PandoraPartyProject

イラスト詳細

もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ

作者 黒猫
人物 レイリー=シュタイン
アト・サイン
カタラァナ=コン=モスカ
ココロ=Bliss=Solitude
イラスト種別 4人ピンナップクリスマス2019(サイズアップ)
納品日 2019年12月24日

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イラストSS

 あまねく世界、人、歴史、文化を蒐集し続ける書庫。──その、片隅にて。

「乾杯!」
「イエーイかんぱーい!」
 ローテーブルへ身を乗り出すレイリ―=シュタインとウィズィ ニャ ラァム。声とともに近づいたグラス同士が『さあ、パーティーの始まりだ』と言わんばかりにチン、と高い音を立てる。
 目の前のローテーブルに所狭しと並べられたのは今宵のためのご馳走。BGMは暖炉の火が爆ぜる音と、カタラァナ=コン=モスカのカンテレに合わせた歌声だ。
(たまにはシンプルな楽器もいいよね)
 普段は引かない楽器に新鮮さを覚えながら爪弾くカタラァナ。身につけたシャイネンナハトの装飾が彼女の動きに揺れて、暖炉の明かりにキラリと煌めく。
「混沌ではシャイネンナハトと呼ばれますが、私の世界ではこの日をクリスマスと言いますね。祝う時も『メリークリスマス』ですし御伽噺も全然違うんですよ」
「よく他の旅人(ウォーカー)も言ってるわね。一昨年だったかしら、『サンタクロース計画』とかいうものが幻想で提案されていたはずよ」
 物部・ねねこの言葉にイーリン・ジョーンズが頷きながら思い出すように視線を巡らせる。
 特異運命座標の大規模召喚から少し経った頃。そう、多くの者が初めて混沌で冬を迎えようという頃合いだったと聞いている。かのフォルデルマン三世がサンタクロースに興味を示し、そこへ名誉や手柄を競うように領主たちが参戦。彼らの領地を中心にイレギュラーズがこっそりプレゼントを配り歩いたのだとか。
「それはそれは、子供たちは大喜びでござるな!」
 イーリンの隣にちゃっかり座っていた那須 与一がにこにこ笑いながら頷く。翌日は多くの笑顔が見られたことだろう。
 そんな彼女の両手には──骨付きチキン。両手で、ではない。両手に、である。先輩であるイーリンの隣で美味しいご飯を手にご機嫌な与一は、ソファで見えこそしないもののギフトで生えた狐の尻尾をゆらゆらと揺らしていた。だって仕方ないじゃない、幸せな空間にいるんだもの。
 向かい側にだって──ほら。
「もぐもぐもぐもぐ」
 ピザを食べ、エビフライを食べ、そしてサンドイッチも頬張る。まだ皿には取り分が残っているというのに大皿へ手を伸ばすは食い意地張ったアト・サイン。左手に持ったマグカップには飲み物が入っているが、あっという間になくなってしまうのだろう。先ほどから詰め込んだ食べ物を流し込まんとカップを傾け、実は2杯目である。
 食べられる時に食べられるだけ食べておく。いつ何時食糧が尽きるかわからない冒険者のような『観光客』にとって大事なことなのだろう。
「髪食べちゃいそうだね。結ぶ?」
 歌の合間に横から問うたカタラァナへアトは首を横に振り、そのたびに肩上までの髪がぱさぱさと揺れた。普段はフードを被っているが今は邪魔だったらしい。フードで隠れていないその顔立ちはいつもよりどことなく女性的に見えた。
「あ、これ美味しい」
 ココロ=Bliss=Solitudeはグラスへ口を付けてぱっと表情を輝かせる。飲んだことのない物だったからどんな味なのだろう、と思っていたけれど予想以上に飲みやすい。
「確か、深緑で作られた果実のジュースね」
「はいはいはいっ、私も飲んでみたいです!」
 大きく挙手したのはウィズィ。最初の乾杯で注がれていたはずのグラスは空で、ふと見てみれば傍にあったフライドポテトの皿も随分と軽くなったようだ。
「いやー、しょっぱいものがあると飲んじゃいますよね」
「水分補給も大事でござるよ」
 拙者も水分を、と与一が骨だけになったチキンを置いてグラスへ手を伸ばす。ココロは近くにあったジュースのボトルを手にすると対角線上のウィズィへ渡した。
「ありがとうございます。あ、アトさんも飲みます? マグカップが空ですよ」
 自らのグラスから顔を上げたウィズィが問いかけると、アトがチキンを頬張ったままコクコク頷く。レイリーは「ならわたしが注ごう」とウィズィからボトルを受け取った。マグカップに液体が注がれ終わった途端、アトは口を付けて食事を流し込む。ぷは、と一息ついたアトが次に目を向けたのは──ねねこの傍にあるドーナツ皿。まだまだ食欲は衰えないらしい。
「ウィズィ殿」
「はい、なんでしょう?」
 ふとレイリーに声をかけられて顔を上げたウィズィ。レイリーはほんの少し逡巡した後に口を開いた。
「先ほどの乾杯……もしかしてシャイネンナハトらしい掛け声の方が良かったのかな」
 ねねこがついさっき話していた『メリークリスマス』で思い出したのだ。この世界にもそれに代わる言葉があるではないか、と。
「どうなんでしょう? 折角ですし、もう1度乾杯します?」
 何度もして悪いものじゃありませんし、とウィズィがグラスを持ち上げる。そこへ私も、なら拙者もと皆がグラスを持ち上げ始めた。それを見てウィズィが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お、いいですね。全員で乾杯しちゃいますか!」
 急いで口の中のものをなくしたアトがマグカップを握り──それじゃあ、せーの!

「「「「「「「「輝かんばかりの、この夜に!」」」」」」」」

※担当『愁』

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