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イラスト詳細

笹木 花丸の瑠璃星らぴすによる三周年記念SS

作者 瑠璃星らぴす
人物 笹木 花丸
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

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イラストSS

●『白星水晶の梨』
――ねえ、知ってる? とーっても甘くて、すっごくジューシーで、宝石みたいにキラキラしてる不思議な梨!
 秋になると、混沌各所でこんな話が聞こえてくる。特に幻想で。

 その梨の樹は野生種が山の奥に生えているだけで、幻想や練達の育苗家がどんなに研究しても人工的に殖やせた例は皆無。
 内側から光を放つような白い果肉は剥いただけで最上級のデザートに。しかし、この果物の魅力はそれだけではない。

 メフ・メフィートの有名パティスリーの、この時期だけの限定メニュー『スターローズ・タルト』はこの梨を贅沢に赤ワイン煮したものが使われている。その名の通りに薄紅の光を湛えたこのケーキは、王都のスイーツマニア垂涎の一品。
 この季節限定だが、出会えたら奇跡とまで囁かれている。年によっては梨自体が入荷しないので店頭に並ばないことも。

 そんな幻の果実の名は『ジラソル・ピアー』
 毎年この旬の時期に出回るのだが、専門の採取人が奥山へ採りに行くという事情もあって、まずマーケットでは見かけない。買おうとすれば、有名パティスリーや美食家の貴族との競争になるので自然と値段は釣り上がる。
 例えば、幻の甘い果物が気になるお年頃で、それが甘い物であれば尚更見過ごしてはおけない乙女――笹木 花丸(p3p008689)のお財布には即死ダメージ級のプライス。

「ジラソル・ピアー……採りに行くしか、ないね!!」
 花丸ちゃん、16の秋であった。

●乙女の道は有言実行
 ジラソル・ピアーが自生しているのは秋の奥山。やや人里から離れた辺りで見つかりやすいという。おおよその場所は色々とささやかれているが、ピンポイントの場所は教えてもらえない。採取人の飯の種だからだ。
 しかしながら、それで諦める花丸ちゃんではない。
「大体の場所が分かるなら、自分で採りにいけるよねっ!」
 可憐な見た目に反してこの少女、結構脳筋気味であった。

 思い立ったが吉日。早速、王都の衣料品店から冒険者御用達の店までを駆け回る花丸ちゃん。
 山道、しかも獣道にも等しい悪路でも歩ける登山用ブーツ。練達製のレインコートとヘッドライト。梨を持ち帰るために、荷物を入れても尚余裕のあるザック、ete……

 行動の早い花丸ちゃん、速攻で道具を揃えた翌朝にはもう、ジラソル・ピアーが採れると噂の山の麓にスタンバイしていた。
「よしっ! しゅっぱーつ!」
 空は秋の快晴。お日様の見守る下、紅葉が目にも綾な山の中へと好奇心旺盛な乙女は意気揚々と分け入っていった。

 サク、サクと、乾いた足音が小気味良く響く。具体的にどこにあるのかは分からないまま飛び出してきてしまったが、なんとなく見つかる気がする。何故かは知らないけれど、何事だって成せば成るのだ。
 しかし、花丸も完全に無策というわけではない。観光名所だとか、登山で有名な土地ではないこの山で、比較的新しい人が通った痕跡や足跡を辿れば見つけられるのではないかと彼女は推測していた。
 それにしても空気が美味しい。王都からだいぶ離れた場所だけあって、喧噪からも遠く、聞こえるのは沢のせせらぎや鳥のさえずり。たまにトンビの鳴き声。

 どれくらい進んだだろうか、時計を見ればもうすぐ正午。そろそろお腹も減る時間。となれば、腰を下ろせそうなところを見つけて広げるのは \おべんとう/
 持参したおにぎりを頬張っていたら、ドングリを手にしたリスと目が合うという一幕も。

 お腹も満たされたところで再出発。そろそろ梨の木が見つかりそうな気がする!そんな気がしてきた花丸は、注意深く足元を観察しながら進んでいく。
「あ!」
 明らかに人間、恐らく成人男性のものらしき足跡が、獣道めいた細道とも言えない細道へ伸びているのを見つけた!もしかして……。
 意を決して、その細道へ歩を進める花丸。土のぬかるんだところもあったし、沢を飛び越えないといけない場所もあった。でも、一か八かで彼女は進んだ。見つからなくてもダメ元で!

 そして、進んだその先には……まん丸くて真っ白な、おっきな果実を付けた大木が! \ホントにあったっ!/
 鈴なりに実っているというわけでもなく、先に収穫した人も居た様子で果実はまばらに下がっている。でも、まだまだ結構な数が実っていた。 

 まずは一個もぎ取って。果物ナイフ……ではなくピーラーで皮を剥いて、一口。白い果肉は、内側から発光しているのかと思う程透き通っていて眩い。
\あまーい!/
 シャリシャリとした触感と共に、雪崩のような甘味と、それを引き立てる仄かな酸味が口の中いっぱいに広がる。えっ!?ナシって元々美味しいけどこんなに美味しいの!?と思わざるを得ない驚愕の美味しさ。
 一口、二口と進める毎に、これまでの道中の疲れも吹き飛んでゆく。
 ひとつを丸ごと平らげた花丸ちゃん、目をキラキラさせてジラソル・ピアーの木を見上げる。
「これでっ、幻のタルトをっ! 作ってもらおうっ!」

 ザックの空いたスペースへ幻の梨をありったけ詰め込みまくった花丸は、それはもうワックワクな足取りで、王都目指して帰路に付いたのだった!

●甘い物は別腹!
 そして、来た道を猛ダッシュで戻って乗合馬車を乗り継いで王都へ超スピードで戻ってきた花丸ちゃん。
 ちなみに今は明け方である。結局乗合馬車で夜を過ごした。

「ごめんくーださーいっ!」
 王都メフ・メフィートの有名パティスリーの朝は早い。開店と同時にケーキが並んでいなければならないのもあって、パティシエ達は明け方から既に働き始めている。
 そんな忙しい時間に、ひょっこりと大荷物の珍客が現れた。
「はいはい、なんだねお嬢さん。ウチは10時開店だしケーキはまだ小麦粉だよ」
 店長のチーフパティシエが、元気よく通用口からお邪魔してきた少女に声をかける。正直言うとこの忙しい時間をあまり邪魔されたくないのだけど……少女の差し出した果実に、店長はひっくり返りそうになった。

「じ、じじじじじジラソル・ピアー!! 今年は貴族に買い占められて入ってこないと思ったのに!!」
 今年の入荷は絶望的だった幻の梨が、少女の背負ったザックからいくつも出てきたのだ。驚くなと言う方が無理だろう。
「これでっ! タルトを! 作って下さいっ! 余ったのはお代がわりにあげますっ!」
「むしろ作らせて下さいお願いします!!」
どちらが依頼人なのか分からないやりとりを挟んで、店長はいつもの商品づくりと並行して、幻のタルト作りにとりかかった。

 疲れが押し寄せたのか、片隅の椅子でこてんとうたた寝して数刻後。店長に肩をトントンと叩かれ目覚める花丸。
「いやー、今年は一回も入荷しないかと思ったんだよ! お嬢さんにはホールでプレゼントだ!」
 そう言って差し出されたのは幻のケーキ『スターローズ・タルト』
 赤ワインで煮込んで少しばかり薄紅に色付いたジラソル・ピアーの果肉が、六枚の花弁のように並べられている。店頭で売られるのはカットされたものなので、こうして花のように並んだ姿はホールでしか拝めない。 \タルトひとりじめー!/

 パティスリーのキッチン、その片隅。サービスで付けてもらった紅茶をお供に机に向かい、ひとりじめタルトの記念すべき一口目をパクッといく花丸ちゃん。
「すごーい!甘くて、甘くて、ちょっと酸っぱくて、フルーティーだよっ!」
 元の素材の味を殺すことなく、赤ワインの風味も加わり少し大人の味。これはいける。何口でも!
 彼女の満面の笑みを見て、店長や店員も思わずにっこり。お代がわりに頂戴したジラソル・ピアーで作った、商品としてのスターローズ・タルトは今まさに売り出したところ。既に店の外には長蛇の列が出来ている。
「ああお嬢さん、紅茶が足りなかったらおかわりもあるからね!」
 旬の甘味に舌鼓を打ちつつ、一冒険やり終えた少女がタルトを丸ごと平らげるには、まだ少し時間がかかりそうだった。

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