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ねえ、こっちにおいで! 一緒に歌おうよっ!
ねえ、こっちにおいで! 一緒に歌おうよっ!
イラストSS
聖堂に、祈りの歌が響き渡る。住まう神父も訪れる信者もいなくなり、衰退の一途を辿るその場所にも、平等に雪は降りしきる。
堂内は蝋燭の灯りと月明りを受けて淡く輝くステンドグラスの光で薄く照らし出されるだけ。聴衆も、伴奏者もいないコンサート会場だが、歌い手の表情は明るく、その歌声は天に届くかの如く軽く、朗々と響き渡る。
アリアが歌うのは祈りの歌。誰かの幸せを、自分の幸せを願う歌。降りしきる雪が音を吸収し、その声は誰にも届かない。だがそれ故か、聖堂の中は静謐さに満ちている。だからこそ彼女もここで歌うことにしたのだ。
天に祈りを
星に奇跡を
止むことのない願いよ、叶わぬのならせめて
せめて雪となって誰かの憂いを覆い隠せ
一際高いソプラノが中に木霊する。張り詰めた空気が一層に震える。
そうして演じ終えた彼女は一礼をする。勿論、その所作に拍手をもって応える聴衆はいない。だが彼女にとってそんなことは些末な事。
彼女が愛するのは音楽であり、喝采にも名声にも興味はない。今日この場所で歌を歌った。それだけで十分幸せなのだから。
※担当『澪』