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始めの一本。名を桜花
始めの一本。名を桜花
イラストSS
シャイネン・ナハトの夜。賑わい煌めく表通りからふと暗がりを覗けば──人影が2つ。
表通りの光が足元に差し込む路地裏で、2人は向かい合わせに立っていた。
マッチを箱の側面で擦ると、温かな橙色の光が辺りをぼんやりと照らす。火を灯したミルヴィ=カーソンは路地裏へ吹き込んでくる風に小さく目を眇めた。
このままだと役目を果たす前に消えてしまう。か細い火を手で囲い、風防を作ってやれば揺らめきが小さくなった。
それを目の前で見ていたイーリン・ジョーンズ。口に咥えたソレへ火を近づけようと、その上体をやや屈めた。彼女の姿にアメジストブルーの瞳が細められる。
それはイーリンが一昨日まで出来なかったこと。昨日を過ぎて、成人を認められて許されること。元の世界にいた頃は『異世界で成人を迎える』など、思いもしなかっただろう。
自らの咥えるソレか、それともその先で揺らぐ灯か。視線を落としたイーリンの瞳には、懐古のような光が宿って。
未知であったものが、既知へと変わる。
はじめの1本が火に近づいて──ゆるりと、燻った。
※担当GM『愁』