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イラスト詳細

クリム・T・マスクヴェールの以下略による三周年記念SS

作者 以下略
人物 クリム・T・マスクヴェール
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

3  

イラストSS

■自称血吸い蝙蝠の悩み
  クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)は悩んでいた。
 クリムは元いた世界では勇者であり魔王であり、吸血鬼であり龍であった。それが為か同等に話のできる存在が少なかった。
 それでもこの混沌世界では、クリムの出自を気にする者など殆どおらず。友人と呼べる者もそれなりにはできた、人間関係は概ね良好だと自身では感じていた。
 それでもクリムは悩んでいた。
 絶望の海を乗り越える際に、自身の身に降り掛かった死の災厄。一時期はそれに苦しめられ、諦めも入っていたがイレギュラーズの活躍により乗り越えられた。その際に、一際気になる相手ができたのだ。
 後に一緒に遊びに出かけた時には、自分の気持ちを受け入れて貰った。好きだよと言ってもらえたのは彼女にとっては今までにない感情を抱かせた。
 故に、悩んでいた。クリムは自分の事は可愛くない女だと思いこんでいる。周囲は可愛いと褒めてくれるが、正直慣れないし、そうは思えない。
 それにどうせならば。好きな人にはもっと可愛いと思ってもらいたいのは当然だろう。彼女とて女なのだ。
 一日悩みに悩んで、考え抜いて。ようやく服を買いに行こうと決心がついたのは夜の11時である。
 クリムは夜に活動する事が多い為に失念していた。普通の人間は夜は眠っているものだということを。
「……しまった。もう閉まっているのか」
 混沌世界に召喚されてから三年が経とうとして、歩きなれた幻想の町並みを見渡しながら呟く。これは昼に出直すしかないか、と。
「……昼に動くのは苦手なんだがな」
 今から寝れる気はしないし、昼に起きていられる自信もない。けれども出直すしかないか、と気落ちしたが為に垂れ下がった尻尾を引きずりながらクリムは部屋へと戻っていく。

■女三人寄れば……?
 その後なんとか無理やりに眠りにつき、なんとか夕方に起きだしたクリムはもう一度街へ繰り出す。一般人には嬉しい快晴の天気だが、クリムにとっては若干恨めしかった。眩しすぎる、と。
 それでもなんとか、目についた洋服屋に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませー」
 元気の良い女性店員の言葉が店内に響き渡る。店内を見回したクリムは内心安堵する。店内にはクリム以外には客の姿はない。
 これから行う事を他の人に見られるのは恥ずかしいのだ。店員には見られるが、それはそれ。そもそも店員に相談しないとクリム自身ではどうにもわからない事である。
「その……服を購入したいのだが」
 暫し立ち尽くしていたクリムが意を決して店員に話しかける。そもそも店に入った時点で目的は誰にでもわかると思うのだが。重要なのはそこではない。
「……その、何を買えばいいのかわからないのだ」
「あらー、それは勿体ない」
 人ならざる者、クリムの格好を舐め回すように見回してから店員は心からそう応える。龍の尻尾や蝙蝠の翼があるのは気にならないようだ。混沌世界には様々な種族がいるし、異世界からの旅人も大多数いるのだから当然といえば当然だが。
「お客様、凄い綺麗な顔立ちしてらっしゃいますのに」
「うっ……あまり言わないでくれ。慣れてないんだ」
 クリムの顔をじっと見つめる店員の視線から逃げるように、顔を逸らす。しかしどこを見てもきれいな、あるいは可愛い服ばかりというのは居心地が悪い。
 早く目的を達して帰りたい、早くもクリムは内心そう考えていた。
 しかしそんなクリムの内心を読み取るはずもない店員はにっこり笑うと、驚くべき行動に出る。
「店長ー、今日は他にお客様いませんし。このお姉さんにかかりっきりになっていいですよね」
「貸し切りねー。いいわ、やっちゃいましょ」
「ちょ!?」
 看板を手早く『Closed』にした店員と店長はクリムを店の奥へと引きずりこむ。何事か抗議の声をあげていたクリムだが、その声が二人に聞き入れられる事はなかった。

■ファッションショー
「うぅ……なんでこんな目に」
 クリムは嘆く。店の二人に引きずり込まれ、服をひん剥かれて下着姿にされ、体のサイズを全て調べられたのだ。
 店長曰く『きちんといい服を見立ててあげるのに必要な事だから』との事だが、予想だにしていなかった事態に涙ぐむしかできないクリム。服を着込もうとしたものの、没収されており待つ事しかできない。
「おまたせしました。サイズはこちらがちょうど宜しいかと」
 ようやく戻ってきた店員が手にしているのは、黒を基調としたフリルのあしらわれたドレス。いわゆるゴスロリ衣装という奴だ。それを一目みたクリムは、顔を歪ませる。
「俺、そんなの着るような歳じゃないんだが!?」
「歳なんて関係ありませんよ、さあ」
 クリムの抗議に耳も貸さず、ぐいぐい押してくる店員。暫く抵抗を続けていたが、下着姿のままなので若干肌寒いのもあり根負け。ようやく袖を通すことになる。
「う、うぅ……もうちょっとかっこいいドレスならいいのに」
「キャー、素材がいいからやっぱり似合いますー!」
 深窓の令嬢だと言われれば、知らない人にはそう通じるだろう装いになったクリムの前で、若干自画自賛気味だが褒める店員。
 素材がいい、と言われるのは嬉しいが、それを素直に口にできないのは何故だろうか。
「お客様、こちらもどうでしょうか。これから涼しい季節になってまいりますのでこういったものも一着……」
 店長が持ってきたのはシンプルな白いワンピースに、セットのケープ。帽子も一緒につけてきた。
「わ、わかった。そちらを貸してくれ」
 今のよりはマシだろうと判断したクリムが衣装を受け取り、さっさと着替える。
 再びの着替えを行ったクリムの容姿は、絵画から抜け出たのかと見まごうほど。可憐で淑女であった。わざわざクリムにあわせて、翼や尻尾もきちんと問題のない衣装であった事も彼女にとっては助かった。
「ふむ……ま、まあこのくらいなら……」
「それではお買い上げで宜しいでしょうか?」
「……ああ」
 ようやく一着を決めて、会計に移ろうとするクリム。だが、店員はそんな彼女を引き止める。
「一着だけなんてだめですよ。ほら、折角の貸し切りなんですしもっと試しましょう?」
「え? いや、これで充分……」
「一理ありますわ。意中の人をメロメロにする為にももっと可能性を探りましょう?」
「え、いや、あの……」
 その後小一時間ほど着せかえ人形にされるクリムであった。
 更には……。
「では、女性の魅力をもう一段階あげる為に下着も新調しましょう!」
「そこまでは頼んでない!?」
「いいからお任せ下さい。私の知り合いにいいお店がありますから紹介致します」
 なんとも押しの強い店長と店員に、再び抵抗をするクリムであったが……彼女が勝てる道理はなかったのかもしれない。
 連れて行かれたランジェリーショップで、今よりももっと恥ずかしい思いをする事になるのだが……彼女の名誉の為にも語らずにおいておこう。

 こうして半ば強引に購入に至った衣装達だが。結局気恥ずかしさが勝ってしまい、未だに着る事なくクローゼットに眠っているという。
「……着なきゃ勿体ないんだよなぁ。わかってはいるんだけど」
 今日もまた、かけられた衣装を眺め、思案し。そっとクローゼットを締めていつもの衣装に袖を通すクリムであった。

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