけではない。バターをオリーブオイルに変え、砂糖ではなく塩をまぶし、かき混ぜるのではなく捏ねればそう、ピザの生地ができあがる。
 これから来るであろう彼の好きなものと、ノースポールが好きな食べ物を全部乗せして焼けば、2人だけのオリジナルピザが誕生する。

 ご馳走とケーキを一通り作り、休憩がてらに外に出ると、時刻はもうお昼を過ぎていた。お掃除に飾り付け。まだまだやることはいっぱいある。大きく深呼吸すると、気合を入れて準備に戻る。
 旗の1つ1つに模様が描かれたカラフルなフラッグガーランドを取り付けると、部屋の雰囲気は魔法のように変わり、パーティルームに見えてくる。3の数字の風船を膨らませて飾ると、なおのこと雰囲気を感じる。
 徐々に現実味を感じるお祝い感に再び鼓動が大きくなる。ふと自分に視線を落とすと、未だにエプロンのまま。大事なことを忘れていた、とノースポールは最後の準備を終わらせるべく、1つの衣服を取り出す。

 この日の為に用意した、特別な白を基調にしたドレス。一度袖を通せば、改めて今日という日を迎えることができたことを実感する。窓に映る自身の姿を見ると、自然と笑みがこぼれていた。
 いきなりこんな恥ずかしい顔は見せられないと、ノースポールはもう一度気持ちを引き締める。それも、この先のことを思えば焼け石に水。それでも、少しでもいい表情を、可愛い自分を、見てもらいたかった。

 準備も整い、後は彼が来るのを待つだけ。そう思うと、僅かな時間も長く感じる。

「まだかな、まだかな……」

 思えば思うほど、早く会いたい。まるで長い遠征から無事を祈って帰りを待っている時のように。そわそわが止まらない。早くその顔が見たい。声が聞きたい。

――もう、待ちきれない!

「ポー、こんばんは!」

 ドアのノックを聞き逃すほどに待ち焦がれた、声が聞こえる。返事もせずに玄関まで駆け寄って、勢いよくドアを開ける。

「おっと……ポー、こんばんは」
「こんばんは、ルーク! いらっしゃい!」

 先ほどは元気よく、今度は優しく。穏やかな笑顔と共に大好きな彼、ルチアーノ・グレコ(p3p004260)がやってきた。

「今日は招いてくれてありがとう、ポー」
「うん、ゆっくりしていってね!」

 時間が勿体ないと言わんばかりにバタバタと部屋へと向かうノースポールに、少しだけ苦笑いのルチアーノ。
 けれども、彼女を追うその足取りは軽かった。
 一生懸命に思いを込めて用意した2人だけの会場にルチアーノは目を丸くする。そんな普段見ることができない一面を見れただけでもノースポールは幸せだった。

「これからもよろしくね、ルーク!」
「こちらこそ!よろしくね、ポー!」
 
 この幸せがいつまで続くのか、どこまで繋ぐことができるのか。未来のことは分からない。だからこそ。2人は今の時間をめいいっぱいに楽しんでいるのだろう。
 そして、守りたい今を。大好きな日常をその心に、乾杯のグラスの音と共に刻まれる。愛おしい瞳に映る最愛の人と、次の1年をもう一度迎える為に。
 喜びと確かな決意。温かで特別な日常は、次の困難を乗り越える糧となるからこそ。

 ――誠実たれ。高潔たれ。

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