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イラスト詳細

炎堂 焔の一周年記念SS

作者 青砥文佳
人物 炎堂 焔
イラスト種別 一周年記念SS
納品日 2018年09月17日

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イラストSS

土の香りに緑が混じる。爽やかな風が吹き、木々が揺れる。ざめわき。甲高く鳴く鳥の声。空には巨大な雲がビロードのように広がる。炎堂 焔(p3p004727)は竜胆 シオン(p3p000103)とともに大地を踏みしめる。
「シオンちゃん、風が気持ちいいね」
焔は長い髪をそっと押さえ、隣を歩くシオンに微笑む。赤い瞳が柔らかく細められる。猫のような笑み、シオンは眠たげな目で焔を見上げる。オッドアイの瞳には焔だけが映る。
「うん……とっても!」
 シオンは儚げに笑う。焔はその笑みを見つめる。シオンは混沌世界に来てから出来た、大切な友達。シオンは男の子。でも、女の子の友達みたいな感覚で付き合っている。
(元の世界では出会えなかった友達。良かった、自由に生きたいと願って)
焔は笑う。今日はシオンとの約束を叶える日。道を外れた森の中、焔は此処でメロディを奏でる。森はとても静かで、沢山の花が咲いている。綺麗に咲く花を見つめながら、焔は誰にも邪魔されずに歌を歌い続ける。時折、歌に誘われた動物が焔の前に飛び出し、目を丸くする。焔は思い出でくすくすと笑う。ひんやりとする。美しい空気が肺に満ちていく。
(せっかくだし上手く歌えるといいな)
焔は思う。シオンはどんな風に聞いてくれるのだろう。胸が高鳴る。お気に入りの場所に向かう途中、焔はシオンに声をかけたのだ。
「あれ、シオンちゃん?」
焔は目を丸くする。隣を歩いたはずのシオンはいない。急いで振り返る。シオンは何かに気が付いたように立ち止まっている。草木が大きく揺れ、ウサギが駆けていく。焔は驚きながらシオンに声をかける。シオンは小首を傾げている。ウサギに気が付いていた。
「どうしたの?」
 焔は言った。シオンは口を開く。風が大きく吹く。森の香り。
「これ、焔に……! 焔は赤が大好きだから……」
 シオンは屈み、足元に落ちていた緋色の羽根を手渡す。
「わっ、とっても綺麗だね! それに丸くて可愛い!」
焔は「ありがとう」と微笑む。丸みを帯びた羽根は光に輝き、色を増す。焔は眩しさに目を細めながら大切に羽根をしまう。
「うん……!! あのね。今日、とっても楽しみ……!! 約束したし、練習してるって言ってたから聞いてみたかったー…!」
 シオンは嬉しそうに笑う。降り注ぐ太陽の光が森を照らす。焔はシオンの言葉に頷く。
「えへへ、嬉しい! お歌が好きになったのはこっちの世界に来てからだから、まだあんまり上手に歌えないかもしれないけど今日は練習に付き合ってね、シオンちゃん」
 焔はふにゃりと笑う。シオンは瞬きを一度。
「へーこの世界からなんだ……少し意外かも……焔の元の世界の歌もちょっと気になるかも……」
「元の世界の歌?」
「うん……」
「うーんと、今は内緒! それは今度、お話しするよ」
焔はシオンに微笑み、自らの唇に人差し指を触れさせる。
「うん……!!」
シオンは頷く。そして、焔を見た。
「大丈夫だよ……」
「え?」
 焔は首を傾げる。枝に鳥が止まり、葉が大きく揺れる。鳥が鳴き出す。森に声が響く。シオンは目を細める。
「焔の歌が聴けるってだけで嬉しいし……! ずっと聴いていたいし……」
 シオンは言った。力強い言葉、焔はふふと笑う。頬がゆるんでいく。
「ありがとう。あ、こっちを曲がるんだよ」
 焔は指を指す。焔とシオンは静かに歩く。
「わー……ここの森にこんなに綺麗な場所があるなんて知らなかった……!」
 シオンは声を上げる。双眸には美しい景色。色彩が木々の緑に映える。自然に咲いているのだろう。可憐な花が風に身体を揺らす。一面の花畑。甘い香りが心を優しくする。シオンは大きく息を吸う。無意識だった。とても良い香りに笑みが零れる。光が皆を温かく照らす。眩いステージ。焔は何度も此処に足を運んでいる。素敵な場所に連れてきてくれた。シオンは笑う。
「ね、ボクも初めて来た時は驚いたんだよ!」
 焔は嬉しそうに跳ね、花の香を楽しむ。とてもはしゃいでいる。
「あー、良い香り! ね、ほら、シオンちゃんも!」
 焔は踊る様に身を翻し、シオンを誘う。シオンは歩み寄り、そっと屈む。黄色い花粉が見えた。花が揺れる。揺れている。
「あ……」
花の香りを知る。目が合うと、焔は「ね?」と笑う。
「素敵なところでしょ? お歌の練習をしてるとたまに動物さんとかも聞きに来てくれるんだ。あんまり人が来ないし」
「うん……お昼寝にもよさそーだし覚えておこー……!」
 シオンはのんびりとした口調で言った。鳥が空を飛んでいる。雲が風に流れていく。
「そうだね! 先にシオンちゃんがお昼寝してたら面白いかもしれない」
 焔は笑う。お気に入りの場所を共有できたら、此処はもっと素敵になる。焔は背伸びをする。そろそろ、歌の練習をしよう。花にひらひらと蝶が止まる。ミツバチがぶんと横切る。焔は微笑む。
「まずはっと!」
焔はストレッチで全身をほぐし、背筋を伸ばす。シオンがその様子を眺めている。わくわくしている、その様子が焔に伝わってくる。焔は笑う。とても楽しい。
「よーし!」
切り株に飛び乗り、焔は背筋を伸ばす。そのまま、焔は発声練習を充分にし、にっこりと微笑む。光が眩しい。オンステージ。ドキドキする。
「シオンちゃん、今から歌うね! あ、あとで感想とかも聞かせてもらえると嬉しいかも」
 照れたように呟く。森の匂いがする。
「感想わかった……! ちゃんと考える……!!」
 シオンはうんうんと頷く。焔は笑い、口を開く。途端に顔つき、そして、焔を包む空気が瞬く間に変わる。歌声が聞こえる。
「~♪」
 焔は目を細め、全身で歌う。その声は堂々として、心がじんと温まる。凛とし森のように澄んでいる。シオンは感嘆の声を上げる。圧倒される。森のステージ。歌声がすっと溶けていく。誰も邪魔する者はいない。シオンは美しいアカペラに耳を傾ける。
(綺麗な声……! 本当にいつまでも聴いていたい……)
 シオンは目を瞑る。焔は曲を変え、満足するまで歌い続ける。シオンは息をそっと漏らす。白色の髪が揺れる。花の匂いがする。
(凄い……! とっても上手……!!)
シオンの心は震え続けている。そよ風、木々の揺れる音。動物の鳴き声、全ての音が焔の声と混じり、何もかも美しい。シオンは五感で焔の歌を聴く。
「~♪」
 どれくらい、歌を聴いていただろうか。シオンは目を開ける。歌が止んだのだ。目が合う。焔は恥ずかしそうに微笑んだ。焔は汗を掻いている。全力で歌ったのだ。シオンは歩く。森のざわめきを感じる。
「シオンちゃん、どうだった?」
焔は切り株から飛び降り、汗を手で拭く。シオンは見上げた。言葉を紡ぐ。
「焔の歌、とっても良かった……!! 綺麗で……沢山、練習してるんだって解った……!! ありがとう……!!」
「えへへ、嬉しいよ! あれれ? もしかして……シオンちゃん、泣いてる?」
 焔はシオンの顔に手を伸ばした。指先に涙が触れる。シオンは首を傾げた。焔が僅かに霞む。視界が滲み始めた。
「んー……泣いてる……? きっと、焔の歌が良かったから……!!」
 シオンは目を擦り、静かに微笑んだ。
「うん」
 焔は嬉しそうに笑う。
「あ、シオンちゃん! 見て、あそこにリスがいるよ!」
 焔は笑う。そこには枝に寄り添う二匹のリスが見えた。
「本当……」
シオンは目を細め、焔と笑い合う。

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