イラストSS

　書庫を茫と照らすのはカンテラと月明りだけ。
　その部屋に感じるのは只、静かな気配と一つの音。
　体を冷やす様な雪の夜――ささやかな、けれど、とても大きな約束がひとつ。
　イーリンはゆっくりとアトの髪を一房手に取って鋏をその髪に沿えた。

　じゃきん。

　じゃきん。

　幾度もなるその音は、イーリンが伸びた後の髪を切りそろえる音。
「たまには切らないと邪魔になるわ」
　穏やかな口調でそう告げて。
　ゆったりとした白いローブに身を包んだイーリンにアトは「だから『今日』だよ」と鏡台をぼんやりと見遣った。
　ポインセチアが添えられた赤いキャンドルと金糸で「Holy Bible」と書かれた革表紙の本が机の上で待っている。

　じゃきん。

　じゃきん。

　静かに切り揃えていけば、落ちる髪束がアトの過ごした月日を思わせた。
「外は雪ね」
「そうだね」
　ただ、交わした言葉はこの穏やかなな時に似合いものも。
　それ以上言葉はいらない。ささやかだけど、大きくて、とても大切な約束はこの部屋で二人で過ごすことで遂行されるのだから。

　じゃきん。

「ねえ、シャイネン・ナハトはどうやってすごしたい？」
「そうだな、例えば……約束を守る、とか？」
「ふふ、違いないわ」
　――約束は、ただ、穏やかに過ごすこの時に。

　※担当GM『夏あかね』