イラスト詳細
湖宝 卵丸の奇古譚による三周年記念SS
イラストSS
●遭遇! サンシューネン島
湖宝 卵丸は海賊である。
彼自身は余り海に出た事がないが、海賊である。齢18にして海賊団の首領もやっているので、十分立派に海賊である。ただ、あんまり海を知らないだけで。
生まれは内陸、広い湖の恵みを受けて育った彼はしかし、海への憧れを捨てきれなかった。
――海は広い。きっとすごく広い。
――この湖なんかよりも、ずっとずっと大きいんだ!
卵丸はその憧れと少しの金、そしてこの時のために用意した冒険道具をカバンに詰め込んで家を飛び出し、幻想の街へと繰り出した。其れが、数年前の事。
幻想の街は新しいものだらけだったけれど、卵丸の興味を引かなかった。興味を引くものはもっぱら“海洋”と呼ばれる国から輸入された海鮮や装飾品だ。
――でも焦っちゃだめだ、卵丸。
――まずは仲間を募るんだ。其れから船を用意して、卵丸はでっかい海賊になってみせるんだ!
そうして、今の卵丸がある。
集まった船員は何故か女性ばかりだったが、とても頼もしい。青い蘭に錨をあしらった海賊旗も作った。船も小さなものだが用意した。
あとは――ローレットに舞い込む仕事に海洋でのものがないかと目を光らせる日々だった。そんな卵丸のもとに、ある日、とんでもない内容の依頼が飛び込んでくる。
「サンシューネン島?」
依頼の紙には確かにそうあった。海洋の絶望の青にある島らしいが、何分発見した者がいない。特異運命座標なら見付けられるかもしれない――そんな旨が書いてあった。
卵丸は思った。これは自分のための依頼だ。
未知の島。困難立ちはだかる荒波! そして島の奥に眠る――そう! これは海賊たる湖宝卵丸のためにある依頼なんだと!
●探索! サンシューネン島
すぐさまに依頼の紙を引きはがし、卵丸は依頼を受けた。
仲間たちに集まるように伝え、食料や備品の買い出しを指示する。船のメンテナンスを請け負う船員には、万全に万全を重ねるように念を押した。
「サンシューネン島……サンシューネン島かぁ……」
海洋に耳を澄ませていた卵丸も聞いた事はない。成程、幻の島らしい。何が眠っているのだろう。お宝? ドラゴン? 其れとも遺跡だろうか。
「わくわくしてきたぞ……! 待ってろサンシューネン島! 卵丸が絶対に見付けて、お宝をゲットしてやるんだからな!」
まずは船の具合を見なければ!
いてもたってもいられなくなった卵丸は、海岸へと駆け出す。
「船長、干し肉に柑橘、諸々準備してきたよ」
「水も新鮮なものを仕入れてきたです」
「ああ! ありがとう! 其れを積み込んだら出発だ!」
卵丸は自分も船長ながら、荷物の積み込みを手伝う。こうした小さな事が、船員との絆を作ると知っているからだ。(単純に人手が足りないというのもあるが)
食料は新鮮な方が良い。ぎりぎりに積み込んで、船員がそろったのを見れば――
「今回の目的地は、あるかどうかも判らない島だ! だけど卵丸は、絶対絶対にそれを見つけ出してやるぞ! そんな旅でもよかったら、皆ついてきてくれていいんだからな!」
「水臭いよ船長! 今更アンタを見捨てなんかするものか!」
「そうよ! 良いじゃない、あるかどうかわからない島を探す! ロマンだわ!」
「いざとなったら船長のギフトで食料は調達できるし」
「みんな……」
心強い言葉に卵丸は心を打たれる。
ああ、海賊として家を出た事にも意味があったのだ。こうして大事な仲間たちが、一緒に旅をしてくれる。卵丸は一人ではない。一緒にロマンを追い求める仲間がいる!
「よし、青蘭海賊団! 行くぞ!」
そうして、彼らの冒険は始まったのである!
●波を越え
「うっ……うっぷ、」
「ちょっと、船長……大丈夫かい?」
「だ、大丈夫だぞ。これくらい卵丸はへいk……うおえっぷ」
「船長ー! あと数分耐えて! この波を超えたら暫くは凪が続くから!」
●嵐を越え
「帆を張れー! 引っ張るぞ!」
「よっせ! よっせ!」
「風の勢いを借りて一気に抜けちゃおう! 操舵手、出来る!?」
「舐めないで、出来ないなんて言えないわ!」
「悪いね船長、力仕事ばっかり任せて」
「べ、別に! 卵丸は船長だからな、これくらい当たり前だ!」
●そして
――凪いだ海原。
海面はきらきらと陽光を反射して、さざやかに煌めいている。航海士は眼鏡をくい、と上げて「この辺なんだけど」と呟いた。
「それらしい島は見当たらないな……」
「…ええ。でも気を付けて。こういう凪で油断した時が一番危な……」
ず、ず、ずずず。
鳴動する海面、揺れる船!
卵丸たちが思わず前方に目を向けると、其処には! 巨大な八本脚をゆらめかせるタコが、船を狙うかのように視線を向けていた!
「こ、こいつは……!?」
「案内人、という訳じゃなさそうね。戦闘は皆に任せる」
「戦えない奴は船の中に行きな! 船長! 指示を!」
卵丸は視線を向けていた。ちょうどタコの頭頂部にあたる部分。――あれは、緑? 苔だろうか。それにしては、大きい……
「船長!」
「あいだっ!?」
ばしり、と背中を叩かれて卵丸は我に返る。そうだ、今はこの船をタコから守らなければ!
「よ、よし! 砲を用意しろ!」
ここに、青蘭海賊団と巨大タコの激闘が幕を開ける!
●サンシューネン島とは
「はあっ、はあっ……」
卵丸は傷だらけだった。足に叩かれた打撲、吸盤による切り傷。痛くない、といえば嘘になる。しかし相手も満身創痍だ。あと少しだ、あと少しで勝てる……!
「船長! 砲が切れた!」
「くそっ……! だけど、卵丸たちは此処で負ける訳にはいかないんだ……!」
卵丸は片腕を抑えて立ち上がり、剣――其れはまるでドリルのような形をしていた――を持つ手に力を込めた。
「う、おおおおお……! 煌めけ七色!」
卵丸の刀に七色の光が収束する……! 其れはまるで、雨上がり、地平線にまあるく描かれる虹のよう。美しくも鋭い其の光にタコがまぶしそうに身をよじる! 其れこそがチャンス!
「いっけえええええ! 虹色☆蒼海斬ッ!!」
其の一太刀は、曲ではなく直線を描いてタコへと真っ直ぐ奔り――
●発見! サンシューネン島……しかし
「船長!」
「はあ、はあッ……」
がくり、と膝をつく卵丸。治癒役の船員がすぐに手当てにかかる。其れよりも、其れよりも――
「あ、あいつ、は……?」
「タコならやったよ。いま沈んで……ああ!? 船長、あれを見て!」
船員が指さす先を、重い頭を持ち上げて卵丸が見る。
ああ、なんと其処には! 海賊団が手を繋いで円を作っても囲めなさそうなほど大きな其の頭には、木が生え、草が生え、花が咲き、そして黄金が木々を飾るように引っかかって垂れ下がっているではないか!
そして何より、「3周年おめでとう」の看板!
「こ……これが、サンシューネン島……?」
「きっとそうだよ! やったね船長、お手柄だ!」
「黄金がいっぱい……! これ、換金したらいくらになるかな!?」
「船長!」
「船長、すごいや!」
「船長最高!」
「船長! 船長! 船長!」
熱い船長コールに、卵丸はくすぐったくなる。島を見つけたことも嬉しいけれど、こうして、皆と発見の喜びを分かち合えるのも――
●夢から覚めて
「み、みんな~……褒められてもなにも、でないんだ、ぞ……むにゃ……あ?」
ぱちり、瞬きをする。
見上げているのは木張りの天井。卵丸は何度か瞬きをして、がばりと起き上がった。
「!? さ、サンシューネン島は!?」
勿論、そんなものは何処にもない。
あるのは雑然とした卵丸の部屋の風景だ。慌ててカバンを引き寄せて探っても、サンシューネン島に関わる張り紙はない。
「……。はー……なんだ、夢か……」
起きているのも莫迦らしくなって、ぼすんと枕に突っ伏す卵丸。
――でも、悪くない夢だった。敵を倒して、皆と喜び合って。いつか、いつかあんな旅が出来たらなあ。夢と希望に満ち溢れた、小説みたいな冒険譚……
「……よし。ローレットにいこう」
其の為には、まずは身近な一歩から!
そうして向かったいつものギルド。まずは張り紙をチェックして……あれ? 卵丸は、見覚えのある文字を見つけた。
「……サンシューネン島……?」
――冒険は続く!